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「ん………」
朦朧としていた意識がだんだんとはっきりしていくのが分かる。
大きな背中が前にはあった。
なんで私は、この人に連れられているのだろう。
今頃はきっと家にいたはずだ。
あたりを見回すと山また山だ。
ここはどこなのだろう、前の背中に訊くことにした。
「…なんで私はこんなところにいるんですか?」
前の背中はこちらに一瞥くれると話し始めた。
「まず俺が誰かは分かるか?」
わかるようなわからないような……知らない人でないことはその声を聴いてわかった。
「昨日泊めてもらったアストラだ」
あの人か…でもなんで私がこの人に連れられてるんだろう…。
「俺は、君の両親に頼まれて君を魔女狩りから逃がすべく村から連れ出した」
え……じゃあ、父さんと母さんはどうなるの……?
確か、女性が少ないと男性まで殺されてしまうって昨日言ってたよね…?
村の若い女性はほぼ逃げたはず…じゃあ、やっぱり……。
私は私は……最後まで一緒にいたかったのに……。
私はアストラさんの肩をつかんで大きく揺さぶった。
「お願い!!引き返して!! 今すぐに…これじゃあ父さんや母さんが!!それに村の人も……」
それは最悪の可能性だが今の状況では現実に起こりうる話だ。
「それは……できない……」
アストラさんは止まることなく馬を進めた。
「どうして!?なんでよ!!」
涙が頬を伝い服へと落ちる。
「君は村に戻って何かできるのか?」
「…それは……」
できることは何もない……。
どうしようもないことなのは頭で理解できた。
「君を村に戻しても、犠牲が一人増えるだけだ。仮にも村の人たちが犠牲になってしまったとしたとき彼らが命を賭けてまで逃がした命を無駄にすることになる。そんなのは彼らも望んじゃいない」
その言葉に私は何も言い返せなかった。
「でもっ……!!」
「わかった。村が一望できるところを探す。君は馬に乗れるか?」
騎士団のいるところに近づくわけだから見つかったときに早く走れるほうがいいから馬に乗ってってことかな。
「馬は乗れます。ふもとの町までは家具を届けに何度も行きました」
そんなにとばしたわけじゃないけど。
「なら、大丈夫そうだな」
アストラさんは私の体を括り付けている紐をほのき始めた。
そして後ろの馬に積んでいる自分のだろう荷物を降ろしてっ私の乗るスペースを作った。
自分の荷物は自分の馬に固定しなおしている。
「さ、そろそろ行くぞ」
そういうと馬に跨り馬首を返して元来たほうへと引き返し始めた。
しばらくすると村が一望できる場所についた。
あたりの木が個々だけ開けていて見晴らしがいい。
あの村に住んでいたのにこんなところは知らなかった。
陽はすでに陰り始めていたが、まだ午後に入って少し経ったくらいだ。
「来たな……」
アストラさんの目線を追って、村の向こうにある谷筋に目をやる。
わずかに陽の光を浴びてか輝くものが見えた。
騎士団の装備する物の金属が太陽光を反射したのだろう。
「本当に見届けるのか?」
アストラさんが私の覚悟のほどを確かめるように問う。
「……はい」
本当は、自分の村や両親が焼かれるかもしれないと想像すると一刻でも早くそれが見えないどこか遠くまで逃げたいと思う。
でも、それじゃダメな気がした。
もしかしたらという思いはあるし、何よりも何も自分ができることがないからせめて見届けることぐらいは、祈りくらいはするべきだと思うから。