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第二十七話 所詮掌の上の猿なのです。


 競技場中央、フリード様と木刀を構えて向かい合う。


 取られた距離は通常の二メートルほどの距離の五倍、十メートル近い。

 目を伏せて心を落ち着けて試験開始の合図を待ち、構える。

 競技場内の雑音が耳から遠ざかっていく。

 集中。

 深呼吸をしたところでゆっくりと目を開くと唐突にそれは鳴った。


 まずは一本目。

 これは最悪すぐに落としてもいい。

 必要なのは身体強化と速力強化を二重に掛けるのが最優先。

 私のウリは機動力と小賢しい小細工、その下準備が必要なのだ。

 辺境伯から私の戦い方を聞いているのか速攻で踏み込んでこない。

 となれば好都合。

 まずは威圧と殺気で威嚇、要注意と喚起させる。

 真っ直ぐに相手を睨み据え、ガイとの特訓の成果、殺気を全力で放出する。

 現在の総魔力量は三分のニに少し足りないくらい。

 午前中に放った上級魔術分の魔力はまだ完全回復していない。

 だが一気に放ったそれに眼前の強者(つわもの)は目を剥いた。

 それを見て私は不敵にニヤリと笑う。

 どこまでも強気で警戒心を煽り、策を張り巡らせる時間を稼ぐのだ。

 私はゆっくりと二本の木刀を逆手に持って眼前に構え、口もとを隠すと呪文を無音で唱える。

 作戦を悟られてはいけない。

 すぐさま強化魔法を二重掛けしてまずは第一段階クリアだ。

 自分よりもパワーのある相手に真っ向勝負しても敵うわけなどない。

 まずは体制を崩させ、焦りを誘う。

 相手は火と土属性持ち。

 土壁を作っても即座に壊されるか元に戻される可能性がある。

 落とし穴も迫り上げられてしまっては効果が薄い。

 となれば有効なのはそれ以外。

 だが相手は名だたる武人、引っ掛けるにはそれなりの手段、段階が必要だ。

 まずは様子見。

 私は大きく後方にジャンプすると地面に手を付き大きく横長に穴を空ける。

 深さ自体は然程ではないコレを避けるか、飛ぶか、迫り戻すか。

 小細工が得意な私の空けた穴だ、警戒もするだろう。

 私は剣を再び構え、無音で呪文を唱え始めると何かあると判断したフリード様が動き出した。私の動きに警戒しつつ穴を避ける方を選んだ辺りは流石としか言いようがない。飛べば着地の瞬間に足もとに氷を張ることで滑らせて体制を崩すつもりでいたのだ。迫り戻すなら更なる時間稼ぎが出来る。だがフリード様は穴を迂回することを選択して間合いを詰めに来た。

 しかしながらコレは織り込み済み。

 こんな簡単な手に引っ掛かってくれるなどとは思っていない。

 私は得意の逃げ足で距離を一定に保ちつつ、低い姿勢で競技場の土の上、足元を水魔法を使い、大量の水で湿らせていく。勿論コレも足元を警戒させるため、罠とは一つだけでは避けられる。複数に張り巡らせてこそ効力を発揮する。あからさまで思わせぶりなものの影に本命を潜ませる。

 注意力を分散させることは存外神経を使うものだ。

 私の思惑に気付き始めたのかフリード様は火炎魔法を唱え始める。

 土が濡れていれば冷気も伝いやすい。

 柔らかい土壌では初級の土属性魔法も使いにくい。

 まずは足元を凍らされることをまずは防ぎにかかって来たわけだ。

 だが大量に撒かれた水を蒸発させるとなれば辺りに大量の水蒸気が立ち込めることとなる。

 これはチャンスだ。

 私は再度呪文を唱え、出していた殺気を引っ込め、闇魔法で気配を消す。

 当然だがロックオンされた状態では隠形術も効果が薄い。

 だが一旦姿を見失えばその効力を発揮する。

 一流の武人にどの程度まで有効かはわからないが私の闇魔法はガイ仕込み。

 みっちり鍛えられたので丁度試してみたいと思っていたところだ。

 ガイ曰く、気配を読むというものは半分くらいはカンがものを言うそうだ。

 方向と距離はおおよそ熟練してくればわかる。

 だが実際どこにいるのかと言われると曖昧なところがあるそうだ。

 例えば部屋の中で侵入者の気配を感じ取ったとする。

 そうするとその辺りに何があるかを判断して検討をつける。

 近い距離であれば上なら天井、下なら床やソファ、ベッドの下、壁側ならクローゼットの中や隣室といった具合で経験則から判断して推測し、後は足跡や足音、木材の軋み、息遣いなどの些細な気配と音、変化などから見つけるそうだ。

 つまり曖昧な部分があるわけで、例えば森の木々が多い繁っている場所などだと把握し辛くなる。誤差というものが発生するわけだ。近くの木の根元辺りにいる気配を感じてもそこが茂みで隠されていれば手前にいるのか、後ろ側にいるのかわからないといった感じだ。だが普通に考えれば身を潜めるなら木の幹の手前では隠れるのには適さない。それ故いるのは木の影だろうといった感じだ。

 今回はそれを利用してみようと思うのだ。

 立ち込める蒸気に紛れて気配を消し、空けた穴の向こう、フリード様が開始時点で立っていた場所に回り込み、複数の土の柱を乱立させ、そこに幻影を複数放ち、偽りの気配を作る。

 勿論この程度で歴戦の猛者を欺けるなどとは思っていない。

 少しの時間をおいて、フリード様が一番最初に空けた穴を迂回しながら私に向かって真っ直ぐに歩いてくる。

 足音とは言っても武人、特に達人と呼ばれるような人は足音が基本的に小さい。

 ドスドスと歩いているような団長でさえも。

 戦場に於いて敵に正確な位置を悟らせないためなのだけれど。

 身を潜めながら私はチャンスを伺う。

「幻影術か。自分は昇る蒸気に紛れて隠れる。上手い手を考えたものだな。気配を消す腕前もなかなかだ」

 そりゃあ一流の情報屋仕込みですからね。

 まだまだガイの足下にも及びはしないけど。

「だが相手の力量を考えて使うことを勧めるぞ?」

 ですよね。

 位置がバレていることくらいは当然承知していますよ。

 すぐ近くで足音が止まる。

 私は隠れたままで次の魔法を待機させる。

 

「そこだっ」

 木刀を振りかぶり、空を切る音が聞こえた。

 今だっ!

 私は素早く隠れていた場所から飛び出すと光魔法を放つ。

 眩い光は一瞬の目眩し。

 同時にドゴッと土柱の一本が薙ぎ倒される音が聞こえた。

 掛かったっ!

 素早くフリード様の背後に回ると木刀を振り下ろしたために低くなったその喉元に自分の木刀を突き付けた。


「一本っ」


 審判役の騎士の声と旗が上がりストップが掛かる。

 上がった土煙が晴れてフリード様と私の姿がハッキリと観客席からも見えるようになる。

 途端に客席から歓声が上がった。


「・・・やられたな」

 フリード様がフッと笑って真下にいる私を見下ろした。

「半分くらいは賭け、でしたけど」

 小さく息を吐いて私が立ち上がるとフリード様が構えていた剣を下ろす。

 私達がその場から離れると審判達によって競技場の地面が更地に戻される。

「油断してはならないと、戒めていたつもりだったのだがな。確信したと思った瞬間の僅かな隙を狙われるとは。まさかすぐ側の別の場所に隠れているとは思わなかった」

 そう、私が隠れていたのは土柱の影ではない。

 その脇にある一番最初に掘り下げた穴の側面に浅く掘った穴の中。

 平面的な位置的ではほぼ差のない場所。私が利用したのは高低差だ。

 乱立された柱、普通に考えればその影に潜んでいると思うだろう。

 だがこれだけでは達人相手に一本取れる確率は低い。

 そこで光魔法で目眩しを放った上で飛び出した。

「私は間違いなく手を抜かなかった。なのに一本取られるとはまだまだ考えが甘かったということか」

 苦笑するフリード様に私は首を横に振る。

「いいえ。これは私に気配の読み方や利用の仕方を教えてくれた教師が良かったのだと思います。彼に教えを乞うていなければこのような手段は考え付かなかったでしょうから」

「それはあそこにいるイシュガルドではないだろう?」

 そう言ってフリード様は客席にいるイシュカに視線を向ける。

 イシュカのことをそう呼ぶということは良く知っているということだろう。

 私は小さく笑う。

「ええ、イシュカには正統派の剣技を教わっていますが私の今の体格では大人とまともに渡り合うことはできませんから。私の現在の主な武術の教師は他の者です。彼は(パワー)で及ばないなら油断を誘い、隙を作り、相手の力を利用して自分の持つ武器(とくぎ)でねじ伏せろと」

 ガイの戦闘スタイルはイシュカとは違う。

 勿論まともに打ち合っても強いことは強いけどガイが本領を発揮するのは別のところだ。

「その者もなかなかの手練れのようだな」

「イシュカと同じくらい強いですよ。タイプはまるで違いますが。

 でも最近ではイシュカも彼に少し感化されてきたようでだんだん戦いにくくなってきたと言っていました」

 昔のような『イイコチャン』なだけではなくなったと。

 面倒臭えっていいながらガイも楽しそうにしてるけど。

「良いライバルが側にいるようだな」

「はい。そうだと思います」

 絶対お互い認めようとはしないだろうけど。

「それは良い。好敵手というものは己を成長させる得難いものだ。ならば是非一度イシュガルドとも手合わせしてみたいものだな。さぞかし私が教えていた頃よりも更に成長していることだろう」

 言葉からするとイシュカは教え子だったってことかな?

 フリード様は嬉しそうだ。

 教師というものは教え子の成長が何よりの楽しみだと言うし。

「だが私もたくさんの教え子達の前で恥を晒すわけにはいかないのでな。

 次は必ず一本取らせてもらうぞ」

 二人で中央位置まで戻りながら会話を交わす。

「私もこれで勝ったなんて思っていませんよ。私の使う手段は普通とは異なるものです。まともな打ち合いで多くの騎士達に勝てるはずなどないのですから」

「それは仕方あるまい。まだ貴方は子供、体格が違いすぎる」

 私は『はい』と頷く。

 圧倒的不利を覆すほどの実力は私にはまだない。

「でもいずれこの国屈指の実力者の座にまで駆け上がってみせます」

 今は無理でも、必ず。

「私には守りたい、大切な人達がたくさんいますので」

 そう言うと私はロイ達のいる方に目を向けた。

 私が一本取ったのを自分のことのように喜んでくれる人達がいる。

「では頑張りなさい。もっとも、私がハルトに教えることは無いではあろうが」

 そんなことは無いと思うのだけれど。

 私の剣術はまだまだ未熟だ。

 疑問に思い、否定しようとすると続いたフリード様の言葉に納得した。

「ハルトには素晴らしい教師が既に二人もいるのだろう?」

 そういう意味か。

 それならば自信を持って頷ける。

「はい、私の誇りで自慢です」

 私は大きな声で返事をして頷いた。

 するとフリード様は楽しそうに笑い声を上げる。

「教え子にそう思ってもらえるのは教師の誉れ。イシュガルドもその名も知らぬ彼も幸せ者よな。

 では後もう二本、試験官を務めさせて頂こう。次は絶対に負けぬぞ?」

「私も気を引き締めていきます」

「ああ、そうしなさい。私から簡単に二本取れるとは思わないことだ」


 勿論、そのようなこと思っていませんよ。

 これは不意打ちみたいなものだ。

 次も上手く行くとは思えない。

 この国の手練れがそんな甘く無いことを私は良く知っている。

 イシュカやガイだけじゃない、団長や連隊長、閣下に辺境伯、まだまだたくさんいるだろう。

 剣術では私はまだお尻に殻の付いたヒヨッコにも等しい。

 最初の開始位置に戻ると改めて私はフリード様に向き直り、構えた。



 結果から言えば、当然だが勝てるはずもなかった。


 二本目は開始直後に速攻で踏み込まれ、必死に回避しながらなんとか暫く持ち堪えたが見事にフェイントに引っ掛かり、右に振り下ろされると思った剣筋は一瞬にして翻され左脇腹に当たる寸前で止められ一本取られた。

 そして三本目。即座に打ちかかられると勝ち目は無いと判断して合図とともにすぐさま後ろに回避、距離を取りつつ勝機を伺ったがなかなか私の放つ初級魔法に引っ掛かっては貰えず、体勢を崩させることには何度か成功したものの歴戦の猛者は立て直すのも早く、チャンスと思って一本取りに行ったところを逆に取られて二対一で負けた。


「お相手頂き、ありがとうございました」

「久しぶりに楽しかったぞ、ハルト。また近いうちに会おう」

 御礼を言うとフリード様はそう言い残し、会場を後にした。

 

 ざわざわと騒がしい競技場をトボトボと歩いてロイ達のもとに向かう。

 確かに勝てるとは思っていなかったけど。

 でも、負けるつもりもなかったんだ。

 結局取れたのは最初の不意打ちとも言える一本だけ。

 はあっと大きな溜め息を吐いて顔を上げる。

 いつまで俯いていても仕方ない。

 負けは負けだ。

 考えようによっては私について出回っている妙な噂がこれで否定できた。

 こんな私が『最強』であるはずもない。

「ごめん。勝てなかった」

 私は観客席に座るロイ達の前まで来ると謝った。

 小さく頭を下げたものの顔が上げられなくて下を向いたままの私に上からロイの声が降って来た。

「お疲れ様です。流石私達自慢の貴方ですね」

「どうして落ち込んでいるんです? おかしな人ですね」

 イシュカがクスクスと笑っている。

「だって、結局負けちゃったし」

 二本目、三本目は良いとこが全然なかった。

 見せたかったんだ、ロイ達にカッコイイとこ。

 本気を出したらそれなりに戦える、イシュカ達に心配されることなく戦力になれるんだって、証明したかった。

 でも自分の武器を活かせたのは一本目だけ。

 所詮私が相手にできるのは知恵で人に及ばぬ魔獣だけなのか。

 そりゃあ人間同士の戦争になんて出張るつもりなんてないけど対人では足手纏いのままだって証明してしまったようなもの。結局イシュカやガイ達に守ってもらわなきゃいけないんだって。

 するとイシュカは客席から飛び降りて私をその腕に抱え上げた。

「真剣勝負で貴方はフリード様から一本取ったんですよ。もっと誇って下さい」

 イシュカの行動に驚きはしたもののそう言われても私は顔を上げられない。 

「でも、一本しか取れなかったよ?」

 イシュカの胸に頬を寄せて呟く。

 魔術強化などを使わない、剣技のみじゃ衛兵にだってまだ勝てない。

 だけど今回のように魔術込みで戦えるならそれなりにやれると思ってた。

 初級魔法の応用は得意だったから。

 実際の現場では剣だけで戦うことは殆どない。

 強化魔法は当たり前、相手を吹き飛ばしたり、盾の代わりに土壁迫り上げたり。

 だからこその実践に則した初級魔法可の武術試験であると。

 体格体力、もしくは魔力量、経験の差を如何にして補うかも審査の一環だと。

 落ち込んでる私に父様の呆れたような声が聞こえてきた。

「ハルト、お前、フリード様相手に勝つつもりだったのか?」

 それは勿論と言いかけて顔を上げるとすぐそこにイシュカの驚いた顔があった。 

「あの人から一本取れる人間がこの国に何人いると思っているんですか?」

 へっ?

 その言い方からすると、もしかして数えるほどもいないって言わないよね?

「最高にカッコ良かったですよ、ハルト様は」

 イシュカの言葉に顔を上げる。

「本当?」

「ええ、私は貴方に嘘をつきません。子供なんだから手を抜いてくれと言うこともできたのに貴方は真剣勝負を選び、それで見事一本取って来たんですよ。あのフリード様相手に」

 だって手を抜かれて勝ったところで嬉しくなんかない。

 それは正当な評価なんかじゃないんだから。

 他国の来賓だっていた。

 それなりの実力者ならデキレースなんて簡単に見抜く。

「其方は彼の方の国内武術大会の順位を聞かされてなかったのか?」

 閣下に問われて思い出す。

 そういえば聞いてなかったな。

「上位にいるって聞いてました。でも既に一線から退いた方だからと」

 二十位以内にイシュカがいるなら番付で下の方ってことはないと思ったから五十位か百位以内ぐらいがそう言われるんだろうって思ってた。国全体にいる騎士、衛兵に、辺境警備隊、全部合わせれば多分そういった職業についている人の数は国内なら万単位のはず。そうなれば百位以内だって充分に上位だ。

 学院の子供の入学試験に駆り出されるくらいだからおそらくせいぜい五十位以内、イシュカより強いってことはないだろうと勝手に決めつけてた。

 キョトンとしている私に父様が教えてくれる。

「彼の方が退役したのは体力低下が理由だ。持久力がなくては遠征などの長丁場になる戦場では足手纏いになるからと。別に剣の腕が落ちたという理由ではない。確かに全盛期み比べれば多少は落ちてはいるだろうが若い者に迷惑をかけるのは自分の騎士としての矜持が許さないと引退して後進の育成の道を選んだんだ」

 どういう意味だ?

 意味不明で『???』と首を傾げていると閣下が私に教えてくれた。

「フリード様は今でも武術大会では上位五位以内には入っている御方だぞ? 

 要するに其方はそれだけ強い相手から一本取ったと言うことだ」

 嘘っ、五位以内って、つまりイシュカより強いってこと?

 私は一瞬にして顔色が真っ青になって確認する。

「私が子供だから手を抜いてくれた、なんてことは」

「あるわけなかろう。全力でと頼んで来た者に彼の方は手を抜くような方ではない。間違いなく其方の力でそれを取ったのだ」

 ・・・・・。

 ひょっとして、いや、ひょっとしなくても私はまたやり過ぎた?

 普段の剣の稽古は強化魔法を使わず鍛錬してるから普通に気が付かなかった。

 だって私の強化魔法は多大なる魔力量のせいで重ねがけするとチート状態に近い。そんな状態で鍛錬しても身にならないし、毎日筋肉痛でのたうち回るわけにもいかない。

 素の状態で鍛えねば体力も地力も底上げ出来ないからだ。

 私は冷や汗をタラリと流した。


「もっと胸を張らんか。正々堂々と戦い、見事勝ち取ったものを誇れ。

 それは容易に成し遂げられるものではないのだ」

 閣下が言ったその言葉は殆ど聞こえていなかった。

 

 マズイマズイマズイマズイ。

 しっかり確認しておくべきだった。

 そう思ったところで既に後の祭りだ。

 強化状態で戦っていたのは領地内の魔獣相手にだけ。

 魔獣相手に加減はしない。

 対人戦闘の経験なんてイシュカ達との打ち合い以外皆無。

 だって私の周囲には常にイシュカやガイ、ライオネルをはじめとする優秀な護衛陣がいる。多勢に無勢で囲まれたとしても突破してしまいそうなほどに強い人達に守られていれば私の出番というのは基本的にないのだ。

 それでなくても私は魔王と恐れられている。

 チョッカイかけてくる輩はここ一年ほど目にしていない。

 私はそろりと貴賓席に座る陛下をチラリと見る。

 するとバッチリ陛下と目が合った。

 そして満足げにニタリと微笑したその顔。


 読まれてる。

 絶対私の性格見抜かれてるのは間違いない。

 良く言えば素直、要は根が単純、単細胞な私が勝てるはずもない。


 あの腹黒陛下相手では所詮私はお釈迦様の掌の上の猿なのだ。



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