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勇者シリーズ

勇者の謁見

作者: 柳田健二

ある石造りの門の前に佇む勇者


「ようやくたどり着いたぞ…ここがプリメーラの……」


勇者はゴクッと唾を飲み込んだあと

ゆっくりと門を潜るーーー


ーーー


-プリメーラ城下町-

防壁で守られた町

レンガで建てられた建築物や、噴水などの建造物が立ち並び

町の奥には立派な城が聳え立つ。


案内人

「プリメーラの町へようこそ!

あそこに見えるのがプリメーラの城です!」


町の案内人が笑顔でそう説明する


勇者

「(村長が言っていたな、王国プリメーラ

かつての先人がこの大陸を見つけ、今日(こんにち)まで栄えた国だと)」


「(僕はここの女王から命令を受け、魔王復活阻止の旅に出たらしい……)」


汗を流しながら奥の城を見つめる勇者


案内人

「あれ?あなたは……」


勇者

「すまない、先を急いでるんだ」


勇者は案内人を遮り、城へ向かおうと歩き出した


ーーー


しばらく歩いていると


町人

「勇者様!?」


一人の町人が勇者の存在に気づき声を上げた


「え、勇者様!?」

「ホントだ!!」

「勇者様が戻ってきたぞ!」


その声に他の町人も反応し、バタバタと勇者に駆け寄る


勇者

「!!」


勇者は一瞬で町人達に囲まれた


「戻ってきたのですね!」


勇者は慌てつつもすぐさま対応


勇者

「うむ、戻ってきたぞ(戻ってきてしまった…)」


嬉しそうに勇者を見つめる町人たちと

動揺しながらも波長に合わせる勇者


勇者

「(すごい反応だな…これが勇者の待遇か…)」


自身の影響力を改めて自覚する勇者


勇者

「(さて、なんと言い訳しよう、記憶を失ったから戻ってきたなんて言ったらきっと信用を無くすだろう)」


町人

「魔王討伐の目処が立ったのですか?」


勇者

「う、うむ。(……ここは一応合わせておくか)」


勇者の返答に町人達は喜び、笑顔や安堵の表情を見せ、その光景に勇者は冷や汗を流す。


「(だいたい、記憶を失う前の僕はどんな性格だったのだろうか、それすらもわからない

だが一応勇者だ、偉そうにしておけば問題はないだろう…)」


「良かったなぁ、これでこの世界は救われるぞ…!」

「うん、パパ!パパも勇者様も大好き!」


キラキラと目を輝かせて

期待の眼差しで勇者を見つめる町人達


勇者

「んぐっ…!(視線が痛い……!そんなキラキラした目で僕をみないでくれ……!)」


町人の反応に心をズキズキさせる勇者


「勇者様!何か私たちに出来ることはありませんか!!」


一人の町娘が勇者に声をかける


勇者

「ん、そうだな……とりあえず紙とペンをくれ」


町娘

「紙とペン……ですね!わかりました!すぐ取ってきます!」


町娘がパタパタと紙とペンを取りに行く


「勇者様!勇者様!

魔王を必ず倒してくださいね!

期待してますから!!」


勇者

「う、うむ……」


町人に「勇者様勇者様!!」とコールを送られ

戸惑う勇者


勇者

「マズイな、早く城へ向かわなければ

いつまでもここに留まってたら、ボロが出てしまう……」


勇者は町人達に適当な言い訳をして

城の案内をさせる事にしたーーー。


ーーー


町人や兵士に案内され

女王の待つ部屋の前に来た勇者


勇者

「女王と謁見か…緊張するな」


「言い訳はメモに書いておいた…

多分大丈夫なはず」


(紙とペンをくれ)

勇者は町娘から紙とペンをもらったあと

茂みで言い訳の文を殴り書きしていた。


勇者

「城を出てすぐ記憶なくして凡夫になったなんて知れたら、きっとタダじゃ済まないだろう…

言い訳が通らなかったら…

打首は覚悟しなければな…」


ゴクッと唾を飲み込んで、女王の間へ


-女王の間-


勇者

「ゆ、勇者が戻りました…!えっと

し、失礼します」


広々とした女王の広間

玉座には貫禄のある女性が座っている


「これが女王の…」


勇者は「すごい…」という顔で辺りを見渡しながら、女王の元まで歩いていく。


女王

「……」


女王は冷たい眼差しで勇者を見つめている。


勇者

「あ…えっと…その…(メモメモメモ!)」


メモをガサゴソと慌てて取り出す勇者

それを静かに見つめる女王


勇者

「(くそー、せ、せめて、スムーズに伝えられたら……!)」


半ベソをかく勇者


女王はゆっくりと口を開く


「よくぞ戻った、勇者よ」


勇者

「!」


女王

言伝(ことづて)は受けとった

大変だったな、さぞ不安だっただろう

そなた程の者が記憶を失うとは

これもやはり魔王の影響か…」


女王の意外な反応に戸惑いを隠せない勇者


女王

「このところ各地でそなたのような

事例に見舞われた報告が相次いでいる


記憶を失った物、生殖能力を絶たれた物

凶悪な魔物の出現や謎の奇病、伝染病など各地で異変が起き始めている…

全ては魔王の力……」


「魔王は人類を……世界を滅ぼす力を持っている

例え神から授かった力を持つ子と言えど

それは例外なく、牙を剥くであろう」


「もはや一刻の猶予も残されてはいない」


勇者が戸惑う中、女王は続ける


ーーー


「遠い昔、この国ができてからしばらく

この地に魔王と呼ばれるマモノが出現するようになり、大地を揺るがした。

人間では対抗できず、三大の神が力を合わせ

魔王を封じ込めたという」


「ヒセキ…その石は神々が魔王を封じ込めるために使った遺物の結晶。

人々の暮らし、幸福、平和に対する思いがその石には込められている。

戦いが終わった後、遺物は砕け

それらは各大地に収められた。

封印よりも人々の暮らしを優先した神々の計らいだ。

本来は10年に一度封印を抑えるための儀式に

必要なものだったのだが

平和はあまりにも長く続き過ぎた。


何年と何万年と経っても魔王復活の兆候は見られず

いつの間にか儀式への関心も薄れてしまったのだ」


勇者

「うぅむ……(どうしよう、何言ってるか全くわからん…)」


女王

「長く続く平和から魔王への脅威も過小評価され

人々には"神の力を持つ石と勇者がいれば大丈夫"という通説まで広まった


わかっておる、そなたは確かに神に選ばれし物だ

魔王に対抗できる力を秘めている。

だがそれ以外は普通の人間と何も変わらん


恐怖も感情も苦しみも痛みも、

そして死も平等にあるのだ」


女王の話を聞いて困惑する勇者


女王

「愛しの我が娘も不治の病に侵され…」


口元を抑え、悲しみの表情を浮かべる女王


勇者

「女王の愛娘とは…姫のことか?」


女王

「娘に会ってやってはくれぬか

あの子はそなたに懐いておる

顔だけでも見ればきっと、あの子も元気になるであろう…」


女王に頼まれ

とりあえず勇者は姫の元へ向かう事にーーー。


ーーー


-姫の部屋-


「よく戻ってきました勇者様

また会えて嬉しいです」


「できれば、こんな体ではなく

ちゃんとした形でお会いしたかったのですが」


大きなベッドにポツンっと座っている姫

勇者がふと姫の足に目線をやると

そこには枝のように変形した姫のそれがあった。


「つい先日のことです、突然足が重くなり……」


姫は病にかかった経緯を勇者に話す。


「裂けるような痛み、眠ることも動くことも……」

「もはや立つこともままなりません」


勇者

「たった先日でこの進行具合……これが魔王の力か……」

勇者は姫の足を見て少し恐怖を感じている。


「やはり魔王復活が関係しているのでしょうか

お医者様には今の医療では治療は不可だと言われました…」


姫は暗い表情をしている


「勇者様、私怖いです……一国の姫として情けない話ですが、病に蝕まれていく体に

私は恐怖を感じています……このまま、私は、どうなってしまうのだろうと……」


涙を浮かべ、恐怖で震える姫の姿を見て

勇者は咄嗟に励ます


「そ、それは普通のことです

人間ならば、原因不明の病に

恐怖を感じるのは当然です、痛みがあるなら尚更……

お姫様とか関係ありません…!僕だって怖いです!!」


「勇者様……!」


姫は勇者の言葉を聞いてパァッと笑顔を向ける。


勇者

「うっ……(か、かわいい…)」


姫の顔を見て頬を染める勇者


「(い、いかん!何を考えてるんだ!!僕は勇者だぞっっ!!し、しっかりしろ!!)」


二人はしばらく見つめ合ったーーー。



「ところで勇者様……」


姫がふと尋ねる


「先程、母から聞いたのですが

記憶を失ったというのは本当ですか?」


「!」


勇者は動揺し、マゴマゴしだす。


「全て忘れてしまったのですか?私との関係も……?」


ふと見ると再び涙を浮かべた姫が視界に入り

戸惑う勇者


「す、すまない僕には

ホントになにがなんだか……」


「ひどいです、勇者様」

「私とあなたは人には言えないような事をした関係でしたのに」

後ろを向き口元を抑え、涙を浮かべる姫


「ぼ、僕と姫様の関係!?」


姫は指で輪っかを作り、そこに人差し指を抜き差しする


「あー!!ちょっと待って!!」


勇者は焦り後ろを向いて頭を抱える


「ど、どう言うことだ??僕と姫がそんな……」

「な、懐いてるって……!?」


女王の言葉を思い出しながら

姫の方をチラッと見る勇者


そこには女の顔で

勇者を見つめる姫の姿が


咄嗟にまた後ろを見て勇者は考えを巡らせた。


「姫様と僕はそんなに深い関係だったのか!」


「くそ、記憶を失った事を今激しく後悔している」


「思い出したい、どうしたら思い出せるんだ!

姫様との記憶を……」


あまり良くない想像をする勇者。


「あっ…痛っっ」


勇者

「……!だ、大丈夫ですか姫様!!」


「勇者様……」


姫が甘い声で勇者に声をかける


勇者

「は、はいぃぃ!!」


ビシッと姿勢を正し、ハッキリした声でそう返事する勇者


「魔王を……お願いします……」


「私は信じています……あなたなら

きっと魔王を打ち破り、この国を世界を救ってくださると……」


「記憶を失ってもあなたは勇者、神に選ばれしもの……人々の、そして私の希望なのです……」


勇者は振り返らず、緊張した顔で静かにコクっと頷く


「寂しくなっても私が、あなたのそばに居ます……もし、戦いが辛くなったら私を思い出して……」


「そして記憶が戻って、私の病も治ったら、続きを……」


「行ってまいります!!」


勇者は頬を赤く染め、早歩きで姫の部屋を後にした。


ーーー


城の外に出て、考えをまとめる勇者


「結局女王の話を聞いても

ピンと来なかった、だが僕は神から選ばれた

魔王に唯一対抗できる勇者らしいな……

思ったより責任重大だぞ……」


「各地で広がる病……

僕の記憶……魔王、一体どれほどなんだ……?」


「女王は想像よりもずっと優しかったな

そして姫は……」


「お淑やかで、それで……ゴクッ……

は、破廉恥だった……」


頬を染め、うつむく勇者


「と、とにかく!僕は勇者だ!

国のためにも世界のためにも、そして姫のためにも!!魔王を倒しに行かなくては……!!」


「あ、あんなに期待されたら……

もうやるしかないだろう……!!」


「僕はみんなの希望……!!」


姫に対する欲と魔王に対する恐怖と

町人からの期待に対する不安を胸に

記憶を失った勇者は魔王討伐を決意した。


ーーー


ーーー


しばらく町を歩いていると

町娘に声をかけられる


「勇者様、パフをお持ちですね」


「パフ……?」


「はい、パフです。柔らかな触り心地と気持ちの良さがクセになる魔性のアイテムです」


(洞窟で拾ったパフパフした球体)


「触るだけでも魅力的なアイテムですが

パフには様々な効果が付いています」


「あかりを灯す灯火のパフ」

「疲れを癒す癒しのパフ」

「光を放つ閃光のパフ」


「どれも冒険の助けとなりますよ」


「さらにこれは噂ですが

パフの触り心地は女性のそれと同じらしいですよ…?」


耳元でささやく町娘


勇者

「なっ!?」


「揉み比べてみます??」


ニヤつく町娘に勇者は顔を赤らめる


勇者

「き、君は何を言ってるんだ!」


驚いて町娘から離れる勇者


「なんだこの町は?女の人はみんなああなのか…?」


頬を染めながら、ふとパフを見つめ

「姫のパフ……」とつぶやく勇者


すぐさまハッとなり、フルフルと顔を横に振り

体制を立て直す勇者


勇者

「(僕は勇者だぞ!こんな事にうつつを抜かしては

姫に面目がないだろう!!)」


僕は勇者だ!そう言い聞かせて再び歩きだす


ーーー


しばらく歩いてる途中、勇者は小腹が空いてくる


「そういえば、洞窟を出てからろくに物を食べていない……」


「これまで食べてきたモノは

どれも得体の知れないモノばかり

そろそろまともな食事を取りたいな」


勇者は出発の前に

食事をとりに飯屋に向かった。


ーーー


ガヤガヤと賑わう飯屋

カチャカチャした音や

ジュワーっとした料理の音が響く


勇者は席に座り、飯を注文する


勇者

「何があるかな?えーギアヌラのソテー

コアマグラのシチュー、ガンギスの肉、チャグラスのハラワタ炒め……」


見た事のないマモノのメニューに

勇者は若干テンションが下がる


勇者

「ここのオススメは?…じゃあそれで」


しばらくして注文した料理がくる

(唐揚げとシチュー)


勇者

「見た目は普通だな」


はぐっと一口食べた瞬間


勇者

「!?」


勇者の目が見開く


勇者

「なんだ…、これ…うまいぞ…?」


勇者は

料理の味を良いものと判断して

乱暴に口の中に放り込んでいく


勇者

「柔らかい…」


ガツガツガツ!

止まらない勇者の暴食


町の人が勇者の食べっぷりに釘付けになる


「おぉー…」

「すごい…」

「さすが勇者様だ…」


飯を平らげ、満足する勇者


勇者

「これが……」


勇者は天井を見つめる


「みんなで考えたんだ…

みんなで作ったんだ…」


勇者は自分に与えられた使命を今一度整理する


勇者

「魔王は彼らの文化を…彼らの築き繋いできたものを

壊そうとしている…」


しばらく、味を堪能したあと

よし!と気合を入れる勇者


「あ、勇者様」


他の客が

席を立とうとする勇者に

声をかける


勇者

「?」


「もう行くのですか?長旅でお疲れでは?」


「実は私、宿をやってまして

もしよろしければ勇者様、体を休めては

いかがですかな?」


勇者

「…すまん、宿はいい、すぐにでもここを発ちたい

寄り道してる暇はないんだ」


勇者は少し迷ったものの、使命を果たすために

宿の店主のすすめを断り、飯屋を後にするーーー


ーーー


そして出発の時が訪れた。


勇者は剣を構えると背中の鞘にシャキンっと収め

盾も背中に背負い、薬草やお金の入ったポーチを身につけ、パフを入れるベルトを巻くなどの

重装備で出発を開始。


勇者は町を出たあと

女王から貰った馬に跨る。


勇者

「よろしくな」


「ヒヒーン」


勇者

「では、皆のもの行ってくる」


勇者は小さくそうつぶやき

町を後にし、静かに目的地へと向かう。


勇者の冒険が今始まったーーー。



勇者の謁見(完)

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