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魔女の守護者  作者: 袋石ワカシ
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 階段を降りると廊下があった。

 いくつか部屋があったが、どの部屋に入ったらよいかが分からなかったのでアストラさんを待つことにした。

 内装は、木でできており薄暗いランプの照明が辺りを照らしている。

 私は、いくらか落ち着きを取り戻した。

 心が癒えたわけじゃない――眼を閉じれば思い出されるのは昨日の光景。

 あの十字架は誰かを括り付けて火刑に処すためのものだと思う。

 誰が命を落としたのか……考えたくはなかったけどあの村の長である父、そしてその妻である母は多分この世にはいない。

 考えたって仕方のないことだ。

 私には、どうすることもできなかったしもう過ぎてしまったこと。

 でも、私は両親とともに帰るべき家を失ってしまった。

 視界がぼやける。

 泣いてばっかりだな、私。

 

 「待たせた」


 階段を踏みしめながらアストラさんが降りてくる。


 「……ぅ…はい」


 嗚咽をこらえて返事をする。


 「そこの部屋を使うといい」


 アストラさんは、階段を下りて右手の部屋を指示した。

 

 「エレオノアが何かしら説明してくれるだろう。困ったことがあったら何でも訊くといい。彼女は面倒見がいいからな」

 

 エレオノアさんというのが誰かはわからなかったがお礼を言っておかなくちゃね。


 「……ありがとうございます」


 そう言うとアストラさんは、頷いて階段を登っていった。

 

 「それと……」


 彼は手すりに手をかけてこちらを振り向き


 「失ったものを数えるな。自分のやりたいこと、欲しいものを見つけろ」

 「はい…」


 その言葉は、なぜか私の心の中に響いた。

 







 ここに着いた時には、綺麗な夕日が窓から差し込んでいたが、目を覚ますと辺りは真っ暗でどれだけ寝ていたのかもわからないが結構、寝てしまった感覚があった。

 部屋のベットに横たわってからの記憶は何もない。

 コンコンコン―――


 「起きてますか?」


 部屋の戸をノックする声とともに中の様子をうかがう声が聞こえた。


 「あ、はい。今、開けますね」


 部屋の戸には、鍵が付いている。

 中から扉を開けると、メイド服を着た銀髪の女性が立っていた。

 女性といっても自分より四つか五つ上くらいに見える。

 整った顔立ちは女性の自分から見ても羨ましいほどだし品性を感じられる。

 アストラさんと同じくらいだ。


 「こんばんは、ご飯の準備ができましたので呼びにまいりました」

 「あ、わざわざありがとうございます」


 彼女に先導されて食堂、に入った。

 時計は、九時半を指している。

 四人掛けのテーブルがカウンターと少し離れたところにあってそこには、アストラさんとメイド服を着た金髪の女性が腰かけている。

 私たち以外にはお客さんは誰もいない。

 待たせちゃったのかな。


 「こっちですよ〜」


 金髪のメイドさんが自分の横に座るよう手招きをしてくる。

 私を案内してくれた銀髪のメイドさんは、アストラの隣に腰を下ろした。


 「そろったな、いただくとしよう」

 

 アストラさんの一声のもと、二人の女性が料理に手を付けた。

 テーブルの上には色とりどりの野菜の入ったサラダ、トマトソースのパスタ、アヒージョなどが並べられている。


 「新しい人が来たんだからさ、自己紹介しようよ。あ、私にもワインちょうだい!!」


 金髪のメイドさんがアストラさんにワイングラスを向けながらきりだした。


 「そうだな……」


 アストラさんは、グラスに注ぎながらそう了承した。


 「じゃ、マスターからね」

 

 アストラさんは、しばらく視線を彷徨わせると自己紹介を始めた。


 「この喫茶店兼レストラン兼バーを営業しながら……各地方を巡っている」

 

 各地方を巡っている理由は、父とアストラさんの話を聞いたところによると魔女狩りから人々を守るためだということは、想像がついた。


 「じゃあ次は、エレオノア!!」

 「私の名前は今、エリザが言った通りエレオノアといいます。この店の手伝いやこの家の管理などマスターの仕事ト生活を手伝っています」


 エレオノアさん……貴族につくような綺麗な名前ですね。


 「次は私ね!!名前はエリザって言うの。日頃していることは、エレオノアと変わらないよ。ん〜気の利いた一言を言おうと思ったけど思いつかないよ〜。じゃ、最後は……名前わかんない…あなたね」


 ビシッと指でさされる。


 「えっと私はティリアって言います。ロッツィ村に住んでました。これからお世話になります。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げる。


 「よろしくお願いします」

 「よろしくね〜って髪の毛、食べ物に入っちゃうよ」


 ハッとして頭をあげると髪の毛にトマトソースが付きそうだった。

 そのまま、談笑しながら料理を食べた。

 温かな味は、何か心にしみるものがあって優しさのようなものに包まれた気がした。


 

 


 




 翌朝―――


 「今回も留守は頼んだ」


 シックなデザインの外套に身を包み荷物の入ったバッグを肩に担いで青年は、見送る二人にそう告げた。


 「いってらっしゃいませ」

 「気を付けてな〜」


 見送る二人のメイドの表情は心配するものではなく信頼するそれだ。


 「ああ」


 ではな、と扉を開けて出て行こうとした彼に待ったをかける少女―――


 「わ、私。やりたいことを見つけましたっ!!」


 ん?と振り返る青年―――

 

 「私と同じ思いをする人を少しでも減らすこと、です!!」

 「そうか」


 少女は眦を決して覚悟のほどを示すようにそう言った。


 「だから、私も連れて行ってください」

 「馬はある。覚悟のほどは聞くまでもなさそうだな」


 好きにしろ、と言外に彼は告げた。


 「はいっ」


 二人のメイドは、泊めるような無粋な真似はせずにこやかにその姿を見送った。



自分で作った夕食がそのまま作品に出ちゃいました。ようやく二人の旅が、物語が始まります

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