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生まれ変わったら天才少年? 〜いいえ、中身は普通のオバサンなんで過度な期待は困ります  作者: 藤村 紫貴
第一章

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第百三十五話 もうすぐ誕生日です。


 リゾート施設見学の許可を出し、御招待させた人達の中でやはりというか、案の定と言おうか、警護の目を盗んでこの敷地内に居座ろうとした方々がいらしたので、その方達はもれなく私有地外に強制送還させて頂いた。

 しっかりと名簿管理しておいて良かった。

 宿屋宿泊の方々にはしっかりと安全のために周囲を塀で囲った宿屋敷地内に押し込んで、ついでに警護という名の見張りも付けておいた。

 だってね、ほら、ここは周りが山と川の僻地ですから。

 獣や魔獣も出てくるかもしれませんし?

 御来賓の方々の身の安全を守るためですよ?

 決して面倒だからとりあえず閉じ込めたわけではないですから。

 彼らには昼前までに敷地外に見張り付きで御案内予定だ。

 厄介事を増やされてはたまらない。

 

 そんなわけで現在屋敷の敷地内にいるのは常日頃からここで暮らしている者を除けば迎賓館の国王陛下御一行様と屋敷内の客室に滞在しているレイオット侯爵閣下とステラート辺境伯の方々を残すのみ。

 これから忙しくなるのでレインには閣下と一緒に一度侯爵家に帰ってもらうことにした。まだ口数は多くはないが頼まれていた人見知りもなくなったし、レインは帰りたくないとゴネはしたけれど、また暫くして仕事が落ち着いたら来てもいいと告げると渋々納得してくれた。

 閣下と辺境伯は陛下と一緒に明後日の朝にはお帰りになる。


 私は陛下御一行様と閣下と辺境伯一家を交えた夕食会を終えると陛下に呼び出された。

 いったい何を渡されるというのか。

 父様とイシュカを伴って迎賓館の応接室の部屋の扉を叩いた。

 許可を得て入るとそこには陛下と団長、連隊長だけが待っていた。

 この少数でとなればあまり公にしたくない一件なのだろうと身構えていると団長が徐に壁に立てかけてあったそれに近づき、一気に覆いを剥いだ。

 現れたのは冒険者ギルドで見たそれ。

 一回り程大きいが属性と魔力を測るための石碑だ。


「既に五千を越えたというのは聞いていたのでな。正確な魔力量の測定が出来なければ万が一の場合に誤魔化すのも難しいだろう? 

 ついでにどのくらいなのか私も確認しておこうと思ってな」

 確かにこの贈り物は正直ありがたい。

 グラスフィートの冒険者ギルドにあるのは五千までしか測れないので最近は目安でこれぐらいだろうと検討を付けているのが実情だ。


「触れてみよ」

 そう、陛下に言われて石碑の前まで歩み出る。

 確か前に陛下と会った時は五千を少し超えた辺りだった。

 多分、ではあるけれど、運河の穴掘り作業で散々魔力を使ったので更にあの時より増えているはず。五千の半ばは過ぎてるんじゃないかと思っている。確かダルメシアに聞いた今までの記録にある最高魔力量ってそのくらいだった気がする。

 まあ今更隠したところで意味ないし、隠すのに協力してくれると言ったのも嘘ではないだろう。だからこそのこの人数、このメンバーなのだろう。私はそれに触れるとほんの少しだけ魔力を放出する。すると一瞬の間を置いて、それは物凄い勢いで下から光が上がり始めた。毎度のことなのでもう驚きはしない。

 だが五千半ば辺りで止まると思っていた光は更に伸び、六千三百辺りでピタリと止まった。

 しっ、しまったっ・・・

 また調子に乗って増やし過ぎてる。

 呆然とする周囲の中で私は乾いた笑いを浮かべた。


「いや、聞いてはいたのだが、実際に数値で見ると驚くな」

 陛下がマジマジと石碑を見上げ、その数値を自分の目で確認する。

 団長と連隊長の二人もそれを囲み、眺めている。

「既に六千越えてるぞ。バリウスの倍近いではないか」

「倍ではない、八割増しくらいだっ! お前だって似たようなもんだろう、ニ割程度の違いなのだから」

 連隊長の言葉に団長が言い返す。

 あえてツッコむつもりはないけど、二割程度って、要するに団長の二倍の魔力量と私の魔力量の差もそれくらいなんだけど。男のプライドってヤツかな? ここは口を噤んでおこう。

 だが言い返した後で団長がポリポリと頭を掻いて呟いた。

「まあこの調子ではニ倍になる日も近いのかもしれんが」

 複雑そうな顔でそう言った。

「それはどうでしょう。以前よりは伸び幅も減少してきていますし、体内に留めておける量に限りがあるかどうかも定かではありませんので微妙なところではないかと私は思いますけど」

 魔力量の伸び幅は六歳を過ぎると急激に落ちてくるとあの本にも書かれていた。魔力量が増えたのは穴掘りや魔獣討伐のせいもある。魔獣討伐部隊の支部がすぐ近くにあればこれから私がそういった場面に出張る機会も減るだろうし、そんなに増えることもない。魔力量を増やすには持っている魔力を空に近い状態まで繰り返し使う必要があるわけだからここまで増えてしまうと使い切る機会も減る。それにこれ以上増えて体内から溢れ出しでもしたら恐ろしい。魔素ならぬ魔力の垂れ流しは出来れば遠慮したいので個人的にはもう充分だと思っている。

「そういえばそうだな。学院入学前くらいで伸び幅はだいたい落ち着くからな」

 団長がふむっと納得すると連隊長が横から口を挟む。

「しかし伸びない、というわけでもないだろう? 学院入学前と後では平均伸び率は二割から三割と言われている。ハルトの場合もとの数値が高いわけなのだから入学前には七千超えてくる可能性もある。そうなればそのニ割増しとなれば」

「成人までに一万超えてくる可能性もあるということか。公に出来ないとはいえ既に計測が開始されて以降のこの国の歴代最高数値を超えているのだぞ?」

 流石に一万はないでしょう? 

 そんな魔力量使う機会なんてそうそうあるわけないし。

 三人の国の重鎮達が石碑を囲んで討論している間にすううっと石碑は光を無くしていき、再び元に戻った。

 それを見て本来の目的を思い出したのか三人はソファのところまで戻って来た。ゴソゴソと連隊長が鞄から大きな袋を取り出し、ドンッと机の上に置いた。

 それを私に差し出し、陛下が中を見ろとばかりに顎をしゃくったので『失礼します』と言い置き、その袋の中を漁り、覗いた。

「宰相に預かってきたのだ。悪いがその内の二つばかり補充してもらえるか? 三千クラスのヤツが水道工事で足りなくてな」

 出てきたのは以前話の中で出てきた空の魔石。それも二千クラスくらいの大きな物がゴロゴロと。ザッと見たところ二十は超えているだろう。三千クラスと指示されたのでその中からそれ相当の大きさの物を選んで取り出した。

 工事などで魔石が足りない場合には協力すると確かに約束していた。

 運河の掘削作業も領地内はほぼ終わっているので協力することに否はない。

「持って帰られるのですか?」

 いちいち王都まで後で届けるのも面倒だし、早い方が良いだろうと尋ねるとその内の一つを手に取った。

「いや、なるべく早い方が良いが慌てるほどでは・・・」

「まずは一つですかね。連隊長、大きいほど光が強烈になるんで結界をお願いしても?」

 陛下の早い方が良いという言葉を聞き、ならば早速片付けてしまおうと立ち上がる。

「ああ、わかった」

 頷いて私の周りに結界を張ってくれたので眩しいので気をつけてくれと忠告するとすぐに持った魔石に魔力を込める。相変わらずのズルリと体から何かが抜け落ち、引っ張り出されるような感覚は気持ち悪い。

 眩いばかりの光も放射されたが連隊長の結界でかなり抑えられたようだ。光が収まったところで連隊長が結界を解いてくれたので補充の終わった魔石を陛下の前に差し出した。

「もう一つは明日の夜に。おそらくその頃には八割ほどに回復していると思いますので大丈夫です」

 残存魔力が一割を切るとキツイけれどそんなに騒ぐほどでもない。

 私の一割は平民の平均魔力量のやや下くらい。生命の危機にはならない。

「何か問題でもありましたか?」

 差し出した魔石を受け取らず、じっと陛下達が眺めていたのでそう尋ねると固まっていた陛下達が動き出し、私の手から魔石を受けとった。

「いや、其方に常識を求めた私が間違いだった。助かった。これで工事もすぐに進められる。代金はマルビスに請求書に付けてもらうようにする」

 なんだろう、その妙に引っかかる言い方?

 御礼を言われたのではあろうが釈然としない。

「まだ入り用になる可能性がありますか?」

「後二つほどな、まだ空の魔石も見つかってないんで多分もう少しかかると・・・」

「ウチに在庫、ありますよ。マルビスがまだ売っていなければ、ですけど。三千クラスでいいんですよね? 四千クラスの在庫もあるんじゃないかな。空の魔石も買い集めてたみたいだし」

 確かに袋の中はほぼ三千クラスアンダーだ。

 まだ入り用だと言うのならリッチやカイザーグリズリーの魔石もあったはず。

 陛下達が目を丸くして私を見ていた。

「呼んで来ます?」

 そう尋ね、屋敷の方を指差すとぎこちなく陛下が頷いた。

「ああ、頼む」

 その言葉を聞き、イシュカがマルビスを呼びに屋敷に向かう。

 はああっと大きな溜め息を吐いた陛下の肩に手を置いて団長がぼそりと言った。


「アイツを俺達の常識に当て嵌めるな。疲れるだけだぞ?」

「そのようだ」


 失礼だなっ、足りないと言うからウチにあるよと教えただけではないかっ!

 その言い方だとまるで私が歩く非常識みたいでしょっ!

 陛下達が探して見つからなかったという空の魔石はひょっとしてマルビス達に買い占められていたのだろうか? マルビス達の情報網と仕入れルートの広さは商品だけに関するならガイ以上、それが集団でここにいるのだからこの国と近隣諸国の商品で真っ当な物なら、もしかしたら真っ当でない物も最早私の手にすることができないものは殆どないだろう。以前はそれなりに大変だった味噌、醤油、米に南国果物のドライフルーツが当たり前のように簡単に届くようになった。


 それを思えば優秀過ぎる彼等は確かに非常識かもしれないと、私は自分のことを棚に上げ、そう考えた。



 翌日護衛から許可を渋々取り付けた陛下を後ろに乗せ、ルナでアスレチック広場へと向かった。閣下と辺境伯も馬で付いてきた。奥方様達と母様達はお茶会を開くというのでロイに接待を任せてきた。マルビスは昨日王室から頂いた発注の手配とその請求書を、キールは発注されたステンドグラスのデザイン画を、ガイは見張りと称してケイと森の入口で昼寝を、テスラと叔父さんは受注した冷蔵庫とエレベーターの必要資材を計算している。

 しかしながら陛下の身辺警護に加えて閣下に辺境伯まで、この国で十本の指に入る強者の内四人がこの場にいるとはまた豪勢なと呟くと連隊長に、

「五人の間違いでしょう?」

 と、言われ、意味ありげに視線を流された。

 五人って誰だ? イシュカのことか?

 そう思ってイシュカはどのくらいの位置なのだと尋ねると二十位以内くらいにはと答えた。

「ウチで一番強いのってイシュカかガイだよね?」

「貴方の下なら、そうですね」

 と、イシュカはクスクスと笑いながら言う。

 ってことは今回の陛下の護衛の中の誰かか。

 しかしこの広いシルベスタの国土の中で二十位以内くらいの猛者が二人も側近にいるとはなんたる贅沢か。ありがたいことだとやんごとなき御方達が童心に返って遊んでいるのを眺めながら呑気に日なたの切り株を椅子に私はサンドイッチをつまんでいる。明後日の私の誕生日にはとうとうここもオープンだ。

 一時に合わなくなるのではと思いもしたが、なんとかみんなの協力を得て間に合った。別の意味で忙しくはなりそうだけど人手も充分増えたし、必要な人材も集まった。

 しかし誕生日にオープンとは、なかなか恥ずかしいものがある。

 来年からは周年祭も企画するとマルビス達が言ってたし。

 そういえば、

「私、すっかり忘れてたけど去年みんなの誕生日ってお祝いしてないよね?」

 日々の忙しさにかまけ、すっかり大事なことを忘れていた。

 私が思い出したように言うとすぐ隣に立っていたイシュカが微笑する。

「平民や下級貴族で騎士団などに入団した者、訳あって家と縁が切れた者、三男以下では誕生日を毎年祝う風習はありませんから。節目として社交界デビューの六歳、成人の十五歳は祝うこともありますが」

 一般的ではないってことか。

 でも上級貴族達や長男次男が祝われているってことは別におかしなことではないということだ。

「ふうん。じゃあ今年からは内輪だけでも祝おうよ」

 盛大なものである必要はない。

 私もどちらかといえば滅多に顔を合わせることのないような他人に祝われるよりも仲のいい、親しい人の間だけで開くようなものの方がいい。一般的でないというなら来年からは周年祭にかこつけて、こんな貴族相手の面倒なものは止めてしまおうと考える。

 イシュカは私の提案を不思議そうに聞いてきた。

「誕生日を、ですか?」 

「うん、私の大事な人達が生まれてきてくれた日だもの。大袈裟なものじゃなくていいから、その人の誕生日にはその人の好物を沢山作って、気の合う仲間と食卓を囲んで。生まれてきてくれてありがとうって、私と出逢ってくれてありがとうって、御礼と御祝言いたいじゃない?」

 まあ私が勝手に祝いたいだけなのだけれど。

 前世では私の誕生日を祝ってくれる人は殆どいなかった。

 家を出てからは家族は私の誕生日なんてお祝いの言葉一つも寄越さなかったし、家族持ちの友達は忘れていることも多々あった。誕生日を数日過ぎた辺りで『忘れててゴメン、誕生日おめでとう』ってメッセージが届いてた。正直、忘れていたならそのまま忘れていてくれた方が良かったと思ったこともある。当日に誰からも来ない御祝メッセージ。寂しいとは思ったけど仕方がない、みんな生活に忙しいのだからと言い聞かせ、その数日後に届くメッセージに、やはり忘れられていたのかと再びヘコんで、二度落ち込むハメになる。悪気はないし、それでも思い出してくれたのかと思えばありがたいとは思ってもありがとうとは思えなかった。

 私の言葉にイシュカは首を傾げて尋ねてきた。

「貴方と出逢えたことの御祝ですか?」

「違うよ、御礼だよ。大事な人が生まれた日っていうのはやっぱり特別でしょう?

 ねえ、イシュカの誕生日っていつ?」

 その日があるから今の大事な人がいる。

 だからこそ祝いたいし御礼を言いたい。

 イシュカは少し躊躇い、そして思い切ったように口を開く。

「・・・貴方と一日違いの明日です」

 みんな自分から言わないから全然知らなかったけれど、そんなに近かったのか。

 そしたら来年は一緒に、と思いかけて止めた。

 同日でないなら別々にすべきだ。

 大事な人の特別な日は『ついで』に祝うものではない。

「随分近かったんだね。じゃあ明日の夜はイシュカの好きな物沢山作って御祝しようっ、何が食べたい? 何か欲しい物あればプレゼントするよ? 何か欲しい物ある?」

 私がそう尋ねるとイシュカは首を横に振る。

「いえ、特には。欲しい物は既に頂いていますから」

「私、何もあげた覚えないよ」

「この先も貴方の側にいられる、婚約者という立場を頂きました。他にも私は貴方に生きることの意味と幸せをたくさん、山ほど頂いているのですよ。これ以上の贅沢を望んでは天罰が下ります」

 さりげにそれって、スゴイ殺し文句だよね。

 思わずノックアウトされそうな程には。

 だがその程度で幸せと言われては困るのだ。

「イシュカは相変わらず謙虚だね」

 私がそう言うとイシュカは意味がわからないとでも言いたげに首を傾げる。

「謙虚、ですか?」

 控えめなことは悪いことじゃないけど、控えめ過ぎるのは問題だよ。

 少しの幸せで満足してしまったら、それ以上に幸せになれない。

 そりゃあ欲張り過ぎると身を滅ぼしかねないけど遠慮し過ぎるイシュカはもう少し強欲でもいいと思うのだ。


「イシュカはもっと欲張ってもいいよ? 

 それくらいのことで幸せというのなら、イシュカはもっと幸せになってもいいと思う。

 今までの人生取り戻すくらい幸せになってよ。私のために」

 私の言葉に益々意味がわからないというようにイシュカは眉を寄せて尋ねてきた。

「貴方のために、ですか?」

「そうだよ。大事な人達には幸せでいて欲しいって、そう思わない?」

 大切な人ならば誰よりも幸せでいて欲しいと思う。

 それが私の側であっても、なくても。

 ただ側にずっといて欲しいと思うから、もっと幸せになって欲しい。

 できるなら私の傍で。

 イシュカにも、みんなにも。

 私の側が一番だと思ってもらえるように。

 そしたらきっとずっと長く隣にいてくれるはずだから。

 私がそう言って微笑むとイシュカは驚いたように目を見開き、そして、

 眦から一粒の涙が溢れ、零れた。

 

 えっと、なに、この状況?

 ひょっとしてイシュカを泣かせたのって、もしかしなくても私だよね。

「あれっ、私、なんか変なこと言った? ゴメン、イシュカ」

 ワタワタと慌てて切り株の上に立ち、ポケットの中からハンカチを取り出すとそれを差し出した。

「いえ、嬉しくて。そんなことを言われたのは初めてでしたから」

 イシュカはそう、幸せそうに笑って私の差し出したハンカチを受け取るとそれで涙を拭いた。

 驚いた・・・。

 泣くほど喜んでくれたのは嬉しいけど、半分は自分のため。

 自分が側にいて欲しいからっていう願望からだ。

 そこまで感激されると些か良心が咎めてしまう。


「では一つ、欲しいものがあるのですが、お願いしても宜しいですか?」

 なんだろう? 

「すぐに手配出来そうなもの? 少し時間がかかってもいい?」

「いえ、私が欲しいのは物ではありません」

 そう言うとイシュカは人差し指で自分の頬を指差した。

「ここに、貴方から祝福のキスを。

 ずっと憧れていたんです。大切な人から贈られる祝福のそれを」 

 それは顳顬にする挨拶とは違う、親愛の、家族やごく親しい者の間で交わされるもの。

 唇にする恋人のキスではないけれど、顳顬から五センチほども変わらないソコは正直にいえばかなり私にとってはハードルが高い。 


「私の夢、叶えて頂けますか?」

 だがしかし、それがイシュカの夢、憧れだったと言うなら私は・・・

「わかった、男に二言はないよ。但し、明日ね」

「はい、とても嬉しいです」

 すぐに返事が出来ないあたりがヘタレでカッコ悪いと我ながら思うけど。



 そして翌日、早起きした私はイシュカと顔を合わせると扉の影に引っ張り込み、その日一番初めの『誕生日おめでとう』と、頬に祝福のキスを贈った。

 真っ赤になっていたところがカッコつかないとは思ったけれど、それでもイシュカは嬉しそうに『ありがとうございます』と言って幸せそうな顔で微笑んでくれた。



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