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ラブコメの当て馬ライバルは負けヒロインを幸せにしたい  作者: みかん屋
第五章 当て馬ライバルは張り切らない
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第30話


 激闘、というよりチームメイトの怠慢に起因する過重労働を乗り越え、ようやく体力が回復した。

 俺がバレー部相手にあれだけ善戦できたのは、チームメイトの信頼に応えるため。などとは拷問されようが口にしないし思わない。


 やはり、久遠やマエ、その他クラスメイトの応援によるものだ。

 なら、俺も礼をしなければならない。


 これからちょうど、女子の試合が開始されるところだ。

 応援に行かないなどという不義理な真似は出来ない。


 もっとも、あのバカ五人組は不義理な奴しかいないようだ。だからモテないんだろう。

 だが、それをわざわざ教えてやることはしない。割とムカついているから。


 体育館内の反対側コートへ移動する。そこではすでにクラスメイト達がコート内に入り試合開始を待っていた。


「よう、久遠」


 コートのそばには女子バレーの補欠メンバーである久遠が立っていた。


「ナルキ……。もう大丈夫?」

「まぁ、疲れてはいるが。この後試合もないしな」


 先ほどまで座り込んでいた俺を見ていた久遠が心配そうに言ってくれた。


「さっきはありがとうな。お前の声援はバッチリ聞こえていたぞ」

「いや、声出してないし」


 久遠は苦笑しながら言った。

 俺は視線をコートの方に向ける。うちのクラスのバレーメンバーにはマエと三倉が含まれている。

 俺の視線に気付いた三倉が、隣に立つマエの肩を叩きこちらを指さした。


 きょとんと不思議そうな顔をしていたマエと視線が合うと、彼女は満面の笑みを浮かべてこちらに手を振りながら俺の名前を呼ぶ。


「あ、ナルくーん!」

「がんばれよー」


 それに応えるように声援を送ると、他のメンバーたちもこちらを向いて手を振って来る。

 俺も手を振り返してやると、はしゃいだ様子でじゃれ合っている。


「楽しそうだな」

「比較するのがあの男子チームだとね……」


 久遠は俺の苦労をわかってくれているようだ。理解者が居てくれるというのは嬉しいものだ。


 俺はさらにコート周辺に目を向ける。すると、体育館内の一角に臨時で設置されている給水場に二上双葉の姿を見つけた。

 額に汗を浮かべて働きながらも、なお爽やかで清廉な雰囲気を纏う彼女の姿は興味を惹かれる。


 試合開始の笛が鳴った。

 クラスメイトの応援をしながら俺は二上双葉について考えを巡らせていた。


 正妻ヒロイン、二上双葉。

 まともに会話を交わしたのは今日が初めてだった。俺は入学以来、彼女を警戒していたが実際に彼女と話をすることになれば警戒心など全く意味がなかった。


 あの纏うように漂う落ち着いた雰囲気、さりげない気づかい、柔らかな物腰、それは全く嫌味を感じさせずに発揮されている。


 改めて思うが強敵だ。

 ラブコメの神に愛されているがゆえに正妻ヒロインの座を射止めたわけではない。それに見合うだけのスペックを持つからこそラブコメの神が愛するのだ。


 文武両道、才色兼備の完璧美少女。それは多くの人が認めるだろう。

 しかし、完璧であるがゆえに、すべての人から好かれる訳ではない。


 うちのクラス内の一部、そして他クラスではそれより多い数の女子生徒が彼女を目の敵にする。

 男に好かれ過ぎるが故の苦労と言うことだろう。

 持たざる者は持っている者に嫉妬する。それは物質だけでなく精神面においてもそうなのだろう。


 その点は同情する。

 本人に非はないのに、恨まれるなど理不尽すぎる。

 だから、俺も彼女を漫画内では正妻ヒロインだったからと警戒して疎んじるのは慎むべきかもしれない。


 ほだされている。と指摘されればそうだと答えるしかない。

 それでも、俺は非の無い人を嫌うことも、努力する人間を疎んじることも出来ない。

 それらは報われるべきだからだ。


 それを否定するようなことをすれば、俺の“久遠の恋が成就してほしい”という願いも否定することになるからだ。


 そんなことを考えているうちに、試合が終了した。

 結果はうちのクラスの敗北だ。


「残念だったな」

「まぁ、こんなものでしょ」


 補欠の久遠の感想は淡々としたものだった。もっとも、実際に試合をしたメンバーたちも全く悔しがっている様子はない。

 球技大会に対する女子のやる気はこんなものだろう。


「おつかれ、惜しかったな」


 コートから戻ってきたマエと三倉に声をかける。二人もまた悔しがる様子を見せることは無く、むしろ楽しそうに笑っていた。


「応援ありがとナルくん」

「俺も応援してもらったからな。お返しだ」


 汗を拭うためか、マエがタオルを拾おうとする。

 体をかがめようとするとき、額に流れる汗が顔を伝い、そのまま零れた。

 それを受け止めたのは汚れの無い真っ白な体操服だった。

 汗に濡れた体操服は、肌にぴったりと張り付いている。それは、マエの体の線をはっきりと浮かび上がらせており、特に胸元のラインが強調され、その一般的な平均を超えていることが視覚情報だけで判断できる大きさがはっきりとわかった。

 体をかがめた際にも、それはひざに押し上げられて形を変化させる。


 俺は咄嗟に、いやもうバッチリ確認した後に咄嗟も何もないのだが一応視線を天井に向けた。

 すると、天井の鉄骨にバレーボールが二つ並んで挟まっているのが見えた。


「どっちにしろバレーボールか……」


 反射的にとんでもないことをのたまった気がする。平常心を失っていたのでもう自分でも何が何だかわからない。


「……何してんの?」


 俺の不審な行動に気付いた久遠が下から見上げている。


「……昼飯のこと考えてる」


 言い訳の言葉も精彩を欠いたが、久遠はどうやら気付いていないようだ。


「だよね、おなか空いたよね」


 エネルギーを消費したマエが賛同する。

 すると、それを聞いていた女子バレー参加者のメンバーが話しかけてくる。


「女バレのメンバーでお昼一緒に食べることになったけど、マエも行くでしょ?」

「あ、いくいくー」


 クラスメイトの一人、サイドポニーの女生徒がそう言った。

 すると、サイドポニーの子は俺に顔を向ける。


「成嶋くんもどう? 一緒にお昼」

「俺も……?」


 予想外のことだったので反射的に聞き返してしまった。


「成嶋くんもバレーのメンバーじゃん」


 女子バレーではないけどな。そんな野暮なことは言わなかった。

 そして、この場に居ない男子バレー参加者バカ五人組の存在についても指摘しない。


「じゃあ、せっかくだし」

「おっけー! みんなー、成嶋くんも行くってー!」


 俺が快諾すると、サイドポニーの子は残りのメンバーに向かって大声で報告する。

 そして、体育館を移動し昼食を調達して屋上へ向かう。


 俺は、マエ達出場メンバー6人に久遠と他1名の補欠という華やかなメンバーに囲まれた昼休みを楽しんだ。


 その後、午後からはクラスの野球、ソフトボール組の応援に精を出す。

 バレーとは違い、男女ともに明日の決勝まで勝ち残った。


 初日の日程は終了したが、球技大会はまだ終わらない。


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