第百三十四話 その奧に潜む企みは何ですか?
パーティでの挨拶と紹介も無事に終え、陛下達の御登場も済み、客は珍しい食事の数々に手を伸ばし始める。
多くの貴族達に押し掛けられそうになったが挨拶終了次第早々に退場したガイを除く四人の婚約者達で周りをガッチリ固めて強引に前から強引に力で割り込もうとする輩はイシュカが、口先で丸め込もうとする輩はマルビスが、両斜め後ろのロイとテスラはその色気と美貌で私に向けられた興味の視線を惹きつけている。
ある意味このフォーメーションは女性陣に対して無敵だ。
普段の格好で一人だけでも目立つのに着飾った状態で四人。
いやがおうにも惹きつける、ある種の視界の暴力と言えなくもない。
四人の大人の男に囲まれると背の低い私は殆ど見えなくなってしまうわけで、自分の娘を側室に売り込もうとやってきても私の姿を見る前に御令嬢、御婦人方々の瞳にこの四人が目に入るのだから視線はそちらに向けられる。他の男に見惚れている娘を側室にと進めるわけにもいかないだろう。男としてなら落ち込むところだろうが押し付けられるのはゴメンなので、これ幸いとその影に潜り込む。
そして希望者を募ってのリゾート施設見学のためのオープンカーならぬ、オープン馬車の準備が整うと、招待客達はそちらに向かい、移動し始めた。飲食系の店舗と大型家具の店、その他テナントでも空いている店はある。ウチの商業部門の面々が経営している店の看板にはお馴染みの私の顔のロゴマークがあるので非常にわかりやすい。
途中下車で買い物、買い食いは自由だがゴミはゴミ箱へ、ここは私の私有地であることを忘れないようにと付け加える。ゴミ屑が道に転がっていては折角の景観も台無しだ。一組の招待客につき、一人の護衛という名目の見張りを付けてある。勝手にどこかに入り込もうとしたり、ルールを守れない者は次回より出入り禁止なのだ。
先頭馬車二台には陛下御一行。一応座れるのは八人乗り設定なのだが王族の方々を詰めて載せる訳にもいかない。陛下と財務大臣が両脇に双璧の護衛を付け、二台目にはマリアンヌ様とライナレース様、フィア達が、私は陛下の乗る馬車のその斜め前をルナに乗り、イシュカと二人、先導する。
屋敷に残った招待客は父様達がお相手してくれている。
「ハルスウェルト」
馬車から陛下が私に話しかけてくる。
「何か御用でしょうか?」
「話には聞いていたがその獣馬は本当に美しいな。明日でいいから、その獣馬に乗せてくれないか?」
馬車から身を乗り出して陛下が私に尋ねてくる。
団長と連隊長は動揺するでもなく知らぬふり。我関せずを決め込んでいる。
財務大臣が陛下の隣でわざとらしく咳き込んでいるが陛下はどこ吹く風、おそらくこれが陛下の地なのだろう。無視するわけにもいかないので私は前を向いたまま平然と応える。
「ルナは私しか乗せませんので一緒でないと無理ですよ? 護衛の方々の許可が頂けるなら、構いませんが?」
「フィアやミゲルは乗せたのであろう?」
「お立場が違います」
フィアの好奇心旺盛なところは陛下譲りか。
いや、両御妃様もそれなりに豪気なところがあるからどうだろう?
とりあえず陛下が私の前で本性を隠すことをやめたらしいのはわかった。
また面倒な。
こういう人は一度気を許すとそこに付け込んでくる人が多い。
所謂、『私とお前の仲だろう?』というヤツだ。
極力国家権力とは関わりたくない私は距離を取りたいところだが。
「貴族連中を追い出した明日、アスレチックとやらにも私も挑戦するからな」
「ですから護衛の方々の許可を得て下さいとお願いしているでしょう。そうすれば私としては問題ありません。今日は団員の方々の何名かにお願いして見本としてどのように遊ぶものかいつも通りにやって頂こうと思っています」
体力作りの一環としてこの施設を利用している彼らだが、団員の中でも好評なのは知っている。鍛えるにしてもただ走る、剣を振り回す、腕立て伏せをするといったことより体を上手く使わなければより早く攻略出来ないからだ。以前より討伐の時にも体が動かしやすくなり、回避や受け流しといった行動がしやすくなったと。
ぶっきらぼうな私の物言いにも陛下は機嫌の良さそうな顔を崩さない。
「其方は本当に人の使い方が上手い。
私がフィアの補佐に付けたのは間違いなかったというわけだ」
ベラスミ帝国の一件のことか。
欲望のまま職人確保に突っ走り、山を買い、別荘を建て、更には来年くらいから娯楽施設建設に乗り出そうとしているのに?
私の思いつきを形にしたのはテスラで、ベラスミの宰相を捕まえる算段のキッカケを思いついたのはイシュカ、更にその状況を利用して上手く地下に誘い込んだのはロイ、財源確保の提案をしたのはマルビスで、そもそも密偵を捕らえて来たのはガイなのだ。
結局、今回も私がしたのは思いつくまま本能で行動していただけ。
これを私の手柄と胸を張るのは図々しいにも程があると言うものだ。
「あの者達はどうしてる?」
遠回しな言い方が指しているのはビスクとケイのことか。
本来なら死罪も当然だったのだから奴隷紋も仕方ないけど。あの二人の主人は私になっている。私に何かあった場合は一緒に死んでしまうことになる。これが二人を生かしておくために付けられた陛下からの最低条件だった。要するに言い出しっぺなのだから責任持てよということなのだろうが普通に考えれば二回り以上年上の彼らは順当に逝くなら私より長生きすることはないのだろうけど、契約解除のための書類は陛下が保管している。
一応保険、ということだろう。
「しっかり働いてくれていますよ。運河の掘削にも随分協力してくれました。祖国のためにと必死です」
「そうか。ならば良い。オーディランスとも和平条約を結び直すことが出来た。水道工事の話を聞きつけて南の国の幾つかからも既に問い合わせが入っている。是非契約と条約を結びたいとな。暫くは平和な世の中でいられそうだ。魔獣被害、以外はな」
魔獣の存在はある種の自然災害だ。どうしようもない。
「だがそれも其方達の講義のお陰で闇雲に突撃するのではなく考えて行動する者が増え、緑の騎士団の殉職者の数も少しづつ減って来た。もう暫くの間は悪いが協力してもらうぞ?」
「御約束致しましたから。報酬もしっかり頂きましたし御役目は果たします」
おかげで父様も断罪されずに済んだ。
陛下達が睨みを利かせてくれているためか、今のところたいした妨害もない。
「いずれは私もフィアに王座を譲り、退冠する時がくる。私にとっての宰相やバリウスのように、これからもフィアを手助けしてやってくれ」
勿論そのつもりではいるけれど、ここで安易に頷いては後々面倒なことになりそうだ。特にこの陛下人のあげ足取って『あの時そう言ったであろう?』と無理難題を押し付けてこないとも限らない。
ここは曖昧にボカシて返答すべきだろう。
「いつも側に、というわけには参りませんが」
片道ほぼ一日の距離はそれなりに遠い。
駆けつけるにしても連絡が来てからになるわけだから最速でも一日半。
場合によっては間に合わないし、フィアは友達だが私の最優先対象ではない。
私がさりげなく逃げ道を作っていることはこの人にはお見通しなのだろう。
陛下は椅子の背もたれに腕を掛け、楽しそうにこちらを見て言った。
「そうか? 先のことはわからぬぞ?」
なんだ? その意味ありげな言い回しは。
嫌な予感が走る。
「何か良からぬこと、企んでいませんよね?」
私がジト目で馬上から見下ろすと陛下が声を立てて愉快そうに笑う。
「私にそのような口を聞く者は滅多にいない、其方は本当に肝が据わっている」
「陛下は理不尽なことを要求される方ではないと、わかりましたので。
国が関わること以外では」
私が最後に付け加えた言葉に陛下の眉がピクリと反応した。
国を動かす立場であるということは重責だ。
時には自分の望まぬ決断も平然な顔で行わねばならない時がある。
「為政者というのは国のため、時に理不尽だと思われることを為さねばならない時もありますから。私には自分を押し殺してそういうことができる自信はありません」
「だからミーシャを嫁がせるのは諦めろと?」
国政に引っ張り出そうとするのをやめてくれと言いたかっただけで、特にそういう意味ではなかったのだが。
しかし、ここでそう言ってくるということはそれをまだ諦めていなかったということか。どちらにしてもこれ以上王族との関係を築くつもりはない。もう手遅れのような気がしないでもないが宮廷内にだけは取り込まれたくはない。あんなキツネとタヌキの巣窟にいたら息が詰まりそうだ。
ここはしっかりとお断りしておかねばならないだろう。
「まあ、そうですね。それは既にお断り申し上げた筈なのですが」
「ハルスウェルト、其方はその歳にしては驚くほど老成しているが先というものはわからないものだぞ?」
老成しているというか、記憶だけなら実にトータル四十年分以上ですからね。
それも致し方ないかと。
黙ったままの私に陛下が言葉を続ける。
「今はお前の好みの範疇外かもしれんがアレも成長する。その気になった時は遠慮なく言え。どんな縁談、婚約者を押し退けてでもお前のところに嫁がせてやろう」
「謹んで御辞退致します。私には既に素晴らしい婚約者が五人もおりますので」
もう充分過ぎるにも程がある。
ロイ達は私が自分から望んで好きになるなら止めるつもりはないようだけど、男女のこだわりがない私が彼ら以上に惹かれる存在が出てくるとも思えない。みんな魅力的過ぎるのだ。
一緒に居過ぎて家族に近いので恋愛感情が芽生えるかどうかは疑問だが。
カッコイイから好きになる、素敵だから恋をするというわけではない。
とんでもないダメ男、ダメ女に恋する事態もあり得るかもしれない。
私がいなければ的なヤツだが、そういうヤツは殆どの場合その当人でなくてもいいことが多いのを知っている。そういう人間は見捨てず自分の面倒を見てくれる人であれば誰でも良いのだ。
だがそこで見捨てられるかどうかはまた別の話になるのだけれど。
現在性別男の私の婚約者が全て男になる事態は一年前には想定していなかった。前世で(男に)モテない女筆頭だった私がイケメンハーレム状態。この一年、予定外、想定外続きなことを思えば然程意外でもないのかもしれないけど。
相変わらずニヤニヤと私の顔を見ているが、こういう顔をしていると流石に縁戚だけあって団長とよく似ていると思う。団長が騎士を志すことなく、ムッキムキの筋肉状態でなかったらもっと似ていたかもしれない。
私は小さく溜め息を吐いて付け加えた。
「私には彼らが必要なんです。彼らを押し退けてまで欲しいと思うものはありません」
「だが其奴らに子は成せまい? 其方の事業の跡取りはどうする?」
そうくるか。
だが残念、それは私にとっての妻を娶る理由足り得ない。
「構いませんよ。女性は子を成すための道具ではありません。
それに私は未来の自分に子供がいたとしてもその子に継がせるつもりはありませんから。勿論継ぐに相応しい者であれば話は別ですけど」
その考えは今でも変わっていないのだ。
この歳で隠居というのもどうかと思うが私は望んで今の地位を得たわけではない。
「大きな事業主であればあるほど、その責任は大きいです。
背負う覚悟と守る覚悟、その二つがない者には任せられません」
「其方にはその覚悟があると?」
いや、ないから譲ると言っているのだけれど?
「私にはありませんよ」
「話が矛盾していないか?」
「確かに私にはありませんが、私達にならあります。
一人では背負えませんが、みんなが私の足りない、及ばぬところを支えてくれています。ですから私は今座るこの席に相応しい者が現れたならいつでも譲る気でおりますよ?
それが私の子であっても、なくても」
私は経営者の器ではない。
それは一番私自身がわかっている。
「引際が良すぎではないか? お前の力でここまで大きくしたのであろうが」
「私ではなく、私達の、ですよ。そうですね、ただ私達がのんびりと贅沢をしなければ暮らせる程度の退職金は要求するかもしれませんが。
まあ腕も立つ、甲斐性もある人達ですからそれも必要ないかもしれませんけど。
もしもの時は守り、養ってくれるそうです。
私が無茶を出来るのも彼らがいてくれるからこそですよ」
どんな時も大丈夫だと思える、思わせてくれる大事な人達。
イシュカに視線を流すとイシュカは幸せそうに笑って頷いてくれた。
「成程な。だから其方は強いわけか」
「強いかどうかはわかりませんが、安心して背中を預けられる、いえ、一緒に隣で戦ってくれると言った方がいいかもしれません。前でも、後ろでもなく、私の隣で。
私が望むのはそういう者ですから、それが男でも、女でも」
互いの顔が見える場所というのは心強いと同時に安心を与えてくれるから。
「意志の強い、気の強い女は手綱を握るのも大変だぞ?」
それはそうでしょうね。
そういう方は一筋縄ではいかない。だけど、
「握る必要はありません。握って頂けば良いのですよ。
私を上手く操縦し、どんな苦難にも一緒に立ち向かってくれるような方なら一考の余地がありますね。私は暴走暴れ馬ですから。私の婚約者達のように並走し共に走ってくれるか、さもなくば上手く操り、扱える者でないと私には付いてこれないと思いますよ? 深層の姫君や御令嬢には些か厳しいのではないかと。
以前、婚約者の一人に言われました。
私の側に、婚約者であろうとするなら肝が据わっていないと無理だろうって」
随分な言われようだと思わないでもなかったがアレには納得させられてしまった。
「確かに、今のミーシャでは無理そうだ。諦めるよ、今のところは、な」
「なんですか、その今のところはって言うのは?」
その思わせぶりな言い方はっ!
「ミーシャは私の娘だぞ? どう育つかはわからないであろう?」
そうニヤリと笑って答えた陛下に一瞬背中がざわついて私はキッパリお断り文句を口にする。
「陛下に似るというなら尚更御遠慮致します」
「本当に失礼なヤツだな」
何を考えているかわからない腹黒など私の手には余る。
それにあの可憐さだ、私の好みと違うというだけで引く手は数多あるだろう。
こんな私のようなゲテモノを好んで相手にする必要はない。
趣味が悪いのは私の婚約者達だけで充分だ。
「それに万が一、ミーシャ様が私好みに育ったとしても陛下にお願いは致しません。私は申し上げた筈ですよ、陛下?」
そう私が言うと陛下はそれを思い出したのか小さく笑った。
「惚れた相手は自分で口説き落とす、だったな」
「はい。ですから陛下の御手を煩わせるつもりはございません。私は私が欲しいと思った者に側にいて貰いたい。だから申し訳ございませんが私を義理の息子に持つのは諦めて下さいませ。
私としてはアル兄様などオススメ致しますけどね」
ミーシャ様はアル兄様の好みに結構近いはず。
ただ最近では私にゴリ押し出来ないと悟ったのか、それとも父様達の目論見通り身分の低い男の婿の下に入るのを嫌ったのか持ち込まれる令嬢の見合い話が減ったのは聞いている。代わりに兄様達のもとに山のように届き始めたようだけど。ただ兄様達は自分達の向こうに私の姿を見ているような女性は御遠慮願いたいとは言っていた。だが田舎貴族と馬鹿にされ、見向きもされなかった時から比べれば選べるようになっただけマシだとも言っていたけれど。
好かれるためにはまずその人の視界に入らなければならない。
好意の反対は嫌悪ではなく無関心。
好かれるためのどんな努力も見て、気づいてもらわなければ興味を持ってもらえない。大丈夫、私の自慢の兄様達だ。見てもらえさえすればわかるはずなのだ。
兄様達の良さを理解してくれる女の子が必ずいる。
「それは自分相手じゃなく縁戚なら構わない、ということか?」
「兄様が望めば、ですよ? 私も兄様も外見は父様似ですけど、兄様は私のような粗忽者とは違ってしっかりしているし真面目で堅物ですが、その分女性を大事にするのではないかと。マメですしね。
私という厄介極まりない弟を持ってあの落ち着きっぷりは尊敬に値しますね。私と違って性格も父様似ですし、この土地、グラスフィート領はこれからまだまだ発展していくでしょうからかなり優良物件ではないかと。もれなく私のような義弟が付いてくるという点は御容赦御勘弁頂かなければならないのですが」
それはこれから先もトラブルに巻き込まれるかもしれないということだ。
「兄が伯爵似だというならお前は誰に似たんだ? ハルスウェルト」
陛下にそう話を振られて私は考える。
「う〜ん、誰でしょうね。イシュカは私は誰に似てると思う?」
子は親を見て育つから生活環境による人格形成というものが大きいのではないかと思う。子供というものは親をよく見ていてマネするものだ。だが私には既に前世からの性格が染み付いているわけで。
もとが男より男らしいと称されている性格だったから男に生まれてピタリとハマったわけだけど、もし前世で私が女性らしい性格をしていたなら今のようにはなっていないに違いない。姉様や妹達と一緒におしゃべりに花を咲かせ、もともとハンドメイド好きだ、母様と刺繍とかやっていたかもしれない。そうなればこうして陛下と話をする機会もなかったのだろう。
だがありもしないもしも話をしたところでどうしようもない。
三男である私はあまり構われることなく育っているし、強情な私の性格を考えるなら仮に長男で生まれてしっかり構われ、育ったとしても父様に似るとも考えにくい。
だとすれば私は家族の中で誰に似てると言うべきか?
ハタから見た意見はどうなのかととりあえずイシュカに振ってみたわけだが、イシュカは少し悩んだ末に口を開いた。
「難しいですね。ハルト様はハルト様ですから。
ですがあえて言うならダイアナ様ではないかと」
「ダイアナ母様っ⁉︎ 本当っ?」
出てきた答えに私は思わず喜んでしまう。
ああいう一本筋の通った男勝りなカッコイイ女性は大好きだ。
「そういえばハルト様はあのような女性がお好みでしたね」
「うん、強くて勇ましい女性って大好き。でも一番はやっぱりミレーヌ様だよ。ああいう色気があって勝気なのにさりげなく気配りできる人って最高っ!
いいよね、ミレーヌ様。私の理想の女性のタイプだよ。
男ならロイやイシュカ達みたいな人が好みなんだけどね。細身で落ち着いた仕事の出来るタイプ」
あくまでも女性のタイプだからねとばかりに付け加える。
団長達はクスクスと私を見て笑っている。
何かおかしなことを言っただろうか?
警護に就いている時の二人は気を張っているせいもあるのだろうけど口数は少ない。仕事の邪魔をしたいわけではないので特に話を振らなかった。私が周囲を呆れさせたり笑わせたりするのは別に珍しいことでもない。
はしゃぐ私に陛下はフウッと大きく溜め息を吐いた。
「なるほど、ミーシャとタイプがまるで違うのはわかったよ」
陛下の御前で騒ぎ過ぎかとも思ったが怪我の功名、ミーシャ様が私の好みから大きく外れていることは理解してくれたようだ。
「しかし、惜しいな。其方が私と同年代に生まれ落ちてくれていたなら良い友人になれただろうに」
陛下と友人?
御冗談を。私は陛下のような人は嫌いではないが苦手だ。
だけど、
「私がこの歳だからこそ、フィアやミゲルの友達になれたんです」
私がそう言うと陛下は大きく目を見開き、そして破顔した。
「そうか、そうだったな。
ならばそこは感謝すべきところだ。息子達にこの先訪れるであろう苦労が少しでも減るというのは親としては喜ぶべきところだ」
無理難題を押し付けられても私が陛下を嫌いになれないのはこういうところだ。
民に慕われ、恐れられる国王であろうとしながらも、良い父親であることを忘れようとしない。だからといって跡取りである息子を甘やかしたりしない。
フィアを見ていればそれもわかる。
陛下は自分の在り方でフィアにそれを教えているのだろう。
こういうところは尊敬すべきところではある。
腹黒だけど。
私が馬上から陛下を眺めていると、視線を感じたのか目が合った。
すると陛下は何か思い出したように切り出した。
「そういえば其方に土産を持って来てやったのを忘れていた」
土産?
確か従者の一人が誕生日プレゼントだとなにやら箱を差し出したのをロイが受け取っていたはずだ。
「誕生日の贈り物なら既に頂いたと思いますが?」
中身はまだ確認していないけど。
「それとはまた別だ。今晩、他のヤツらが帰ってから渡してやろう。
大きさが大きさだしな。それに私も一度確認しておきたいのでな」
なんだ? その大きさというのは。
口調からするとかなり大きいものだろう。
趣味に合わない美術品とかなら御遠慮願いたいのだが。
陛下からの頂き物とあっては飾らないわけにもいかないだろうし、いったいなにを持ってきたのやら。少しばかり嫌な予感がしないでもないが、面倒なものでないならばありがたく頂いておこう。
そして次の瞬間、前方に見え始めたアスレチック広場に陛下が身を乗り出した。
男の人というのはやはりいくつになっても子供なところがある。
それは陛下であっても変わらないようだ。
私はなんだか微笑ましくなって前方に目を向けた。