7
「今夜は、この辺りでいいだろう」
馬を休めつつ、ほぼ一日移動し続けて山のやや開けた所で野宿をすることになった。
「野宿に不満はないか?」
火に薪をくべながら、アストラはティリスを気遣うように訊いた。
「いえ、街に降りるまでの間ですることもありました」
手馴れた手つきで、野菜のスープを作るために野菜をザク切りにしていくティリスの手つきは、慣れている証拠だ。
「なら、心配は要らなそうだな」
それからは、黙々と調理を続けて乾パンを出来たスープでふやかして食べると簡素な晩御飯は、終わった。
月が雲の合間からこぼす光は、優しく地上を照らす。
二人して、雑魚寝するように横になって寝ようとすると、
「アストラさんは、なんでこんなことしてるんですか?」
ふと、ティリスが尋ねた。
「理由か……」
しばらくの間を置いて、アストラは話し始めた。
「俺はさ、元騎士団所属の騎士だったんだ」
包み隠さず全てを話そうと決意した彼から告げられた事実は、ティリスに衝撃を与えるには十分だった。
「そうだったんですか……」
さっきまでとは、打って変わってやや嫌悪感を滲ませているのか硬い声音になる。
「続きを聞いて欲しい……。俺は、初めての魔女狩り、もとい逆殺に向かった時に行動を共にした騎士たちを全員斬り殺した」
「全員を……」
魔女狩りの愚かさが許せなかったと言って、ワインを呷った。
「五人を斬り殺しただけで、数倍もの人間の命を救えるなら、俺はこの手を血で染めてでも斬り続けるだろうな。何しろもう俺には失うものがないんだ」
最後は、一人毒づくように言った。
「失うものがないって…どういうこと?」
「いや、なんでもない……そのうちわかるさ」
今日はもうこれきりだ、とでも言うようにアストラは、ティリスに背を向けよるように横になった。
あとは、狼の遠吠えと薪の爆ぜる音が響くばかりだった。
翌朝、朝霧に包まれる峠を馬で駆け下りてコルトバ領最大の街グルノーブルの街へ入った。
コルトバ領と言っても男爵領だから、街もそこまで大きいわけじゃない。
ひと騒ぎ起こしたらすぐにも男爵麾下の部隊が駆けつけてきそうだ。
「とりあえず、男爵の屋敷の様子でも見に行くか」
騎士団が魔女狩りに来ていれば、この土地を治める男爵の屋敷に敷地を借りて駐留するだろう。
街の中央の広場に向けて、馬を進めることにした。
それにしても、街に入ったときからいやに静かだ。
朝の活気を感じさせない。
「やけに静かですね」
ティリスも何か勘づいたらしい。
「あぁ、そうだな」
石畳の道を街の中央に向けて進み中央の広場が見渡せる場所に来たとき、俺たちは異変に気づいた。
「何かの焼ける匂い……」
ティリスの一言が事態の核心をついた。
どうやら、もう遅かったらしい……。