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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第二章:のこちゃんの怪人生、黎明編
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03 のこちゃん、抱える


もうろうとしていた意識(いしき)がハッキリした場合、人は()ず、(みずか)らが置かれた状況(じょうきょう)を確認するものだろう。


それが自宅や自室での事であり、身体にもこれといった支障(ししょう)がなかったならば、いったん安堵(あんど)する所である。


その意味では、気がついたら巨木(きょぼく)群生(ぐんせい)(ほこ)るあまり()も地面へほとんど(とど)いていない薄暗(うすぐら)い見知らぬ森林(しんりん)(ひと)りでいましたなど、もってのほかに(ちが)いない。


見渡(みわた)(かぎ)り、そもそも巨体のティハラザンバーからしても、(いきお)いよく()びに()びた数え切れない巨木(きょぼく)がひしめきあっているのだ。


それぞれの(えだ)からは、葉が鬱蒼(うっそう)()(しげ)り、空を(さえぎ)っている。


そのため、上の方でこそ光が葉の間からキラキラとこぼれているものの、地表(ちひょう)では、陽光(ようこう)恩恵(おんけい)をほとんど受けられない。


湿気(しっけ)()びた地面(じめん)から(いか)つい根っこが顔を出し、縦横(じゅうおう)にはしって、(いびつ)舗装(ほそう)の様になっていた。


(もう)(わけ)ていどに背の低い雑草が()える他には、(いし)くれが散見(さんけん)されるくらいだ。


こんな環境(かんきょう)ならそれなりにありそうな動物や鳥の気配どころか、虫の一匹も飛んでいない。


まさしく、地の底といった(おもむき)である。


どうしたらこんな場所にポツンといる羽目(はめ)になったのか、これまでとこれから(すべ)ての方向へ不安しかない(おのれ)端的(たんてき)(あらわ)している様だと、のこちゃんは頭がはたらく様になってから()ずガッカリした。


状況(じょうきょう)がここまで()()けていると、逆に何だコレというおかしさがこみ上げて、はははと(かわ)いた笑いを小さくもらしてしまう。


そう言えば、ティハラザンバーに異変(いへん)が起こった時、トレーナーはこうなってしまった原因(げんいん)を分かっている様子だったので、後で説明を()かなくてはならないだろう。


ただ、のこちゃんの目の前では、悲嘆(ひたん)()れるよりも優先すべきと(おぼ)しき事態(じたい)が発生している。


それこそ、こんな地の底の様な場所にあって、年端(としは)もいかない人間の子供が(ひと)りで助けを求めてきたのだ。


さすがに、(たよ)られた年長者(おねえさん)としては、気を取り(なお)さざるを()ない所だろう。



辺りを見ても、文字通り林立(りんりつ)する太い()(みき)木陰(こかげ)をこれでもかと()(かさ)ねて作り出された薄暗(うすぐら)さが広がるばかりで、子供の保護者(ほごしゃ)や仲間の姿は無かった。


のこちゃんが視覚(しかく)意識(いしき)を集中すれば、薄暗(うすぐら)かろうと遠くにある(みき)樹皮(じゅひ)まで見分けられるので、人影がないのは確実(かくじつ)である。


子供の様子からは、かなり()()まっての行動と見受けられた。


年齢(ねんれい)は、5~6歳だろうか。


(よご)れているのか、浅黒(あさぐろ)い顔には、()(ちゃ)とも取れる黒っぽい(かみ)が短めのざん切りでのっかっている。


じっとティハラザンバーを見つめる、茶色(ちゃいろ)(ひとみ)の大きな目が特徴的(とくちょうてき)だった。


のこちゃんは、その子供をうっかり(つぶ)さない様に注意しながら姿勢(しせい)を低く動かし、顔を()せて話を聞く事にした。


やはり、ちゃんと子供とお話しする場合、お(たが)いの目の高さを合わせるのは基本だろう。


もちろん、怖がらせない様に笑顔も忘れない。


「こんにちわっ」


「ひいぃ………」


しかし、子供はその場で腰を()かしてしまった。


『ここで牙をむいてどうするのだ…のこ』


トレーナーに(たしな)められ、のこちゃんは相手が人だったので、つい自分も元の中二女子である剣持(けんもち)(とら)()のつもりになっていた事を自覚(じかく)する。


「ああっ………」


そう言えば、トレーナーには姿(ビジュアル)が無いとあって、人間を相手に話すのも(ひさ)しぶりなのだと変な感慨(かんがい)(いだ)く。


などと、悠長(ゆうちょう)(かま)えている場合ではない。


すっかり青ざめ、引きつった顔でその子供は、ティハラザンバーを凝視(ぎょうし)するばかりである。


(しん)に恐怖して(なお)(まわ)りにも助けを求められない状況(じょうきょう)に置かれたならば、弱者(じゃくしゃ)は悲鳴を上げるでもなく(すく)んで固まるしかないのだ。


のこちゃんは、(あわ)ててティハラザンバーの顔を子供から(はな)す。


「ごめんねっ、おどろかすつもりは無かったんだよ!」


まだまだ、ティハラザンバーの凶悪(きょうあく)なルックスに、自覚(じかく)が足りないのこちゃんである。


仕方なく、低い姿勢(しせい)のままで()いずりながら少し距離(きょり)を取り、ティハラザンバーの視線(しせん)を子供のそれへ合わせて待ってみる事にした。


気持ち、背の高い雑草の(くさむら)があったので、そこへ身体を(かく)す様に(しず)め、ひょこっと頭だけ出す。


あごが地面(じめん)についてしまうが、もうしょうがない。


ただ、これなら可愛(かわい)いまでいかなくとも、敵意(てきい)なく"たまたまそこにいた動物さん"な感じへ印象を落とし込めるのではないか?という打算(ださん)もある。


時折(ときおり)、ちょっと小首(こくび)(かし)げて、あざとい仕草(しぐさ)演出(えんしゅつ)をつけてみたりする。


チャムケア好き独特(どくとく)感性(かんせい)で、黄金色(こがねいろ)は、あざとイエローに通ずの精神なのだろう。


もちろん、余人(よじん)には通じない文脈(ぶんみゃく)である。


とは言え、そのていどでティハラザンバーの威圧感(いあつかん)緩和(かんわ)される訳でもないので、そういう所が自覚(じかく)の足りなさをよく(しめ)していた。


『ふむ、獲物(えもの)(ねら)って、地に()している様にも見えるぞ…のこ』


「うぐ………………………………」



それでも、しばらくすると子供が落ち着きを見せ始めたので、のこちゃんは恐る恐る会話を(こころ)みた。


「………君は、迷子(まいご)になったのかい?」


子供は、()し目がちに、ティハラザンバーを見つめながら小さく首を()る。


「そうかぁ………迷子(まいご)じゃないなら、この森に住んでるのかな?」


再び小さく首を()る子供に、まぁ、そう言ってるわたしも迷子(まいご)みたいなものだけどねぇと(せん)()い事を思いつつも、のこちゃんは根気(こんき)よく話しかけた。


「じゃあ、他所(よそ)からここまで、(ひと)りで来たのかな?」


ここで、やっと子供はこくりと(うなづ)く。


「そ、そうなんだねぇ」


一瞬(いっしゅん)、あれ、この森ってそんなに深くないのかな?と、困惑(こんわく)してしまうのこちゃんである。


何故なら、小さな子供の足では、それほど活動範囲(かつどうはんい)が広くないと容易(ようい)に想像できるからだ。


子供の格好(かっこう)は、素朴(そぼく)野良着(のらぎ)の上にすり切れた毛布(もうふ)の様な物を外套(がいとう)にしているだけで、よく見れば荷物(にもつ)も持っていない。


恐らくは、普段の生活からその姿であり、()()()のままというやつなのだろう。


しかし、ティハラザンバーの感覚に()れば、この見知らぬ森林(しんりん)規模(きぼ)は、なかなかの大きさだった。


現に、のこちゃんが視覚(しかく)をいくら集中してみた所で、どの方位(ほうい)にも巨木(きょぼく)群生(ぐんせい)にはその()てが見通(みとお)せない。


それにも係わらず、子供の生活圏(せいかつけん)は、ここではないと言う。


ならば、そんな簡素(かんそ)姿(すがた)で、小さな子供が(ひと)りで旅をしてきたのだろうか。


いったい、どうやって?


子供の様子からも(うそ)()いているとも思えないので、のこちゃんの困惑(こんわく)は、強まるばかりである。


「むう~っ………」


のこちゃんは、あごを地面にのせた姿勢(しせい)のまま、頭を(かか)えた。


見た目が(いか)ついティハラザンバーのそんな様子が面白かったのか、子供は、くすくすと笑い始めた。


「む?」


見れば、その(ひとみ)にも光が(もど)っている。


どうやら、先ほどうっかり怖がらせてしまった失敗を、多少は(ぬぐ)えたのかも知れない。


せっかく受けたらしいので、頭を(かか)えたポーズをしたまま、のこちゃんは話しを続けた。


「あー、それで君の名前は、何ていうのかな?」


そのティハラザンバーの様子がまた面白かったのか、子供の笑いがヒートアップしてしまった。


のこちゃんが地の底と(ひょう)した暗い森に、子供の明るい笑い声が(ころ)がる。


会話が続けられないものの、萎縮(いしゅく)してしまっているよりは良いかと、のこちゃんも一緒(いっしょ)に小さく笑う。


それから、しばらく笑った後で子供は、自分の事をシマユリと名のった。



――――――――――――――――



シマユリは、少しだけ自分の事を話してくれた。


「え、女の子なの?じゃあ、シマユリちゃんだねっ」


「あい」


こことは(ちが)う森に(かこ)まれた山間(やまあい)の小さな村で、両親と()らしているらしい。


話を聞いていた途中(とちゅう)でトレーナーが"シマか…"などと(つぶや)いていたものの、特に言葉を(はさ)んでくる事も無かった。


もちろん、その間もティハラザンバーは、(くさむら)の中に()()した低い姿勢(しせい)で、頭を(かか)えるポーズのままである。


シマユリも腰を()かした場所で、足を投げ出す形のまま自然に(すわ)っている。


(なご)んだ空気になったと見たのこちゃんは、話しを本筋(ほんすじ)(もど)した。


「シマユリちゃんは………どうして、どうやって、この森に来たのかな?」


移動手段が分かれば、両親なのかどうかは不明なものの、保護者(ほごしゃ)なり仲間なりの()()かりが見えるかも知れない。


やはり、こんな軽装(けいそう)なのだから、(ひと)りでここまで辿(たど)()いたにせよ、何らかの補助(ほじょ)はあっただろうとのこちゃんは思う。


それに、ティハラザンバーの様なバチバチバーッと光って気がついたらここにいましたなどと、そんな不調法(ぶちょうほう)な理由がそうそう(ころ)がっているはずもない。


少なくとも、トレーナーに()(ただ)してみるまでは、訳が分からないままである。


「…ぶしんさま」


「?」


「おれ、おっかあからきいた、もりのぶしんさまを、さがしにきた」


期待(きたい)()ちる(ひとみ)でティハラザンバーを見やるシマユリに、のこちゃんは、そこに勘違(かんちが)いがある事に気がついた。


恐らく、シマユリは何らかの理由から、この大森林(だいしんりん)にいるとされている何者かを(たよ)ってきたのだろう。


その相手をティハラザンバーと思いこんだに(ちが)いない。


当然ながら、ここへは、のこちゃんも来たばかりで該当(がいとう)するはずもないのだが。


「そうなんだね………………」


のこちゃんは、当初それがシマユリの親戚(しんせき)か何かと思ったものの、だったらティハラザンバーと間違(まちが)えるはずもないと、すぐにその考えを却下(きゃっか)した。


自分が(たよ)るべき者の事を、シマユリ自身もよく知らないのだろう。


「ぶしんさま、なんだろ?」


(わら)にもすがる様な面持(おもも)ちで、シマユリは()いてきた。


のこちゃんとしても、そんな希望に()いたい気持ちは山々(やまやま)である。


「………あのね、シマユリちゃん、わたしもこの森は今日が初めてなんだよ」


「え…」


しかし、のこちゃんは、誤魔化(ごまか)さずシマユリに本当の事を()げた。


(たと)え相手が小さな子供でも、間違(まちが)った(から)っぽの期待(きたい)を、そのままにしておく方が不誠実(ふせいじつ)だと思うからだ。


ただそうは言っても、その何某(なにがし)かを目指(めざ)して(おさな)いシマユリがここまで旅して来たのだとすれば、さすがに無碍(むげ)にも出来ない。


「だから、一緒(いっしょ)に探してみようか」


トラブルでたまたま居合(いあ)わせただけにせよ、それも何かのご(えん)(ちが)いないであろうし、何よりチャムケアの(たましい)を自主的に()()いだ者としては、ここでシマユリちゃんの(ちから)になれなければ乙女(おとめ)名折(なお)れだよ!と言う所だろう。


ちなみに、乙女(おとめ)云々(うんぬん)出典(しゅってん)は『スカウトチャムケア♯』の主人公、ケアメルティの決めゼリフからである。


「………それじゃダメかな?」


期待(きたい)はずれな事を言われ、少なからずショックを受けたシマユリは、落胆(らくたん)(かく)さなかった。


それでも、のこちゃんの(もう)()()()だった模様(もよう)で、こくりと(うなず)く。


「良かったぁ、あたしの事は、の………ティハラザンバーって長いか、好きに呼んでね!」


何言ってんだコイツ的な表情をしつつも、シマユリは、あいと小さく返事をした。



「(それにしても、ぶしんさま?…武神様(ぶしんさま)かな?)」


言われてみれば、シマユリが最初に話しかけてきた時にそんな事を言っていたなと思い返していたのこちゃんは、ふと目に(うつ)った"それ"が何なのか一瞬(いっしゅん)理解(りかい)できなかった。


トレーナーが力の道筋(みちすじ)(しょう)し、のこちゃんは()らめきの流れと(とら)えた、攻撃する者が対象(たいしょう)に向けて発する意志の軌道(きどう)


それが、シマユリの小さな身体へ向けて、彼方(かなた)より線を(むす)んでいる。


『のこ!』


トレーナーの注意喚起(ちゅういかんき)がのこちゃんの中で(ひび)いた時には、ティハラザンバーの身体も(はじ)ける(いきお)いで地を()っていた。


何が起きたのか分からぬままポカンとした表情のシマユリと()らめきの流れの間を()つ様に、白銀(しろがね)装甲(そうこう)(おお)われたティハラザンバーの太い(うで)が差し込まれる。


その刹那(せつな)薄暗(うすぐら)い森林に三つの金属音が大きくこだました。


(はば)むものさえ無ければ、一息(ひといき)三射(さんしゃ)という必殺の矢飛(やと)びが、正確に的中(てきちゅう)したのだろう。


手練(てだ)れの射手(いて)による攻撃と思われた。


間に合ってホッとしたのも(つか)()(まわ)りから(いく)つかの()らめきの流れに(とら)えられている(おさな)いシマユリの姿に、のこちゃんは瞠目(どうもく)する。


(かこ)まれているなら、考えている(ひま)はない。


「ごめんね!」


飛び出した(いきお)いまかせに、のこちゃんは、ティハラザンバーの身体を(ちゅう)(ひね)って体勢(たいせい)(ととの)えると、シマユリを()(さら)った。


シマユリの身体を小脇(こわき)(かか)えたまま、巨木(きょぼく)(たよ)りに、真上(まうえ)へと音もなく跳躍(ちょうやく)する。


ただし、(えだ)がぶつかったりするとシマユリが危険なので、かなり(ちから)()いたジャンプである。


間髪入(かんはつい)れず、地上スレスレに複数の飛来物(ひらいぶつ)がシマユリのいた辺りで交差(こうさ)した気配(けはい)を、ティハラザンバーの感覚(かんかく)察知(さっち)した。


「あっぶな…」


のこちゃんが(きも)()やしている間も、シマユリはポカンとした表情のまま、小荷物(こにもつ)(あつか)いに甘んじている。


丁度(ちょうど)ティハラザンバーを(ささ)えられそうな太い(えだ)を見つけたので、()(みき)にシマユリを(かか)えていない()いた手をついて上昇(じょうしょう)(いきお)いを殺しつつ、良い感じにぶら下がる。


念のため、射手(いて)動向(どうこう)にも注意をしていたのだが、こちらへ追撃(ついげき)行射(ぎょうしゃ)は無い模様(もよう)だった。


『ふむ、(かこ)みは(あさ)い様だな…のこ』


果たして、シマユリをそれと分かって(ねら)ったのか、先ほどの笑い声を何かの獲物(えもの)勘違(かんちが)いしたのか………


微妙(びみょう)ですよね」


一応(いちおう)確認をしたところ、矢が当たった白銀(しろがね)装甲(そうこう)には、(きず)一つ付いていなかった。


攻撃にそれほど威力(いりょく)が無かったと判断(はんだん)して余裕(よゆう)を取り(もど)したのこちゃんなのだが、直接シマユリが(ねら)われているのならば、頑丈(がんじょう)なティハラザンバーとは(くら)べるまでもない。


のこちゃんは、慎重(しんちょう)視覚(しかく)意識(いしき)を集中して、上から射手(いて)たちの姿を探した。


元より害意(がいい)のある相手なら、いかんともし(がた)い。


とは言え、もしも地元民(じもとみん)狩人(かりゅうど)なら"ぶしんさま"について何か知っているかも知れないので、今のは不幸な事故と水に流し、いっそ素直(すなお)に話を()いてみようかとも思うのだ。


「(それも、シマユリちゃんの反応(はんのう)次第(しだい)だけど………)」


(いく)つかのの人影が、しゃがんだり寝そべったりしながら()(みき)に身を(かく)して、(まわ)りの様子を(うかが)っている。


どうやら、上にいるティハラザンバーとシマユリには、気がついていないらしい。


「うん?」


その風体(ふうてい)から(いず)れも人間の大人(おとな)たちだろうと見当(けんとう)をつけた所で、のこちゃんは、シマユリが意外と(さわ)いだりしない事に気がついた。


まだ呆然(ぼうぜん)としたままなのかと見てみれば、(かか)えるティハラザンバーの腕にしっかりとしがみつき、息を殺して下の様子を(うかが)っている。


意外と、(おのれ)の置かれた状況(じょうきょう)把握(はあく)している様に、のこちゃんには見えた。


そんな視線に気がついたのか、シマユリはやおらティハラザンバーの顔を見上げると、小さな声で()いた。


「………あの、しろいひとたちが、きたの?」


「しろいひとたち、白い人?」


のこちゃんが聞きかえせば、シマユリもこくりと(うなず)く。


白い服でも着ているのかと思い、のこちゃんは、(あらた)めて人影たちの風体(ふうてい)を確認するものの、地味(じみ)な色合いの格好(かっこう)をしている者たちばかりである。


フードの様なものを(かぶ)っているので顔や(かみ)の感じが分からないものの、森林(しんりん)で活動するためと(おぼ)しきその服装(ふくそう)は、やはり地元(じもと)狩人(かりゅうど)なのかも知れない。


「白っぽい姿の人は、いないみたいだよ」


「………………」


「何か、他に特徴(とくちょう)とかあるのかな?」


「わからない」


「う~ん、分からないかぁ………」


のこちゃんが、そりゃあ急に特徴(とくちょう)とか言われても、戸惑(とまど)っちゃうよねと思っていた所へシマユリは言葉を続けた。


「しろいひとたちは、みただけじゃ、わからないの」


戸惑(とまど)ったのは、むしろのこちゃんの方だった。


分かった事と言えば、どうやらシマユリには、警戒(けいかい)すべき相手がいるらしいという背景である。


(いず)れにせよシマユリが不安がっているのなら、()えて危険を(おか)す事もないと、のこちゃんは下にいる人間たちと接触(せっしょく)する選択肢(せんたくし)()てて、その場から(はな)れる事にした。


「どこか落ち着ける場所を見つけて、ちゃんと話を聞かないとなぁ」


『ふむ、それが賢明(けんめい)と思うぞ。

()の時代にも、その身を人の姿に擬態(ぎたい)するなり、(まぎ)()んで来る面倒(めんどう)な敵が少なからず存在していたものだ…のこ』


「へー、どうやって見分けたんです?」


擬態(ぎたい)するのは目的あっての事…となれば、(おそ)ってきた所を()ってしまえば正体を現すから、それには(およ)ばぬものだよ…のこ』


(おお)ティハラの封印(ふういん)即決(そっけつ)した事といい、この聖女(トレーナー)は、豪快(ごうかい)な人生だなと思わざるを()ないのこちゃんである。



――――――――――――――――



ティハラザンバーの身体は猫系とあってか、片腕でシマユリを(かか)えたままでも、(なん)なく巨木(きょぼく)(えだ)から(えだ)へと飛び(うつ)る事ができた。


その図体(ずうたい)に似合わない(すみ)やかなる移動とあって、のこちゃんは、自分の事にも(かか)わらず変な感心をしてしまう。


もしかすると、ティハラザンバーの身体が動き方を分かっていると言った方が正しいのかも知れない。


のこちゃん本来の身体であったなら、体力づくりで毎朝走っていたとは言え、うんていですら(あや)しい。


大丈夫(だいじょうぶ)?怖くない、シマユリちゃん?」


時折(ときおり)のこちゃんが声をかけるも、なかなかどうしてシマユリは、その都度(つど)ティハラザンバーの腕の中であいと元気に返事をする。


(きも)()わっているのか、こういった行動に()れているのか気になるものの、怖がっていないなら良しとしておこうと、のこちゃんは移動に集中した。


次に飛び移る(えだ)選択(せんたく)や、シマユリがいるのだから危険がない様に(まわ)りへの注意など、意外と瞬時(しゅんじ)判断(はんだん)する事が多い。


平成フルヘルムナイトシリーズではお馴染(なじ)みの、"瞬瞬必生(しゅんしゅんひっせい)"というやつであろうか。


そう言えば、チャムケアシリーズと同じ放送枠(ほうそうわく)のシュープリム戦団シリーズとフルヘルムナイトシリーズの録画(ろくが)もだいぶ()めたままだったなと、余計(よけい)な事を思い出していきなり気を()らすのこちゃんだった。



しばらくすると巨木(きょぼく)(れつ)(ひら)けて、少し大きな(みずうみ)だろうか、風に波打(なみう)水辺(みずべ)へと辿(たど)り着いた。


彼岸(ひがん)を見やれば、やはりこれまでと変わらず林立(りんりつ)する巨木(きょぼく)(ぐん)(かこ)まれている。


この大森林(だいしんりん)()けられた訳ではないという事だろう。


すぐに巨木(きょぼく)(えだ)から飛び()りず、のこちゃんは、やはり慎重(しんちょう)()して(まわ)りの様子を(うかが)った。


「多分、さっきのと同じ様な人たちは、この辺にもいますよねぇ………」


いか様な活動をしているにせよ、生き物であれば、水場(みずば)は重要な生活拠点(せいかつきょてん)(ちが)いない。


シマユリの言う白い人はさて置き、不用意(ふようい)にその生活圏(せいかつけん)へ立ち入ってまた攻撃されてしまったら、移動してきた意味がなくなる。


『ふむ、ならば岸に沿()って、人が使い(づら)い場所を見繕(みつくろ)うしかないだろうよ…のこ』


まあそれしかないよねと、のこちゃんは、ティハラザンバーの視力(しりょく)駆使(くし)して、休憩(きゅうけい)に向いていそうな場所を岸辺(きしべ)に求めた。


要は、人間には(むずか)しくともともティハラザンバーなら(なん)なく行けて、シマユリが安心して休めれば良いのだ。


間もなく、断崖絶壁(だんがいぜっぺき)とはいかないまでもゴツゴツした岩場の岸を見つけると、すぐにそちらへ向けての跳躍(ちょうやく)を再開する。


「外は、意外とまだ()が高いんだな…」


(みずうみ)に面した側は、巨木(きょぼく)が開けているので、森林(しんりん)の内部と(ちが)って移動中でもそこそこ風景(ふうけい)が見られた。


水面(みなも)陽光(ようこう)反射(はんしゃ)して、キラキラと(おど)る様に()ってゆく。


シマユリは、ティハラザンバーの腕の中から、そんな流れる景色を(まぶ)しそうに楽しんでいる様だった。



のこちゃんが選んだその場所は、水辺(みずべ)に大きめの岩が(なら)んでいて、(まわ)りからの視線をそれなりに制限(せいげん)できると思われた。


何しろ、陽光(ようこう)反射(はんしゃ)するのは水面(すいめん)に限らず、ティハラザンバーの金ピカ仕様とてなかなか(きら)びやかに主張(しゅちょう)してしまう。


そんなピカピカに好奇心(こうきしん)をくすぐられて、寄ってくる者がいないとは限らないのだ。


シマユリと落ち着いた場所で話すのもちろんなのだが、そういった無用の接触(せっしょく)も現在は()けたい所である。


(かく)せるのなら、それに()した事はない。


岩と岩の間に休めそうなポイントを見つけたのこちゃんは、ティハラザンバーの腕からシマユリを下ろす。


「おつかれさま、シマユリちゃん、(いた)い所とか無い?」


「あい」


そんな返事こそするものの、シマユリは小さな岩の上にちょこんと(すわ)()んでしまった。


のこちゃんがあれれ?と思った矢先(やさき)に、クゥと小さくお(なか)()る音が聞こえた。


「ああっ、おなか()いちゃったのかぁ」


眉毛(まゆげ)を八の字にしているシマユリを見て、ティハラザンバーになってから(わす)れていた、人体(じんたい)燃費(ねんぴ)の悪さを思い出したのこちゃんである。


子供であればあるほど、それが顕著(けんちょ)だったという事も、それほど古い記憶(きおく)ではない。


「食べ物、ある事はあるんだけど、シマユリちゃんの口に合うかなぁ………」


のこちゃんは、空腹(くうふく)の無いティハラザンバーでも非常用エネルギー(げん)として、念のため押し入れに食料を(そな)えている。


ただし、肉や魚といった料理や発酵(はっこう)食品の(たぐい)だと、押し入れの中にある他の物へ(にお)いが(うつ)るという衝撃(しょうげき)の事実をトレーナーから知らされて、()った穀物類(こくもつるい)(かた)めて焼いた様な、素朴(そぼく)な物しかなかった。


何やらすえた(かぐわ)しい双剣(そうけん)とかを想像すると、のこちゃんと言えども、年頃(としごろ)の女の子メンタル的にはさすがに看過(かんか)できないのだ。


とは言え、所詮(しょせん)は押し入れなのだから、そんなものかという(あきら)めもある。


もしも、非常用エネルギー(げん)必要(ひつよう)となったその時、もしゃもしゃと咀嚼(そしゃく)している余裕(よゆう)があるかどうかは分からない。


そのため、すぐパクつける様に小分(こわ)けにした、しかもかなり厳重(げんじゅう)包装(ほうそう)された保存食(ほぞんしょく)(てい)になっている物を(りょう)(まかな)う作戦だ。


恐らくサイズ的にも、小さなシマユリに提供(ていきょう)そのものは可能だろう。


のこちゃんは、(ため)しに一粒(ひとつぶ)分の(つつ)みを手に出してみた。


「食べられなかったら、無理しなくて良いからね?」


(つつ)みをティハラザンバーの(つめ)一撫(ひとな)ですれば、パカリと中身が顔を見せる。


ただし、ティハラザンバーにとっての一粒(ひとつぶ)(だい)でも、シマユリには(ちが)う。


それを受け取ったシマユリは、両手で持ち上げるほどの大きなパンの様なものを見た事がなかったのか、目を丸くしてから一口(ひとくち)かぶりつくとそのまま無言(むごん)で食べ始めた。


どうやら大丈夫(だいじょうぶ)だった模様(もよう)なので、のこちゃんもホッとする。


「あ、そうだ、腰に下げているのって水筒(すいとう)なのかな?」


(かか)えて移動している時、シマユリのおしり辺りで何か筒状(つつじょう)の物がぶら下がっている事に気づいたのだ。


シマユリは、食べながらこくりこくりと(うなず)く。


「水が()みたいなら()んでくるけど、どうする?」


是非(ぜひ)もなく、お願いされたのこちゃんは、シマユリの水筒(すいとう)(あず)かって岸辺(きしべ)へと()りた。



陽光(ようこう)()らされて、水面(みなも)とティハラザンバーが(あわ)せてキラキラしているのだが、この際はもう仕方ない。


「とっとと、終わらせよう…」


『移動中の心配(こころくば)りといい、意外と世話焼(せわや)きなのだな…のこ』


水際(みずぎわ)にしゃがみ()んだティハラザンバーが(つま)んだ小さな水筒(すいとう)(こわ)さない様に注意して()(あつ)っていると、トレーナーが感心した声で話しかけてきた。


のこちゃんは、シマユリの事で後回しにしていたこの現状(げんじょう)について、今の内に少し(たず)ねておこうと思った。


一緒(いっしょ)に出発した魔刃殿(まじんでん)の者たちからは、こちらがどう認識(にんしき)されているのかも気になる。


脱走(だっそう)したつもりがなくても、いきなりじっさん辺りから追われる身になれば、現在のティハラザンバーの不慣(ふな)れさ具合(ぐあい)では、早晩(そうばん)()んでしまうだろう。


同じ逃げ出すにせよ、もっと修行(しゅぎょう)()んでから!と、のこちゃんとトレーナーの方針(ほうしん)は決まっていた。


「そう言えば、こうなった原因(げんいん)をトレーナーさん、分かってたんですよね?」


『ふむ、まずは(くだん)認識票(にんしきひょう)を確かめてみるのだ…のこ』


のこちゃんは、(くま)獣人(じゅうじん)のプレセントから(わた)された、細い(くさり)()められているペンダントらしきアイテムの事を思い出した。


「あっ、すっかり忘れてましたよ!」


確か、(うで)(おお)白銀(しろがね)装甲(そうこう)(ひじ)の部分が()()っているので、その(かく)れた(うで)(くさり)を巻いたのだった。


「あれ、どっちの(うで)だったかな?」


上着(うわぎ)袖口(そでぐち)(かぶ)せたはずなので、左右とも少し(まく)って見ると、左の(ひじ)ガードの(かげ)から青いランプがチラリと見えた。


「良かった、ちゃんとありました」


『ランプが青ならば、プレセントとやらからは、こちらも(とら)えられているのだろうよ…のこ』


トレーナーは、(みな)隔絶(かくぜつ)した場所に来ていない証拠(しょうこ)なので、恐らく突発的(とっぱつてき)な事故とみなされているだろうと予想を(かた)った。


それならば、しれっと被害者(ひがいしゃ)ムーブのまま、回収(かいしゅう)してもらえるかも知れない。


「それで、原因(げんいん)は何だったんですか?」


『ふむ、発動してみて分かったのだが、魔刃殿(まじんでん)本拠地(ほんきょち)にある黒っぽい巨大な半球(はんきゅう)体だ。

あの装置(そうち)が、人や物を別の場所へ瞬時(しゅんじ)送迎(そうげい)させるのは、この身(ティハラザンバー)をもって分かったであろう?…のこ』


言われてみれば、あの飛ばされる感じはそういう事だったのか。


そう納得(なっとく)しかけたのこちゃんなのだが、それだけだと、ティハラザンバーがバチバチバーッとなった理由にはならない。


『しかし、"アレ"はそれだけの代物(しろもの)ではない。

そして、ティハラザンバーとの相性(あいしょう)が悪かったという事だろうよ…のこ』


「え、相性(あいしょう)ですか?」


一度は、あの巨大半球(はんきゅう)に、魔刃殿(まじんでん)のラスボスがいると思ったのこちゃんである。


(たと)えそういった物ではなかったとしても、魔刃殿(まじんでん)象徴(しょうちょう)する意味では、文字通り組織の中心に位置している存在に(ちが)いないだろう。


そんなものと相性(あいしょう)が悪いと言われても、(すべ)ての方向にあった不安感が具体的な(いばら)(みち)になって、()()びるハードルが上がるだけでは?と、のこちゃんはまた暗澹(あんたん)たる気分になった。


続きます。

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