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村に入ってきた騎士団は三十余名を数えるほどだ。
「ロッツィ村の民に告げる!! これより魔女の捜索を行う。家屋の中にいる者どもは速やかに家屋から出て集まれ。怪しい動きがみられた場合は異端に与するものとして救済を与えることとなる!!」
騎士団の先頭にいた煌びやかな白の鎧を纏う男が声高らかにそう告げた。
村の住民たちが救済、すなわち死だけは勘弁とばかりにそれぞれの家から出てきて村長宅のそばの広場へと集まる。
「ふん、抵抗はしないのか……誰かが知恵を与えたかは知らんが殊勝だな」
白鎧の男は、後ろにいる騎士たちに目くばせをする。
すると、騎士たちは集まった村人を囲むようにしそれ以外の騎士は馬を下りどかどかと村人の家々へと押し入っていった。
「屋根裏も床下も隈なく探せよ」
白鎧の男は、包囲されたことと先の読めないことに怯える村人たちを睨みつけながらそう言った。
数十分ほど捜索は行われ無遠慮に斧で斬りつけられ壊される家もあった。
「ザイラス様、報告申し上げます」
捜索を行っていた騎士の一人が、白鎧の男の前に跪き捜索の結果を報告する。
「これといって飾り立てるような物はなく隠している物、人はありませんでした」
「ふん……気に入らん」
白鎧の男は、横柄に顎をしゃくり村人たちをわずかな異変でもないかと凝視する。
そして―――
「村長、女が特に子供が少ないように感じるがこれはどういうことだ?」
いやらしく口角を吊り上げ白鎧の男は村長を睨みつける。
「そ、それは……おなご共は、家具を収めに下の村へと下っておりまして……」
村長は、怯えてはいたがそれでも事前に答えを考えていたのかそれほど詰まることなく答えた。
「そうか、フハハハハ」
白鎧の男は、ことさら大声で笑い声をあげた。
まわりの騎士たちがその意図をくみ取ったのか下卑た笑みを浮かべる。
「救済が必要なようだなぁ?」
村人たちは「救済」という言葉を聞き怯えたのか奇声を上げる者や泣く者が続出する。
「お前ら、救済の用意をしろ。村長の家族、それから奇声を上げたものを連れ出せ」
槍で該当する村人を小突く騎士、乱暴に襟首をつかんで投げ飛ばす騎士、引いてきた荷車から木材を降ろし十字架を組み立てる騎士。
「命だけはお助けを!!」
「止めてくれぇ、死にたくねぇっ!!」
村の広場は阿鼻叫喚の坩堝だ。
次々に、「救済」の対象が十字架に括りつけられていく。
そして―――
「救済を行う。己らの罪をその身をもって償い浄化するのだ」
白鎧の騎士の一声のもとに、十字架に次々と火がつけられた。
悲鳴や嗚咽、村の広場は阿鼻叫喚の坩堝と化す。
山からその様子を見守る二人。
「ぅぅっ……」
憐れむような顔で村を見下ろす青年、うつむき血が滲むほど強く唇をかむ少女―――
二人の眼下には、もはや形骸化し意味を成さない「救済」にさらされる村がある。
悲鳴と嗚咽、そして燃える十字架。
悲惨なこの光景は、どこにでもありふれた光景―――けれどもありふれていてはいけない光景。
誰がための「救済」なのか。
そもそも何をもって「救済」なのか。
魔女という得体のしれないもの、想像上の産物あるいは伝承や伝説上のものという実際するのか不明なものであると判断され命を落とす無辜の民。
災厄や都合の悪い事態に遭遇したとき実際に何かが誰かがその罰を追わなければ気のすまない人間の差がゆえに「救済」が横行する世界―――
「本当に救済が必要なのはこの世界だろうに……」
青年は、痛ましさに満ちた言葉を吐き顔を上げることができない少女とともにその場から去っていく。