第二十四話 まんまと嵌ってしまいました。
大観衆が見守る中、試験開始の合図が響いた。
私は狙い撃ちを避けるために陣地内を走る。
競技場全て使えるということは陣地は他の受験生に比べて格段に広いのだ。
これを利用しない手はない。
まずは小手調べ、詠唱破棄ができることは秘密にしておくことになっているので移動しながら中級魔術の連続火炎弾の呪文を唱えながらヘンリー様以外の魔術師を追い出しにかかる。その人の陣地内の的を全て倒せば退場に追い込めるというルールが追加されているとなれば三対一のこの状況を崩すのが先。
二人の方向に向かったことで作戦が読まれているけれど特に問題もない。
動きを読ませないようにランダムな走りで撹乱しつつ私の魔法に対抗、打ち消すための中級水属性魔法の詠唱が始まったところで即座に土属性の初級魔法に呪文を切り替え、地面に手をつくと一人の足場を迫り上げた。普通なら排除しようと思うならそれを防ぐために土属性持ちなら掘り下げられると推測する。そうすれば的はガラ空き、狙いやすいと考える。だが姿が見えなくなってしまえば行動も読みにくい。掘り下げた穴の中でより強力な魔法を唱えられ、放たれるのも対処が間に合わなくなる可能性もあるから面倒だ。より早くギリギリの足場を細く狭く迫り上げることでバランスを取りづらくして集中力を削ぎ、すかさず初級の水属性魔法を唱えるとそれを横に薙ぎ払うように的と迫り上げた土の足場を一緒に崩す。そうなると当然落下することになり、武闘派ではない魔術師は詠唱を途切れさせ、尻餅を付いた。そこですぐに初級の火炎魔法で丸見えになった的を更に射抜いた。この一連の動きで落とした的は全部で二十二枚。となれば一人は残る八枚の的の前から動けなくなる。
この間にも残り二人の呪文は唱え終わり、水と火属性の中級魔法が私に向かって放たれたのを確認して速攻で結界を展開してそれを防ぎ、その間にも水属性の中級魔法を唱えつつ、もう一人の術者に向かってそれを放つと今度は結界で盾を作り、防がれた。得意げなその人の顔が見えた。
だが残念、これは躱されることは織り込み済み。私の狙いはその足元を水で濡らすこと。今度は初級の光魔法を唱えると再度結界の壁を張ったその人に構わずそれを落とすとそれは水を伝い、感電させる。痺れて膝を付き、動けなくなったところを鋭い風の刃で薙ぎ払い、半分を割り落とし、更に残りを炎弾で焼き払う。その人は動くことができずに全ての的を私に落とされ、御退場だ。
残り二人。
その間も他二人からの妨害が入るので私は足を止めることはない。
どんな魔法も当たらなければ脅威ではない。
始終動いている相手は狙いが定めにくいものだ。
すると前方、ヘンリー様の方向から聞きなれない呪文が聞こえてきた。
見ると氷の刃が風で浮き上がり、それが一斉に私に向かって放たれる。
うわあっ、エゲツないなあ。
あんなのマトモに食らったら大怪我だ。
だが面白い、氷を浮かせられるなら応用すれば空中浮遊もできそうだ。
これも慌てず結界を張って防いだが、魔力量三千持ちのヘンリー様が練り上げた多くの氷の刃は連続で強い勢い突き刺さり、私の硬いはずの結界にヒビが入り、慌ててもう一枚追加で張ると残っているもう一人の風のナイフが飛んでくる。こっちも容赦ないなあ、あんなの食らったら身体が真っ二つ。冗談ではないと即座に高くジャンプして躱しながら反撃のための詠唱を始める。
でも良かった、身体強化しといて。
じゃなきゃ間に合わなかったかも。
全力全開でってお願いしたのは私だけどこれって間違いなく殺しに来てるでしょ?
物騒だなあ、まったく。
こっちは大怪我させないように手加減してるってのに。
まあ煽ったのは私だから直接文句は言わないけど。
早くもう一人の術師を追い出さないとヘンリー様に集中できない。
とっとと御退場願うため全速でそちらに向かい、小声で唱え終えた水魔法を待機させつつ走り込み敵陣手前でストップ、地面に手を付くと足元に警戒した術師が的の前から動いたところでそのまま待機させていた水魔法で残りの的を薙ぎ払う。これで六十枚的中、二人を追い出すことに成功する。
ガイとの特訓が効いている。
正面の敵だけでなく他にも注意が払えるようになった。
でもまだまだ、多分これ以上増えると厳しいだろうけど。
後は正面、ヘンリー様だけだ。
一対一なら無駄に走り回る必要はない。
目の前に集中して回避すればいいだけだ。
ゆっくりと陣地内を歩きながら距離を詰める。
「驚いたな。あっという間に二人が追い出された。天才児の名は伊達ではないということか」
クッと笑う姿は悪役かイカレたマッドサイエンティストみたいだ。
赤紫の瞳が爛々と輝く様はなかなかエキセントリックだ。
「過分な評価、恐れ入ります。ですが私は天才ではありませんよ」
ただちょっとだけ知恵が回って捻くれてるだけで。
「あの二人は本気だったぞ? それをいとも簡単排除しておいてそれを言うのか?」
「戦術というものですよ。お二人は私の闘い方を御存知なかったのでは?」
私の戦い方は相手の心理を利用したものだ。
詠唱時間の短さを利用して相手が戸惑い、迷う隙を狙って追い詰める、戦術というよりも心理戦、騙し討ち、詐欺に近いものだ。騎士道精神を説くような人とは相容れないだろう。
ヘンリー様は惚けた調子で答えてくれた。
「聞いていたさ。だが私同様、自身の戦闘に於いても咄嗟にここまで対応するとまでは思っていなかったのだろう。戦いの場に於いて必要なのは正々堂々などという綺麗事ではない。勝利こそ正義であり、騙されたなどと言い訳をする方が愚かなのだ。守るべきルールが遵守された上での行動に文句を言うのは筋違いだ。まして三対一という不利な状況を覆すのならそれなりの手段を用いるのは当然。
それに詠唱時間も短いと聞いていたが予想以上に随分と早い。私達の中級詠唱時間より君の上級詠唱時間の方が早そうだな」
その言葉に意外にこの人話せるかもと思ってしまった。
抗議されるのを承知で使った手段だが、アッサリと受け入れた。
自分の思う通りにいかないからと癇癪起こすかと思っていたのに。
私の思い描いていた人物像と随分ズレがある。
ひょっとしてこの人、サキアス叔父さんよりむしろ私に近いのでは?
なんとなく気が合いそうな気がしてきてウズッと私のイケナイ癖が頭を擡げる。
「試してみます?」
多分早いとは思うけど。
「いや、それも面白そうだが今は遠慮しておこう。それに声も小さくこの競技場の中では聞き取れない。故に次にくる攻撃が読み辛くて面倒だ。普通呪文というのは大声でゆっくりと叫ぶほど威力が増す傾向があるというのにそれをしないとは」
それはあくまでも脳内イメージを助けているものであって必ずしも必要なものではない。今はまだ無理だけどそのうち訓練を積めばやがては中級、更には上級も可能ではないかと考えている。それに私の場合は魔力量の相乗効果もあるので多少威力が落ちた程度はさして問題にもならない。むしろ対人戦であるなら相手への被害が減って好都合。多少手元が狂ったとして近衛の方々が結界張って防いでくれている。
「相手に手の内を晒してどうするんです? 屋敷にいる私の専属警護人員の精鋭達も今では大声で叫んだりなんかしていませんよ」
仮に威力が三割落ちたとしても対策を取らせないで行使できるなら充分な利はあるのだ。
「前はそうだったということか?」
「はい、練習して修正してもらいました」
多少の個人差はあっても以前より格段に声は小さく、早くなった。
それが可能ならその逆は簡単。
威力を優先したいなら大声で唱える方に戻せば良いだけだ。
「つまり私にも習得出来るということか?」
ギラリと視線を光らせて私を見る。
「出来るでしょうね。私はできないことを部下にやらせたりしませんよ」
「益々面白い。君は私のまだ知らぬ魔法の極意を知っていそうだ」
間違いない、この人、私と同じタイプだ。
自分の興味のあることにはまっしぐら、脇目を振らない。
おそらく私も面倒を見てくれるロイやマルビス、イシュカ達がいなかったらかなり面倒で鬱陶しがられていたと思う。全くもって人材というものは財産、ありがたいことだと実感する。私のは極意というよりも実験と検証を繰り返し、前世で知る知識を応用し、漫画やラノベ、アニメで見ていた魔法のイメージを具現化しようとした結果でしかないのだけれど。
私が大好きだった異世界モノ。
魔法と冒険の世界は満喫するまでの暇はまだない。
開発事業が落ち着いたら、是非とも手を出してみたい分野ではあるけれど、生憎そういった研究者はウチに回ってくる前に国が確保してしまうし、商売にあまり関係していないことを思えば私の趣味になってしまうのでそれが今の事業に必要であるかと聞かれれば疑問もある。
そういうわけもあってこうした高名な魔術研究者との戦闘は様々なシガラミはあるが興味も津々、面倒ではあるが楽しみな面もある。
私が考えたものが本職相手に通用するのかも試してみたい。
結局のところ、どんな言い訳を並べ立てたところで私はこの状況を楽しんでいるのだ。
我ながら悪い癖だと思う。
目の前の人は間違いなくその道のエキスパートなのだ。
私はニヤリと笑って彼を見つめる。
「ヘンリー様も私の知らない魔法を知っていそうですね」
「多分な」
つまりはまだ奥の手を残していると言うことなのだろう。
面白い。
この好奇心はいつか私の首を絞めるかもしれない。
「ではそれを是非見せて頂きましょう」
先手必勝、口もとをさりげなく隠しつつ、呪文を唱え始める。
まずは定番、ヘンリー様から離れた的から順に撃ち落としていこうか。
初級魔法の組み合わせ、複数の炎を作り、上方、宙へと複数放り投げ、数歩後ろに下がる。
「真上に放ったところで意味はないぞ?」
私の行動を奇妙に思ったのか不思議そうに尋ねてくる。
「そうでしょうか?」
私は風魔法の呪文を唱え、周囲に風の渦を作ると静かに弓を引くイメージを思い浮かべる。矢をつがえ、的を狙う体勢を作るとヘンリー様が面白そうに『ほうっ』と眺めている。
ゆっくりと火球が下に落ちてきたそれを狙い、風の矢をそれに向けて放つ。
するとどうなるか?
風の矢は炎を纏って燃え盛り、炎弾ををも凌ぐスピードでヘンリー様の左側の的を焼き落とす。風で煽られた炎は勢いを増し、一枚どころかその周辺の的も灰燼に変えていく。続け様数発を放ち、一気に十三枚の的を焼き落とす。
残り二十七枚。
ヘンリー様は的が落とされたというのに悔しがるどころか嬉々とした表情で燃え落ちた的を見ている。
「今のはなんだっ、見たことのない魔法だぞっ」
ホント、叔父さんと行動パターンがそっくり。
「私が使ったのは新しい魔法ではありません。初級魔法の応用です」
「初級だとっ⁉︎」
炎弾と収束させた風の矢で撃ち抜いただけのこと。
「ではこんなのはいかがですか?」
今度は風魔法の回転速度を上げて小さな竜巻を作ると今度は先ほどとは逆方向の的に向かって放ち、ゆっくりと私の陣地内を進むそれを珍しそうに眺めている。
「これも初級の応用だな?」
「はい、真っ直ぐに放つのではなく今度は高速の回転を与えました。
良いんですか? 防がなくて?」
私の忠告に一切構うことがない。
「今度はどうするつもりだ?」
これは勝負より興味が勝っていると見た。
たいして大きくも進むスピードも早くもないそれを呑気に眺めている。
「危ないですから気をつけて下さいね?」
そう言って私はゆっくりと上空を指差した。
「上? 何かあるのか?」
見上げたヘンリー様の遥か上空、客席よりも上にあるのは然程大きくもない氷の塊。
それを砕くとその竜巻に向かって落とし、私は自分の前に結界を張った。
風はそれを巻き込み、それを鋭い刃に変えて周囲に撒き散らす。
私の行動を見ていたヘンリー様も慌てて自分の周りに結界を張ったが的を守るのは間に合わず、更に九枚の的を割った。もっといけるかと思ったが正確に狙いを定められないのが災いした。
「何事も創意工夫ですよ。初級魔法も使い方次第です。
私の常日頃使う魔法は高度なものではありません。
それよりも良いんですか? 既に的は半分以下になっていますよ?」
呑気に感心したように見学しているヘンリー様に忠告する。
好奇心丸出しで眺められているのは楽で良いが、八百長にも見えそうだ。
私がヘンリー様の背後を指差してそう言うとゆっくり首を左右に振って私と向かい合う。
「いかんな。つい、悪い癖が出た」
みたいですね、我が身を振り返ればわかります。
それに一方的にこちらが披露するだけではヘンリー様の手札が見られない。
折角だもの、私の知らない魔法を色々見せてもらいたい。
ペチンッと自分の頬を軽く叩き、気合い充分で私に宣戦布告する。
「ここからは本気で行かせてもらおう」
「どうぞお手柔らかに」
なんて、嘘。
私はにっこりと笑った。
是非本気になって下さいな。
「それは出来んな。手を抜けば負けるのは私であろう?」
かもしれませんね。
勝てないかもしれませんけど、あっさり負けるつもりはありませんよ?
貴方の魔法の攻撃は確かに凄い。
だけど防ぐだけなら問題ない。
残った的は全てヘンリー様の真後ろ、普通に考えるなら非常に落としにくいものだ。次々と繰り出される攻撃を結界の中に閉じ籠って眺め、分析しつつ防ぐ。私の半分以下とはいえ流石魔力量ほぼ三千、一気に多くの風で加速された氷の礫や炎の散弾を分散を受けていれば硬い結界もヒビが入り始める。
もう一枚結界を追加したところで私は気づかれないように小声で呪文を唱え始める。
「どうした? 防いでいるだけでは的は落とせんぞ?」
楽しそうな声。
挑発とも取れるけど、多分この人は他の私の使う魔法が見たいだけだ。
だけどすみませんね。
手の内というのは見せすぎては元も子もないないんですよ。
対策されてしまっては今後の防衛にも関わってきますからね。
そろそろ終わりにさせてもらいます。
「いいえ、これで私の勝ちです」
呪文を唱え終わったところで私は宣言すると自分の足元に両手をつく。
上級地震系攻撃魔法。
指定した広範囲の地面を震動させることで地面を割り砕く魔法。
的は落とせばいい、破壊する必要はないのだから。
激しい揺れに耐え切れなくなって掛けられていた残っていた的がバラバラと地面に落ちていく。
揺れが収まる頃には全ての的は地面に落ちていた。
「使う魔法が中級以下ばかりとは限りませんから。
私が講義で教えるのは魔力の少ない者や力がない者でも工夫次第でも充分戦うことができるのだという考え方です。大事なのは圧倒的な勝利ではなく、如何に少ない魔力で犠牲を出すことなく勝利するかですよ。ですが上級魔法が使えない、というわけではないということを披露しておきませんと」
私はそうにっこりと笑って言った。
それなら始めからそれを使えば良かっただろうって?
だってそれじゃあ面白くないでしょう?
私が教える講義は戦術。
力任せ、魔力量任せだけで勝利しては意味がない。
消費魔力が少なくても充分戦えるのだと示した上で、ナメられないように上級魔法も使えるのだと見せておくことでマウントを取ろうとしたわけだ。
私は講師というには(見かけだけは)年齢が幼すぎる。
力任せでも圧倒できるのだということを誇示しておかなければまともに話を聞こうという者もいるだろう。
使えないからそんな手段を使うのだと。
私の言葉の意味を正しく理解したらしいヘンリー様は尻餅をついたまま腹を抱えて笑った。
「成程な。これも君の授業の一環というわけか。
しかし最後が上級地震系攻撃魔法とはな。参った」
そうヘンリー様が口にされたところで試験終了の合図が鳴り響き、満員の客席からワッと歓声が沸いた。
試験が終わったということでヘンリー様の陣地に足を踏み入れるとその前にしゃがみ込んだ。
「今回はヘンリー様が油断されていた故でしょう? 次も私が勝てると思えません。お相手して頂き、ありがとうございました」
私は御礼を言ってペコリと頭を下げる。
ここまでアッサリ勝てた理由はそれ以外あり得ない。
小さいからとナメて掛かったが故にピリリッっと辛い唐辛子の私に痛い目に遭わされた。私は常にたくさんの人の手を借りて勝利してきた。だからこそ単騎の戦闘力を侮ってのこの結果なのでしょう?
一年前の私とはもう違う。
どんなに強大な敵であってもビビッて怖れたりしない。
・・・初めて見る魔獣、魔物とお化け、幽霊以外には。
だってしょうがないじゃないっ!
どんなに頑張ってみたところで苦手なものは苦手なんだからっ!
大丈夫、現場で先頭に立てば肝も座って覚悟も決まるから。
もう何年か余裕をもって長い目で見守って下さい。
日進月歩、何事も焦らずゆっくりと。
そのうちそれも慣れるハズ?
疑問形なのは見逃して下さい。
とにかく陛下の御要望にはお応えしたということでさっさと退場しようと背中をくるりと向けたところで後ろからボソリとヘンリー様の声が聞こえた。
「いいや。今のままではおそらくまた私は勝てないだろうな」
振り返った私に彼は立ち上がると土埃を払いながら貴賓席を見上げた。
「陛下、是非私も彼の講義を受けたいのだが席は空いていますか?」
彼の口から飛び出した言葉に私はギョッとして目を見開いた。
いったい貴方は何を言っているんですかっ!
貴方はこの国の魔法魔術の権威でしょう?
こんな駆け出し新米小僧に教わることもないはずだ。
さっきだって私がまだ知らない、いろんな魔法を使っていたじゃあないですかっ!
驚いている私の目にニヤリと笑う陛下が映った。
「生憎来年の分まで満席だ」
ひょっとしてコレも陛下の企み通りなんて言わないでしょうねっ⁉︎
ワタワタと慌てている私を無視して陛下が言い放つ。
「だが、立ったままでも聴きたいという者まで止める気はない。好きにせよ」
それって受講生が更に増えるってこと?
しかも国の重鎮立たせたままで?
ホント、勘弁して下さい。
私は基本小心者なんですって。
そこっ、嘘を吐くなって思ったでしょう?
私は大概図太いが、全てに於いて神経が太いわけではないのだよ。
「承知しました」
焦って止めようとする前にヘンリー様は楽しそうに頷いた。
そっ、そんなあっ、それはないでしょう?
良かれと思ってしたことがとんだ藪蛇。
墓穴を掘る、策士策に溺れるとはまさにこのことか。
どっぷりと自分の掘った深い水をたっぷり湛えた井戸に嵌った気分だ。
「よくやった、ハルスウェルト。午後も楽しみにしているぞ?」
如何にも愉快と言う顔の陛下にまたしてもやられてしまったのだと思った。
本当の策士というものは陛下のような人のことをいうのだろう。
陛下の計略にまんまと嵌ってしまったに違いない。
私のやっていることは所詮子供騙し。
小手先の悪戯に過ぎないのだろうとこの日つくづく実感した。




