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第九十一話 何事もツッコミどころは残さないことです。


 まずはヤツらが夜の町に繰り出した隙を狙い、まずはガイにヤツらの事務所にある証文を奪ってきてもらった。

 借金を背負わされている人達の証文とこちらで集めた情報と照らし合わせ、まずはリストから抜けている人がいないかどうかを確認してアイツらが戻って来ない内にもとに戻してもらう。警戒されて被害者宅などに早めに回収に行かれても困るからだ。ガイには作戦決行前にもう一度奪ってきてもらうことになる。

 行動を起こすのはヤツらの毎月の回収日二日前の昼。

 王城での舞踏会の翌々日だ。

 父様と団長は舞踏会での魔獣討伐部隊の支部設立の発表のため王都に行く必要があるのでかなりタイトなスケジュールにはなってしまうがその辺りは仕方がないと諦めてくれた。別に団長まで父様に合わせる必要もなかったのだが、結局はサラマンダーの保護と警備体系が整っていない以上、そう長くも離れていられないようだ。私も最初はこの舞踏会に出席予定だったらしいのだが、年齢的な理由もあり参加は見送られることになった。


 なんにせよ、ヤツらが夜遊びから戻ってきて眠りについてからが勝負。

 それまでに下準備を整えておく必要がある。

 被害者達全員の避難経路と避難場所の確保だ。

 逃さなければならないのは全四十七家族、被害者本人とその家族を含めて総勢百五十七人。

 匿う予定期間は最短で二日日、最長で七日。

 ヤツらの月初の各賃貸物件の家賃、飲み屋のツケの支払い期限。

 おそらく三日ほどでカタがつくと踏んでいるが万が一ということもある。

 被害者達には焦って飛び出し、早々に逃げ込まれても困るので当日大事な物と当面生活するのに必要な食料以外の物をまとめておいてもらうように頼み、今の仕事に戻るつもりの者にはその期間の休暇願いを雇い主に届けて当日まで職場の人間には黙っていてもらえるようにお願いする。避難当日にはそれで問題が起きないように父様の抱える兵達を数名づつ、ヤツらの監視を強化して町には手の空いている兵を動員して巡回をしてもらう予定だ。見回り強化の理由は適当に頼んである。

 兵達の監視が厳しい中では揉め事も起こしにくい。

 後ろめたいことがあるなら尚更だ。


 そして作戦決行日の当日ヤツらがベッドで眠りについたのを確認した後、行動を開始。

 ガイは再びヤツらの元から証文を奪い、それを父様に届ける。

 ウチの現在保有している馬車と荷馬車、合わせて二十一台、全て出動だ。

 担当は各馬車二家族から三家族。

 娼館には特に大きな馬車を三台向かわせた。

 全被害者とその家族の避難はニ刻ほどで町外れに完了。

 揃ったところで私の屋敷の中庭まで移動を開始する。

 前日から受け入れ準備は進められていて既に庭には一家族一つのテントが張られている。

 本当は寮も完成しているのでそこでの受け入れも考えたのだがあそこは巡回などの警護はあるが同性であれば、男なら男子寮、女なら女子寮に入り込むことは難しくないのでこちらの方が安全だろうということになった。正面横の使用人棟には団員達も現在滞在しているし、私の屋敷の敷地内に無断で入り込むことは無理がある。仮に入り込めたとしても不法侵入罪で即捕縛である。そもそもこの辺一帯は全て私の私有地、見知らぬ他人は即刻退去させることも可能だ。一階部分のキッチンは使用可能なので食材さえ手配できれば御婦人の方々にお手伝いをお願いして食事の炊き出しも出来る。

 これでヤツらがお金を回収したくても、回収出来る人間全てが一斉に逃げ出してしまえば当然お金を集めることは出来ない。そうなれば家賃もツケも支払いは出来ず、立ち退かなければならないので娼館の継続営業は無理だ。然程金貨を溜め込んでもいないという話なのでどこの支払いを優先するのかはわからないが全ての支払いは無理だろうという話だ。

 こうして全債務者のほぼ全ての避難は午前中には終了した。

 たった一家族。叔父さんの弟のところを除いて。

 

「それじゃあ早速出かけようか。後はよろしくね、ゲイル」

 私はロイ、マルビス、イシュカ、叔父さんとライオネル、ガジェット他数名の強面のメンツを引き連れて出陣の準備である。

「承知致しました。いってらっしゃいませ」

 ゲイル他何人かの商業部門のメンバーには集められた避難者達の中の就職希望者の面接を頼んである。

 無理強いする気はないが、人手は現在も足りていないのでこの機会をついでに利用させて頂くことにした。手に職のある人もいるし、それぞれの事情を聞きつつ今後の相談に乗ろうというわけだ。娼館勤めをしている女の人の中には家族が追い詰められて死んでしまっている人もいれば、足繁く通っていた客の中に借金を返し終えたら一緒になろうという恋人持ちの人もいるようだ。どうするのかは個人の自由、ここで仕事を見つけても、町に戻って働くのも自由だ。

 私達はまだ債務者がただ一人を除いて全員逃げ出していることに気付かずヤツらが呑気に眠っている間に叔父さんの弟の住む屋敷に向かって出発した。

 叔父さんの弟にはまだ私達が行くことを伝えていない。


「大丈夫なのかい、ハルト」

 馬車の中で心配そうに叔父さんは私の顔を見降ろしている。

「一応金貨も用意して来たんでしょう? 最悪でもそれを払えばカタはつくよ。まあ、多分払う必要は無くなるとは思うけど。叔父さんの弟もそういえば私の叔父さんになるわけだし。えっと、メイベック叔父さんだったよね? マルビスも付いているし、心配ないよ」

 金勘定についてはマルビスに任せておけば間違いない。

「ええ、問題ありません。あちらに到着したら詳しいお話を伺いましょう」

「メイベック叔父さんの父様に内緒にしておきたいってのは残念ながら無理だったけど、どのみちアイツらがお縄になれば父様にもバレちゃうし。そこは諦めてもらうしかないね」

 高利貸しの借金で路頭に迷うよりはマシと割り切ってもらうしかない。

 サキアス叔父さんもそれは致し方ないと諦めたようだ。

「義兄さんに迷惑をかけるよりマシであろう。メイベックが支払えないとなれば義兄さんの元に取り立てに行かないとも限らないからな。どちらにしても義兄さんの耳には入る。仕方がない」

 それはそうだ。

 後、メイベック叔父さんについてはもう一つ、父様とサキアス叔父さんの耳に入れていないことももう一つあるのだが、これについてはサキアス叔父さんの耳に入れるつもりはない。だが、 

「それよりも今朝届いたばかりの調査報告書の件、本当なの?」

「未確認ですがほぼ間違いないかと」

 問題なのはマルビス達商業部門の聞き込みにより判明した一件についてだ。

 町のゴロツキが悪知恵を働かせ、弱者から金品を巻き上げること自体、さして珍しいことでもない。だが、それだけにしては規模も大きく不審な点が幾つかあったので引き続き私達が留守の間からずっと調査していたのだ。数人の貴族らしき連中が出入りしているらしいのは辺境伯邸出発前のガイの調査でも発覚していた。

 月に数回、そこそこ身なりのいい客がやって来て朝まで遊んで帰って行くという。

 ゴロツキがその時ばかりはヘコヘコと頭を下げて接待をしているのでおそらく上客なのだろうと女の子達は思っていたそうだ。そして今日連れ出した女の子達に確認したところ、どうやら見ていた身なり、口調、振る舞いなどからそれが間違いないとわかり、その容姿、風貌から察するにその内の一人がウチの領地内の農地管理を任されているキャスダック子爵ではないかという。各領地にいるのは一貴族ではない。例えて言うならグラスフィート領がシルベスタ王国にある一つの県だとするなら父様は県知事、その下に数人の市長にあたる子爵や男爵といった貴族がいる。サキアス叔父さんの弟は謂わばこの市長にあたる一人なわけだ。ウチは父様の下に全部で五人の貴族がいる。その内の一人がそのキャスダック子爵だ。ガイの調査でもその可能性が示唆されていた。

 別に貴族の男が身分を隠して娼館に出入りすることなどさして珍しいことでもない。特に若ければ結婚前、夜の夫婦生活のために娼館勤めのお姉様方に手ほどきを御教授願いに来る者もいるし、夫婦仲が冷めた夫が来る場合もある。事情はそれぞれ様々だが余所様の家庭事情にまで首を突っ込むつもりもない。

 ただ出入りしているだけならさして咎めるほどでもない。

 だがマルビス達の調査によればキャスダック子爵の羽振りが良すぎるのが気になるようだ。

 ウチの領地は決して豊かな方ではない。

 まともな税金を徴収して真っ当な領地経営をしていれば到底支払いできないような支出額が算定される。ウチの母様達でさえここ数年、年一着のドレスを新調するのがやっとだったのだ。それなのにキャスダック子爵夫人とそのご令嬢はパーティの度に新しいドレスを新調している。身分自体高いほうではないので呼ばれることも数少ないのだが、それでも貴族の夫人の着るドレスはそれなりに高価だ。見栄を張るために家財道具を売ってまでパーティや舞踏会に出てくる御婦人も確かにいるが、そういう噂もない。それに娼館通いも無料(タダ)ではない。ではその金はどこから出てくるのか?

 金銭のやり取りも目撃されているわけではない。

 だが領地経営以外の仕事をしている様子もみえない。

 なのにどうしてそのように羽振りが良いのか、甚だ疑問なのだ。

「父様に報告は?」

「ガイが証文を届ける時に一緒に」

 私の質問にマルビスが答える。

「計画の変更はしないということでしたがよろしかったのですか?」

 ロイが私に聞いて来た。

 確かに限りなく黒に近いグレー、疑わしいことこの上ない。

 仮に関係や繋がりがあったとしてもヤツらを潰せば収入源は途絶える。

 トカゲの尻尾切りをしたところで放っておいてもいずれボロが出る。

 ガイが調べても関係が見えてこないということは余程上手くやっているのか、それとも本当にアイツらとは関係のないところで何かに手を出しているのか。関わる人間が少なければ当然漏れてくる情報も少なくなるわけで、全ては推察、多分、だろうの世界だ。

 怪しきは罰せず。証拠や目撃情報がない限りどうしようもない。

「もう準備万端整えちゃってるし、いつまでもアイツらを好きにさせておくわけにもいかないからね。どこかの貴族が関わっているにしろ、いないにしろここを潰せばある程度の資金源は潰せるでしょ。人目につく昼間には行動起こし難いだろうし、帰りに父様のところに寄って行くよ」

 それでも充分間に合うだろう。

 男達にはそれぞれ見張りも付いている。

「この間証文チェックしたところ一番金額の大きかったのってメイベック叔父さんのところだったからね。各所の支払い滞っちゃうし、ヤツらの入り浸る店には経営が危ないらしいって噂流しておくようにガイと商業部門のみんなに頼んでおいたからもうツケも効かない。支払いも迫られるだろうから慌ててメイベック叔父さんのところに取り立てに来るんじゃないかなあ。とはいえ、叔父さんのとこ以外はもぬけの空だけど」

 まさか私の屋敷の中庭に匿われているとは思うまい。

 仮にそれを疑ったところで中庭は屋敷の向こう側。正門越しでは確認できるはずもなく、警備員が巡回し、団員が駐在している敷地内には入り込めるはずもない。

 因果応報、ザマアミロだ。

 仮に各所支払いができたとしても娼館の営業は出来ない。女の子を手っ取り早く調達しようにも父様の兵の見張り付き、騒ぎを起こせばすぐに駆けつけるっていう寸法だ。そうなれば当たり屋家業も無理になる。彼らが罪を犯せばその場で現行犯で即捕縛。ツケも効かないので所持金が切れればお終い、飢えるしかない。

 悪党に差し伸べられる手は無いに等しいだろう。

 彼らに残された手段は現在所在が明らかなメイベック叔父さんの借金全額回収くらいだ。

「他に手はありませんから当然そうなるでしょうね。女の子もいなければ娼館の営業も出来ませんので賃貸料が支払えない以上店も畳むしかありません。後は懇意というか、その背後に隠れている親玉がいればそこに助けを求めて駆け込むくらいしかないのですが」

 マルビスが私の推測を肯定するように言った。

「素直に駆け込んでくれればコッチとしては助かるんだけど」

「普通に考えればおそらく駆け込むでしょう。正体と所在がわかっていれば、ですが。私達の情報網にもガイの情報網にも引っ掛かってこないあたり相当用心深いでしょうから厳しいかもしれませんね」

 もしくは本当に娼館を利用しているだけ?

 単なる上客?

 標的を狙って女の子を調達しているだけあって多少の胡散臭さはあっても彼女達の外見的レベルは他の町の娼館と比べても高いので多少の割高ではあるがそれなりの人気店だ。なのに負った借金がなかなか返し切れない状態であることがおかしいといえばおかしいがこれは店の経営状態の問題で子爵と関係ないと言えなくもない。

 だとしても、子爵のその豊かな資金源は謎のままなのだ。

 複数の貴族というあたりも引っかかる。

 もしかして、氷山の一角とか言わないよね?

 どうにも嫌な予感がしてならないのは私の考えすぎだろうか?

 だとしても、これはもう私の問題ではなく、父様達の管轄だ。

 やたらと首を突っ込むべきではないだろ。



 メイベック叔父さん宅、というか、フェイドル邸に到着した。

 とはいえ男爵家、父様の屋敷の半分程度の規模にはなるのだが一般家庭、平民宅からすれば充分広い。だがそれが良いことなのかといえば微妙なところだ。実際下級貴族になると大きい屋敷の管理修繕費を捻出するのも難しい場合もあるからだ。フェイドル邸はまだ綺麗に保たれている方だが中には蜘蛛の巣が張り、雨漏りがしているような屋敷も少なくないらしい。何か副業でもあれば別だが貴族というのは領地経営以外、城勤めの文官、武官、騎士団勤めといった国の中枢などに関わるものでない限り関わらないことが多い。齷齪と汗水流して稼ぐのは平民の仕事と思っているような者も多いからなのだろうが、霞を食って生きていけるわけではないのだから自分で稼げば良いのにと思う。大概は長兄が後を継ぎ、次男以下が補佐、もしくは出稼ぎ状態なところも多い。実家に対面を保つためにと金を無心される騎士なども少なくないと聞く。それが嫌で実家と縁を切る者も多いのだと。

 父様も経営が苦しい時は冒険者ギルド登録して三番目の母様と荒稼ぎしていたみたいだし、稼ごうとすれば手がないわけではないのだ。

 貴族のプライドさえ捨てられてるのなら。

 メイベック叔父さんは売り払う家財もないので借金という手段を取り、サキアス叔父さんが外に働きに出たわけだが父様がサキアス叔父さんを扱い切れずに結局私のところに回されてくるという事態になっている。

 因みにメイベック叔父さんは独身である。

 貧乏男爵家に嫁いでくる物好きはなかなか見つからないということで現在確か二十歳くらいだったはず。屋敷は高齢の執事と中年のメイドが各一人づつ、多少傷んでいるところもあるけれどそれでもまだ綺麗に保たれている方だろう。リフォームするにも金がかかる、そんなに簡単にいくものでもない。ウチの領地も多少潤ってきてはいるけれど、それが隅々まで行き渡るにはまだまだ時間が掛かる。碌でもない借金を背負っていればそこまで手も回るわけもない、か。

 

「すまない、兄さん。結局迷惑をかけることになってしまって」

 盗られるものもないからと警護の一人もいないこの屋敷をサキアス叔父さんは勝手知ったるで鍵を開け、私達を伴い、ここの執務室までやってきたわけなのだが、兄の顔を見るなり謝罪してきた弟の肩を叩き、

「いや、本来は私が負わねばならない責務をお前に押し付けているのは私だ。気に病むことはない。安心してくれ、借金返済の目処も立っている。ハルトのお陰でな」

 と、サキアス叔父さんが斜め下方、私へと視線を流す。

 言われて初めて私の存在に気づいたらしい。少し驚いた表情で私を見た。

「こんにちは、メイベック叔父さん。会うのは初めてだよね?」

「ああ、はじめまして。ハルトって、最近何かと話題のあの甥っ子か」

 そう言って驚いたように言葉を発した。

 頭を撫でてくれるメイベック叔父さんは別に悪い人ではない。

 サキアス叔父さんは自分より優秀と言っていたがどうだろう? 

 問題行動が多く、専門馬鹿の叔父さんと比べるから間違いなのであってごく普通の人だ。

 別に普通が悪いわけではないのだが少々不器用で馬鹿正直というところか。

 そこを小悪党に付け込まれ貧乏くじを引くことになったわけだが。

 サキアス叔父さんは久しぶりの弟との再会を喜び、報告する。

「そうだ。最近私はハルトの側近入りを果たしたのだよ。これからはお前にばかり苦労をかけずに済むと思う、安心してくれ」

 自慢げにサキアス叔父さんは胸を張っているが弟としてはかなり心中複雑に違いない。自分よりも十四も年下の兄の上司である。微妙な顔も頷ける。

「それはまた、なんと言って良いか」

「私は楽しくやっているのだから問題あるまい。後ろにいるのはハルトの他の側近と護衛達だ」

 私以外は実に大雑把な説明だがのんびり自己紹介している場合ではないので、とっとと話を進めるとしよう。

「それでメイベック叔父さん、早速だけど叔父さんの借金返済の状況について少しばかり話が聞きたいんだけど、良いかな?」

 まずは経緯と状況、現在の返済状況と残金の確認だ。

 一応他の被害者達と違って無理矢理背負わされた借金というわけでもないようだし、余計な痛くもないところを突かれないためにも借りたものはしっかり返済しておくべきだ。借金を踏み倒すために事を起こしたとでも思われたら面倒だし、厄介だ。スッキリ、サッパリ片付けて、ツッコミどころは無くしておくに限る。

 金勘定については私よりも数段詳しいマルビスに任せ、メイベック叔父さんの話を聞きながらその詳細を一つ一つ確認していく。


「どう、マルビス? 正当な残りの返済金額は幾らになる?」

 マルビスはメイベック叔父さんが保管していた各種書類に目を通しながら応える。

「そうですね、国の定めた最高法定金利は一年で元金の二割。借り入れてから一年弱、月々金貨三枚、サキアスが働き初めてから五枚の返済がされているわけですから先月で総額金貨三十八枚支払われているのでトータルで一年も借りていないわけですから本来なら返済は先月で終わっていることになるのですが」

 そりゃそうだよね、貸し付けておいてヤツらがほったらかしということはあるまい。

「だが、先月の返済時にはまだ金貨二十以上返済が残っていると」

「しっかり支払い証も取っておいてくれてありますから問題ないですよ。おまかせ下さい」

 心配げなメイベック叔父さんの言葉にマルビスはにっこりと笑った。

「コチラは心配ないので、よろしければ管理している領地の運営状態を見せて下さい。借金取りが来るまでに時間もありますし、ここの財政逼迫状況によってはサキアスの今後の進退にも関わってくるでしょうからね。改善すべき点があれば助言、協力致しますよ。私共は手広く商売しておりますからね、お手伝いできることも多いと思いますよ」

「流石にそこまで面倒をかけるわけには・・・」

「それは良い、マルビスは経営のことに関してなら超のつく一流だ。是非相談に乗ってもらうと良い」

 遠慮しようとしたメイベック叔父さんをよそにサキアス叔父さんは彼の後ろの棚にあったそれらの書類を引き抜き、マルビスの前に積み上げた。

「御安心下さい。相談料などという無粋なものは取りませんよ。私の大事な主の親戚筋にあたる特別な方ですからね。それに言ったでしょう? 待ち人が来るまでの間だけですよ。空いた時間は有効活用すべきです、暇ですから」

 そう言うとそれを片っ端から目を通し始め、気付いた改善すべき点を片っ端からマルビスは指摘し始める。メイベック叔父さんは最初こそ遠慮していたものの、その的確で斬新で効率的な意見を聞き、必死にメモを取り始めた。そしてこちらの事業とも連携、協力出来る点については私の確認と指示を取りながら、サクサクと話を取りまとめていく。

 メイベック叔父さんの管理している土地は主に農地や荒地。ウチで特に入り用な作物の作農とその卸し、そして作物の育たない荒地の利用方法について提案、更にはその事業に関する手配や納品に至るまで、ガッツリと協力体制を敷いていく。搾取ではなく、協力、そして直接取引による経費節減。しっかりウチの利益も確保しているあたりが流石としか言いようがない。

 そうして二刻ほど経った頃、外の門で見張りをしていた二人が飛び込んで来た。


「ハルト様、来ましたっ」


 ようやく本件の悪役のご登場である。

 マルビスは目を通していた書類から顔を上げると大きく息を吐く。

「意外に早かったですね」

「いいよ、お通しして」

 私達は座っていた応接セットのソファから立ち上がると机の上に出ていた書類を片付け始めた。



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すいません。エピソードを間違えて感想を書きました。泣きたい!
ハルトの不意に見せる人間らしい弱さが、たまらなく大好き!
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