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第百十九話 森のクマさん、御招待? ハチミツの甘い罠。


 私達は村の入口の門を開けてもらうと準備してきたものを手に、村の中に足を踏み入れた。

 討伐メンバーに選出したのはイシュカ、ライオネル、ロイと私、そして団員から土属性持ちだという二人、メイガストとシュバルツを借り、まずは広場中央付近にグリズリーを落とすためのそこそこ大きく深い穴を三つ、土属性持ちのロイと団員二人に作ってもらい、私は罠の準備に取り掛かる。

 まずは積んできた薪で焚き火をして適当な大きさの石を火で充分に炙って熱し、トングでそれを取り出すと持ってきた荷物の中から四つのオタマを取り出してそこに乗せ、大判のハンカチでそれを固定した。それが冷めないように焚き火の近くに置いて置き、作ってもらった穴の三つに火をつけた薪を落としていく。穴の中で火がしっかり燃えていることを確認してから薪と藁を更に追加する。そして袋の中から取り出した大瓶の蓋を開ける。中の液体は外気の冷たさにすっかり固まっている。

「それは町でロイに買わせてきたハチミツ、ですよね」

「そう、大好物だって聞いたから」

 イシュカは私のやることを不思議そうにみている。

 三つの穴の中に放り込んだ薪がしっかり燃えていることを確認すると私はその穴を魔法を使って蓋をした。そこそこの厚さで、私が乗った程度では崩れない程度で。そしてその蓋をした上に多めの藁を置いていく。

「よしっ、準備完了っ」

 これで九割がた準備はできた。

「先程の薪や藁は何か意味があるんですか?」

「一応ね。穴の中の空気を燃やしてるんだよ」

 疑問を感じてイシュカが尋ねてくる。

 あの程度ではグリズリーを燃やすのには足りないとわかっているのだろう。

「説明は上手くいったらするよ。効果があるかどうかわからないから。

 私が今塞いだ穴の位置、覚えた?」

「ええ、上に藁もありますし、大丈夫です」

 私が焚き火の位置まで戻ってくるとみんなが頷いてライオネルが応える。

「それじゃあ、これ持ってグリズリーを穴に落ちるように誘導してくれる?」

 イシュカとライオネル、シュバルツ、メイガストの四人に速力アップの魔法をかけた上で石をくくりつけたオタマを持たせ、そのオタマの頭部分にハチミツを垂らしていく。

 私の行動を不審に思ったのかシュバルツが尋ねてきた。

「何をやってるんですか?」

「熱した石にハチミツをつけているんだよ」

「いや、それは見ればわかりますが」

 そりゃまあそうだよね。聞かれているのはその理由だ。

 オタマのハチミツを垂らした後は藁の上に置いた石にも塗りつけていきながら応える。

「だってこう寒くちゃハチミツも固まって匂いも漂わないでしょ。一応仕掛けは風上に作ったし温めれば香りも立つかなあって思って。何も危険を犯してわざわざこっちから出向く必要はないからね。歓迎の宴の準備。上手く誘われてくれるといいんだけど」

 ロイには火のついた松明を二本持たせる。

「あっ、出てきた。こっちにエサがあるからって突進して来てくれると手っ取り早いんだけど、どうかな?」

 エサ、つまり私達だ。

 漂う甘い匂いに誘われてのんびりとした足取りで村の中央の道に現れ、のっそりとした足取りで近づいてくる。その大きさにビビリはしたものの務めて平静を装う。

「来たね。本当、あんまり頭よくなさそう。警戒はしてほしいけど威圧は控えてね。穴に落ちたらすぐにロイは持っている松明を放り込んで。その後すぐに結界か、厚めに土壁で蓋をして。できるだけ煙を逃さないように地面と隙間なくぴっちりね」

 誘導組四人は右手に剣を構え、左手にオタマを持っているというなんとも締まらない出立ちなのだが仕方がない。

 村の入口付近には私の行動を観察している団長とゴードンの姿が見えた。

 指示を出すとすぐに五人は私の指示通りに行動を開始する。

 念のためロイにも速力強化はかけておく。

 前方に現れた四頭のグリズリーに注意を払いつつ誘導組四人が上手く連携を取りつつ広場の方に招き入れるとまだ子供の私に向かって二頭が、穴の前で立ち止まったイシュカとロイに向かってそれぞれ一頭が突進してきた。私に二頭向かってきたのは私が子供だから肉が柔らかいとでも思ったせいなのかもしれないなあなどと呑気なことを考えつつ穴の前で待ち構え、飛び掛かろうとした瞬間に目の前に大きな土壁を迫り上げ、それに激突して落ちたところにその巨体が蓋をした穴の上に落ち、穴の中へと落下していく。中で燃えていた火が上げた煙が逃げないように松明を素早く放り込むと厚めの土壁で蓋をして、更に結界を上から張った。ロイも私と同じような手を使ったらしく崩れた土壁があったが私が結界も張ったのを見て真似して結界を張った。イシュカは土属性が使えないのでそのまま結界で蓋をしたようだ。

 中では落ちたグリズリーが暴れている音が聞こえてきたが暫くするとそれも小さくなり、聞こえなくなった。どうやら私の読みは当たっていたようだ。

 イシュカは心配そうに結界の下、煙の立ち込める様子が見えているのだろう。ジッと目を凝らすようにそこを凝視している。

「登って来ませんか?」

 心配そうにイシュカが尋ねてきた。

 大人しくなった、イコール穴の側面を鋭い爪でよじ登っていると取れなくもない。

「かもね。でも多分大丈夫だと思う。無理する必要はないから駄目だと思ったら逃げて。そしたらすぐイシュカの作戦に切り替える。シュバルツ達は念のため登って突進してきたらすぐにもう一度穴に落とせるよう準備だけしてて? 思いついた手段が魔獣に有効か確かめたいだけだから」

 そのまま待つこと半刻ほど。

 だが穴の中も蓋をした結界が鋭い爪で破かれることもなく過ぎる。


「登って、来ませんね」

 ポツリとイシュカが呟くように言った。

 これだけ待って全部の穴になんの反応も変化もないということはおそらくグリズリーは息絶えているに違いない。私はロイに結界を解いて団長のところまで下がってもらうとまずは土壁の蓋のないイシュカのところから確認することにした。

「それじゃあ順番に穴を迫り上げていこうか。もし飛び出して来たら直ぐに魔法を発動して丸焼きにするから。警戒だけは充分にしておいてね」

 イシュカが結界を解くと穴から大量の煙が噴き出してきた。私は火属性の中級魔法を唱えつつそれを見守るとメイガストが煙が殆ど上がらなくなったところで風上に周り、地面に両手をつくと穴を迫り上げた。だが地面がもとの高さに戻り、グリズリーがその巨体を現してもそれは襲いかかってくることはなく、息絶えていることを確認する。そしてその個体の手足を鉄のチェーンでしっかり縛り上げると次にロイが蓋をしていた穴をせり上げる。やはり、姿を現したグリズリーは息絶えていて、同じようにそれも縛り上げてから最後、私が蓋をした二頭のグリズリーが落ちた穴をせり上げる。やはりこちらの二頭も同じように死んでいた。


「どういうことだ? ハルト」

 四頭のグリズリーを縛り終えたところで団長達と不思議そうな顔でイシュカ達が近づいてきたので揃ったところで私はそのカラクリについて説明する。

「煙による中毒死だよ。呼吸ができなくなったんだ」

 一酸化炭素中毒。

 魔獣の血も赤く、鉄の臭いがすることを鑑みて、人体と同じように魔獣も血液中のヘモグロビンが酸素と結びついて運搬しているのではないかと考えた。そこで思いついたのがこの手段だ。

 血中ヘモグロビンは酸素よりも一酸化炭素の方がはるかに結びつきやすいから大量に吸い込むと体内酸素が不足する。穴に蓋をすることで酸素の供給を断ち、中の酸素濃度を低下させた。そうすることで酸素不足が発生して一酸化炭素が発生、グリズリーは全身の酸素濃度が低下して呼吸困難を起こし、痙攣発作、失神、意識障害を起こした上で絶命した。

「人間でも密閉された空間では息苦しいし、煙を多く吸い込むと咳き込んだり、気分が悪くなったりするでしょう? 私はそれを利用したんだ。薪の火を付けて燃やしたのは穴の中の空気を燃やすためだよ。

 この方法は全部の魔獣に使えるわけではないけどね。呼吸していないアンデッドとか、そういうものに耐性があったり、体組織が変わっちゃってる魔素の取り憑いた魔物や魔獣には多分効かないと思う」

 なんとなくうっすら理解したのは表情から察するにイシュカとロイ。

 脳筋で頭を使うのがあまり好きではないマッチョの方々には上手く伝わっていないようだ。人間、目に見えるものはわかりやすいけど目に見えないものは理解しづらいものだ。

「空気っていうのは燃えるんだ。だから燃えるものがなくなれば消える。そうしたら吸える空気がなくなって呼吸ができなくなるってわけだよ。閉ざされた空間や水の中では人間も息ができないのと一緒」

 更にわからないと言った表情の団長達。

「わかりにくいかな? んと、そうだな。何かないかな、ああ、あったこれにしよう」

 私は辺りを見回して薄い木の板を見つけてそれを取ってくると小さくなった焚き火の近くに戻って来た。そして胸ポケットからいつも持ち歩いている紙を取り出した。

「例えばこの板。薄いんだけど燃えると思う?」

「そりゃあ燃えるだろ」

 当然とばかりに団長は頷く。

 僅か厚さ一センチにも満たない薄いそれ。普通に火にくべれば燃えるものだ。

 私は持っていた紙を焚き火に翳し、火をつけるとそれを平らな地面の上に置いた。

「じゃあ試しにこの燃えている紙の真上からこれを落とすとどうなると思う?」

「火が付くだろ?」

 私がもう一度尋ねると団長が何を分かり切ったことをとばかりに答えたのでその板を団長に渡してお願いする。

「やってみて? 真上から平らに真っ直ぐだよ」

 団長はわたしに言われたようにそれを燃えている紙の上から落とした。

 だが板には火が燃え移らない。

 当然だ。燃えるための酸素の供給がないのだから。

 いくら待っても燃えない板に首を傾げる団長にもう一度お願いする。

「板を退けてみて?」

 不思議に思って団長がその板を持ち上げるとそこに火種は残っていなかった。

「・・・消えてる」

 それが信じられなかったのは他の人も同じようだ。

「火が燃えるために必要な空気が遮られたからだよ。私が中で火を燃やしたのは空気を減らすため。空気がなくなれば火も消えるけど、同時に空気がなくなるってことは穴の中にいたグリズリーは呼吸ができなくなるって寸法」

 目に見えないものというものはやっぱり説明が難しい。

「みんな普段から無意識にやってるはずだよ。例えば焚き火の後とかに消火しても小さな火種が残ってたりすると足で踏みつけて消したりしていない?」

 そういうとみんな思い当たったのか頷いている。

「・・・確かにしてるな」

「要はそれと同じ原理だよ。だから服とかの前面や背中に燃え移ったりした時とかは水を掛けるより体を地面に伏せて転がったりした方が早いこともあるんだ。覚えておくと便利だよ? 火を消す方法は一つじゃないし、窒息させる方法も一つじゃないんだから。

 いろんなことをよく見て、観察して、工夫すれば使い方次第でそれは無限に広がる。

 私のやっていることは難しいことは一つもないよ?」


 そこにいた人達は納得していたり、驚いていたり、まだよく分かっていなかったりと反応は様々だったがまだ仕事は終わったわけではないと急かすとみんなそれぞれ自分達の仕事に掛かっていった。

 村の中はもう一度、残っている魔獣がいないか探索された後、村人達は村に戻り、柵の補強修理がすぐに取り掛かられた。討伐した四頭は少し離れた河原で早速解体が行われた。ギルドの解体作業者ほどではないが団員や騎士の中には魔獣などの解体ができる者もそれなりにいる。遠征先などで食料にするためであったり、持ち帰ることができない大きさであったりと理由は色々とあるがそのままにしておくと魔素が取り付きかねないので最低でも四肢と首は切り落とし、魔石は取り除く必要がある。グリズリーの巨体はそのままで運ぶのには向かないため解体して運搬することにしたのだ。

 最初にまずはその毛皮を剥ぎ取り、肉や骨をバラし、魔石を取り出していく。

 当初の約束通り二頭分の素材を渡されたが、毛皮と魔石、後は希少価値の高い内臓だけ取ると、残りの内蔵や骨、肉は村に置いていくことにした。途中に村が幾つかあったので配分はゴードンに任せた。塀の修理にもお金がかかるだろうし、肉は干したり燻したりすれば彼らの貴重な冬の食糧ともなるだろう。村の被害も四人の死者を出した以外は大きな被害もなかったので残り二頭は各国一匹ずつ取り分けることにしたらしい。グリズリーの頭骨は臭いで下級の魔獣避けにもなるというので私に振り分けられた分のそれもイシュカ達と相談して置いていくことにした。これでフォレストウルフ程度なら臭いの強く残る一冬程度なら越えられるだろうということだ。

 大量の私達の置き土産に村人達からは非常に感謝された。

 両親の亡くなった子供は同じ村にいる親戚が引き取ってくれるらしい。

 その後、周辺の探索はゴードンが指揮を取り、警備兵達に周囲を探させている間に私達はグリズリーの肉を焚き火で焼き、少し遅めの昼食を取った。その味は聞いていた通りあまり美味しくなかった、というか、実に野生味が強く食べにくいといった方がいいかもしれない。要するに猪の肉のように臭みが強いのだ。味噌とか酒とかに漬け込んだらマシにはなりそうだがそこまで手をかけるほどの味ではない。最近すっかり食生活が贅沢になっているような気がする。

 探索の結果、西の方角に向かうそれらしき足跡が発見されはしたものの断定も出来ず、もう一頭のグリズリーは結局発見されなかった。私の心配し過ぎ、思い過ごしならば良いのだけれど仕方がない。

 奧への探索は一旦打ち切り私達は宿屋に戻ることにした。

 ロイやライオネル、他シュバルツ達六人の団員と馬を置いて行かねば城には戻れない。

 ゴードンは警備兵の一人を先に城まで連絡のために遣いに出して私達が着替え終わるのを待っていてくれた。


 ロイに手伝ってもらって寝室で着替えを終えると応接室部分ではゴードンがそこに立っていた。

 私の顔を見ると深く会釈をしてから近づいてきた。

「御協力、ありがとうございました。しかも大量の肉まで譲って頂き、感謝しております」

 そう言ってゴードンはもう一度深く頭を下げた。

 気難しい人じゃないかと思っていたけれど、案外話せる人なのだろうか。

 私はすぐ左横に立っていたロイを見上げると、ロイは私を安心させるように微笑むと軽く右手を私の右肩に乗せ、真後ろに寄り添うように立った。

 ロイに背中を支えられ、私はゴードンの方に向き直る。 

「どう致しまして。私は団長に付いていっただけですから」

 実際団長が切り出さなかったら付いて行かなかったと思うし、団長がいたからこそ安心して引き受けられた。

「ですが実際の指揮は殆ど貴方が取ってみえましたよね」

 そう返されて、あれが指揮と言えるものかどうかと考えたが、そんな押し問答をしたところで意味はないし、みんなにお願いして実行してもらっていたのは確かに私だ。

「まあそれなりに実戦積み上げましたから。魔獣相手にだけですけど」

 誤解のないように付け加えておかなければいらぬ誤解を招きそうだし。

「驚きました。剣どころか魔法も殆ど使わず討伐されるのには。いつもあのようにされているのですか?」

「似たようなものです。私には(パワー)が圧倒的に足りませんのでいつも知恵を絞っています。もっともあのような手を使えるのは魔獣や獣相手だけ。人には通用するものではありませんし、逃せば同じ手は通じないでしょう」

 感心したように尋ねられて答えるとゴードンは首を傾げる。

「何故ですか? 充分応用が効くと思われますが」

 やっぱりわかっていないよね。

 魔法を殆ど使用せず、倒して見せた事実ばかりに目がいっている。

 だからこそ私の名前が前に出てしまっているのだろうけど。

 私は小さく溜め息を吐いて尋ねる。

「では貴方にお聞きします。あのような、如何にも罠がありますといっているようなところに貴方なら警戒もせずに飛び込んで来ますか?」

 そう私に尋ねられてゴードンは今日の一連の出来事を思い出し、黙った。

 そうだよね。私が使っている手段は今までこの世界では魔法という便利なものに頼るあまり魔獣などの討伐手段として使われてこなかったものなのだ。

 返事が返ってこないのを確認してから私は先を続ける。

「それが答えですよ。知能が高いものには通用しませんし、一度学習されれば同じ手に引っ掛かってくれるほど野生の生き物は甘くありません。今回はたまたま上手くいき、四頭とも仕留めることができましたが一頭でも逃せば、コミュニケーション手段を持つ動物なら二度は使えません。本来なら二重三重に罠を張って待ち構えたいところでしたが生憎地理にも明るくなく時間もありませんでしたし、団長という心強い味方もいましたので」

「他にも手を考えられていたんですか?」

 目を見開いて尋ねてきたゴードンに私は答える。

「後二つほど。現場を見なければそれが使えるかどうかわかりませんでしたし、馬ではイシュカが支えて乗せてくれていましたから考える時間もありました。

 他所の国で私がどのように伝えられているのかは存じませんが、私は滅多に魔獣とはまともに対峙しませんよ? まだ身体も小さいですので体当たりしたところで跳ね返されるだけですから」

 特に今日のようなグリズリー相手では間違いなく吹っ飛んでいたことだろう。

 魔法も当たれば威力があるけど上級ともなれば詠唱するにも時間がかかる。一頭二頭は運良く倒せたとしても、私一人では残りの魔獣に殺されてジ・エンド。唱え終わるのを待っていてくれる親切な敵対者などいないのだ。

「それでも貴方は多くの魔獣や魔物を倒してきた、そうですよね?」

 ゴードンはどうしても私の手柄にしたいようだ。

 私がそうだというわけもない。

 派手なところばかりに目がいくのは仕方ないかもしれないけど、それは裏方を文句も言わずに引き受けてくれる人がいるからこそだ。

「それは仲間が助けてくれたからであって私だけの功績ではありません。

 貴方は私の名を知っていらしたようですが、私がただの子供として前に立ち、お願いしたとして私の仲間と同じように貴方は動いてくれましたか?

 噂を聞いていたとしても私のような子供の言うことを信じてお願いしたものを揃えてくれたでしょうか?」

 藁や薪、蜂蜜にオタマ、大判のハンカチ。

 到底戦闘に必要と思われるものではない品々。

 普通に考えれば何故そんなものをと笑い飛ばされそうなものばかり。

「私がいくら知恵を絞ったところで私を信じてくれる者がいなければ何もできない。それを思えば私の言葉を信じて付いて来てくれる者こそ本来は讃えられるべきであると、私は思っています。

 このような子供に、大事な命を預けてくれているのですから」

 

 最初の頃はロイとマルビス以外には笑われた。

 こんなものを何に使うのだと。

 少しずつ実績を上げ、私がどのような手段を用いて討伐するか知られ始めてからは私の指示にも多くの者が従ってくれるようになった。

 今は受け入れてくれている団員達でさえ、最初は胡乱気な瞳で私を見てた。

 団長とイシュカは私を最初から受け入れてくれていたけどそれは私の討伐方法を知っていたからこそなのだ。

 だからこそ私を最初に信じてくれた二人には特に弱い自覚がある。

 私は肩に置かれたロイの手をぎゅっと握り締め、ゴードンを見つめた。

 

 彼はもう、それ以上何も言わなかった。



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