インタビュー
とある雑居ビルの一室。
狭い部屋の中の、簡易な応接用ソファ。
普段は物置のように使われているのだろうか、いくつかのポリタンクが隅に置かれている。
二人の男性が、腰を掛けて話を始める。
インタビューの件なんですが、こんな場所で、申し訳ない。
私、クローバー新聞の虚口と申します。
そうなんですよ。新聞の名前が縁起いいって、よく言っていただくんですよね。
えぇ、約束通りですね、インタビューの謝礼は300万円お支払いします。
いま、お見せします。
先渡しも、させていただきますよ。
ただ、疑うわけではないのですが、手元と机を手錠で繋がせていただきます。
お話が終わり次第、鍵をお渡しします。
これでいかがでしょうか。
気分の悪い思いをさせて、申し訳ない。
ですが、こちらにとっても大金です。
話が漏れるとまずいので、部屋の鍵も厳重に閉めさせていただきますね。
弊社の独占インタビューということで、一つお願いいたします。
こちらに来られることは、誰にも言ってませんよね。
えぇ、本当に困ったことになってしまうので。
警察にも言っていませんか。
はい、ありがとうございます。
あなたの無実を確認いたしましょう。
さっそくなんですが、お伺いさせていただきます。
証拠不十分で、ひとまず嫌疑から外れたということですね。
まずは、おめでとうございます。
警察の尋問などで、苦労されたことなどはありませんでしたか。
あぁ、やっぱりそうなんですね。
大変な思いをされたとのことで。
警察は不甲斐ないですね。
それでですね、今回のポイントとなった、当日の行動なんですが、当日は何をされていたんでしょう。
はい、はい。
あぁ、おひとりでドライブをされていて、途中給油に寄ったガソリンスタンドの監視カメラが。
なるほど、動かぬ証拠ですね。
はい、レシートもあると。
車は、そのあと処分されて、それで、立証まで時間がかかったんですね。
なるほどです。
車はなぜ、処分されたんですか。
あぁ、故障が多くて、タイミングは偶然だったんですね。
今回被害にあわれた方には、面識はございますか。
ないとのこと。なるほど、そうですか。
唯ですね、ちょっとこちらでお調べしたところですね。
お会いになられてますよね。
被害者の方と。
えぇ、しっかりと裏をとったお話です。
ここは一つ、腹を割ったお話をお願いできませんか。
なるほど、別れ話になったと。
それで、そのあとはきっぱりと別れて、お会いになられていないと。
そうですか。
ところでですね、当日、近隣でオートバイが盗まれたそうなんですが。
いえいえ、大丈夫です。
もし、ご納得いただけない部分は、記事には致しませんので。
えぇ、なるほど。
バイクには、乗られたことがないと。
免許もお持ちではないのですね。
あーあのですね。
学生時代、暴走族をされていたとか。
えぇ、こちらに写真が。
おっと、暴力は良くないですよ。
合成ですか。いえ、そうではないのですが、写りは悪いですね。
よく似た人かもしれません。
冷静になってください。
えぇ、警察に何か言うつもりもありません。
それにですね、私自身は、あなたの無罪を信じているんですよ。
えぇ、誰よりも信じています。
で、ですね。
本当のところ、どうなんでしょう。
車にガソリンを入れられた後、どうなさったんですか。
なるほど、家に戻られたと。
バイクで戻ったとしたら、犯行自体は可能ですよね。
いえいえ、可能かどうか、というお話だけで、決して疑ってはおりません。
なるほど、もしそうであれば、可能であると。
まぁ、男女間のトラブルもよくある話ですよね。
ところで、被害者の方は、婚約されていた方がいたというのは、ご存じでしたか。
あぁ、ご存じない。
二股ですか、まぁ、よく聞くお話です。
ズバリですよ。
真犯人は誰だと思いますか。
婚約者ですか。
相手は、ご存じですか。
まぁ、そうでしょうね。
ところで、あなたが犯人でないと、都合が悪い人は誰でしょう。
えぇ、よくお分かりじゃないですか。
ところで、私は誰だと思いますか。