小太りの中年男、妻の一言をきっかけに一念発起して「世界征服」を目指す
きっかけは妻の一言だった。
「よぉし、分かった! 俺はやるよ!」
46歳、やや腹の出ている中年真っ盛りの建三は一念発起した。
「となると……まずは国のトップにならねばいかんな!」
まず、建三は国政に打って出ることにした。
そのためには選挙に勝って国会議員にならねばならない。
建三は立候補し、選挙カーで町中を回った。
彼の唱える政策はとても魅力的で、またトーク力も抜群。さらには満ち溢れるカリスマ性も手伝って、あっさり当選した。
晴れて議員となった建三はやはりその人間力で瞬く間に与党を掌握、大多数の支持を受けて内閣総理大臣になることができた。
だが、建三の目的からすれば総理の椅子など通過点に過ぎない。
建三はこんな宣言をする。
「日本を軍事大国にすると宣言する!」
あまりにも無茶な宣言である。国中から総スカンを食らってもおかしくはない。
しかし、すでに高い人気とカリスマ性を誇っていた建三に逆らう者は誰もいなかった。
皆が建三に熱狂して従い、日本は着々と軍備を整えていった。
さらに建三はこれらと同時進行で、新兵器を開発していた。
建三自ら研究者の元に出向く。
「どうだ、調子は?」
「順調です。あなたが提唱した兵器ならば、核ミサイルですら遠い過去のものにできますよ」
「そうか、頑張ってくれ。この兵器さえ完成すれば、俺の目的はもはや達成目前だ」
建三は微笑んだ。
まもなく新兵器が完成し、建三は行動に出る。
「俺はこれより世界征服を開始する!」
新兵器を後ろ盾に、建三はあらゆる国に戦争を吹っ掛けた。
当然、他国は反撃をするが、建三の発案した兵器は防御も完璧であり、たとえ核ミサイルでも歯が立たなかった。
逆に建三の兵器は地球全土が射程範囲な上、命中精度抜群、広範囲攻撃可、威力も自由自在というとてつもない代物で、各国を一人の死者も出さずに占領していった。
建三は占領した国でもそのカリスマ性をいかんなく発揮し、戦争はしつつも「あなたになら国を渡してもいい」と言われ、平和的に領土を拡大していった。
一念発起してからたった数年で、建三は世界征服を成し遂げた。
世界中全ての国や地域が建三にひれ伏し、建三のものとなったのである。
しかし、建三は占領した土地には教育・医療・福祉などを存分に提供したので、不満が出ることはなかった。
建三は戦争という手段で、真の世界平和を成し遂げたのである。
建三は高笑いした。
「ハハハッ、やったぞ! 俺は世界の王になったんだ!」
……
建三が世界に君臨してから数年、彼の妻が記者会見に臨んだ。
今や王妃といえる立場の彼女だが、贅沢は望んでいないらしく、ごく普通の主婦といった服装をしていた。
記者が質問を投げかける。
「まずは旦那様、建三様の偉業についてどう思ってらっしゃいますか?」
「夫にこんなことができるとは思いませんでした。今や世界中の人々が幸せになったと聞いてますし、そのことは素直に褒めたいと思います」
こんな具合に妻は淡々と質問に答えていく。回答の数々は無難であるが誠実なものであり、彼女の清廉な人柄を感じさせた。
ある記者がこんな質問を投げかける。
「ところで建三様は事あるごとに『妻の一言がきっかけで世界征服を始めた』とおっしゃっていますが、具体的にどんなことをおっしゃったのですか?」
「はい……お答えします」
妻はうなずいた。
長年謎に包まれていた、建三が世界征服を始めた理由がついに明らかになる。
「夫が家でゴロゴロしていて、最近太ってきたように感じたので、『ウォーキングでもしたら?』と言ったら、『俺は戦争王(ウォー・キング)になる!』と言い出しまして……」
完
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