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第百二十一話 アバタもエクボ、それは欲目というものです。


 一刻も経たずにロイはやって来た。


「ってことなんだけど、どう思う? ロイ」

 おおよその説明をするとロイが少し考え込んだ。

「人数的には問題ないだろ。贅沢を言わなきゃの話になるが。ウチの団員が駐在しているから最低限の近衛を残して他の奴らはそのまま先に王都に帰してもいい。ウチの団員に王都までの護衛をさせれば多少は減らせる。騎士団寮が順次完成しているからそこと、ハルトんとこの使用人棟が今まだ空いてるんだろ?」

 団長が完成真近に迫った騎士団寮も使って良いと進言して、最近まで団員達が使っていたウチの屋敷内にある使用人寮の存在を指摘するとロイは頷いて答えた。

「一応、空いてはいますね。近々屋敷警備と専属護衛の移動予定はありますが」

「そしたら七十人は最低でもいける。護衛連中のメシは騎士団寮の食堂でも担当できる。重鎮用となると部屋数が少なくなるが、二階はどれくらい泊められる?」

 団長がその程度くらいなら協力できると申し出てくれる。

「五部屋が従者用の二部屋付き、合計十五名と三階はベッドだけなら来客用には多少の狭いですが六部屋なら半日もあれば御用意出来ます。王妃様方をお迎えした時のような内装の部屋は無理ですが」

 つまり余程の大所帯にならない限りは護衛達は団長のところで大半を引き受けてくれるわけだから人数的にはベッド数的には足りることになる。

「充分じゃないですか? この小宮に用意された個人部屋はそんなに広くもないですし、豪華なものではありませんから」

 デイビスが問題はないとばかりに同意する。

 寝るだけのための部屋だからそれで別に構わないんだけどね。 

「宴までは準備できないでしょうが、場所だけであれば問題ありません。

 ただメイド教育はまだ行き届いておりませんので御容赦頂けるという条件であれば食事はその程度の人数なら社員寮の食堂に協力してもらえるでしょう。もしくは工房の方々に特別手当を出して手伝って頂くという手段も取れますし、旦那様のところの料理人の何人かに協力願えればこの間の団員の方々に振る舞ったより質は落ちるでしょうが先に馬でマルビスに連絡しておけば然程問題にはならないかと」

 そう言ってロイが父様の方にお伺いを立てると父様が了承する。

「私の方は構わないぞ。家の者には数日くらいなら町からケータリングさせる」

 父様の仕事でもあるしね。

 今回は私達の方からの提案で、決定されれば領内における工事管理体制の責任者は父様になる。巨大運河は我がグラスフィート領を縦断することになるのだから。私達の仕事はあくまでもサポート。港町の一つが私の私有地にできることにはなるだろうけど。

 とにかくこの間の団員達の慰安パーティ程度なら私も協力できる。

 前日からある程度仕込みに掛かっておけば問題もない。

 ウチのパーティで出された食事に興味を持ったのか団長が聞いてきた。

「何を出したんだ?」

「メインの煮込み二品に炒め物料理、バーベキューで焼肉、スープとサラダ、唐揚げとフライだよ。後はエールとお酒を」

「充分過ぎだっ、アイツらにそんなに豪華なメシと酒を出したのかっ」

「御馳走してやってくれって言ったのは団長でしょ」

「アイツらはお前のメシが食いたいだけだからニ、三品で充分だったんだが。悪かったな、言葉が足りなかった」

 実に綺麗に平らげてくれたので翌日の片付けが楽だった。

「つまり食材さえあれば問題ないと?」

「それも問題ないと思うよ? 先に早馬を走らせておけばマルビス達なら揃えられるでしょ」

 宰相が確認してきたので私はそう返事をする。

 家具絨毯その他、余程のものでない限り彼らの手にかかれば最低限のものは揃うだろう。最低限どころか上質な物まで彼等はあらゆる手段を講じて揃えてくれる。

「わかりました。つまり一日程度あれば充分なわけですね。

 では視察は少しだけ待って頂けますか? 西の国境方面に行くのであれば場合によっては貴方がたには受け入れの準備をして頂くためにそこから先に領地に戻って頂いた方が早いかもしれません。私は今から資金面について提案と御相談があるとこちらの国王に可能な限り早めの面会の申し入れをして来ます」

 宰相はそう言って立ち上がると連隊長をお供に出口に向かう。

 扉が閉まったところで全員の視線が私に集中する。


 なんだろう、このなんとも言えない視線の集中。

 ロイが大きな溜め息を吐いた。

 ひょっとして、すごくマズイ状況?

 ただ私は労働力と貴重な職人の確保を・・・

「えっと、その、あの、悪気は、ないよ?」

「わかっています。ですが今まで前例がないことですよ? 商品ではなく国を跨ってのそのような作業取引依頼は。そこまで大規模な個人事業もありません」

 原材料や完成品の輸出入がされているんだから問題ないと思ったのだが。

「別に奴隷にしようとか従属させようとか、そんな意味はないんだけど」

「それも承知しています。貴方がそのような御方ではないことくらい、私が一番存じていますとも」

 他の国では占領した国の植民地化とかで奴隷同然にコキ使っているところもあるらしいけどそんな非人道的な事をするつもりは全くない。

「ただ私は足りない職人を確保したかっただけなんだよ?」

「確かに国家間での問題さえ解決できるならマルビスとゲイル達に任せればたいして問題もないでしょうけど。貴方には前代未聞という言葉がどうにも付いて回るようですね。私は本当に感心致しております」

 つい夢中になって思いつくままにゴリ押ししてしまったけど。

「呆れた? 私を見捨てないよね、ロイ?」

 少し不安になって上目遣いにロイを見上げると優しい微笑みが返って来た。

「私は今、申しませんでしたか? 感心していると。光栄ですよ、いとも簡単に時代を変えようとする方のお側にいられて。もうお忘れですか? ずっとお側にいると私は御約束しました。私達は何があろうと貴方から絶対に離れません」

 ポンッと頭の上に掌を置かれ、クシャリと髪をかき混ぜるように撫でられる。

 私はホッと息を吐く。


「それで私は如何致しましょう? 御用が済んだのでしたら宿に戻った方がよろしいですか?」

 そうだった。

 私がいきなりそんな提案をしたからロイを呼びつける事態になってしまったんだっけ。

 しかしながらそれなりに時間も経っているのでもうかなり遅い。

 今は雪も降っていないとはいえ寒い夜には道も凍っているだろう。

「別にすぐ戻る必要もないだろう。明日視察に行くにしろ、行かないにしろ、その決定はロイも早めに知っておきたいだろう?」

「そうですね、できれば」

 団長の言葉に頷いてロイが思案する。

 だがすぐに宰相と連隊長が戻ってくるとも限らないし、返事がすぐにもらえるとは限らない。夜遅くなるかもしれないことを考えれば迷うのもわからなくはない。

「問題は寝所ですか」

 イシュカがそう口を挟む。

 確かにここには人数分ぴったりの数のベッドしか用意されていない。今からそれを準備してもらうのも気が引ける。ロイがジッとみんなが座っているソファに目を向けたのに気がついた。

 そういえば前にもこんなことあったね。

 確かその時、ロイはその身長が明らかにはみ出しそうなソファの上で寝ると言ったんだっけ。この寒い国でそんなことをすれば凍えそうだ。いくら暖炉があると言ってもずっと火の番をしながらってわけにはいかないしね。


「良いよ、別に私のところで。パジャマがわりのガウンも予備あったでしょ」

 私はロイがソファでと言い出す前に提案する。

 サイズをとりどりで揃えられていたから幾つか余っているものがある。ピッタリのものじゃないと嫌だと贅沢を言わない限りは充分なはずで。

 私から言い出したことにロイは少しだけ驚いて目を見開く。

「良いんですか?」

 何を今更、である。

「今朝も起きたらイシュカが横にいたし、最近は少し慣れてきたよ。

 みんな私が腕とかに掴まって、睡魔に負けてそのまま眠っちゃうと朝まで隣にいてくれること多いから。起こせばいいのに私が働きすぎだから眠らせておきたかったって、働き虫(ワーカーホリック)のみんなにいわれたくないよね。膝枕で朝まで寝てた時は流石に吃驚したけど、それくらいなら一緒のベッドで眠っててくれた方がまだマシ。忙しいのは私だけじゃないんだから風邪引かれても困るし、ベッドも大きいから平気。みんな私に甘すぎだよ」

 ややみんな引き気味になる気持ちもわからないでもない。

 私がいくら子供とはいえ膝に乗せていればそれなりに重さもある。

 実際、前にテスラの膝の上で寝ちゃって、一晩そのままでいられた時には流石に吃驚した。いくらクッションを敷いていたとはいえ床の上だ。その日、午前中ずっと腰が痛そうにしていたから構わず起こしてくれと言ったのだけど、その後もテスラに限らずそんなことがあった。腕を剥がすのが嫌ならいっそ一緒のベッドで眠ってくれた方がマシだと言ってから、稀に起きると他の誰かが一緒に眠っていることがあった。

 最初の頃はウチのイケメンズが起床時眼前にあったことに驚いたものだ。 

「貴方だからですよ」

「知ってる。だからいいよって言ってる。父様、私少し疲れたから先に眠っててもいい? 必要なら起こしてもらってもいいから」

 ロイがそう言った言葉にわかってると頷いた。

 誰にでもそんなことをロイ達がするとは私も流石に思っていない。

 そういえば団長がいた頃はまだ暑かったから床が冷たいのが気持ち良くて板の間の上で寝ていたし、四階部分は基本的に側近以外は殆どいない。短期的ならミゲルやレインもいるけど特に私の部屋には色々と隠しているものも多いので彼らに聞かせたくない話をする時を除いて側近以外は殆ど入らせないから知らなくても無理はない。

 バラしたのはマズかっただろうか。

「あ、ああ、わかった」

 ぎこちなく父様が頷く意味がわからない。

 いや、むしろ婚約者の存在は陛下も積極的に広めようとしていたわけだから噂は広めてもらっても問題ないはずだ。というか、他の面々はともかく私の他領、他国への婿入りを阻止するためにと言い出した父様が何を今更動揺しているのか疑問だ。

「んじゃ、ロイ。半分スペース空けとくから。おやすみなさい」

 その辺はスルーして父様の横を通り過ぎようとすると、

「まあ婚約者だしな、問題ないのか。だがしかし・・・」

「父様、独り言、漏れてるよ」

 ブツブツと呟いてるその声に思わず突っ込んでしまった。

 それが最善と思いつつも現実として受け入れ切れないってところか。

 全く面倒なことだ。

 私は立ち止まって溜め息を吐くと昨夜忠告されたことを伝える。

「昨日ライオネルに言われたんだよ。警備が完全に安心できるところでない限りは誰かと一緒に眠った方が安全だって。狙われても気配に敏感な人ならすぐに気付けるし、男二人寝ているベッドならどこぞの御令嬢も潜り込んでこられないだろうって」

 心当たりもないのにキズモノにされたと詰め寄られるのはゴメンだ。

 いくら子供が作れるような歳ではないとはいえ、妙な噂や評判が立てられても面倒になりそうだ。もっとも婚約者が男だらけなことを考えると心配なのは男を送り込まれそうな事態もあり得そうなことくらい。しかしながら仮に男に潜り込まれたとしても私の年齢からすれば相手側が加害者的立場に取られてしまうだろうから用心すべきはやはり女性。

 好きな相手ならまだしも見も知らぬ女性を嫁にもらうような事態はゴメン被りたい。

 この際、男好きでメンクイの噂を定着させるのもアリか?

 引くて数多のイケメンなら普通は私など相手にする必要もないだろう。

 いや、それはそれでまた面倒そうだ。

 顔だけの勘違い男は相手にもしたくないから御遠慮願いたい。

 やはり男は中身が一番だ。

 側近のイケメン率から考えると説得力もなさそうだけど。

 とにかく、

「爵位持ちとはいえ伯爵位だしね。上位階級の御令嬢は断り難いから」

 拒絶しなかったとはいえこれ以上婚約者が増えるのはちょっと考えものだ。

 私の言葉に団長が成程と頷いた。

「一理あるな。ここは他国だ、その気になれば側室候補も送り込み放題か」

「余計な面倒は増やさないためにもその方が無難でしょう? 今更だよ。年齢考えれば間違いも起こりようがないんだから」

 六歳児の私では一緒にベッドで眠っていたところを目撃されたとしてもしても添い寝程度にしか見られない。子供の作れる年齢でもなければ男同士ならどう足掻いたところで子供は作れない。差別的な意味ではなく、それは純然たる事実。別に男女であっても子供のいない夫婦など世間にはいくらでもいるので気にするほどでもない。子供が欲しければ養子を迎えればいいのだ。

 でもなんとなく、だけど。

 みんなの私に向ける感情は男女間のそれとは少し違っているのような気もするんだよね。結託して婚約者を増やそうとしているあたり、かなりズレているし。私の現在の年齢が子供だからというのも理由の一つなんだろうけど、恋焦がれるような感情を向けられているようには見えない。

 恋愛音痴の私が言えた義理ではないけれど。

 好かれているのは間違いない。それもハンパなく。

 それを疑ってなどいない。

 でもなんか、違うんだよね。

 じゃあなんなのだと言われて答えられるほどに私の恋愛経験は豊富ではない。

 ただライオネルが言っていた言葉が気になる。

 全員面倒そうな男ばかりで大変そうだと。

 だが面倒をかけているのは私もで、そこはお互い様ということで。

「確かにそう言い切ってしまえばそれまでだが、お前、それでいいのか?」

 複雑そうな顔で尋ねてきた父様に私はキッパリと言い切った。

 こういうのは照れた方が負けだ。

「良いも悪いも、単なる雑魚寝でしょう? この国の平民も寒い時は一緒の布団で眠って互いに暖を取るって言ってたし。今朝、イシュカが隣にいてくれたら温かかったから。何か問題でも?」

「数ヶ月前まではロイが近づくだけで真っ赤になってただろう?」

 確かにそれは否定しないよ。

 今も変わらずロイは綺麗で、顔の好みでいうならドストライク。

 無茶苦茶好きなタイプの顔だ。だが、しかし、

「父様、人間には慣れというありがたいものがあるんだよ。そろそろみんなの激しめのスキンシップにも慣れてきたよ。所詮、私は簡単に抱き上げられる子供、気にするだけ無駄。まだ、完全に慣れているわけじゃないから不意をつかれたりすると弱いし、多少は照れるけどね」


 全く子供らしくない子供だけど。

 ドキドキしないわけじゃない。

 でも感じるのはトキメキよりも安心感の方が強い。

「日々可愛げがなくなって来てるぞ、お前」

 団長の呆れたような声に私は言葉を返す。

「私に可愛げなんてもの、もとからあった?」

 太々しくて、図太くて。

 私は簡単に誰かに縋りつけるほど可愛い性格はしていない。

 意地っ張りで、無鉄砲な向こう見ず。筋金入りの負けず嫌い。

 私に可愛いという言葉が似合うとは到底思えない。

 案の定言葉に詰まった団長が左手でぽりぽりとこめかみを掻く。

 別に良いけどね、否定してもらえるとは思ってないから。

 だが反論は思わぬところから、いや、これも案の定というべきなのか、飛んできた。


「何を言ってるんですかっ、貴方は誰よりも可愛いに決まっていますっ」


 言うまでもなく声の主はロイとイシュカだ。

 その気持ちはありがたいとは思うけど。

 私は二人を振り返る。

「ロイ、イシュカ、それ、なんていうか知ってる?」

 自信満々に言ってるけど周囲の反応のなんと冷たいことか。

 私は側に立っていた二人を見上げて指摘する。

「欲目って言うんだよ? 私が可愛いわけないでしょう」

 もしくはアバタもエクボとも言う。

「そんなはずありませんっ」

 声まで揃えて反論するけどどこからその根拠がきているのか謎だ。

 それとも二人にしか見えていない何かが見えているのだろうか。

 しかしそれがその他大勢の認識と違っているのは確かなようだ。

 ここはひとつ、それをよく理解しておいてもらうとしよう。

 でないと恥ずかしいすぎる。

「見てみなよ、周りの反応」

 私は顎でしゃくって父様や団長達の反応を指し示す。

 二人は微妙に醒めた雰囲気を読み取ったらしい。

 それぞれに自分達のもっとも親しい者に詰め寄った。


「ハルト様は可愛いですよね、団長っ」

「コイツはスゴイヤツだとは思うが可愛いって言うのとは違うと思うぞ?」

 イシュカに鬼気迫るように尋ねられてしどろもどろに目を逸らしつつ団長が応える。

「旦那様っ、ハルト様は可愛いらしいですよねっ」

「いや、確かに私の息子にしては出来すぎだとは思うが可愛いっていう言葉は少々似合わないと・・・」

 ロイに睨まれるように聞かれて父様がさりげなく視線を逸らす。

 すると二人の視線は次に私が親しい人物、フィアへと向かう。

 勿論、サキアス叔父さんは例外だ。

 叔父さんはそういうことに関して無関心、聞くだけ無駄だからだ。

「頼もしいとか、カッコいいって言葉は似合うと思うけど可愛いっていうのはちょっと・・・」

 フィアも困ったように乾いた笑いを浮かべながら口籠った。


「ほらっ、みんな困ってるじゃない。脅迫したら駄目だよ、二人とも」

 私は後ろから二人の服を引っ張って押し留めた。

 可愛くない、ではなく、可愛いが似合わないと言いたいのだと思う。

 それならそれで困るものでもない。

 もともと私が目指していたのは『カッコイイ男』だ。

 だがロイとイシュカは納得できないようだ。


「ハルト様はこんなにお可愛らしいのに皆さんは何故理解していないのでしょう?」

「同感です。ハルト様ほど可愛らしい御方は他にいらっしゃらないというのに」


 だからそれが欲目だと言うのだ。

「自分達の特殊な趣味を人に押し付けたらダメッ、ロイやイシュカ達が可愛いと思ってくれてるなら私はそれでいいから」

 私のどの辺が可愛いというのか一度時間がある時にでも聞いてみたい気がしないでもないけれど、聞くのが恐ろしい気がしないでもない。ロイ達の目に私がどのように映っているのだろう。

 私は万人に好かれたいとも思っていない。

 私は私の大事な人達に『可愛い』とか『カッコイイ』と思ってもらえれば充分。

 欲目上等、それだけ好かれていると思えば嬉しい限り。

 それに他の人も可愛いというのは似合わないと言っているだけで、悪口を言われているわけでもない。結局誉めて、認めていてくれているのは間違いないみたいだ。


「そうですね、他の方々がその魅力に気がついていないだけです。私達だけが知っている魅力というのも悪くありません」

「ハルト様の可愛らしさを知っているのは私達だけで充分です」

 そうそう、イシュカもロイもそれで納得してね。

 面倒くさいから。

「でもありがとう。二人が可愛いって思ってくれてるのは嬉しいよ」

 可愛くないであろう私を可愛いと言ってくれる。

 欲目というのは愛されてこそのものだ。

 どんな意味であるにしても大事に思ってくれているのは間違いない。

 御礼を言うと二人は嬉しそうに笑った。

 他の見物人というか、第三者は口から砂でも吐きそうな顔だ。

 スミマセンね、極甘な婚約者達が気苦労、御迷惑をおかけしまして。

 するとフィアが徐ろに口を開いて尋ねてきた。

「ハルトは可愛いって言われるのが嫌じゃないの?」

 まあそうだね。

 一般的に『可愛い』は男の子への褒め言葉ではない。

 でもそれはあくまでも普通なら、である。

 大事な人に言われるその言葉は私にとっては嬉しいものだ。


「どうして? 可愛くないよりは可愛い方がいいに決まってるじゃない。それに可愛いなんて言われるのも今の内だけかもしれないし。私が団長みたいなガチムチのマッチョ系に育ったらそんな言葉も無縁になるでしょ?」

 それは愛されている証拠。

 小さな子供の頃にしかもらえない言葉かもしれないし。

「そうなる予定なの?」

 意外そうに尋ねてきたフィアに私は答える。

「騎士になるつもりもないから今のところその予定はないけど。でも私が団長みたいになっても可愛いって言ってくれるのかなあ」

 何年後か先にニョキニョキと背が伸びて、ガッシリ体型になる可能性はゼロじゃない。父様や母様、その他血縁関係を見てもそういうタイプはいないから確率的にはかなり低いだろうけど。

 私が返した言葉に二人がなんとも複雑そうな顔を団長に向ける。


 ・・・やっぱり嫌なんだ?

 嫌というのとはまた違うのかもしれないけど、想像がつかないのかもしれない。

 その顰めた顔に団長が喚く。

「お前達っ、それは俺に対して失礼だろっ」

 うん、私もそう思うよ。

「じゃあ、お聞きしますが団長は可愛いって言われたいんですか?」

 イシュカにそう切り返されて今度は団長がウッと声を詰まらせた。

 成程、団長は可愛いとは言われたくないんだね。

 ああ面倒くさい、男はこういうところがいつまでも経っても子供なのだ。

 だが男のプライドというものは傷をつけると後が尚更面倒になるもの。

 ここはひとつ団長を持ち上げておくとしよう。

 私は小さく溜め息を吐くと団長に向かって言った。

「いいじゃない。団長は男も憧れるカッコ良さなんだから。可愛くなくても問題ないでしょう?」

 やいのやいのと言い合っているイシュカ達に向かってそう言うと団長は私の言葉に途端に上機嫌になる。

「ハルト、お前いい事言うなあ。わかってるじゃないか」

 すると今度はイシュカ達が少々拗ねた顔をする。

 私が団長を誉めたからなのか?

 意外にイシュカ達も可愛いところがある。

「大丈夫。あくまでも一般論であって私にとって一番カッコいいのはイシュカで、一番素敵なのはロイだから。それとも二人は私の一番より世間一般の格好良さの方がいいの?」

 所謂屁理屈ともいうべき言い訳だが、二人の機嫌は直ったようだ。


「いえ、貴方の一番が頂けるならその他大勢にどう思われようと構いません」

「貴方が素敵だと言ってくださるのなら他はどうでも良いことです」

 そう? 良かった、納得してくれて。

  

「じゃあみんな納得したところで今度こそおやすみなさい。お先に失礼します」

 

 ああ眠い。

 早く大きくなりたい。

 どうして子供の体というものはこんなにも睡眠欲求を抑えきれないものなのか。

 眠っている間にスクスクと伸びてくれるといいなあ、父様みたいに。

 スラリとした高い身長は憧れだ。


 私は寝室へと続く扉を開けると布団の中に潜り込んだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 10年後のハルトの成長ぶりが楽しみです。 その頃にはロイ達のハルトへの気持ちも恋に変わってるんでしょうか? もう少し小さくて可愛いハルトを見ていたい気持ちもありますが、大人になってかっこ…
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