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ラブコメの当て馬ライバルは負けヒロインを幸せにしたい  作者: みかん屋
第五章 当て馬ライバルは張り切らない
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第27話


 戦場に出征する兵士の気持ちを考えたことはあるだろうか?

 俺は今それを考えている。

 まぁ前提条件次第でどういう気持ちを抱いているのかは変わってくるだろう。

 少なくとも、勝利の約束された戦場に向かっている訳では無いのは確かだ。


 俺の相手は何せラブコメ戦争の勝者だ。


 正妻ヒロイン、完璧美少女、負けヒロインの墓の上で踊る女、最後のは違うか。

 ともかく、ラブコメの神に愛された存在、それが二上双葉だ。


 今はまだ何のアクションも無いが、下手にきっかけを与えたら因果律を捻じ曲げて勝ち確ルートに入る可能性は十分に考えられる。


 久遠が壱岐と結ばれる未来のためにも、久遠を幸せにしてやるためにも、何としても二上双葉に付け入る隙を与えるわけにはいかない。


 昨日は7時間しか寝ずに対策を考えたのだ。

 バッチリとはいかないが、勝算は十分だ。


 俺はそんな決意を胸に、対して眠くもない瞼をこすりながら教室の扉を開けた。


 その日の授業は気が気でなかった。しかし、ただ座して戦いの時を待つなど愚の骨頂。

 戦いとはそこに至るまでにどれだけ準備を重ねたかが大事なのだ。


 休み時間を利用した工作活動も予定通りこなし、いよいよ決戦の時が近づく。


「それでは週末の球技大会の参加種目を決めていきたいと思います」


 本日最後の授業時間、ホームルーム。その時間を利用して行われる球技大会の参加種目決定。それを取り仕切るのが1年C組クラス委員長、二上双葉だ。


 教壇に立ち、クラス全員の視線。半分はアホな男子の熱い視線を浴びてなお、その可視化されているかのような清楚な雰囲気、身に纏う可憐さに曇りは無い。


「皆さんご存知と思いますが、念のため概要を説明しますね」


 そうして、二上双葉は球技大会の人数割りの説明を始めた。


 種目は二種類、野球とバレーボール。

 野球は9名、バレーは6名が出場するわけだが、C組は男女ともに20名ずつ。当然、余りが出る。

 余った5人はそれぞれの競技の補欠に割り振られる。


「――という訳です。では、早速ですが参加種目を決めていきます。それぞれ参加したい種目に名前を書いてください」


 そう言うと二上双葉は黒板に球技大会の競技を書いた。国語教師にも引けを取らない堂々とした文字の書きっぷりはそのスペックの高さを物語っている。


 そんな彼女に群がるように男子生徒たちが黒板に殺到し、それを呆れた顔で女子生徒たちが眺めている。


 もっとも、俺や壱岐のように二上双葉に興味の無い人間。アキトのような彼女持ちは例外だ。


 その残りの面々、まぁつまり女子生徒たちなのだが、参加する競技についてそれぞれの友達グループ内で会議が行われている。

 女子高生社会の面倒事を垣間見ながら、黒板前が落ち着くのを待つ。


 すると、グループを抜けだしてきたマエが俺の前の席に座った。


「ナルくんは何にするの?」

「まだ決めてない」


 マエにはそう答えたがそれは正確ではない。まだ決まってないでは無くまだ決められない、が正解だ。


 ここで、昨日の夜に思い出した漫画の展開をもう一度振り返る。

 漫画では壱岐はバレーボールを選択していた。しかし、男子バレーは早々に敗退。時間を持て余していた壱岐はクラス委員の仕事をしていた二上双葉に手伝いを頼まれる、という展開だ。


 つまり、このままでは壱岐と二上双葉のイベントが発生する可能性がある。

 それを阻止するにはどうすればいいか?

 壱岐にバレーボールを選択させなければいい? 半分正解だ。


 しかし、漫画では壱岐は自分の意思でバレーを選んだのではない。残った選択肢がバレーだっただけだ。

 この組み分けが漫画通りに行くかどうかはわからない。これまでの俺の行動が何らかのイレギュラーを産んでいる可能性は否定しきれない。


 考えても見れば、俺はこれまで久遠のイベントを二つも潰し、二上双葉の出会いのフラグをへし折った。漫画の重要な流れを大いに変えている。

 その結果、どのような事態になっているかは想像できない。

 まずはそれを見定める。


 漫画通りなら、俺こと成嶋鳴希は野球を選んでいたはずだ。となるとアキトもセットで付いてくる。

 俺とアキト、壱岐以外の男子生徒が選び終わったとき、野球に二人、バレーに一人の空きがあれば漫画通りだ。


「ナルくん、なんか考え事してるでしょ」

「わかる?」


 俺の前に座り、椅子はそのまま体だけ反対に向けているマエが俺の顔を覗きこんでいる。


「わかるよ。だって悪い顔してるもん」

「あー……」


 どうも俺はそういう癖があるらしい。この間もそれでいじられた気がする。


「別に悪だくみじゃない。けど、誤解されるのも何だから気を付ける」

「ダメって言ってるんじゃないし! そのままでいいから!」

「お、おう」


 なぜか必死に止められてしまう。まぁ、マエがそういうなら別に問題があるほどじゃないんだろう。


「あ、そうだ。飴食べる?」


 マエは思い出したようにポケットから袋入りの飴を取り出してくる。

 どこか嬉しそうに差し出すそれをほぼ反射的に受け取ってしまった。


「受け取っといてなんだが、一応授業中だぞ」

「じゃあ、食べないの?」

「食べちゃうんだなこれが」


 ソーダ味の飴が口の中でシュワシュワと溶け始める。食べ過ぎると身もだえしそうになる独特の感覚は少し癖になる。


「ところで、マエは何にするんだ?」

「うーん、正直なんでもいいからミクと一緒のやつかなー」


 まぁ、運動部に入っているならともかく普通はどっちでもいいのかもな。


 そうこうしているうちに黒板前の喧騒が落ち着き、男子生徒たちが引き上げ始めていた。

 俺は黒板に描かれた結果を見て安堵した。


「予想通り、いや予定通りだな」


 ようやく自席を立ちあがり黒板前に向かう。そして、俺はバレーボールの最後の枠に自分の名前を書き入れる。


 これで、壱岐のバレーボール参加の目は消えた。

 さらに、もしも野球が漫画の展開通りにいかずに即負けしても、壱岐はアキトと一緒に行動するから二上双葉と二人だけになることもない。


 完璧な作戦が完遂された。


 祝勝会のメニューを何にするか考えながら、俺は残りの時間を過ごした。


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