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魔女の守護者  作者: 袋石ワカシ
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 途中で野宿をして大きな街へと入った。


 「ここはどこですか?」


 よく整備されていてきれいな街並みだった。

 

 「エイルンラントだ」


 アストラさんは短く答えた。


 「もうじき俺の家に着く」


 ようやく、馬から降りることができる。

 馬には、村でたまに乗ってはいたがここまで、長い距離を乗ったことはなかった。

 慣れない姿勢が長く続いたので私の背中は悲鳴を上げている。

 早く、横になりたいな。

 夕暮れの街の大路は家への帰りを急ぐ人、夕飯の材料の買い出しに行く人などでごった返していた。

 無論、馬車なども多く走っている。

 雑多とした雰囲気が、何とも新鮮だ。


 「私、こんなに活気のあるところ、初めてです」


 今までに家具を売りに山のふもとの街に行ったことは何度もあるがここまで、賑わってはいなかった。


 「そうか」


 何が面白かったのか、はたまた嬉しかったのかアストラさんは、ふっと笑うと短く相槌を打った。


 「お、旦那ぁ、随分とかわいい子を連れてるじゃあねぇか?」


 いかにも職人だという風体の男にアストラさんは話しかけられていた。

 可愛いと言われると少しこそばゆい。

 

 「あぁ、彼女は知り合いの娘だ」

 

 魔女狩りから救ってきたとはさすがに答えられないのね……。


 「お、これじゃあねえんだな?」


 その男は、ニカニカと笑いながら小指をたてた。


 「違うな」

 「そうか生き遅れるんじゃねぇぞ?邪魔ぁしちまってわりぃな」

 「大丈夫だ、悪いと思うなら今度また店に寄ってくれ」


 アストラさんは、手を振ってその男と別れた。

 お店を経営してるのかしら……。


 「今の人は?」

 「店の客だ。常連というほど常連ではないがな」


 やっぱりお店かなんかやっているのね。


 「ついたぞ」


 アストラさんがそう言うと石造りの小洒落た建物の前で止まった。

 看板には珈琲カップのイラストが描かれているから喫茶店だ、きっと。


 「君は裏口から入ってすぐの階段を降りろ」


 建物の裏手には、馬小屋がありそこに馬を繋ぐとアストラさんは店の表へと向かった。








 店に来客を知らせる鈴が鳴った。


 「いらっしゃ……おかえりなさいませ、マスター」


 肩口でミスリルのような毛色の髪を肩口で切り揃えた赤眼のメイドは、深々と頭を下げ


 「おかえりなさ〜い」


 ブロンドヘアを胸元まで伸ばした碧玉色の目をしたメイドは元気にあいさつをした。

 彼女たちは、キッチンスペースで夜の営業に向けて下拵えをしている最中だ。

 アストラは、この喫茶店の主人なのだ。


 「ああ、帰った」


 店内には、客が三人。


 「お、マスターおかえり、今日はどこ行ってたんだ?」


 そのうちの一人がカウンターで親しげに声をかけてくる。

 

 「山にウサギでも狩ろうと思っていったんだが存外、逃げ足が速くてな」


 アストラが彼に対して話したことは無論嘘だ。

 本当のことを言ってしまえばそれは問題案件になってしまう。

 それも、命が危ぶまれるほどの。


 「いつもすまし顔のマスターがウサギ一匹も狩れないとは恥ずかしいねぇ」


 男の手が、親しげにアストラの肩を叩く。

 

 「いや、道中で猪の群れに遭遇したがな」

 「あれは、大きくなると臭くてかなわねぇ」

 「その群れも食ってもおいしくないだろうから三頭ほど仕留めたが持って帰るのはやめた」


 アストラの言う猪の群れというのは昨日、ティリアの村に魔女狩りでやってきた騎士団のことだ。


 「はい、マスターもいるのでサービスです。毎日ありがとね」


 金髪のメイドが下拵えの手を止めてエールを二杯、二人の前に置いていく。


 「お、こいつはありがてえ、毎日来てるだけのことはあるな」

 「ええ、大切な常連さんです」


 二人は、あっという間に杯を空けた。


 「そういやよぉ、最近コルトバ領の方じゃ孤児が増えてるんだってな、しかも聖教騎士団が送り込まれた。エリザちゃん、なんかつまみとエールもう一杯!!」

 「あいよ〜」

 

 金髪メイドは、一口サイズにカットされたポテトを油の中に放り込んでいく。


 「奴隷商は大忙しか?」


 アストラは、空になった杯を見つめながら尋ねた。


 「いや、ところがそうじゃあねぇ」

 「なるほど」


 奴隷商人が手を付けない孤児―――それが意味するところは明確だ、「救済」の対象だ。

 杯からアストラは、顔を上げると席を立った。


 「俺は、やることがあるからそろそろ失礼するよ」

 

 そう言ってアストラは、隣の男の前に金貨五枚を置いて店の奥へと去っていった。

 

 

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