第十話 成せば成る、成さねばならぬ時もある?
日付が変わる前にガイは地元に詳しいケイにそのまま調査を任せて帰ってきたらしく、朝起きると隣で眠っていた。
屋敷以外では最早恒例化しつつある添い寝。
完全に慣れたわけではないが不思議な感じがする。
一年前までは今世はおろか前世でも殆どそういうことをされた記憶がない。
前世では下の弟妹に手が掛かって親には放置されがちだったし、学校時代はイジメられっ子、恋人がいたことのない私は誰かに抱きしめられた記憶も殆どなかった。今世でも三男という立場で子守りはされても添い寝された記憶はあまりない。結局外見は赤ん坊でも中身は大人、欲求泣きであやされることはあっても這い這いし始めた辺りから父様の書斎に入り浸っていたのだから当然といえば当然の結果なのだろう。
なのに一人寝が普通になるこんな歳から添い寝されることになろうとは予想外にも程がある。屋敷の外では気配に鈍い私の護衛の意味もあるので正確に言えば添い寝とも少し違うのだろうけど、それならそれでベッドを二つ置けば済む話ではないかと疑問に思って前に尋ねたらマルビスにスルーされた。
何か都合が悪いのか、ガイのように面白がっているのか理由は不明だ。
だが今のサイズなら問題なかろうが私が育ったらどうするつもりなのか。
その辺りは殆ど出先だけなのでとりあえず置いておくとして。
むっくりと起き出し、ここに来てからすっかり料理人状態のロイの作ってくれた朝食をガイと並んで食べた後、別荘周辺の警備人員と明日のもう一つの洞窟調査のための準備をしている団員達を残し、みんなで昨日調査した洞窟までやってきた。今回も昨日と同じように装備を整えて入って行く。違うのは大量のランプと色付きのガラス製品を持っていることだ。
入口にほど近い場所を抜けて行くと少しづつ洞窟内の景色が変わり始める。
イシュカはそこそこ見慣れた光景なのか特に反応を示さなかったけれど昨日私がその美しさに息を呑んだ場所まで到着するとロイとテスラ他数人から感嘆の息が漏れた。
天井から垂れ下がるツララ石とカーテン(幕石)、地面に生える石筍とフローストーン(流れ石)など、そこには美しくも神秘的な乳白色の世界が広がっている。
私は昨日調査した中で一番広い場所まで来るとイシュカとガイに手伝ってもらいつつ運んできたランプで洞窟内を明るく照らしていく。昨日には見られなかったその空間の全体像が暗闇から浮かび上がる。
青く輝く水をたたえた棚田のような地底湖もとても幻想的だ。
「これはまた、なんというか、不思議な光景ですね」
テスラが目を輝かせてぐるりと辺りを見渡す。
「灰黒色や茶系の暗色のイメージでしたがここはまた随分と趣きが」
「洞窟なんてものに潜る機会は私達は滅多にありませんからね。こんなに洞窟の中が美しいとは」
ロイとジュリアスが溜め息混じりに呟くとイシュカが口を開く。
「いえ、おそらく二人が抱くイメージが一般的な洞窟であると思います。私もここまでの規模のものは初めて目にしましたが稀にこのような光景を目にすることがあります。とはいえ、私達団員が派遣される場合は殆ど魔獣討伐が関わっていますので戦闘でボロボロになりますからこんな状態で保存されていることは滅多にありません。このようになるのはおそらく土壌の関係が大きいのだろうとは聞いていますが」
そう、鍾乳洞は海中の珊瑚や貝などが堆積してできた石灰石が地殻変動で地上に現れ、雨水などによって長い年月をかけて溶かされ、削られた結果空洞が発生して数万年以上かけて縦横に広がってできていくものだ。石灰岩を削った雨水に溶け込んだ炭酸カルシウムが溶け込み、地下空洞の天井のひび割れなどから滴り落ち、結晶化して様々な形を作って気が遠くなるほどの長い年月をかけ、この芸術品を生み出す。
この世界でこのことがどれほど認知されているかは定かではないけれど、昨日もこの光景を見ているはずのガイ達でさえ複数のランプに照らされて浮かび上がったそこの全体像を目を見開いて見渡している。昨日は小さなランプ一つだけだったからイメージも掴みづらかったのかもしれない。
「すごく綺麗でしょう? これを見学探検ツアーみたいな観光資源にできないかと思って」
私がそう言うとジュリアスは難しい顔をした。
「確かに素晴らしい眺めですがこれだけではリターン客を見込めるかどうか」
まあこのまま何も手を加えなければね。
魅入られて通う客もいるだろうけどもの珍しいだけでは二度くれば見飽きてしまう可能性は無きにしも非ず。その心配もわからなくない。折角整備して整えても長く入場が見込めないなら工事費によっては赤字確実。
「ちょっとここで見ていてくれる?」
私はゴソゴソと持ってきたガラスの器を取り出すと少し離れた一際見事なツララ石を照らすランプの前までやってくる。そして色とりどりのそれをランプの前に順番に翳してみせる。
「まずはこの鮮やかなマリンブルー、次はこの淡いリーフグリーン、アメジスト、カーマインレッド、ブラッドオレンジ・・・」
シンプルなものが中心だけど模様の入った物とかも灯りを通すとそれはそのガラスの色に染まった光が洞窟内を照らす。そしてマリンブルーの器を立てかけたまますぐ近くのもう一つのランプにグリーンのガラスを翳し、次はオレンジ、イエローとみんなのいる場所に戻るまでに持っていた器を全て置いていく。すると洞窟の中はその色以外にも光の重なり合った場所は別の色に変化し、無数の色の洪水に照らされる。
不思議な光景を眺めるかのように言葉を失くして魅入っているテスラとジュリアスの前に立つ。
「どう? 照明の色でイメージが全然変わるでしょう? 季節ごとにライトアップの色を変えたり、組み合わせたり、ただ歩くだけじゃなくて案内コースを月毎に変えたり、レールを敷いてトロッコにお客さんを乗せて走らせるとか、他にも色々演出次第で幾通りも雰囲気を変えられる。すごく楽しそうだと思わない?」
先がどうなっているのか、入口に立っていても何もわからない。
地下の空間は、進んでいって、自分の目で見て初めてその様子がわかるのだ。
どんな世界があるのかワクワクとドキドキが入り混じって進んで行くと、想像していなかった景色が見えてくる。外でただ待っているだけでは見ることの出来ない空間が待っているのが洞窟の魅力なのだ。
ジュリアスの目が輝き、口調は興奮状態に変わる。
「確かにそれならば何度でも同じ客を呼び込めますっ」
良かった、その気になってくれて。
「勿論安全面も配慮しなきゃいけないし、足場の確保やレールを敷く手段とか考えなきゃならないことはたくさんあるけど私達が作ろうとしているのは遊び場、娯楽施設だもの。こんな趣向のものがあってもいいかと思って」
となれば、当然だがテスラの協力も仰がねば話は進まないわけで、私はテスラの前に立つと高い位置にあるテスラの顔を見上げる。私の視線に気づいて忙しなく視線を彷徨わせていたテスラが苦笑する。
「やはり貴方は俺をいつも虜にしてくれますね」
今世では珍しいものだろうけど、特に変わったものでもない。
また些か過大評価されている気がしないでもないけれどテスラの興味を惹けたなら好都合。テスラは一旦夢中になるとそれに賭ける情熱がハンパなくなるので非常に頼もしい。
「技術開発事業は任せて下さい。冬になる前にサキアスを連れてここに来て相談します。それまでに使えそうな設備の資料や工事に必要と思われる人材、作業員の手配をつけておきます。雇ったばかりの学院の高等部卒業生の中にもこういったことが好きそうな者もいたはずです」
それは心強い。
「では私はこの洞窟の詳しい調査を進めておきます。そうなるともう一度地質の調査も必要があるかもしれませんね。洞窟が空いているというなら落磐の心配もありそうですし」
テスラの言葉に頷いてジュリアスが言った。
それもある。
グラスフィート領から近いというだけでロクな調査も入れずに買ってしまった山であるが大蛇は出てくるわ、鍾乳洞は出てくるわ、まだ他にも出てきそうな気がしてならない。肝心なもう一つの洞窟の調査も残っているし。
後で警備員の増強と手配を勧めておこう。
「そうなると来年秋の開園は間に合わないかもしれないね」
「なんとしても間に合わせますよ。施設建設を先に予定していましたがまずは先に宿の方を進めておきます。運河が完成すれば港の利用客の需要も見込めそうですし、問題ありません」
確かに手をつけられるところから取り掛かるのは悪いことではないけれど。
ウェルトランドの時と違って陛下からの力添えがないので大工職人の数は充分ではない、特に今回の場合建設物の殆どは屋根付き、屋内がメインの施設。時間がかかるのは仕方がないのだ。
「ジュリアス」
期間に間に合わせようとロクな調査もせずに強引な手段を取れば後々事故が起きかねない。ましてこういう施設はこの国はおろか近隣諸国合わせても前例のない初のものだ。
私はにっこりと微笑んで付け加える。
「大きな仕事に張り切るのは良いけど程々にね。
別に開園予定を公表しているわけでもないし、一年や二年遅れても構わないから。こういう施設はね、問題が発生して信用を無くしたら終わりなんだよ」
安全第一、多少の遅れも資金超過も見込んでる。
「ですがそれでは経費とかも・・・」
「我がハルウェルト商会がたかが工期がその程度伸びたくらいで揺らぐとでも?」
ここは少しキツめに釘を刺しておくべきだろう。
但しプレッシャーを与えすぎず、安心感も与えておく方向で。
「安心して? いざとなったら足りない予算は私やマルビス達でなんとでもする。ハンパな物で中途半端に開園するくらいなら数年先延ばしでも全然構わないから。オープンすれば赤字なんてあっという間に取り戻せる。
ドンッと構えていればいいんだよ」
それにまた陛下達の魔石と商品大量お買い上げ料金とその登録使用料で私の隠し部屋は再び金貨の山が堆く出来上がっている。
おかしい。
一度去年の年末に空に近い状態になったはずなのに。
マルビスは心配ないと言うが、いざとなればアレを使えば良いのだ。
「それともジュリアスはその赤字を取り戻す自信がない?」
「そんなことありませんっ」
私が尋ねるとジュリアスが即座に否定する。
そうだよね。
ゲイルと並ぶマルビスの片腕だもの、そんなことでヘコたれるわけもない。
だから微塵も心配なんてしてないよ、私は。
「じゃあ問題ないね。そういうわけだから。期待してるよ、ジュリアス」
「はいっ」
失敗を恐れていては先に進めない。
だけど意味を履き違えてはいけない。
それは適当でいいという意味ではないのだ。
心強い味方がたくさんいるというのは何も私に限ったことではない。
ジュリアスにも私を含めた大勢の仲間がいるのだから。
別荘に戻ってくるとテスラは早速必要と思われる書類に取り掛かり始めた。
脅威となるような危険がないことは昨日確認済みとはいえ、それなりに足場も悪く、この先に危険な何かが入り込まない保証がないことを思えば警護人員と調査に必要な人材の手配も必要だ。ジュリアスはすぐに商業ギルドと冒険者ギルドにその手配を依頼しに出掛けた。
いよいよ明日は問題の残り一つの洞窟の調査に出向くことになるわけで、出発準備を整えていると夕刻前に予定外の来客がやってきた。
「お久しぶりです。突然の訪問失礼致します。
ベラスミ領にお見えになっていると聞き、是非とも御挨拶だけでもと思い、馳せ参じました」
エントランスには懐かしいと言っていいのか、見覚えのある顔。
だけど数ヶ月ぶりに見るその人は私の知っている人物と雰囲気がまるで違う。
「ゴードン、だよね?」
思わず疑問系になってしまったのは許してほしい。
イメージがかなり変わっている。
シャキッと背筋が伸び、短く切り揃えられた髪、どこか疲れた顔をしていた以前の印象はまるでなく随分と若く見える。気弱そうなイメージはすっかり消えて凛とした立ち姿は騎士団長に相応しい。もっとも今ベラスミはシルベスタ王国に属するので現在はベラスミ領の騎士隊長という扱いになるわけだけれど。
「私をお忘れですか?」
「いや、イメージが違い過ぎて」
短く切り揃えられた髪、ピンと伸びた背筋に強い意志を感じられる凛とした瞳。
思わず同一人物かと疑いたくなるほどだ。
「三日前の出来事についても冒険者ギルドの方から伝説級の魔物が出現し、しかも討伐まで御尽力頂いたとお聞きしまして、その御礼を申し上げたく参上致しました。ことの顛末についてはおおよそ聞き及んでいますが昨年、様々な事情により現地視察される前に契約を交わすこととなったため問題が起こった場合には補償、補填を行うという一文が御座いましたので今日はその交渉に参られた領主代理の護衛でお邪魔した次第でありまして。お赦し頂けるのであれあれ是非とも領主代行が貴方様にお会いしその御礼と謝罪を申し上げたいと」
そう告げられてゴードンが今日ここまでやってきた理由に納得する。
うろ覚えではあるが確かにこの土地を買い占めたあの時、ろくな調査も行わず条約締結のために急ぎ取り決めたため二足三文の問題のある山であった場合こちら側損害が大きくなるからとマルビスが保証のために付け加えさせた一文だ。二足三文かどうかはともかくとしてとんでもないオマケがいたわけだが。
「ジュリアスを呼んできます」
すぐにロイがジュリアスを呼びに行くために席を外す。
訪問許可を出すと後ろに停まっていた馬車から一人の紳士が二人の従者と一緒に降り立った。
「初めまして。私、ベラスミ領、領主代理を務めさせて頂いておりますヨハネス・ジ・ウォルトバーグと申します。お噂は予々伺っております。お会いできたこと光栄に存じ上げます」
綺麗な御辞儀だ。そういえばもと侯爵なんだっけ。
領主代理の任を与えられるだけあってどちらかといえば知性的な、外見だけで判断するなら父様に近いタイプのようだ。
「初めまして。ハルスウェルトです。以後宜しくお願い致します」
私が握手のために手を差し出すとしっかりと握り返された。
一階の来客用応接室に案内するとロイがお茶と茶菓子を運んできてくれる。
今日のオヤツはドーナツか。
私はそれを客人に勧めながらお茶に口をつける。
「それで今日はどのような御用件で?」
陽が落ちるまでにはまだ時間があるとはいえこの別荘には来客用の部屋がない。
あまり時間をかけてはお帰り頂くにも問題が出てきてしまう。
二、三階は満員御礼状態だし四階は空きがあってもプライベートエリア、初対面の来客を入れるのは抵抗がある。一応ここ一階にある使用人部屋は空いているが流石にそこはお勧めするわけにもいかないだろう。
「本来であれば先に書面にて御都合をお伺いした後に馳せ参じねばならないところ、このように御時間を頂き、申し訳ございません」
「いつも予定が空いているというわけではありませんので次回からそうして頂けるとありがたいですけど、ことがことですので仕方ありません。幸いこちらも多少の被害は出ましたが犠牲者を出すことなく討伐することが出来ました。私共から直接お話ししても宜しいのですが、中立の立場である冒険者ギルド職員からの話を伺ってからの方がよろしいですよね」
こちらの言い分を立証するためにも第三者を入れるべきだろう。
後で盛っていると思われても困る。昨日の昼過ぎに解体作業も終わり、ギルドに戻った職員を呼びに行かせようとしたところを止められる。
「大丈夫です。こちらにお邪魔する前に冒険者ギルドの方で話は確認して参りました。
運河建設、民への職の斡旋、更にはこの土地の開発まで請け負い、御尽力頂いているというのに、このような問題が発生したこと重ね重ね申し訳ございません」
そう言って領主代行は深々と頭を下げた。
つまりここにやってきたのがこのような時間帯になってしまったわけはそういう理由があったということだ。なんとも手回しがいいというか、しっかりしている。互いの齟齬や誤解を招かないようにするためには効率も良いだろうけどしっかりと頭も回る方のようだ。
こうなると私では上手く丸め込まれてしまわないとも限らない。
契約その他の商業系のことに関して私は強い方ではない。
「すみませんが私は契約については明るくありませんので代理の者と話をして頂いても宜しいですか?」
私がそう告げるとロイがすぐにテスラとジュリアスを呼びに行く。
「勿論で御座います」
事情を聞いてやってきた二人、特にジュリアスは顔色が悪い。
テスラはそこそこ王侯貴族と接触する機会もあったので落ち着いているけどマルビスやゲイルがいたので挨拶くらいはしたことがあってもジュリアスが今まで直接そのような相手をしたことは殆どない。現在では貴族位は剥奪されているとはいえもと侯爵だ。漂う気品とそのクラスの人間が放つ独特の存在感にたじろいでいるようだ。
しかしながらこれからこういう機会も増えてくるであろうから慣れてもらわねば困る。
私はにっこりと笑うと口を開く。
「ジュリアスがここの責任者でしょう? テスラもいるし大丈夫、マルビスにここを任されたくらいだもん。出来るよ」
「ハルト様っ」
助けてくれとばかりに縋るような視線を向けられたがそこはシカト。
とはいえ丸投げも可哀想なので領主代行には少々圧をかけておこう。
私は前に視線を戻すと彼を正面から真っ直ぐに見据える。
「それに貴方がたもこの私を欺いて騙そうなんて真似はしないでしょう? 私の一言でここの開発は打ち切りにもできる。そんな状況で私を敵に回そうなんて考える人なんていないよ。
ね、そうでしょう? ウォルトバーグ領主代行?」
始まっているとはいえまだ準備段階。
ここの領地の管理者と上手くやっていけないのなら撤退もやむなしだ。
後々難癖つけられて揉めるのなら最初から手出ししない方がいい。別荘ライフを楽しむだけなら問題もないだろうからこの場所を手放して似たような他の場所を探してもいい。暗にそう匂わせて私がそう告げると彼は大きく頷いた。
「はい、勿論で御座います。貴方に不用意な手段を用いた者の末路は聞き及んでいます。そんな愚かな真似は致しません。そして己が負うべき責任と仕事を全うする者に対しては対等に扱って下さるということも。
私は誰方を味方につけるべきであるかということをよく存じています」
「それならば結構。私は搾取されるのは許しませんが不当に利益を得ようとは思っていませんので御安心を。商売上での良好な関係というものは互いの利害関係が一致してこそ続くものです。
景気というものは末端にまでその効果が行き渡ってこそ良くなるもの。一部の者が独占するだけでは経済は回りません。民の暮らしが良くならねば消費される商品も少なくなる、物が売れなくなれば私達商売人が困る。逆に言うなら民の暮らしが良くなって消費される物が増えれば商売人も儲かるということですから」
もっとも、私達商売人は豊かになった民に選ばれる店や物を作らねば生き残っていけないともいえるのだけれど。新しい商品作りと魅力的なデザイン性、流行を読む力、作る力が必要だ。
土台は作ったことだし、これからはそういったオシャレに敏感で広告塔にもなれるような女性の人材も必要になってくる。男まみれの生活も悪くはないけど、そういった女性もこれから多く引き込んでいかなければいけなくなるだろう。もっともそのあたりはマルビスも考えているようで商会の事務所の上にある商業班の寮は真ん中で区切って半分は女性用にしてあるみたいだし問題ないだろう。
才能ある貴族子女子息の方達にもそれぞれに合った仕事をお願いしている。
彼等は子供の頃から英才教育されていただけあって優秀な人も多い。今後パーティなどを開くことがあれば予定通り順次彼等の改造計画も実施しようかと企んでいる。大事な人材は見せつけてあげないとね。大事なそれを手放し送り込んでくれたことに対しての感謝の意を込めて。
貴方達が虐げていた人達は私のもとで存分に力を発揮して頂いておりますと。
私は今後の展望と展開を考えてニヤリと意味深に笑ってみせる。
それをどう受け取るかは目の前にいるこの人次第だけど。
「全く、貴方様は敵に回すべき御方ではありませんね」
大きな溜め息を吐いて領主代行はそう言った。
私の言いたいことは正しく理解されたようだ。
「頼りになる味方を如何に多く自分につけるかが勝負ですよ。私一人の力では出来ないことも多くの味方、才能を見つけることで補える。優秀な人材というものは何物にも変えがたい宝です。貴方が信頼できる私の味方であり、宝であることを願っていますよ。ウォルトバーグ領主代行?」
そう伝えると彼は恭しく頭を下げた口を開く。
「貴方様の御期待に添えるよう、尽力させて頂きます」
ならば良し、と。
「イシュカはジュリアスに付いていてあげてくれる? 私はガイとゴードンとサンルームにいるから何かあれば連絡を」
「承知致しました」
ここにいても良いのだがジュリアスに経験を積ませるためにもここにいるのはよろしくないだろう。
この土地の開発事業責任者である以上私達抜きで決断せねばならないときも、海千山千の王侯貴族と渡り合わねばならないことだってある。マルビスとゲイルに任せきりでは下が育たない。そのためにゲイルもここをジュリアスに任せたのだろうし。ベラスミには現在もと貴族はいても現在貴族である者は殆どいない。ベラスミに貴族位はない、ほぼ平民なのだ。是非とも対等に話ができるようになってもらわねば。
決して面倒だからというわけではありませんよ?
私はガイとロイを連れてゴードンと一緒にサンルームに向かう。
私も一年と少し前までは陛下の前に出た時は心臓が縮み上がったものだ。
だが今では然程緊張しなくなった。
人間開き直りと慣れは大切なのだ。
えっ⁉︎
お前のような図太いヤツと一緒にするなって?
そんな言葉聞こえません。
何事も成せば成る、成せねばならぬ時もあるということで。
その辺は私のような上司を持った不幸を嘆いて諦めて頂きましょう。
それにいくら私が適当でも、出来ないと思う人に任せたりなんかしませんよ?
信じればこその愛のムチということで。
御容赦御勘弁願いましょう。