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わたしはチャムケア! -光の少女戦士伝説的なやつ希望-  作者: 虎竜王NV
第一章:のこちゃん、怪人になる
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06 のこちゃん、謎の武装組織に入る


突然(とつぜん)()たされた二振(ふたふ)りの(かたな)をどうすれば良いの?問題については、あっさりと解決した。



軽くてあまりにも(あつか)いやすいため、有耶無耶(うやむや)の内にじっさんと握手(あくしゅ)した際には、両方の(つか)を片手で持つ事ができた。


しかし、専用(せんよう)(さや)がある訳でもないらしく、この先ずっと()()のまま持ち歩かなければならないとなると両手もしくは片手が(つね)にふさがる事になって、さすがに邪魔(じゃま)面倒(めんどう)くさい。


のこちゃんがそんな事をぼやいていると、(せい)ザンバー=リナの声は、せっかくの神器(じんぎ)罰当(ばちあ)たりなと苦言(くげん)(はさ)みながらも、顕現(けんげん)するまでその(かたな)がどこに(おさ)まっていたのかを説明し始めた。


『君のその身体、ティハラザンバーへ再構築(さいこうちく)するに当たって、使い切れない(ちから)がほんのわずかあったので、その受け皿に漂流結界(ひょうりゅうけっかい)の"(おり)"の術式を()()んだのだ。

君が飛びこんできた時ほどの大きさではないのだが、余裕(よゆう)でその(かたな)二振(ふたふ)(おさ)められるくらいには、新たに特殊(とくしゅ)結界(けっかい)を身体へ付属(ふぞく)させる事ができた。』


便利(べんり)な大きめの行李(こおり)を常に携帯(けいたい)しているとでも意識してみよと(せい)ザンバー=リナの声は言うものの、"こおり"って何だろうと説明以前に()()かるのこちゃんである。


素直にその事を質問してみると、(たび)をする時に必要な物を入れる大きな箱の(たぐい)だと教えて(もら)えた。


何でも、白銀(しろがね)(よろい)聖女(せいじょ)としてあちこちに遠征(えんせい)しなければならず、その際、隊を組んで随行(ずいこう)する(とも)の者たちが頻繁(ひんぱん)に使っていたとの事だった。


のこちゃんは、押し入れの収納(しゅうのう)ケースか何か、そんな物だろうと当たりを付ける。


「いや、大きめって事は、押し入れそのものなのかも知れないな…」


自分の中に押し入れがあると思うと複雑な気分なのだが、言われた通りに意識してみると、なかなかの広さがあると分かった。


そこへ放り込む様なイメージをすれば、間髪(かんはつ)()れず、二振(ふたふ)りの(かたな)が同時に手から消え()せる。


(かたな)の大きさから(はか)った印象としては、のこちゃんの(かよ)う剣道教室が開かれていた公民館の道場くらいあるかもしれない。


「うわ、あたしの部屋より広い押し入れじゃん…ん?」


消えた(かたな)の存在を認識(にんしき)できた事で大凡(おおよそ)仕組(しく)みが分かったのだが、押し入れの中には、(ほか)にも何かがあると気が付いたのこちゃんである。


「何だろうコレ」


今度は、取り出す様なイメージをしてみると、"それ"がのこちゃんの手の中に(あらわ)れた。


それは、どこか見覚(みおぼ)えのある小さな子供服であった。


『ああ、それは君が着ていた服だ』


一応、取っておいたのだと(せい)ザンバー=リナの声は、思い出したかの様にのこちゃんへ伝える。


確かに、警察へ協力する(てい)でチャムケア・チャーミングストア東京店への遠征(えんせい)画策(かくさく)した際、浮かれながらチョイスしたのこちゃんのお出かけ()(ちが)いなかった。


去年の夏休みに、家族で出かけたファストファッションの大型(おおがた)店舗(てんぽ)で、祖母が買ってくれた物だ。


体の大きなティハラザンバーの手で持っていたから、子供服の様に見えたのである。


ただし、爆発の衝撃(しょうげき)(ほのお)にさらされた(あと)があり、(とど)めに大きな破片(はへん)激突(げきとつ)したせいでかなり(いた)んでしまっているのだが。


あれから、どれくらいの時間が()ったのだろう。


「おばあちゃん、おじいちゃん、きょう姉さん、心配してるだろうな………………」


もっとも、ティハラザンバーのこんな姿で帰ったら、全員ひっくり返るかと思い直して服をそっと押し入れの中へ(もど)す。


「いや、きょう姉さんだけは、多少(たしょう)(よろこ)ぶかな…ははっ」


のこちゃんは、行き場のない感情をごまかす様に、少し(かわ)いた笑いをこぼした。



――――――――――――――――



白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)こと じっさん に連れられて、のこちゃんは、ようやく魔刃殿(まじんでん)の建物内へ(とお)された。


ちなみに、中心に(そび)えている半球(はんきゅう)とは別の、建物(ぐん)の中で比較的(ひかくてき)(おお)きなものの内の一つである。


そこは、じっさんがトップにいるらしい、猫系獣人(じゅうじん)たちの()らす区域との事だった。


やっぱり、あの半球(はんきゅう)はラスボスがいるお城みたいなものに(ちが)いないと、第一印象に確信(かくしん)()たのこちゃんである。


心の中でしばらくお世話(せわ)になりますと言いながら半球(はんきゅう)に向かって頭を下げていると、それに気が付いたじっさんが(いぶか)しむ。


「うん?どうかしたのかティハラザンバー」


「いや、ここのラス…一番(えら)い人があそこにいそうなので、何となく挨拶(あいさつ)を」


「ああ、ありゃあ、そういうんじゃねえよ………まぁ、(いず)れ分かるさ」


「はあ」


どうやら、魔刃殿(まじんでん)大首領(だいしゅりょう)がいる所とかではなかったらしい。


そう言えば、イタチやオコジョの(たぐい)(おぼ)しき法衣(ほうい)獣人(じゅうじん)も、半球(はんきゅう)に対しては景観(けいかん)の良さを言っていた気がするから、もしかするとここを象徴(しょうちょう)するモニュメントの(たぐい)なのかも知れない。


そう思いながらのこちゃんが(あた)りを目で(さが)すと、法衣(ほうい)獣人(じゅうじん)は、いつの間にか姿(すがた)を消してしまっていた。


恐らくは、のこちゃんとじっさんが合流したので、目的を()げたのだろう。



のこちゃんが正式に魔刃殿(まじんでん)(むか)()れられて最初にやった事は、(おのれ)状態(じょうたい)確認であった。


すなわち、(かがみ)で現在の自分の顔を見る事である。


()()えず、寝起(ねお)きする場所は準備があるから後ほど別に案内させるとじっさんに言われ、訓練場か道場と(おぼ)しき広い部屋へ案内された所で、姿見(すがたみ)の様な大きい(かがみ)を見つけたのだ。


それは、(かべ)の一部が金属製のフラットな鏡面(きょうめん)になっていたもので、もしかすると別の用途(ようと)があるのかも知れないが。


じっさんがどこかへ行ってしまった後、(まわ)りに誰もいない事を(たし)かめて、のこちゃんは(おのれ)姿(すがた)をまじまじと(なが)めた。


「本当に牙は………ある、けど、これはそういう次元(じげん)じゃ、ああ、(しゃべ)ると口が動く、ああ…」


結論(けつろん)から言えば、そこには、のこちゃんが伝説(でんせつ)の中で目撃した(おお)ティハラの顔が、サイズダウンしてそのままあったのだ。


虎と言えば虎なものの動物の虎そのままではない、どこか怪獣めいた(つく)りで、かなり攻撃的なフォルムなのが(おお)ティハラの顔である。


目の色は()んだ金色でくりくりと動き、口のパクパクに加えて(した)もべろんと出せるしで、のこちゃんが意図(いと)した通りの表情がそこへ乗る。


(たと)えるなら、人の表情や動作をリアルタイムスキャンして、CGキャラクターをまるで自分の様に動かすグラフィック技術が鏡の中で起こっている感覚だろうか。


肉球(にくきゅう)の付いた手でその顔をさわりながら、毛はモフモフ(ひげ)ピンピン、牙がチクチクするし耳もちゃんと聞こえるなど、納得(なっとく)いくまで検証(けんしょう)してゆくのこちゃんであった。


いや、基本的に納得(なっとく)はしないのだから、(あきら)めがつくまでと言った方が正しいのだろう。


そんな中、意識して耳を()ませると、(おお)ティハラの"けも耳"がひょこひょこ動くので、ちょっと楽しかったのは発見だった。



ティハラザンバー全体の構成(こうせい)としては()ず、人型(ひとがた)へコンパクトに再構築(さいこうちく)された、(おお)ティハラの素体(そたい)がある。


そこへ、首の下辺りからワンピースのハイレグ水着(じょう)に、両肘(りょうひじ)から手首を(おお)手甲(てっこう)(じょう)、そして両足(りょうあし)には(ひざ)まで届くブーツ(じょう)と、それぞれ白銀(しろがね)(よろい)変態(へんたい)したらしい装甲を(まと)っている。


のこちゃんの予想通り、白銀(しろがね)(よろい)(おお)われたおしりには、しっぽが見あたらない。


頭部には、白銀(しろがね)(かぶと)余韻(よいん)(おぼ)しき部品が、意匠(いしょう)的に(あつら)えられていた。


確かに、目を(すが)めると迫力(はくりょく)()す事も手伝って、これはもう虎系の怪人(かいじん)にしか見えない姿である。


見えない?


本当にそうだろうかと往生際(おうじょうぎわ)悪く、のこちゃんは(ため)しに昭和の特撮ヒーロー作品で登場しそうな怪人(かいじん)をイメージして………


「ワガハイはティハラザンバー!、マジンデンにサカラウ者はミナゴロシなのだっ、ザンバーァ!!」


などと身振(みぶ)手振(てぶ)りを(まじ)えてそれっぽくやってみたら、あまりにも(さま)になっていたので(ひざ)から(くず)れ落ちた。


その姿勢(しせい)のまま、これは(たま)らんなどと(さら)に昭和の怪人(かいじん)が使いがちなセリフを(つぶや)いて、(みずか)ら傷口に塩を()るのこちゃんである。


ちなみにそれらは、特撮ヒーロー好きなきょう姉さんのお(すす)めライブラリーや、動画サイトの公式配信などで(おぼ)えたものだ。



「うう、チャムケアに浄化(じょうか)してもらったら、元の姿(すがた)(もど)れるのかなぁ」


モソモソとそんな事を言って現実逃避(げんじつとうひ)しているのこちゃんに、ひとの名前で(みょう)な遊びをするのはあまり感心せぬなと、(せい)ザンバー=リナの声が(たしな)める。


『そんな事よりも、案内役の者が来た様だぞ?』


のこちゃんが部屋の出入り口の方へ視線をやると、そこには、最初にここで出会った猫の獣人(じゅうじん)涙目(なみだめ)で腰を()かしていた。


「あっあにょ、(さか)らわないので、みなごろさにゃいで下さいぃ………………」


その惨状(さんじょう)にギョッとするも、すぐ(われ)に返って、原因は(さき)ほど自分が(えん)じた昭和怪人(かいじん)と思い(いた)る。


「ああっ、ごめんなさい!(おどろ)かせるつもりはなかったんですっっ」


(あわ)てて助け起こそうと()()るのこちゃんの姿を見て、猫の獣人(じゅうじん)は、ひいぃと小さく(うめ)いてそのまま気を失ってしまった。


顔が(いか)ついティハラザンバーの巨体が急接近(きゅうせっきん)して来る(さま)は、さぞや迫力(はくりょく)があったに(ちが)いない。


「あっ、あれ?どうしました、猫獣人(じゅうじん)さん!猫獣人(じゅうじん)さ~ん!?」


猫の獣人(じゅうじん)を両手に抱きかかえて、オロオロするしかないのこちゃんであった。



――――――――――――――――



あまりに帰りが遅いので様子を見に来たじっさんに、気絶した猫の獣人(じゅうじん)を正座で膝枕(ひざまくら)している姿を見られたのこちゃんは、何やってんだかと(あき)れられたものの、ハッと我に返るとうっかり(おどろ)かせてしまった状況(じょうきょう)を話して助けを求めた。


「お前なぁ、名前もそうなんだが、他者からどう見えてるとか…もっとこう、自分の事をしっかり把握(はあく)しとけよな。

田舎(いなか)にいた(ころ)は気にしなくて良かったのかも知れないがな、集団で生きるってのはそういうもんなんだからよ」


『ふむ、まったくだな』


「ご、ごめんなさい」


田舎(いなか)って言われてもなぁ…と思ったのこちゃんなものの、失敗したのは事実である。


じっさんと(せい)ザンバー=リナの声から外と内の二重奏(にじゅうそう)で軽く説教されつつ、のこちゃんは、じっさんに案内されて救護室(きゅうごしつ)(おぼ)しき施設(しせつ)寝台(ベッド)へ、猫の獣人(じゅうじん)をできるだけ丁寧(ていねい)に運んだ。


「キットカッチェは…こいつの名前な、方術(ほうじゅつ)の使い手としてはなかなかのもんなんだが、ビックリすると気を失うクセがあってな。

まぁ、見た感じもいつも通りだから、大丈夫だと思うぜ?」


じっさんにそう言われて、事なきを()たと分かり一気に緊張(きんちょう)がほどけたのだろう。


のこちゃんは、寝台(ベッド)の前の(ゆか)にへにゃっと(すわ)()んでしまった。


「良かった………………」


(おのれ)のアホな()()いで猫の獣人(じゅうじん)さんに何かあったとしたら、さすがに自分が(ゆる)せなくなっていた所である。


キットカッチェさんって名前なのかぁ…などとぼんやり考えながら、のこちゃんは、寝台(ベッド)の上でいつの間にか寝息をすーすーと立てているその姿を見ていた。



「あらら、そんな所にでかい図体(ずうたい)居座(いすわ)られると邪魔(じゃま)だから、どいてくれると助かるわねぇ」


(すわ)()むのこちゃんへそんな声をかけてきたのは、獣人(じゅうじん)で言えば、黒豹(くろひょう)系の長身(ちょうしん)な女性であった。


目はティハラザンバーに近い濃い金色なのだが、のこちゃんの性格的なキョトンさと(ちが)い、どこか(するど)さがある。


黒い体毛とは反対に、体へピッタリとした白い服のパンツ姿で、全身のスマートさを(あわ)せて清潔(せいけつ)な印象だった。


その(うしろ)にはじっさんもいて、のこちゃんに、この黒豹(くろひょう)獣人(じゅうじん)の女性を紹介(しょうかい)する。


「こいつはパンタニア・パニア、救護施設(ここ)や猫系連中(れんちゅう)の生活区を全体的に()仕切(しき)ってるやつだ。

こえぇから、絶対に怒らすなよ?

パニア、こいつはティハラザンバー、後の事は(たの)んだぜ」


「ええ…それはそうと、白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)って事をもっとしっかりご自覚(じかく)してくれたら、そうそう怒ったりはしませんよ?」


黒豹(くろひょう)獣人(じゅうじん)のパニアにジトーとした目で見られながらそんな返しをされると、じっさんは気まずくなったのか、とにかくよろしくと言いながらどこかへ行ってしまった。


法衣(ほうい)獣人(じゅうじん)にも似た様な事を言われていたので、何となくではあるが、じっさんのここでの(あつか)いが見えてきたのこちゃんである。


じっさんの出ていった(とびら)に軽くため息をはいたパニアは、意識を切り替える様にのこちゃんへ向き直った。


「じっさんがさっき言っていた通り、キットカッチェは、ここに寝かしておけば良いわ。

さあさあ、立って立って、貴方(あなた)が住む部屋を案内するからね」


「あっ、すみませんっっ」


のこちゃんが(あわ)てて立ち上がると、そんななりをしてずいぶんと素直なのねとパニアは苦笑した。


「ごめんなさいね…聞いていた素行(そこう)とイメージが(ちが)うから…あら?、貴方(あなた)女の子なのね」


「え?、あっはい………………一応(いちおう)


『ふむ、君の体が(もと)なのだから、その辺りは迷わずとも良い』


「名前は、本当にティハラザンバーで良いの?」


「あー………はい、まぁ、そんな感じです」


『名前に"そんな感じ"も何もないであろうよ』


(こま)かいツッコミを入れてくる(せい)ザンバー=リナの声を無視して、のこちゃんは、(あらた)めて目の前にいるパニアを見る。


長身とは思ったものの、ティハラザンバーの顔のやや下にまで黒豹(くろひょう)の頭が来ているのだ。


今まで見てきた獣人(じゅうじん)たちを(かんが)みて、女性である事を考慮(こうりょ)すると、かなり突出した立派な体格の持ち主と分かる。


(ゆか)(すわ)った位置から見た時の印象よりも、均整(きんせい)の取れた身体のラインが長身さと相俟(あいま)って、なかなかの魅力(みりょく)発揮(はっき)していた。


それに加え、白獅子(しろじし)御大将(おんたいしょう)という、ここでも上の方に位置しているらしい大物にも一目(いちもく)置かれている存在なのだ。


これには、のこちゃんも結論せざるを()ない。


「女幹部(かんぶ)ですね!」


なので、思わず口に出してしまう。


やはり、悪の組織と来れば、美しくナイスバディなお姉様系の女幹部(かんぶ)が付きものだろう。


それは、主人公(ぜい)と対立する事で(かがや)く、裏の花形(はながた)とも言える。


どちらかと言えば徒花(あだばな)なのだが、物語に(はな)()えるジャンル物としてのお約束であり、チャムケアシリーズでもそれは例外ではない。


またしても(おとず)れた新たなチャムケア体験に、のこちゃんのテンションは上がった。


「女幹部(かんぶ)ですね!」


『何故、くり返すのだ?』


「何で、くり返したの?」


(せい)ザンバー=リナの声とパニアが、のこちゃんへほぼ同時にツッコミを入れた。


のこちゃんとしては、だいじな事だったからに他ならないのだが。



「しかし、女幹部(かんぶ)なんて言われたのは、初めてね」


ティハラザンバーに用意された部屋へ案内する道すがら、黒い毛並みをキラキラさせながらからからと笑うパニアは、異次元(いじげん)踏破(とうは)傭兵団(ようへいだん)"魔刃殿(まじんでん)"での身の置き方をザックリと教えてくれた。


魔刃殿(ここ)は、軍隊みたいなトップダウンの命令系統(めいれいけいとう)がある訳じゃないのよ。

特に猫系(うち)のクラスターは、協調性(きょうちょうせい)が無い事で言えば(つぶ)ぞろいだから………まぁ、(あば)れたりしなければ、何か言われるまで自由にしていて良いわ。

(いず)れ、仕事を取る時になったら自分が何をすべきかは分かるし、そのつど戦力として尽力(じんりょく)すれば追い出される事も無いはずよ」


「………はあ」


『なれば、当初の予定通り、その身体に慣れる訓練が(はかど)るであろうよ』


さすがに、傭兵(ようへい)の意味は、のこちゃんも分かっている。


(せい)ザンバー=リナの声がのんきな事を言ってくるものの、魔刃殿(まじんでん)所属(しょぞく)している以上は、近い将来、怪人(かいじん)ティハラザンバーとして望まない戦いへかり出される事を意味しているのだ。


怪人(かいじん)かどうかはともかく、それに思い(いた)れば、チャムケア体験は楽しかったものの覚悟(かくご)(さだ)まっている訳でもないとあり、ただただ気が重くなるのこちゃんである。


「ああ、でも貴方(あなた)育成組(いくせいぐみ)に入れられたのよねぇ」


だったら部屋へ行く前に云々(うんぬん)とぶつぶつ言いながら、パニアは、何処(どこ)かに()(みち)するとのこちゃんへ()げて案内する方向を変えた。


元より、唯々(いい)諾々(だくだく)とついていくしかない現状(げんじょう)なので、どんな道筋になろうとものこちゃんに(いな)やはない。


やがて、(とびら)の無い部屋の入り口へと辿(たど)()いた。


そこは、最初にのこちゃんが通された場所と同じくらいのやはり訓練所か道場として使われているであろう広さで、高い天井(てんじょう)と大きな(かべ)だけの殺風景(さっぷうけい)な部屋だった。


そう言えば、ここの(かべ)には、金属製のフラットな鏡面(きょうめん)部分が無い模様(もよう)だ。


「あのこは、この時間だとトレーニングしていると思うのだけど…ああ、やっぱりいたわね」


のこちゃんが部屋の中全体へ意識を向けると、何者かが発したであろう()らめきの流れを自然に(とら)える事が出来た。


じっさんとの決闘を()て、より分り(やす)くなった気がする。


そこには、(ひと)りで訓練らしき動作をくり返す獣人(じゅうじん)がいた。


「ベニア、ちょっと良い?」


パニアに声をかけられ、こちらに気が付いたその者は、動作を中止して()()ってくる。


毛並みに若干(じゃっかん)赤味がかかっているのだが、獣人(じゅうじん)で言えばジャガー系だろう。


「何?パニアおばさん…」


次の瞬間、パニアから発せられた数え切れないほどにひしめく数多(あまた)()らめきの流れが、ベニアと呼ばれたジャガーの獣人(じゅうじん)殺到(さっとう)する。


それは、決闘でじっさんがのこちゃんへ見せたものに(せま)(いきお)いであった。


それが、見えていたのか分からないものの、ひゃあっと短い悲鳴をこぼして、ジャガーの獣人(じゅうじん)はその場に尻餅(しりもち)をついていた。


「ダメでしょベニア?、ここでは、ただのパニアとベニアだと何度も言っているのに」


『ふむ、無防備(むぼうび)な所へ、あれだけ濃密(のうみつ)なものを一気にぶつけられては、例えあれが見えなくても気圧(けお)されるだろうよ』


「さすが、女幹部(かんぶ)………」


パニアが"おばさん"という言葉に過剰(かじょう)な反応をした気がしたものの、思った事を話す前に一旦(いったん)よく考えようと気を付けているので、のこちゃんがそれを口にする事はなかった。


一拍(いっぱく)置いてから、助け起こしたジャガーの獣人(じゅうじん)を、パニアがのこちゃんへ紹介(しょうかい)する。


「あんな呼ばれ方をしちゃったから言うけど、この()は、私の(めい)でベニアカーラ・ベニア。

貴方(あなた)と同じで、猫系(うち)から今期の育成組(いくせいぐみ)に参加しているの。

分からない事は、このベニアから聞いてちょうだいね」


「ベニアって呼んでね!」


「よ、よろしくっ」


(うわさ)で聞いたよ?本気のじっさんと(わた)()って、ケガもしてないんでしょ!?

猫系(うち)からは、育成組(いくせいぐみ)(ひと)りで入ってるから、ちょっと心細かったんだよね。

明日から一緒だと思うから、こっちこそよろしくだよ!!」


パニアに似た金色の(ひとみ)(かがや)かせて明るく(しゃべ)るジャガーの獣人(じゅうじん)ベニアは、やはりパニアと同じくらいの背丈(せたけ)であり、ティハラザンバーに(せま)る体格の持ち主である。


赤味のかかった毛並みに斑紋(ひょうもん)の黒が()えるコントラストで、のこちゃんは、暗い所だと黄金(おうごん)の毛並みが赤っぽく見えるティハラザンバーに何処(どこ)か通じている印象を受けた。


環境(かんきょう)の変化が(いちじる)しいのこちゃんとしては、ベニアの屈託(くったく)のない話しやすそうな感じも、これから自分にとってありがたい存在となる予感がした。



そう言えば度々(たびたび)耳にする育成組(いくせいぐみ)とは何であるのか、ベニアにティハラザンバーを紹介(しょうかい)しているパニアを待って、のこちゃんは()いてみた。


育成組(いくせいぐみ)は、次期(じき)主力候補(しゅりょくこうほ)育成(いくせい)計画(けいかく)の参加者の事だけど、有望(ゆうぼう)な新人を魔刃殿(こちら)(きた)えて、(あらかじ)め戦力としての底上げをする(こころ)みよ」


せっかくの人材をいきなり実戦(じっせん)投入(とうにゅう)してあっけなく死んじゃったら勿体(もったい)ないでしょ?と、パニアは獰猛(どうもう)に笑う。


「!」


その凄味(すごみ)のあるパニアの表情に、"こと戦いに()いては強くなければ死あるのみ"という(おきて)言外(げんがい)にて(くぎ)(ささ)されたのだと、のこちゃんは思った。


やはり、悪の組織と来れば、これぐらいの非情(ひじょう)さも当たり前に(ちが)いない。


のこちゃんは、不本意(ふほんい)であろうとも覚悟(かくご)()めろと、現実を突きつけられた気持ちだった。


『ふむ、君がニヤニヤしている時も、あんな感じだな』


「………………」


もしかすると、(おおかみ)獣人(じゅうじん)タレンに(から)まれた()()けは、これだったのかも知れない。


のこちゃんは、ティハラザンバーの身体を(ふく)めた、この環境(かんきょう)に早く()れる必要性を感じた。


「あと、何か、ごめんなさい」


「え、急にどうしたの?」


"他人(ひと)の事は言えない"とはこの事かと、内心で反省しきりなのこちゃんなのだが、思い当たる理由もなく(あやま)られて困惑(こんわく)するパニアである。


ベニアは、よく分かんないけど面白いと言って、けらけら笑っていた。



――――――――――――――――



パニアに案内された部屋は、ティハラザンバーの巨体(きょたい)をのこちゃん本来の体格として見ると、六畳間(ろくじょうま)くらいの感覚である。


なので、実際は、ちょっとした旅館の宴会場(えんかいじょう)くらいの間取りがありそうだった。


むき出しの石造りっぽい壁には、鎧戸(よろいど)が閉じられていて外が見えないものの、しっかりとした窓もある。


それでも部屋が暗くないのは、天井(てんじょう)照明装置(しょうめいそうち)が、それなりの明るさを提供(ていきょう)しているからだ。


家具は、ティハラザンバーが横になれそうな寝台(ベッド)と、日常で十分使えそうな卓子(テーブル)椅子(いす)まで(あつら)えてあった。


「もっと、大勢(おおぜい)雑魚寝(ざこね)する、大部屋みたいな所だと思っていました」


それは、のこちゃんの想像より、かなり上の待遇(たいぐう)だった。


「言ったでしょ?、有望(ゆうぼう)な新人に期待してるって…」


それに素直な女の子なんだから多少はねっと、冗談(じょうだん)めいた言い方をしながら、パニアは部屋から出て行った。


もう、今日は休んで良いという事らしい。


明日は、何処(どこ)かへ顔を出しに行かなければならないとの話で、ベニアが(むか)えに来る約束になっている。



のこちゃんは、ドカリと寝台(ベッド)腰掛(こしか)けると、大きなため息を一つついた。


(ひど)い一日だったよ」


意識を取り戻してからは、自分の容姿(ようし)激変(げきへん)していた事を(ふく)めて、色々とありすぎた。


『ふむ、いきなりその身体だったからな。

()れるまでは、(いた)(かた)あるまいよ』


(せい)ザンバー=リナの声は、ねぎらう様に言う。


「あたし、これからどうなるんだろう………って、(かい)人生(じんせい)がマストだった、ううっ」


もちろん、(かい)人生(じんせい)なるものは、のこちゃんにも想像がついている訳ではない。


とは言え、14年の(あいだ)のこちゃんなりに人として()らし(つちか)われてきたすべての常識が、この先、何ら指標(しひょう)にならない事は明かである。


ただ、現在いる場所に(ゆかり)があるらしい、(せい)ザンバー=リナの声がいろいろと助言してくれるだけマシではあるのだが。


『それについては、君にひとつ、言っておかねばならない事がある』


頭を抱えるのこちゃんに、(せい)ザンバー=リナの声が口調(くちょう)(あらた)めて話しかける。


「何ですぅ?、またダメ出しですかぁ………」


見知らぬ土地とは言え、個室という少し気を()ける場を()たからなのか、のこちゃんのろれつが(あや)しい。


もっとも、いくらティハラザンバーの身体能力が高くても、のこちゃんの精神的な負荷(ふか)(はか)()れず、いつ折れてしまってもおかしくない状況(じょうきょう)である。


むしろ、よくここまで()っているとも言えた。


だが………


「いやっ、やっぱり気を(ゆる)めている場合じゃないですね!

チャムケアは絶対に(くじ)けないんですから、これからどうするべきなのか、聞きましょう聖女(せいじょ)のお姉さんっ」


ぐだりそうだったのも(つか)()、チャムケアによる情操教育(じょうそうきょういく)賜物(たまもの)で、のこちゃんは自力で立ち直った。


疾風(しっぷう)勁草(けいそう)を知るではないが、その人の持つ(しん)の部分を(うかが)えるのは、まさしくこういう時なのだろう。


やはり、子供向け作品の影響(えいきょう)(あなど)(がた)しという事である。


『ふふっ、強いな君は………その強さを信じて、やはりハッキリと言おう。

それほど遠くない未来、現在こうして君へ語りかけている()は、消滅(しょうめつ)するであろう』


「………ふぇ?」


のこちゃんは、(せい)ザンバー=リナの声が予想(よそう)を超えた事を言い出したので、理解(りかい)が追いつけず間の抜けた応答(おうとう)をしてしまった。


そんな様子を知ってか知らずか、(せい)ザンバー=リナは話を続けた。


『ふむ、そもそも君をティハラザンバーへ再構築(さいこうちく)する際に、(おお)ティハラと()のすべては、純粋(じゅんすい)(ちから)一度(ひとたび)変換(へんかん)されて失われたはずであった。

推察(すいさつ)するに、(あま)すことなくその(ちから)をその身体へ紐付(ひもづ)けようと"(おり)"の術式を()()んだため、()(たましい)些少(さしょう)ながら現存(げんぞん)してしまったのだろう』


ちなみに、まだのこちゃんの理解(りかい)は追いついていない。


『原因は恐らく、天空の女神(リナリーシア)様の神器(じんぎ)と思われる………

白銀鎧(しろがねよろい)(かぶと)、そして双剣(そうけん)は、()(たましい)と同化していたとは言え、元より()(ちから)(およ)ぶものではないのだからな』


それ以上は()にも分からぬと、(せい)ザンバー=リナの声が、(めずら)しく弱々しい口調(くちょう)になる。


「………でも、だったら、もう消えたりはしないんじゃないですか?」


その弱々しい口調(くちょう)に、のこちゃんのチャムケア(スピリッツ)刺激(しげき)されたのか、(わか)らないなりに(せい)ザンバー=リナを(はげ)ます様な相づちを打つ。


『くり返す様だが、残された(ちから)があまりに些少(さしょう)なのでな、(おの)ずと限界(げんかい)は知れよう。

それに、必要な時がくれば、結界(けっかい)で受け皿としたその(ちから)は、本体であるティハラザンバーへすべて(そそ)がれる』


「それじゃあ…」


『ふむ、なれば消えるその時までは、()が知りうる限りの事を君へ伝えよう』


聖女(せいじょ)のお姉さん…」


『その(のち)、そのティハラザンバーの身体で、君が一人で生きて行ける様に』


(せい)ザンバー=リナの声は、決意を(しめ)す様に、これまでの力強い口調(くちょう)へと戻った。


「………………」


しかし、のこちゃんは、もう次の言葉が出てこなかった。


続きます。

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