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第十二話 相性最悪は最高の証です?

 

 翌日、『接触禁止令』を解いたところで両側にロイとイシュカにベッタリと張り付かれ、朝食の後に問題の洞窟前まで団員達と共にやってきた。


 この間の洞窟調査の時のこともあって今回はしっかり完全防備を整えた。

 また大量の虫やコウモリが這い出てきてはたまらないとばかりにしっかり厚手のコートまで羽織る。私とガイの分の荷物はケイがあらかた持ってくれているのだが昨日のうちに前回使わなかった色付きの石と小さな魔石を数種類小分けにしてポケットやベルトに括り付け、ついでに私用の小さなリュックにも魔石と一緒に詰め込んでおく。

 団員達が用意したのは大量のロープや縄梯子、捕獲用の網、薪、ハンマーと打ちつけるための杭、大量のランプ。蛇肉を運んだ帰り道の空の馬車に積み込んで来たらしい。私がスタンピードでワイヤー網を使用して以来、騎士団にはソレが常備されるようになり、他にもロープやランプもストックされている物を積み込んで戻ってきたようだ。

 ランプは夜襲夜警、遠征先で使用されているそうで、大量に運び込んだ蛇肉と一番最初に運搬した頭を見て相当に驚かれたようで、ソレが出てきた洞窟の調査に向かうと連絡したところこちらの追加で十人団員とバックアップ人員十名が派遣されてきた。ついでにマルビスが兵糧も一緒に送ってくれたのは助かった。

 団員総勢五十名とウチの警備員十名、プラス私達で実に合計六十超えの大所帯。

 流石に現地調達だけでは間に合わない。

 洞窟入り口には炊き出しのためのテントも張られている。

 う〜ん、なかなかに大規模だ。

 まあこれならば早々滅多なこともないだろうし、私の出番もなさそうだ。

 団員の常日頃の野営での食生活を知るために炊き出しを一緒に御馳走になったのだが、まさに男の手料理的な大味で素朴なと言えば聞こえは良いが単に塩を振っただけの料理は味気なかった。コレが続くと遠征先では流石に飽きるだろうなあと思いつつもありがたく頂いた。

 腹拵えも済み、準備が整ったところで私はガイと手を繋がされた。


「万が一の場合はガイはハルト様を抱えて逃げて下さい」

 そうイシュカに言われてケイがガイの荷物を背負った理由は納得した。

 いや、コレでは大蛇相手にした時と大差ないのではないかと言いかけると、

「大丈夫ですよ、今度はちゃんと貴方を頼ります」

「本当?」

「ええ、同じ過ちは繰り返しません。貴方を担ぎ出す代わりに最優先事項として逃走手段は確保させて頂きます。それならば私達も安心して貴方を頼ることができますから。逃げることに関してはガイは超のつく一流、一番の適任ですからね。ガイは貴方の護衛に専念させます」

 結局最悪の場合は私は逃す算段なのか。

 でもまあ大蛇の時に比べたら最初から排除されないだけマシかとも思う。

 側にいればできることはある。

 

「では結界を解除して頂けますか?」

「わかった」

 私は三日前に張った結界を解く。

 イシュカは結界の解けた入口に一歩足を踏み入れた。

「確かにガイとケイの言う通り、大物の気配は感じませんね」

 そうなのか。

 あんな大物、ヒョイヒョイ出てこられても困るので特に問題はないけれど。

「あれから三日経ってるしな。だいぶ洞窟内の気配も落ち着いてるみたいだな」

「そうですね。怯えて引っ込んでいた低級の魔獣の蠢く気配があります」

 ガイとケイが穴を覗き込みながらそれを肯定する。

 それでもやはり低級はいるのか。

 うん、やっぱり私には気配を感じられない。

 何かコツがあるのだろうかと思いつつ集中してみるがやはりわからない。

 やはり帰ったら是非ガイに御指導頂こう。


 とりあえず突入前の下準備として洞窟前に大きな穴が一つそして少し離れた場所に一つ大きめの穴が掘られているのだがこれが下で繋がっていて大きい方は網を張った上で土壁の蓋で塞がれている。つまり小さい穴に落ちたものは横穴を伝い、大きな穴に誘導されるようになっている。

 そして小さい穴に落とし、誘い込むための通路も調査人員が入ったところで形成され、辺りは小さなランプの灯り一つを残して暗闇へと閉ざされた。要するに洞窟に閉じ込められた状態になるわけなのだが大勢の団員達が警戒しつつ進んでいるために襲いかかってくる気配はない。入口に木の杭を立ててそこにロープを結び、それを垂らしながら進むことで通った道の目印にするわけだ。こうすることで枝分かれする道に迷わないための対策にすると計画書には書かれていた。枝分かれする分岐点などに二名づつ配備して問題が起こればその縄を引いて合図をするというわけだ。とはいえ、問題が起こらない保証はないので私は私で対策しておくべきだろう。

 この間と同じくウチの警備の一人に内緒でガイに作ってもらった緊急連絡用の結界の玉を交換しておいた。こういう手もあるというのはイシュカを含めた団員達にはまだ内緒だ。


 第一目標としてはあの大蛇が這い出てきた辺りまでの捜索で、その痕跡が残る場所を辿って行く。私はイシュカとガイに挟まれ、前をライオネル、後をケイに守られつつガイと手を繋ぎながら後方近くで進んでいく。 

 前回と違ってあまりコウモリなどの姿が少ないのはこの場所が長らく地中に埋まっていたせいなのか、それとも大蛇に食われたためなのか、なんにせよ、足元が虫と糞だらけでないのは助かった。一昨日目にしたコウモリと虫の大行進はトラウマになりそうなくらいにはキモかったから。

 暫く進むと道が二股に分かれている。

 団員の一人が膝をつき、大蛇の痕跡を確認すると分かれ道前に二人待機させ、更に奥へと進んでいく。私はポケットに入れておいた小さな白い石を分岐点辺りにそっとガイに渡して少しづつ落としてもらっている。真ん中では踏み荒らされて石も潜ってしまうかもしれないし、横にいるガイにお願いしたのだが所謂予備対策というヤツだ。団員達を信用していないわけではないけれどロープというものは途中で切れてしまう可能性もある。低級の魔獣がいないわけではない、何が起こるかわからない以上二重対策はしておくべきだ。

 とはいえコレも団員のみんなには内緒である。後ろを歩くケイには言ってあるけれど信用してないと取られるのも困るので必要にならない限りは言うつもりもない。分かれ道だけで道沿いに落としているわけではないし、たくさんの足音で石が落ちる音もかき消されて都合がいい。

 前方で狩られた小型の魔獣は随時魔石を取った上で首を落として脇に積み上げている。帰りに担いで帰る余裕があれば持って帰る算段で、分岐点に二人待機させたのもコレが理由の一つだ。ただ待っているだけでは勿体無いので一人が見張りで周囲に気を配りつつ、倒した魔獣素材は集めて貴重な素材を剥ぎ取りながら待機する。全て持って帰れるならそれでも良いが担げる重量にも限りがある。極力刺激しないように戻るときに威嚇しながら入口の穴に追い込む予定なのだけれど進んで行けばそれなりに向かってくる魔獣(ヤツ)もいる。集団になれば勝てると思えば当然襲ってもくる。それを片付けつつ洞窟が枝分かれする度に二人づつ配備し置いて行き、人数が二十人を切った辺りでやや広い、あの大蛇が寝グラにしていたと思われる場所まで到着した。


「やはりアレがヌシだったようですね」

 途中で魔獣に襲われないこともなかったけれど単体、集団で襲ってくる差はあれど大概ランクはD前後。その程度、シルベスタ王国が誇る魔獣討伐部隊、緑の騎士団の敵ではない。漏れなく討伐しつつ怪我人も出すことなくそこに到着した。

 そこそこに広さがあるその場所はあの巨体が自由にとはいかないまでも動けそうなほどには広さがあった。凸凹とした微妙に緑がかった濃い灰黒色の天井や壁、調べてみないとわからないが石かもしれないし、単なる岩か、火山地帯であることを鑑みれば溶岩石の可能性もあるわけで素人目にはわからない。

 なんとなくゲームとかであるダンジョンのボス部屋に近い雰囲気はある。昨日の鍾乳洞の神秘的な美しさとはまるで違う、重厚感ある迫力だ。

 ガイは私と手を繋いだまま気配を探っているのか鋭い眼光で周囲を見渡しながらゆっくりと歩いている。

「そのようだな。大きな気配も今のところは感じない。まだ他の道も調べてみないとハッキリ断定は出来ないがここが最下層っぽいしな。一応他に続く道がないか調べるか?」

 スンスンと鼻を鳴らしているのは臭いでも嗅いでいるのだろうか?

 本当にガイは野生動物みたいなところがある。

 警戒はしていても緊張していない様子を見るにガイのアンテナには危険と思われる存在が引っ掛かってこないのだろう。ケイも特に臨戦体制をとる様子がない。私はイシュカとガイ、ケイとライオネルに囲まれた状態なので、ガタイのいい彼らの隙間からしか様子は見えないが団員達が持っているランプの光に照らされて灯りの色が反射しているのかゴツゴツとした岩壁がところどころ濃い赤紫色に光る。

 あれ? 

 さっきは緑がかっているように見えたんだけど、石の素材の違いかな?

 とりあえずその辺りの調査はある程度小型、中型の魔獣の掃除、追い出しが済んでからゆっくりと。空気が入り込む穴が他にもあるのなら見つけておかないとそこからまた魔獣とコウモリに入り込まれても敵わない。目の細かい網を張っておかないと二度手間だ。この場所に近づくほどに魔獣の数が減ってきたことを思えばやはりここも穴は上に近い辺りだろうか。風も弱くて掴みにくい。鍾乳洞みたいな鑑賞価値がないことを思えば団員達の考えた煙での燻り出しも効果的かもしれないなどと考えつつ私は唯一視界が開けている上を見上げる。

「支部長補佐はハルト様の側に。調査は俺達で手分けしてやります。すみません、灯りだけお願いしても良いですか? ランプだけでは暗くて」

 団員の一人に言われてイシュカが呪文を唱えようとしたので慌てて止める。

「イシュカ、私がやるよ。光魔法で照らせばいいんでしょ? 万が一を考えればイシュカには温存してもらった方がいいし。それくらいさせてよ」

 その魔法は魔力消費が少ないとはいえある程度の長時間照らせばそれなりにジリジリと体内魔力量は減るものだ。だが私ならその程度なら使った先から回復していくのでたいして目減りすることもない。

 となればここは私の出番だろう。

 これはイシュカも止めなかったので私は小さく呪文を一応唱えて指先に光を灯す。出力を調整しつつ手を上げたが光の量自体は問題ないのだがいかんせん、身長が低すぎる。広範囲を照らすなら高さが欲しいところだ。

 私を囲んだ中で一番身長が高いライオネルを見上げて頼んでみる。

「ライオネル、肩車してくれる?」

「構いませんよ」

 そう返事が返ってきたところでイシュカが私の脇に手を入れて抱え上げ、屈んだライオネルの肩に乗せてくれた。

 これまた一段と高いことで眺めも素晴らしい。

 今回の調査隊の中でも一際背の高いライオネルの肩の上に乗るとみんなのツムジが下に見えて面白い。私が光を灯した右手を上げると洞窟内が一際明るくなって見渡せるようになった。要するに人間蛍光灯というものである。

 そうして照らされるとやはり天井はところどころ光を反射して緑がかった黒く鈍い輝きを放つ。

 やはり光の反射具合か。ランプの灯は火属性が殆どで赤っぽい光になるし、光魔法は淡いレモン色っぽい光になる。一般的なのは家庭での火種にもなる火属性ランプ。光属性のランプは照らす以外に使い道がないので出回っている数は少ないが、火種の必要のないところや燃えやすい物が多い場所に使われている。ランプによっても微妙に色が違うのは魔石の大きさや蓄えられた魔力の残量にも関係している。

 しかしこうして広範囲を照らしてみると、成程あの大蛇の巣穴だけはあってかなり広い。あの巨体からするとやや狭いことを考えるとガイが言っていたように休眠か冬眠していた個体になんらかの理由で魔素が作用して巨大化したのかもしれない。そして目覚めたところで狭いわ腹は減ったわで、餌を求めて動き出した、と、こんなところなのだろう。

 実際大蛇が通ってきたと思われる痕跡は追い易かった。

 ギリギリ出られる道から強引に、魔力で穴を掘って出てきたと思われれる。

 所々天井や壁に鱗の跡が残っていた。

 そうなるとひょっとして私達のところに来た時には既に魔力がそこそこ削られていたのかもしれない。そう考えると私の魔法があっさり効いたわけも、団員達に負傷者が少なかったのも納得できる。つまり幸運とは言い難かったがそこそこにラッキーだったとみるべきか?

 いや、採取した魔石は魔力満タン状態だったわけだからそうでもないのか。

 魔力量が多ければ初級程度の魔法なら使った先から回復していくのは既に自分で実証済。ジリジリと減りはするけど多少の個人差はあれど空に近い状態まで使用すると完全回復まで二、三日かかると言う。

 とにかく過ぎたことを考察したところであくまでも仮説、倒してしまったわけだからこの際その辺はどうでもいい。団員達がセカセカと働いているところ申し訳ないが今回私は外灯係ということで。

 勿論他にも仕事があればやる気はあるが、計画書を見た限り、私は救命隊扱いになっていた。聖属性持ちが少ない、というか、今回の遠征隊には聖属性持ちは私だけ。毒消しやポーション、聖水の準備は怠っていなくても癒しの魔法が掛けられるのが一人だけであれば魔力温存、後衛援護部隊というのも頷ける。それらの備品が尽きても私がいればとりあえず致命傷は避けられる可能性が高くなるのだから。

 要するに私は歩く救急箱というわけだ。

 つまり私の出番は無いに越したことはない。

 洞窟内部を見回しつつ、何か面白そうなものは無いかと探してみる。

 勿論その間も外灯の役目は果たしていましたとも。


「結構広いですね」

「そりゃあアレだけの巨体がいたわけだからな、これくらい普通だろう」

「ですが大きさ的に然程余裕はないでしょう?」

 イシュカとガイ、ケイが私の下で話し合っている。

 ライオネルはしっかり私の脚を支えつつ、キョロキョロ視線を彷徨わせている私に合わせて少しづつ身体の向きを変えてくれている。コレは非常にありがたい。首を捻る必要もなく周囲を見学出来た。

 ライオネルは無骨、不器用に見えて意外に気配り屋なところがある。

 おそらく地方貴族出身ということもあるのだろう。

 ウチの側近達の殆どは結構そういうところは抜けている。自分と私に不都合が出ない限りそもそもそういう気配りをする気がないガイ、必要であれば気遣いもするが関係なければ注意を払わないイシュカ、苦手とするキール、集中したり夢中になると周りが見えなくなるテスラ、サキアス叔父さん(私は間違いなくここの部類だ)、マルビスは商売に関してならば完璧だが日常生活ではそうでもないし、そういう点に於いて頼りになるのはロイだけ。屋敷内なら最近ではカラルとエルドがロイを補佐してくれるから助かっているのだけれども、出先でもう一人くらい近くにそういう人材が欲しいところだ。でないと自由人が多すぎる私を含めた側近達が今後暴走しないとも限らない。それを止められるのがロイだけでは心許ない。そういう点に於いては常識人の父様の存在もありがたいところだが、いかんせん、父様が私のもとに来てくれるのはまだ先なのだ。

 

 団員達は複数空いた穴を二人一組で探索しながらその先に続く道がないことを確認して危険がないとわかれば脇の壁に杭を打ちロープをバツ印に張り、赤い細い布でその中央を結んでいく。調査済みの証である。

 団員達の立てた計画書は堅実的でわかりやすい。

 所詮行き当たりばったりに近い私のとはやっぱり違うと思う。

 そうして一つづつ穴をロープで塞いでいくと更に奥に続くと思われる道二つが残った。但し一つは立ったままで通ることが出来るものであるけれどもう一つは大人では匍匐前進、私でも這わなければ先に進めそうもないものだった。

 一通りの調査も終わったところで私も外灯の役目を終え、ライオネルの肩から降ろしてもらう。

 まずは立って進める穴の調査が先か。

 危険な気配を感じれば引き返すという条件付きで団員達が私の護衛を含めたイシュカやガイ達を残して十人ほどで穴の中に消えていき、暫くすると人数を二人増やして戻ってきた。道は続いていたが岐路で待機させていた団員と出会したため、そこの道を塞ぎ、連れて戻って来たということだ。つまり現在ロープで塞がれていない穴は発見し難く見つかっていないものがない限り、私達が通って来た大蛇の這い出て来たと思われる道と匍匐前進でなければ進めないその穴だけ。

 行き止まりである可能性もあるけれど大きさを鑑みればこの先が広い場所に繋がっていない限り大型の魔獣の生息は考えにくいが可能性としてゼロではない。

「こういう時って普通どうするの?」

「一応確認することは多いですね。人も入れないような穴なら塞ぐことも考えるのですが、この大きさになると蛇型や蜘蛛型などの魔獣が潜んでいる可能性もありますし。その殆どは要らぬ心配で終わることも多いのですが」

 私の問いにイシュカが答えてくれた。

 確かにそうだ、二本足で歩く人間ならばキツくともそういった類の物なら穴に高さも必要ない。気配は感じないとはいうが魔獣の類がいないだけで実は大量の蛇の巣でしたなんてことがあったら笑えない。そしてそれらにまた魔素が取り憑きでもしたらと考えるなら予想される可能性なら潰しておくべきだ。

 しかしながらやはりかなり狭いことは間違いない。

 ぐるりとと周囲を見渡しても目に入るのは標準体型とは言い難い大男ばかり。

 彼らの職業柄それも仕方ないことではあるのだけれど。

 私は小さく吐息を吐く。

 今回は基本的にシャシャリ出るつもりはなかったのだけれど、仕方ない。

「じゃあ私がガイと確認してくるよ」

 私の言葉に振り返ったのはイシュカだけではなくガイもだ。

 まさか自分に飛び火が来るとは思っていなかったのだろう。

「この狭さだと体格が良すぎる人だと挟まって動けなくなる可能性もあるし、団員のみんなの剣だと天井につかえるよ。ガイの得物はナイフでしょう? それに気配に敏感なガイが一緒なら安心だし」

 剣は狭い場所で振り回すのには向かない。

 勿論、団員のみんなにソレが扱えないというわけではないのだけれど、一番得意としているのはこの中でならガイだろう。

「危険ですっ」

「イシュカは過保護過ぎるよ。いざとなったら結界張って時間稼ぎも出来る」

 すぐさま反対されたがちゃんと対策するとばかりにポケットに仕舞っていた複数の魔石を見せる。ガイが危険を察知して知らせてくれるなら私が結界を展開すれば逃げる時間くらいは稼げるのだ。

「それからロープ貸して」

 私がそう言って手を出すとロープが渡された。

 それを足首にしっかり結えて解けないことを確かめ、もう一つのロープの端をイシュカに渡す。要はバックするのに時間がかかるならこちらから引っ張り出してもらおうというわけだ。

「危ないと思ったら叫ぶから、そしたらこのロープを引っ張って。そうすればすぐにここを抜け出せるでしょ」

「貴方が傷だらけになりますっ、怪我をしたらどうするんですかっ」

 そう反論したイシュカの鬼のような形相に考える。

 別に女の子じゃあるまいし、傷の一つや二つ問題ないと思うのだけれど。

 それに後から治せばいいのだし。そりゃあ深すぎる傷とかは流石に残ることもあるけれど、擦り傷擦り傷、せいぜいアザか皮が捲れる程度、悪くても脱臼か骨折くらいだろう。死ぬよりはマシなはずだ。

 だが、ふと考える。

 確かに私は引っ張ってもらえば助かるが、それではガイが置き去りだ。

「じゃあガイに結ぶ?」

 間違いなく私よりは頑丈だろう。

「そしたら私はガイに抱え込んでもらえば問題ないかなって」

 こっち側には大勢の力自慢達がいる。二人分の重量など大したこともない。

 そんな私の提案に今度はガイが反論する。

「俺はクッション材かっ」

「それならば良いでしょう」

「良くねえよっ」

 アッサリと許諾したイシュカにガイが言い返す。

 まあ確かに。

 見方を変えればガイの言い分ももっともで。

 だがにっこりとイシュカは笑って肯定する。

「大丈夫です、貴方は頑丈ですから。ちゃんとポーションも用意しておきます、安心して下さい」

「安心できねえよっ、イシュカ、お前っ、絶対加減する気ねえだろっ」

「当然です。ハルト様の安全第一ですから。

 ガイの顔や体に傷の一つや二つ増えたところで困る者はいませんし」

 自分から言い出しておいてなんだけれど結構酷いこと言ってるよね、コレ。

「そこは否定しろよっ、表面上だけでも」

「取り繕ったところで貴方はツッ込むだけでしょう? 無駄ですよ」

「お前ホントいい性格してんなっ、そういうとこ御主人様そっくりだぞっ」

「それは素晴らしくも嬉しい褒め言葉ですね。ありがとうございます」

 イシュカとガイのボケツッコミならぬ掛け合い漫才もどきはイシュカの感謝の言葉で締め括られた。

 周囲からは呆れたような小さな笑い声が聞こえてきた。

「大丈夫だよ、ガイ。引っ張られる時には私が身体を覆うように結界張るから」

「それは安心すべきところなのか? 益々判断に迷うぞ」

 ポツリと漏らしたガイの本音にどう答えるべきか迷ったが、思いつかなかったのでそこは黙殺させて頂いた。

「まあいい。言いたいことは山程あるが、確かにこの中での一番の適任は俺と御主人様だしな。特にヤバそうな気配も感じねえし」


「付き合わせて悪いね、ガイ」

「後でたんまり酒をタカってやるからな、覚えておけよ」

 条件付きでなら私はガイのその要求を断った覚えはないけれど。

 要求してくるのが金銭でなく酒、もしくは甘味であるところがガイらしいといえばガイらしいが。大丈夫、一昨日の店で見つけた酒にうるさいガイとテスラのお気に入りはジュリアスに頼んで買い込ませているし、屋敷に戻れば陛下から賜った二人に内緒で隠してある高価なお酒が地下の倉庫に唸るほど眠ってる。

 

「ホント、ガイとイシュカっていいコンビだよね」


 私がクスクス笑いながらそう言うと二人は露骨に嫌そうな顔をして顔を背け、

「冗談でもやめてくれ(下さい)っ」

 と、同時に言葉を返した。


 ほら、ね。

 息もぴったり。

 そう思ったのは私だけでないらしく、周囲からも小さな漏らし笑いが聞こえてきた。



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[一言] めちゃくちゃおもろい 氷結の騎士+猫科の肉食獣→漫才コンビ!
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