第百三十三話 陛下、御降臨です。
長い冬の終わりが見え始め、雪解けが始まる頃になると運河水道工事も随分と進んできた。
やはりこの世界の魔法という力は大きい。
水道はともかくとして穴を掘るという作業において土属性の魔法は非常に便利だ。ただ掘るだけなら魔力が抜けても問題はないのだから農民が多いウチの領地は圧倒的に土属性持ちが多い。閑散期である冬の出稼ぎで工事現場に参加してくれる人達もいて縦長であるウチの領地の運河の長さにも関わらずそこそこの速さで工事は進んだ。
この運河は私の私有地である湖周辺脇近くも通り、港もここには建設されるので運河で運ばれてくる資材を置く場所を確保するため、この際、運河沿いまで続く土地を父様から買い上げて、ドンと景気良く一括ローン無しの現金払いで支払った。ベラスミの山に続き、その土地の購入もあったので私の隠し部屋の中は一気にその量を減らし、金貨の箱二つほどを残してほぼ空となったがもうすぐ爆売れしたコタツと湯たんぽの登録使用料も入ってくるので特に問題もない。それに二つもあれば充分、それでも金貨二千枚はあるのだから。
とにかく自分の私有地近辺くらいは自分達でなんとか工事を進めようと運河を掘るより先にハネ橋を作る工事が行われていたのでそのエリアを除き、作業員出勤前の夜明け前、非戦闘員の土属性持ちロイとテスラとサキアス叔父さん、ついでに是非ベラスミ領のため手伝いたいというビスクとケイ、それとレインをともなって運河建設ラインに沿ってガンガン掘り進めた。
参加者全員合わせれば総合計実に一万五千超えの魔力量。
魔力量の多い者は戦闘職についていることも多いので過剰な魔力使用は非常時困ることになるので手伝わせることはあまりオススメ出来ないわけで、父様は呆気に取られていたがそのあまりの早さに賃金を支払うから他のエリアも掘り進めて欲しいと頼まれ、土地購入のために支払った代金はそのまま返却され、騒ぎを避けるために人目を盗んでは掘り進めるを繰り返し、一般的な子供より多かったレインの千を少し切る魔力量はお陰で短期間の間で千三百を超え、騎士団最低合格ラインにまで達していた。ついでに言うなら私の魔力量も更に増えたと思う。冒険者ギルドにある石碑では既に上限を超えているので正確な数値はハッキリ把握していない。
そしてこの作業により気付いたことがある。掘り下げられた土の堆積はどこに消えたのかずっと疑問に思っていたのだが魔力量に任せて掘り下げたところ、周囲の土壌がやや硬くなっていることに気がついた。今までここまで広範囲に掘り下げたことはなかったからわからなかったのだがこれは今後運がを維持するためにもありがたい利点だ。運河沿いには並木道を作り、季節によって様々景色が見られるようになれば人の通行も増え、更に大地は踏み固められていくだろう。春の花が咲く頃にはみんなでお弁当を持って花見をするのもいいかもしれない。
日本にあった花見文化は楽しいものだ。定着させるのもありだろう。
そうして雪解けが始まる前には見事にウチの領地内の運河の溝掘りも終わりも見え始め、それに付随する港建設に取り掛かり出した。当然ウチも港建設を始めたわけだがただでさえ足りない人手だ。そこで陛下からの御褒美である寮を対岸側に二棟早々に建設し、そこに南地区の領主の許可を得て日雇い路上生活者を雇い入れることにした。
名目上は期間限定、港建設が終わるまで。だが真面目に働く者を選抜し、この先も私の私有地開発のために雇用継続を公言した。そうなれば真面目に働く限りは職は保証されるわけで、労働者達は三食個室寝床付きの生活環境は魅力的だったらしく一生懸命働いてくれた。中には脱落者もいたけれどその者達は十日に一度で馬車を出し、望めば元の国に帰れるよう手配した。ここは私の所有地、従業員とその関係者以外は受け入れることは出来ない。私は慈善事業をしているわけではないのだから働く気のない者にはお帰り頂いた。
そうして対岸の開発に必要な人員も確保しつつ、着々と準備は進められ、オープン二週間前には予定していた全ての建物の建設も終わった。
屋敷内には使用人棟以外にも湖側の中庭、馬場側に迎賓館、工房側に幹部達の寮と商業部門幹部達の事務所や会議室。それらは一階と二階の渡り廊下で繋がれている。屋敷前には全部で八棟の寮と宿屋が立ち並び、二軒の宿屋も一軒はリゾート施設利用客のためのビジネスホテル的な宿に、最後に完成したのは少し離れた景観の良い場所に一階部分に店舗を入れて高級宿に、職人工房も随分と増えた。
滞在していた大工職人達も専属契約者以外は地元に帰って行った。
私の私有地とはいえど今はまだ父様の領地、オープン一ヶ月前から父様と兄様二人は私の屋敷に滞在して開園準備に向けて手伝ってくれている。
マルビス達商業部門は最後の追い込みだ。まさしく寸暇を惜しんで開店開園準備に取り掛かっている。私はロイと父様達と一緒に貴族に向けてのプレオープンパーティの準備だ。
招待客は実に二百人超え。
広間に入りきらないわけではないが来客の殆どの興味は国内初の平民向け大型リゾート施設だ。勿論パーティ用の食事も用意するが、ショッピングモールの店も貴族が興味を持ちそうな店は宣伝も兼ねて開けることにした。そうすればそちらに客も流れるので狭苦しい事態にはならなはず。平民向けなので材料自体は安価で品質もそこそこ、高級素材での商品が御所望なら貴族向けの宿屋一階の店舗に御用意していますと言い置き、そちらで買い上げ、受注注文受付してもらおうという算段だ。
オープン初日分は宿屋も満室、町に設けた案内所には問い合わせ客が殺到し、これではパンクするとマルビスは最初の一ヶ月は整理券を発行して人数制限をすることにしたらしい。商業関係者に情報を回すため商業ギルドにも協力をお願いした。巡回馬車の許容量もあるのでそれも仕方がないことだろう。オープン前にも関わらず、恐ろしいことに一ヶ月以上先まで予約で埋まっている。
パーティ招待客への案内状も既に出してある。
五十通あまり出した招待状、一通で入れるのは三名まで。参加の可否を問う返事は見事に全て可で戻って来た。普通は他のパーティとも重なることもあるので大概参加率は平均六割と聞いていたのだが、話題性もあるので八割は超えるだろうと踏んでいたのだがまさかの百パーセント。最高でも百五十名を超えないはずの招待客数が二百を超える事態となったのにはある人物が関係している。
私は父様達と頭を抱えていた。
「まさか、陛下までお見えになるとは」
そう、当然だが王室宛にも招待状を送っていた。
この招待状だけには流石に人数制限をかけるわけにはいかなかったのだ。
フィアやミゲル達の参加を見越してのことだったのだが王妃様達どころか陛下まで押し掛け、いやいや、おいでになるとは思いもせず、迎賓館は王家とその護衛人員その他で占領される事態となった。そうなると勿論パーティにはその護衛や側近も加わってくるわけで。
「完全に客室、足りませんよ」
どうしてこういう事態になった?
またしても予定外、想定外である。
「貴族向けの宿屋は建物は出来上がっていますけど、調度品などはまだ上半分ほどしか入れてません」
ロイがボソリと声をもらす。
内装その他に時間が掛かったために一番最後の完成となったそこは順次家具や調度品などを入れていたのだが、当初の予定では上半分だけで間に合うはずだったのだ。
これはまた王都などに馬車を走らせるしかないだろうか?
幸いまだパーティまでは二週間。
貴族向けにと用意した宿屋は問い合わせこそ入っているがそれもあって予約はまだ入れていない。パーティ客でどれくらい必要になるか予想できなかったからだ。
しかし王家総出で地方貴族のパーティ出席なんてしてもいいのかよっ!
王都を空にするのはどう考えてもマズイだろう⁉︎
ここで文句を言ったところで仕方がないので頭をさっさと切り替える。
実際に陛下が王都から出ることは殆どないが、全くないというわけではない。
最高潮に殺人的な忙しさのマルビスを頼るのは気が引けるがこの際仕方がない。
私とイシュカで往復すれば王都まで二日も掛からない。荷物は以前のように別便で運ぶことにすればマルビスの拘束期間も最少にできるはず。そこでマルビスに相談を持ちかけると注文自体は終わっているので後は運搬だけだという。高価な物も多いので運搬のための護衛が足りずに時間がかかっているのだという。それならばと騎士団講師権限を使って、討伐の仕事が入っていないことを確認した上で団員達を借り出すことにした。
ウチと父様の屋敷からありったけの馬車を出し、更に町の貸し馬車屋で馬車を借り受け、まだ足りない分は王都でも馬車を借り、話を聞きつけた閣下からも御厚意で貸してくれたので数にものをいわせてなんとか高級宿にも全室調度品まで運び入れが四日前に終了し、ホッと一息吐いた。
後は提供する食事だけ。パーティ三日前からせっせと父様の屋敷の料理人や各寮の料理人の空き時間、工房のお姉様方にも手伝ってもらいつつ、作り置き出来るものは全て前倒し、総動員で準備を進め、なんとか前日の夜までに全ての準備を終了させた。つくづくサキアス叔父さんに冷蔵庫開発を急がせておいて良かったと思ったものだった。
プレオープンパーティはリゾート施設開園四日前。
パーティの後片付けを見込んで万全の体制で迎えるためだったのだけれど陛下の御滞在で予定は未定となり、この際、屋敷の片付けは完全後回しにすることになる。
パーティは昼少し前からだというのに早朝から続々と私有地の境にある閉められた門の前に貴族の馬車が到着し始めた。なかなか手に入れることの出来ない商品の買い物とリゾート施設が見学できると聞きつけた貴族が我こそは誰よりも先にと思ったのだろう。実に迷惑だ。
陛下達御一行の御到着の警護の邪魔になるからと宿屋に買い物客と宿泊予定客は時間前まではそちらに、買い物予定のない日帰り客は中庭へと誘導することにしたのだが、全ての客は宿屋に向かうこととなる。一々我儘を聞いていてはキリがないので警護体制を整えるために前日入りしていた団長にお願いしてショッピングモール街には団員達で、貴族の宿下店舗では団長に睨みを利かせてもらって頂いた。
開店と同時に雪崩れ込んだ客は猛烈な勢いで買い漁り、見本品を残し、あっという間に綺麗に売り切れたそうだ。後は予約受付ということで店員が注文を取って順番待ち状態、団長がいてくれたお陰で行儀良く並んでくれたが一時は混乱状態で怒鳴り声で一喝する事態だったらしい。
陛下をはじめとする王族御一行様が検問所を抜けたと連絡が来たのはパーティ開始三刻前、早馬で知らせが届き、屋敷内が一斉に騒然とし始めた。陛下御滞在期間は父様の屋敷は警備員を残し、もぬけの空。母様達には屋敷の三階の書斎や執務室にソファベッドを入れて部屋を用意して、執事、メイド、料理人から庭師その他全て三日前から移動して準備の手伝いをしてくれていた。
屋敷の者総出でお出迎え、御滞在予定は三日、オープン前日朝までの間。陛下になんとか顔を繋ごうと居座る貴族客も考えられるのでこちらの追い出しは護衛騎士を残し、近衛と団員達が手伝ってくれるそうだ。
陛下御到着の前の最終チェックが始まった。
一般的に玄関前でお出迎え、応接室に御案内の後、まずは陛下の御滞在される迎賓館に御案内、パーティ開始時間までこちらでお寛ぎ頂くというのが一連の流れになるそうだが状況に応じて陛下の希望があればそちらへとなるそうだ。早馬で来た使者によれば、幾つか屋敷内でも見たいものがあると言っているそうだ。どうやら商業ギルドから私の商業登録一覧を取り寄せチェックしていたらしく、気になるものがあるので他の貴族に予約を先に取り付けられる前に見学したいということだった。
なんとなく、何が気になっているのかはわかった。
おそらくエレベーター、ステンドグラス、冷蔵庫あたりだろう。
あれらは大きさが大きさなのでまだ宣伝も売り出しも前なのだ。
早馬と馬車の到着時間差を考えると到着予定時刻はパーティ開始の二刻ほど前のはず。
忙しく働いている使用人達に後を任せ、父様と私達は着替えるために四階へと上がった。母様達女性陣は時間が掛かるのですでに部屋でスタンバイ済みである。
今日ばかりはガイにも拝み倒し、パーティ開始時の側近と婚約者紹介の間だけ後ろで目立たないように立っていてくれれば後はバッくれていいからと正装してもらっている。初めてそういうパーティに参加となるテスラとキールは数日前から緊張バリバリだ。
「国王陛下御一行様、到着なされますっ」
階下からそう叫ぶゲイルの声が響いてみんな慌てて一階まで駆け下りた。
ズラリと並んだ従業員一同が直角状態で腰を曲げ、頭を下げている道の間を王族御一行様が通り過ぎ、開けられた正門をくぐって来たところで残る父様達と私達が玄関前に並んでお出迎え、貴族だけのパーティと違ってエントランスで待たないのは陛下より高い位置で待つのは失礼だからという理由だ。
玄関先まで馬車が到着すると近衛が馬から飛び降りて巻いた真紅の絨毯をサッと広げられた。レッドカーペットが敷かれると高位の近衛騎士と思われる二人が観音開きの扉に手を掛け、いよいよ王族御一行様様の御降臨である。まず現れたのはマリアンヌ様とライナレース様の両妃、それぞれが胸にたくさんの勲章を付けた護衛の近衛騎士に手を取られ、降りてくる。次に現れたのが陛下だ。フィアによく似た面差しの凛々しくも美しく、威厳のある姿に圧倒されその場にいた者がゴクリと唾を飲み込む。連隊長ともう一人、近衛の護衛で挟まれての御登場は流石の迫力で、続いて降りて来たのがフィアとミゲル、ミーシャ様だ。宰相は留守番で一緒でないと聞いていたがその後に以前会議で見た財務大臣が続いていた。
こうして田舎貴族の屋敷に降臨した王族御一行様はゆっくりと絨毯の上を歩き、私達の前までやってくるとその歩みを止める。
「出迎え御苦労である。面を上げよ」
そう言われて私達は折っていた腰を上げる。
「お待ち申し上げておりました。この度はこのような田舎にようこそお越し下さいました」
「陛下のお気に召して頂けるよう、手を尽くして歓迎申し上げたいと存じます。どうぞ御希望、御要望その他御座居ましたら遠慮なくお申し付け下さいませ」
まずは私が屋敷の当主として、次に父様が領主兼保護者として口上を述べる。
前を向いているが極力目が合わないようにフィア達の方に視線を向けていると視界の端に唇の端を僅かに上げて笑う陛下の顔が映る。気にはなったが目を合わせたら負けだ。
ここは気づかないフリ、気づかないフリ。
父様が一歩前に出て応接間に案内しようとするとサッとそちらへの道が開けられたがそれを陛下が手で制した。
「茶は後で良い。では早速だがパーティ開始まで時間もない。まずは見せてもらいたいものがある。マルビスはおるか?」
名前を呼ばれ、私の斜め後方にいたマルビスが半歩前に出て右手を胸の前に置き、軽く頭を下げる。
「こちらに」
「妃らが其方ら扱う商品を見るのを楽しみにしている。抜け目のない其方のことだ、用意しているのであろう? 案内してやれ」
まあそうなるよね、王妃様達も明らかにソワソワしているし。
するとマルビスの後ろからゲイルが少しだけ、彼女達の視界に入る位置まで歩み出る。
「かしこまりました。こちらはゲイルと申します。この者が御案内させて頂きます」
王妃様達のお相手をゲイルが担当、陛下の案内がマルビス担当というわけか。
ゲイルの案内で王妃様達女性陣がその護衛と一緒に移動し始める。
それを見届けると今度は陛下が斜め後ろに視線を流し、集団の中から五人の男が前に出た。
「料理人を五人ばかり連れてきている。好きに使ってよいからこの度のパーティその他で供される珍しい料理を教え込んでやってくれ。商業登録使用料は最終日に精算させる。後は屋敷内の見学だ。何か此奴が登録している物で我が城でも使えそうな変わったものがあれば全て紹介せよ。気に入れば注文して買い付けてやろう」
そう言って私の方に視線を向けられ、私は反応の困り、とりあえずヘラリと笑う。
すかさずもう一歩前に前に出たマルビスが玄関エントランスを指し示した。
「光栄で御座います。では早速ではありますがまずはこのエントランスの中へ。
これからの売出し商品のひとつ。ステンドグラスと申します。陽の光などを受け、美しい輝きを放つ商品で御座います」
そうしてマルビスによる売り出し商品説明が始まった。
私もそれなりに図太いがマルビスも相当に肝が据わっていると思う。
これが王室御一同様の大量注文の幕開けとなった。
動かすことの出来ない大物の商品説明を終え、持ち運びが出来る物は商業班総出で迎賓館のエントランスに様々な開発商品を運び込む。その他貴族の入場が間に合わなくなると思ったからだ。料理人達も陛下が大量買付を行なっていると聞き、自分達が欲しいと思った調理器具を一覧で書き出し、それが財務大臣に届けられる。
厨房には私が特別に作ってもらったあれやこれやの便利な道具がある。
マルビスやゲイル達に商品説明と販売は任せ、パーティ一刻前より順次来場貴族達の入場を開始した。
どちらにしろ陛下達の入場は最後だ。多少ズレても問題ない。
数百種類もあるわけでもなし、開始までにはなんとか商品説明も終わるだろう。
次々と大勢の貴族達が列を成して降り立ち、二階広間へと吸い込まれていく。
進行役である父様と母様達が挨拶しながら対応してくれている。
私は今回の主役、のこのこ手伝いに出て行くわけにも行かないので側近のみんなと控え室で待っていた。
「なんとか終わりました、間に合って良かったです」
マルビスが控え室にやって来たのはパーティ開始のほんの少し前。
もうすぐ全ての貴族の入場が終わる頃だ。
思い切り顔の肉が緩んだ状態のマルビスを私は見上げる。
「どうなったか聞かないんですか?」
「聞かなくてもマルビスのその顔を見ればわかるよ」
相当数の発注を取り付けたに違いない。
パタンと広間の扉が閉められる音が聞こえてきた。
「もうすぐ出番みたいだし、後で聞かせて?」
登場を前に真っ青な顔でオロオロしているキールを振り返り、私はアドバイスをする。
「大丈夫だよ、キール。心配ならサキアス叔父さんの側にくっついていなよ。叔父さんは団員のみんなも恐れる武勇伝持ちだからね。まず人は寄って来ないと思うから」
変人で変わり者で有名な叔父さんは今でも側近以外はあまりみんな近づこうとしない。
おそらく研究室から時折聞こえてくる爆音や異臭のせいもあるだろうけど。
叔父さん自体もその強烈な臭いを纏わせたまま庭などを闊歩している時もあるし。
私がそういうとキールが呆れたように叔父さんを見上げた。
「いったいアンタ何やったんだ?」
「まあ、色々と、ね。いつものことだよ」
トボけた調子で答える叔父さんに対する態度はいつものキールだ。
「叔父さんも日頃世話をかけてるんだからこういう時くらいはしっかりキールを守ってよ?」
扉を一枚隔てた向こうでは父様の挨拶が始まっている。
もうすぐ私達の出番。
私はゆっくりとみんなを見回した。
「みんな、ここまで来れたのもみんなのお陰。
ここにいる誰一人欠けても出来なかったことだよ。
ありがとう。
そしてこれからも世話をかけると思うけど、この先もずっとよろしくね」
そう感謝の言葉を伝えるとみんな揃ってふわりと微笑んだ。
父様の挨拶が終わり、目の前の扉が開く。
さあ行こう、今日の戦場へ。
生きることは常に戦いの連続だ。
生死を賭けたものばかりじゃない。
苦労、苦難、問題、そして時には闘いと、様々なものが待ち受けている。
だけど私には心強い味方がいる。
だからこそ胸を張って歩こう。
彼らに自慢だと思ってもらえるように精一杯。
みんなが身に付けているエメラルドの証を誇れるように。
それが私の今出来ることだから。




