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第九十八話 王都散策は何のため?


 そんなわけで私には一気に三人の婚約者ができることになった。

 これを喜ぶべきか、嘆くべきか実に微妙なところだ。

 朝の食卓でそれが発表された時の兄様二人の反応も如何にも実に複雑な、可哀想にと同情でもしているふうだ。そりゃまあそうかな、本当に結婚が決まれば自分よりかなり年上の義弟ができるわけだし、私は色っぽいお姉様風の美人が好きだと言ってたしね。綺麗だけどお姉様風ではなく、まごうことなきお兄様達である。しかも歳も父様の方が近いくらいなのだ。

 姉様は興味津々、目をキラキラさせていたけど、もしかして腐女子予備軍か?

 私も人のことを言えた義理ではないけれど。

 そして兄様達は朝食が終わると父様が用意した衣装の最終チェックとお直しのために早々に退室して行った。連れて来たメイドの一人が裁縫を得意とする者だ。成長期の三人に合わせて衣装にお直しを入れるらしい。その後、父様達と王都観光に出掛けるそうだ。


 食後のお茶をゆっくり飲んでいると団長が何か言いたげな様子でこっちを見ている。

 おおかたの想像はつく。王女達との婚約話を蹴って親子ほど歳の違う三人の男の婚約者を持つハメになった私に兄様達と同じく同情しているのだろう。

 でもまあ私にとってこれが最善と言わないまでも現時点での最良であることは間違いない。国に縛られることもなく、国交にも問題とならない。三人の婚約者達は私の大事な人達であることは間違いない。彼らがずっと側にいてくれると誓ってくれたのだ。離婚する夫婦もいるくらいなので誓いなど永遠ではないとわかっているけれど、それでも嬉しかったのは事実だ。

 ただ、最後の方で妙な方向に話がズレ始め、私との婚約は優秀な人材を得るための餌なのだろうかとも思ってしまったけれど。でも、あの時のあの言葉まで嘘だと思うほどスレてはいない。本当に大切に思われているのは伝わってきたのだから。

 団長としては多分、この国の王女の輿入れを私が承諾することが最善だったのだろうがその点についてはお生憎様、何事も全ては上手くいかないものだ。諦めてもらうしかない。

 こうなってくると問題はイシュカの立場についてなのだが、


「・・・団長、イシュカを私に頂戴」

 ジッと見ていた団長に私はこう切り出した。

 遠回しに言っても仕方ない、ここはストレートに行こう。

 私の言葉に驚いたのは団長だけでなく、イシュカもだ。

 だけどこうなってしまったからにはイシュカは二年過ぎた後も私の側にいてもらわねばならない。いや、違うな、私が側にいて欲しいのだ。

「今までの貸しはそれで帳消し。そしてイシュカの代わりは私とイシュカで二年以内、私が学院入学前までに用意する」

 タダほど高いものはないという言葉もある。

 ここはキッチリその代案を出して代償を支払っておくべきだ。

「どういうことだ?」

 私の言葉に団長がぴくりと眉を上げた。

 色々と混乱してしまったけど、あの後、私なりに考えた。

「団長がイシュカを私に付けたのって私の戦術を学ばせ、それを団員の何人かに浸透させるためだったんでしょう? 今取り掛かっている騎士団支部に小さい講義室を作って。大きくても三十人くらいのヤツ。そこでイシュカに手伝ってもらって二人で何日かに一度、講義する。どのくらいのペースにするかは進み具合や理解度によって決める。

 ある程度イシュカも私の考え方に近くなってきてるでしょう? 前は私だけじゃ厳しかったけど手伝って貰えたらなんとかなると思うんだ。イシュカにそうしたように読んでもらいたい本もたくさんあるから出来れば本棚を作り、それらを揃えてその講義室に置いてもらえるとありがたいんだけど」

 何度か講義をしていれば勝手も掴めてくるだろうし、人材が育てば手伝ってくれる人も出てくるだろう。そして、いずれはイシュカが私がいなくても一人でも講義できるようになるはず。

「イシュカについてはすぐに退団手続きしてもらっても、今までのように騎士団所属扱いってことにしておいてもらってもどちらでもいい、その辺は団長に任せる。

 どうかな? 

 これならイシュカが抜けても団長達の目的は達成できるでしょう?」

 戦力としてのイシュカが抜けるのは緑の騎士団的にもかなり痛いところだろう。でも、他の団員達が考え、無茶な特攻を仕掛けるような状況が減れば充分意味があるはずだ。高い殉職率も減らせるはず。

 真っ直ぐ団長を見返して私はそう提案した。

 団長は持っていたカップを置いて答える。

「良いだろう。こちらとしてもそれは願ってもない。陛下にはそう話を通しておく。どちらにせよ騎士団員でいることは強制ではない。イシュカが辞めたいと辞表を出せばそれまでだ。それを知った上で、そう申し出てくれているんだろう?」

 そんなことは知っている。私は大きく頷いた。

 魔獣討伐部隊はその過酷さ故に辞める人が多いのは有名な話だ。

「優秀な人材を譲ってもらおうっていうのだもの、道理は通すべきでしょう?」

 そう私が答えると団長は小さく笑った。

「講義を受けられるのはウチの団員だけか?」

「私のところは殆どが平民。みんなと揉め事を起こすような人じゃなければ構わないよ。私の敷地内で問題行動や問題発言、差別、蔑み、虐げるような行為に及んだ人には慰謝料として高額の罰金徴収した上で速攻で叩き出して出禁にするけど?」

 それを認めてもらえるなら考えてもいい。

 私の講義が魔獣達以外に通じるとは思えないけど、基本を教えれば応用できる人もいる。それをどう利用するのかは個人の力量次第。悪用される可能性を考えないでもないけど、そんなもの考え出したらキリがない。

 戦術なんてものは放っておいてもいずれ発展してくるものだ。

「了解した。その点については考慮する。こちらとしてもサラマンダーの警備上、下手な人員は送れないからな。よく調査してから決める」


 それもあったか。

 ならばそう大きな問題も起きないだろう。

「どうするか決まったら教えて。何か意見があれば考慮するから」

「わかった」

 私は街に出掛けるために席を立った。

 成り行きとは言えこうなってしまったからには腹を括るしかあるまい。

 マルビスの言うように体裁を整えておく必要もあるだろう。

 領地を出る昨日の朝までこんなことになるなんて想像してなかったけど。

 


 団長の屋敷は街から近かったけど歩いて行くのには少しばかり遠い。

 私達は父様が一緒に運んできてくれた私達の馬車に乗って出掛けることにした。

 今日の護衛の中にはランスとシーファが入っている。長い滞在なら私達とも付き合いが長い人が良いと選ばせてもらった。ライオネルとガジェットもいるけれど信用度でいけばこの二人以上の適任はいない。

 護衛付きでまず向かったのは宝石商。

 こればかりは適当にってわけにもいかないし、私の指に合うサイズがそう簡単に見つかるとも思えないんだけど、大丈夫なんだろうか? ロイのアメジスト、マルビスのペリドット、イシュカのサファイアかな。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

 入店早々に店員が近づいてくる。

 普段は平民と然程変わらない格好で歩いていることが多いけれど流石に王都ではそうもいかない。しっかり貴族仕様で胸元に閣下から頂いたエメラルドの大きなブローチ付き、しかも品の良い服を来た従者二人と七人の護衛付きとなれば上客間違いなしの出立だ。この人数でゾロゾロ店内を歩く訳にもいかないのでランスとシーファ以外の四人は入口や窓際で不審人物と馬車の見張りをしている。

 幾つかのガラスケースに入っている物もあれば外に出ている物もある。多分値段の違いなのだろうけどマルビスは真っ直ぐの一番奧のショーケースに向かうと中の商品を一瞥した後、私を掌で指し示す。

「こちらの御方に合う指輪を探しています、見せて頂けますか?」

 中に入っている指輪は大きいサイズのものが比較的多い。私の指では多分ブカブカだ。

「お時間を頂ければお直しも出来ますが」

「いえ、できれば今日にでも持って帰りたいのです。サイズが合うものがあれば全て見せて頂けますか?」

「かしこまりました、すぐに御用意致します。どうぞこちらへ」

 店員はそう言うと奥の小さな部屋に案内してくれた。

 失礼しますと言われ、指のサイズを測られる。

 応接室のソファに座って待っているとお茶に茶菓子まで出て来た。

 明らかにビップ待遇だ。

「ねえ、マルビス。子供用の指輪なんてそんなに数がないんじゃないの?」

 私は隣に座っているマルビスに袖口を引っ張って尋ねた。

「表に出ていないだけで意外にそうでもないんですよ。ただそういった物を買い求めるのは殆どが貴族ですので店頭に並ばないことも多いのです。貴族では貴方くらいの歳に婚約者の決まる者も少なくありません。そうなると指輪を贈る貴族の御子息も多いですからね。首飾りやブローチでは御令嬢もドレスに合わせるのに苦労されるでしょうし、着るもののデザインや色も選べなくなるでしょう? それに年頃の女性でも財力を示すために小指にまで指輪を嵌めていらっしゃる方もおられますからね」

 つまり私のような子供用が欲しいということは間違いなく上客だと告げているに等しいわけか。となれば、お値段もそれ相応にお高いはず。そういえば前世でも一般客と上客では案内される部屋が違うところもあるって言ってたっけ。高額な物は表には出さないということか。いったい幾らになるのだろう。

「デザインはシンプルな方がいいですかね。複数つけるとなるとゴテゴテして品も見栄えも悪くなるでしょうし。好みのものがあれば勿論それでも構いませんよ?」

 しかし基本的に私は高価な物はあまり身に付けることがないので良し悪しはサッパリわからない。好みと言われても宝石など興味がない。持っているのもエメラルドばかり、それも貰い物の二つだけ。ただ不純物が入っていると安くなり、透明度が高かったり、色の濃淡の希少価値などで値段が変わることくらいなら知っているがその程度。

 先程の店員が薄い木箱を幾つか乗せたワゴンを引いて来た。

「お待たせ致しました。どうぞこちらを」

 そう言って机の上には八つの箱が並べられ、開けられた。

 赤と紫系、茶と黄色系、緑と青系、黒とその他、色ごとに二つづつ。

「本当だ、結構数があるね。驚いた」

 自分で買うほどの興味はないが嫌いなわけではない。

 ズラリと並んだ宝石達に思わず見入ってしまった。

「明日は第一王子殿下の誕生日ですからね、その前に自分の婚約者に指輪を贈る御子息や王子のパーティで知り合い、婚約の決まる御方も多いので、特にエメラルドやサファイア、トパーズ、アメジスト、黒水晶などをこの時期は多く取り揃えております」

 挙げられたのは全て一般的な瞳の色のものばかり。

 フィアの誕生日パーティは貴族の見合いの場でもあるわけだ。

 それで父様は兄様二人と姉様を連れて行きたかったのか。農業が産業の田舎の貧乏貴族と言われていたから三人ともまだ婚約者が決まっていない。いい相手がいれば是非探したいということか。

「どの位の御予算でどのような物をお探しで?」

「この御方が気に入って良いものであれば予算は特に。サファイアは絶対、アメジスト、ペリドットも外せません。後はトパーズやエメラルド、アクアマリン、琥珀、ついでに黒曜石もあればそれも頂きたい」

 好みはともかく、必要なのはロイ達の瞳の色と一緒のヤツだよね。

 特にイシュカの瞳の色は絶対だ。

「どうです? 気に入った物はありますか?」

 並べられた八つの箱。多分大きさとか色とか輝き具合やデザインを見ると手前四つの箱の方が明らかに値段が高そう、それも並んでいる上から順に。良いものを見てしまえば奥に置かれたもう一箱の方は明らかに見劣りしている。あまり派手な装飾は好みではないのだけれど、

「色でいえばこれ、かなあ。イシュカの瞳の色にも近いし、後はこれと、これだけど」

「デザインがあまり好みではない、ですか?」

 私は頷いた。三人の瞳の色にも近いけど、どれも上段に近くて装飾が派手で明らかに値は張りそうだ。

「大丈夫ですよ。石が気に入ったのなら明日が済んでしまえばキールにデザインさせて作り直してもいいんですから。それでは店主、後はこちらとこちら、それとこれとこちらもですかね。一応その三つはサイズ確認のために指を通してみて頂けますか?」

 そう言ってマルビスはテキパキと指示を出して他にもテスラやガイ達の瞳の色の物も選んでいく。

 本当に全員分買う気だ。しかも高そうな上段の商品ばかり選んでいるし。

 私が迷っているとロイが私の右手を取るとその三つを指に嵌めていく。

「良さそうですね。それらはそのまま着けていて下さい。ではこれら八つ全てを。普段は指に嵌めていると邪魔でしょうから指輪を通して首に掛けておけるようにチェーンもお願いします」

 値段確認してないけど大丈夫なんだろうか。

 私のお金は全部ロイが持ち歩いてくれているので支払いをお願いしようとしたらマルビスに止められた。

「こういうものは自分で買うものではありませんよ」

 そう言ってイシュカに私をその部屋から連れ出すように言うと店員に伝票を切らせている。

 いったい幾らになったのか気にはなるけど、こういう時に値段を聞くのは野暮というものなのだろう。私のところに毎月届けられる金貨からすればマルビスも相当に稼いでるのだろうし。

 指輪なんて初めてかも。少し手が重いような気がするのは慣れないせいかな。

 支払いを済ませたマルビスが奥の部屋から出てくると大量買いした客を店員達が並んで見送ってくれた。

「では後は王都観光に行きましょうか。それともまた何か珍しい物でも探して、買い占めて回りますか? この時間ならまだ港の朝市もやっていますよ?」

「港は最終日にする。果物や魚なんかのナマモノは今から買うと傷みそうだから」

 帰るのは三日後、少しばかり買うのは早過ぎる。

「では貴方が好きそうな異国の雑貨店でも御案内しましょう。他に行きたいところはありますか?」

「屋敷の調度品が見たいと言ってたけどそれはいいの?」

「今回城にはロイと私はお供させて頂くことはできませんので、明日、ロイと二人で回ります。朝から王子に呼ばれていらっしゃるでしょう?」

 兄様達とはパーティ前に城で合流することになっている。

 明日は朝からフィア達に招待されているのでイシュカと二人で行くことになっている。王女様の婚約を避けてイシュカ達を選んだことで嫌味を言われそうな気がしないでもないけれど、まあいいや。フィア達には久しぶりに会えるし、陛下のお小言も一日だけの我慢。そうしたら翌日は私の大好きな朝市巡りが待っている。

 昨日は予想もしていなかった急展開にドッと疲れてぐっすり眠り込んでしまったけど留守番してくれているテスラやガイ達にもお土産買って行こう。

 婚約の報告したら吃驚されそうだけど。


「失礼します」

 移動のために馬車に乗り込もうとするといきなりイシュカの腕に抱え上げられた。

 えっと、この状況はなんでしょう?

 怪我をしているのではないので言ってもらえれば自分の足で歩けるのだけれど。

 キョトンとしている私にマルビスが言う。

「この時期は他領からの観光客も多いでしょうからね。店も近いですし馬車はそちらに回しますので王都にいる間はそのまま仲の良さを周囲に全力でアピールして下さい」

 要するに婚約者だってことを疑われないようにってことだよね?

 ってことは王都滞在中、ずっとこの調子ってこと?

 昨日の夜から御機嫌な様子ではあったけれど、私が団長と交渉している辺りから更にイシュカのテンション上がっているような気がする。いつもイケメンなのには変わりはないけど、なんと表現すべきか、星が飛んでるというか、バックに花を背負って花弁が舞い散っているような。

 ひょっとして、いや、まさか、もしかして私ってベタ惚れされてる?

 待て待て待てっ、流石にそれは自意識過剰というものだろう。

 昨日だって恋かどうかわからない、今はまだお子様だから対象外みたいなこと言われてたような覚えもある。

 頭が混乱してきた。

 でもこのいかにも幸せそうな満面の笑みは眩しくて直近で見てると目が痛くなりそう、心臓に悪いし恥ずかしすぎる。

 そして仲の良さを全力アピールってどうすりゃいいのっ!

 前世から合算すれば恋人いない歴四十年超えの私にはわからないよっ! 

 漫画やアニメ、ラノベにあったイチャラブ全開モードは現実では恥ずかし過ぎる、あれらの行動は私には無理ゲーだ。

 イシュカの腕に座らされたまま歩いていると通る人人振り返る。

 特に女性の視線が物凄く集まっているんですけどっ!

 私が真っ赤になって俯いているとロイがクスクスと笑っている。

「貴方のそんな可愛らしい顔を他の者に見せて差し上げるのは少々勿体無いような気もしますが貴方を他所に取られるよりマシですからね、仕方ありません」

 そんな口説きモード全開のセリフはホント、ヤメテ下さいっ! 

 ここは公衆面前ですからっ!

 女性の視線が全身に刺さってますからっ、思い切りっ!

 イケメンに囲まれて目一杯甘やかされてるこの状況、恥ずかしすぎる。

 

「もっとも王都で密かに氷結の騎士とも呼ばれているイシュカのそんな顔を見れば疑う者も少ないでしょうけど」

 マルビスもすごく楽しそうだ。

 更に身体を絞り込んだ今では昔の面影も殆どない。オシャレで凛々しい、それでいてどこか甘いアイドル系の顔立ちは間違いなく女性にモテると思う。なのにこんな子供の婚約者になりたいってオカシイでしょ、目が悪いか、趣味が悪いか、それともその両方か。トチ狂っているとしか思えない。

 しかし、氷結の騎士って、イシュカのイメージにあんまり似合ってないようにも思える。イシュカの魔力属性からすればそう言われるのも当然かもしれないけど柔らかい青みがかった銀髪も、澄んだ濃いサファイアの瞳も優しい色で冷たい氷とは正反対。

「イシュカって有名人なの?」

 尋ねた私にマルビスが教えてくれる。

「街のお嬢さん方には特に。強くて美しく、しかも独身。となればモテない方がおかしいでしょう」

 た、確かに。

「私はそんなにモテませんよ」

 その顔でモテないわけがないでしょう?

 さらりと言ったイシュカにマルビスが肩を竦める。

「本人は全く気付いていなかったようですね。気に留めてもいなかったという方が正しいでしょうか。その辺の鈍さは貴方といい勝負ですね。まあ王都での凱旋パレードなどで賞賛と男の憧れを一身に視線を集めていた団長が隣にいましたからね。自分にも向けられているとは考えなかったのでしょう。私も以前見たことがありますけどニコリともせずに真顔のまま馬で行進していましたから。殺気には敏感に反応するのに全く不思議ですよね」

 それは言えてるかも。

 ニコリともせず、真顔か。そうなると氷結の騎士の名も納得かも。

 剣を振るっている時は別だが私には懐こい大型犬のイメージ。だが一度戦闘に入れば沈着冷静、その鋭い視線で戦況を見極め切り掛かる。すごく凛々しくてカッコイイのだ。

 結局、その後も腕に座らされたままか、恋人繋ぎで歩き、飲食店に入れば私は手を使うことなく目の前にスプーンを差し出され、はいどうぞと口を開けて食べさせられた。真っ赤になれば可愛い可愛いと恥ずかしげもなく言われ、拗ねても、怒っても、嬉しそうに可愛い、愛らしいと言われ、褒め称えられる。それ以外の言語を忘れたんじゃないかと言いたくなるほど言われ続け、私は別の意味で体力、精神力ともにダウン寸前まで追い込まれた。


 これが後三日も続くのか。

 私、生きてるかな?

 本気でそう、考えてしまった。



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― 新着の感想 ―
ハルト君の婚約者という名の側近第3席は、イシュカさんがゲット! それにしても、イシュカさんが『氷の騎士様』……ツンとしてたのは初登場の頃だけで、直ぐにデレデレに溶けてたよねぇ?知らなかったわ~  ( …
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