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黒と白の関係 中編

ついに恐れていた日が来てしまった。


学園祭当日まで一週間を切り、俺は黒と一緒に手芸部の部室へと向かっていた。


「いよいよ白の女装姿とご対面か〜。」


朝から黒はからかうようにこればっかり言ってくる。

仮縫いが終わったので、一度試着してもらって細かな修正をしたいと言われたのだ。

いつも女に間違われてイヤな思いしてるっていうのに、自ら女装する羽目になるだなんて……


黒は女装した俺を見て笑いまくるに違いない。

もうため息しか出てこない。



「今日の通し稽古はちゃんとキスシーンもやるからな。」



黒が歩きながら俺の頭をくしゃくしゃっとした。

ううっ…やっぱやるんだ……


キスシーンはずっとやった体で済ませていた。

でも今日は舞台で出来たばかりの大道具をバックに照明を入れての本格的な通し稽古になるので、そういうわけにもいかない。

ただのマネだし相手は黒なのに考えるだけで恥ずかしい。

今日はサイアクの厄日だ。


「そんなに怖がんな。優しくしてやるから。」

「黒…そういう冗談言うのマジでやめろっ。」





手芸部が作ったシンデレラと王子様の服は高校生が作ったとは思えないくらい豪華で本格的なものだった。


シンデレラのドレスは水色がベースのプリンセスラインと呼ばれるシルエットで、スカートの部分が腰から裾にかけてふんわりとボリュームのあるとても可愛らしいデザインだった。


王子様の方は上がホワイトでズボンが漆黒の軍服系のタイトなデザインで、肩章や肩帯、背中には深紅の長いマントを羽織り、すごくクールで格好良かった。



「まずは黒君ね。」

部長に連れられ、黒がカーテンで仕切られた試着室へと入って行った。

黒は身長が高いし整った顔立ちだからきっと似合うだろうな。

にしてもこのドレス……

俺は先程から気になっていたことを咲希ちゃんに質問した。


「このドレス胸がある感じだけど、俺胸ないよ?」

「……うん、そこはまぁ…これを……」

咲希ちゃんが遠慮気味に分厚い胸パットが入ったチューブトップのブラを袋から取り出した。


「ムリムリムリムリムリっ!」

「でも胸がペタンコだとおかしいからっ。」


いくら咲希ちゃんの頼みでも女物の下着を付けるくらいなら死んだ方がマシだっ!

手芸部の部員全員から拝み倒されたのだが、俺は断固として首を縦には振らなかった。



「白っ今さらジタバタすんなっ。往生際が悪いぞ。」


振り向いた女子部員達から一斉に黄色い悲鳴が上がった。

黒が王子様の服を身につけて現れたからだ。

さすが黒……思ってた以上に着こなしている。

どこからどう見ても物語に出てくるような美形の王子様だ。

どことなく気品までただよっている。



黒が俺の前まで来てうやうやしく頭を下げ、片手を差し出してきた。


「姫、次はあなたの番ですよ。」


また女子部員達の悲鳴が上がる。

すっかり役になりきってやがる…ちょっとドキッとしちまったじゃねぇか……


これはもう…覚悟を決めるしかなさそうだ。




「黒君、通し稽古の前に王子様のシーンだけ確認しときたいから今すぐ体育館まで来てくれる?」

監督が部室のドアを開けて入ってきた。


「俺もう王子のセリフは完璧だけど?」

「立ち位置わかってないでしょ?サボりまくってたから。」


「でも今から白が……」

「いいからっ!時間ないからすぐ来るっ!」


黒は王子様の服を脱がされ、監督に体育館へと連れてかれてしまった。

俺の方を見ながらずっと文句をぶうたれていた。

どんだけ女装姿が見たかったんだあいつは……



「黒君て怖いイメージあったけど、なんだか違うね。」

咲希ちゃんが俺にドレスを着せながらクスクスと笑っている。


「黒は誤解されやすいんだよ。本当はすごく良い奴なんだよ。」

「白君と黒君ていつも一緒にいて仲良いよね。」

「まあ小学校からの腐れ縁だからね。」


このスカートの下に着るパニエって足に絡みつくな。

ヒールも歩きづらいし……

本番でちゃんと踊れるんだろうか…… ?



「……白君と黒君て…その…付き合ってるの?」


確認のために軽くボックスを踏んでいた俺に咲希ちゃんが話しかけてきた。


「ごめん、なに?よく聞こえなかった。」

「ううんっ、なんでもないっ。白君すごく似合ってる!可愛いっ!」


鏡に映る自分を見て思う……

過大評価でもなんでもなく超可愛いと。



俺が試着室から出ると女子部員達から悲鳴が上がった。

黒の時の悲鳴とは色が違い、目がハートマークになってるような子は一人もいなかった。当然か……

可愛い可愛いと連呼されてしまった。


黒がいなくて本当に良かった。



「本番ではこれにカツラとお化粧もするからねっ。」



マジか……こんなの、男からの告白がさらに増えるんじゃね?

俺は女の子からモテたいのに……

彼女を作る夢がますます遠ざかりそうだ。













体育館に行くと、舞台の上で黒が代役の男子生徒を相手にキスシーンの練習をしていた。


「もうちょい顔近づけられる?してるように見えない。」

「ヤダよ、こいつ鼻息荒いっ。」


その男子生徒は俺と身長は同じくらいだけど横幅が五倍くらいある相撲部だった。

なんであれが代役?

女子がするわけにはいかないのはわかるけど……

舞台の照明が熱いのか、相撲部は大量の汗をかいていた。


「角度が悪いのかな〜手で頬の辺り触ってくれる?」

「ヤダよ、こいつヌルヌルする。」


「黒君格好良いからもうドキドキしっぱなしっす〜。」


相撲部は黒にほのかな恋心を抱いてしまったようだ。

黒の顔が一気に青ざめる。

俺が出ていったら交代させられそうなので隠れて様子を見ていたら、ついに黒がキレた。


「白相手だったらちゃんとヤルから!こんな無駄な練習もう終わりだっ!休憩!」

逃げるように体育館から出ていってしまった。


ブハッ!笑ける……

朝から散々俺をからかってた罰だな。






「白君来たみたいだから通し稽古始めるよーっ。」

監督の掛け声にみんなが指定の持ち場へとスタンバイした。



物語は意地悪な継母と姉妹がシンデレラをいじめているところから始まる。

配役は全部黒が独断で決めたらしい。

この三人はクラスでも派手なグループに属する女子で、やるならシンデレラを演じたかったはずだ。

なので、俺のことをいじめる演技に私情が込められていてちょっと怖い……


魔女が登場するシーンでは照明が一度暗転する。

魔法で部屋の中に急に現れたという設定なのだが、黒が見た目でかなり太った女子を選んだので、ドスドスと音はするし瞬発力がなくて間に合わない……

何度もやり直しをすることになった。


魔法をかけられてドレスへと変身する時も暗転して着替えるらしいが……

衣装がまだ出来上がってないので練習が出来ない。

てか俺、舞台の上で少しの間だけどあられもない姿になるんだよね?

そん時に間違えて照明がついたらと思うとゾッとする。



舞踏会でシンデレラが王子様と初めて会うシーンになったのだが黒がいない。

どうやら休憩っと言って体育館を出ていってから戻ってきてないようだった。


体育館を使用出来る時間は限られている。

みんなで黒を探すことになった。



こんな場合の黒の行動は……

キレて頭に血が上ってたから冷やすために風に当たりたいと思ったはずだ。

俺は体育館のすぐ横にあった非常階段を上った。






「やっぱりいた。黒───……」


非常階段の踊り場にいた黒に声をかけようとしたのだが、もう一人いることに気付いた。

また新しい女かと思って呆れたのだが、その女の子を見て俺は目を疑った。


彼女は俺に気付いて走り去ってしまった。



「……白?」

「……黒戻れ……もう時間がないから……」


「ちょっと待て。白っ。」


俺は黒を置いて全速力で階段を駆け下りた。




信じられないっ……

今のは間違いなく咲希ちゃんだった。


しかも……黒は……咲希ちゃんに……





──────キスしてたっ…………!!
















舞踏会のシーンの練習が始まった。


遅れて会場に登場したシンデレラに一瞬にして心を奪われた王子様が、ひざまずいてダンスへと誘う。


「お嬢さん、一曲お相手を。」

「…はい……」



「シンデレラーっ顔怖いよ!そこははにかむ感じで!」





──────はにかめるかっ!


今まで俺が可愛いと言った子を黒が横からかっさらうというのはよくあった。

いつもの俺に対する嫌がらせの定番だ。

でも今回は…咲希ちゃんはそんなことしていいタイプの女の子じゃないだろ?

そんなこと黒にだってわかってたはずなのにっ。



舞踏会に来ていた客が隅により、ステージには俺と黒だけになった。

黒が俺の右手と背中に手をやり、曲が新たに流れる。

黒に触れられてここまで嫌悪感を抱いたのは初めてだった。



「二人とも見つめ合って──っ!」


監督からの指示が飛ぶ。

黒からの視線は痛いほど感じたが、どうしても見ることが出来ない。

顔を見たらぶん殴っちまいそうだ。



「言いたいことがあれば言えよ。」

踊りながら黒が、少し苛立ったような声でささやいてきた。


「見たんだろ?」

「おまえクソだな…今回だけは絶対許さねぇから。」


「……白、俺の顔見ろ。」

「イヤだ。」


「いいから見ろ。」

「見ない。」


「見ろってば!」


黒が俺の顔を両手でわしづかみにして無理矢理自分の方に向かせた。

今にも泣きだしそうな黒の顔がそこにはあった……



「……俺からじゃない。」



絞り出すような切ない声……

踊り続けなきゃいけないシーンなのに、黒の揺れる瞳から目が離せない……



黒からじゃないって……


咲希ちゃんから迫ったって言いたいのか?

あの大人しい咲希ちゃんが黒に?

なんとなくだったけど、咲希ちゃんも俺に気があるのかなって思ってたのに?


今まで俺が気になった女の子と散々付き合ってきた黒の言うことを、そう簡単に信じれるはずがなかった。




「ああっもう!二人ともなにやってんの───!やり直しっ!!」




音楽が鳴り止み、照明が落とされた。


「離せ黒…おまえといると反吐が出る。」

「白……」


俺は黒の手を乱暴に振りほどき、舞踏会のシーンの最初の立ち位置に戻ろうとした。

黒が俺の名前を呼んだ声も、俺の顔を掴んでいた手も小刻みに震えていた。

なんなんだよいったい……

なんで黒が傷ついてるんだよ……?



暗くて見えづらい舞台の上を黒から早く離れたくて急いだせいか、お城の風景が描かれたベニア板を支える角材に思いっきりつまづいて転んでしまった。


頭上でミシミシと音がし、ベニア板が俺に向かってゆっくりと倒れ出す気配を感じた。

このベニア板…かなりデカくなかったっけ?

やばいっ……俺は体勢を低くして下敷きになる衝撃に身構えた。

バキバキという木の音と倒れてくる風圧で大量の埃が舞った。




もうとっくに倒れたはずなのに、俺のところにはなにも落ちてこない。

照明がつき、恐る恐る目を開けてみた……


「……白大丈夫か?」


俺を心配そうにのぞき込む黒の頬がパックリと切れていて、血がダラダラと流れていた。

黒は俺を守るように覆いかぶさり、ベニヤ板からの衝撃を全部受け止めていたのだ。


「黒っ血が!」

「こんなもんかすり傷だ。白は?」


ベニヤ板を連結させるのに使っていた釘がむき出しの状態になり、それに当たって切れたようだった。


クラスのみんなが大慌てでベニヤ板をどかして俺と黒を助けてくれた。

幸い連結部分が外れただけですぐに修理は出来そうなのだが、もう次のクラスの時間になったので舞台をすぐに片付けて譲らなければならない。



「みんなゴメンっ!俺、黒を保健室に連れて行ってくる!」

俺は黒の頬を手で抑えながら保健室へと急いだ。



「白いいって。舐めときゃ治る。」

「ちゃんと消毒しとかないと!傷が残ったらどうすんだっ!」


「白の服が血で汚れる。」

「そんなのいいから早く歩けって!」



そうだった……

黒はいつも俺のことを助けてくれる。

自分がどれだけ傷つこうがお構いなしに俺のことを助けようとするんだ。

あんなに酷いことを言った後だったのに……





保健室には誰もいなかった。

俺は黒を丸椅子に座らせ、処置台に置かれていたオキシドールを含んだ消毒綿で傷口を消毒した。



「俺のせいで黒のイケメンの顔に傷が残ったらどうしよう……」

「なにそれ?口説いてんの?」


「……黒…ごめんな。」

「いいよ。白のせいじゃない。」




「すぐに信じてあげれなかったから……」





─────咲希ちゃんとのこと。


本当はわかっていたのに……





黒は俺に対して理不尽なことをしたり振り回したり怒らせたりと、いつも散々な扱いをしてくる。

でも…出会った時から今の今まで、俺にウソをついたことだけは一度もなかった。



「本当にごめん。」



黒の頬につけたガーゼに血がにじんでいてすごく痛々しい……

俺がすぐに信じてあげていれば、黒を傷つけることなんてなかったのに。






「……白さぁ。俺がなんでわざわざ王子に立候補しておまえをシンデレラに推薦したかわかる?」


…………えっ?

そんなのいつもの嫌がらせじゃないのか?

黒も王子様役になってたからいつものとは少し違うなとは思ったけれど……



「確かめたかったんだ。自分の気持ちを。」

「……黒の気持ち?」


「白が女の格好をしてても、それでも自分の気持ちを抑えられるのかどうか。まあ試すまでもなかったけどな。」




なんなんだそれ……


それじゃあまるで…………まさか………





「黒…俺達、友達だよな?」


「俺は白を友達だと思ったことなんて一度もない。」



「……俺、男だよ?」


「男だなんて思ったことも一度もない。」




心臓が異様なくらいバクバクと鼓動する。

呼吸も乱れてきて苦しいくらいだ……


まさか、まさかまさかまさか…………






「俺はずっと白のことを恋愛対象として見てた。」






まさかっ…………─────────








子供の頃からずっと一緒にいた黒が俺のことをそんな風に見ていただなんて…

今現実に黒から聞いた言葉が全くリアルに感じられない。

目の前にいる黒が、とても遠い…別の次元に存在しているみたいに抽象的に見えた。



「今のままでいるのは俺にはもう限界なんだ。」



なんだよこれ……

いつものタチの悪い冗談だよな?


黒からの真剣な眼差しに、これは冗談でもからかっているわけでもないのだと理解した。



俺と付き合いたいとか思ってるのか?

男同志なのに?無理だろ!



「白に受け入れてもらえないなら俺はもう学校を辞める。白とはもう二度と会わない。」


「なに言ってんだよ黒っ!」



俺は黒の考えを改めさせようと咄嗟に腕を掴んだ。

黒は俺にとってはそばにいて当たり前の存在だ。

俺のそばからいなくなるなんて有り得ない。

理屈じゃないっ…心を半分失ってしまったような虚しさが襲ってくるんだ。



「黒…友達じゃダメなのか?」



黒が望むような関係になるのは俺には無理だ。

俺はこのまま…友達のままでずっと黒のそばにいたい。


黒の顔が辛そうに歪んだ。



「いねぇんだよ、おまえ以上のやつが……いつも、誰といても、なにをしてても、チラついて離れねぇ。」



黒は自分の胸に手をやり、着ていたシャツを握り潰すように掴んだ。



「ここがすげぇ苦しいんだよ…どうしたらいいんだよ?もうっ…どうにかしてくれよ。」




「……黒。」


黒の三白眼の鋭い目から涙が一雫こぼれ落ちた。






「……好きなんだよ……」







黒の言葉が胸に突き刺さる────────




泣きながらそんなこと言うなんて……


……ズルいだろ…………




「学園祭の日に返事を聞かしてくれ。」



一人残された俺は黒が去っていった方を見つめたまま動くことが出来なかった。





いつから黒は俺に対してそんな感情を抱いていたんだろう?


もしかして黒の考えてることはわけがわからないと思っていたのは、俺に対する気持ちを必死で隠していたからなのか?


黒のあんなに辛そうに泣く姿を見たのは初めてだ。

いや、俺が気付かなかっただけで、黒はずっと辛かったのかもしれない。




「俺、鈍感過ぎるだろ……」



なんにも気付いて上げれなかった自分に腹が立ってきた。



だからといって……

ああでも……………





同じ言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡って、答えなんて出せるはずがなかった。















黒は練習の時以外は俺に話しかけてこなくなった。

俺もなにを話していいのかわからず…お互い教室では目を合わすこともなかった。



近くにいるのに黒がいない。

それをこんなにも寂しく感じてしまうだなんて……

俺はどれだけ黒に依存していたのだろう?





今日も手芸部で早着替えの特訓をしていた。



地味なワンピースから華やかなドレスへの着替えは劇の間に二回行われるが、一回目は舞台上での早着替えとなる。

魔女がセリフを言っている80秒の間に着替えを完成させなければならない。


服はどちらも背中に大きなファスナーが着いているので着脱は簡単だ。

カツラはお下げにしているのをほどいてカチューシャを付け、イヤリングと首飾りと手袋を付ける。

化粧は予めしているので、変身する時は赤い口紅を塗るだけでいい。

そして忘れちゃいけない、靴をガラスの靴に見立てたパンプスに履き替え、やっと完成だ。


それぞれに担当を決め、F-1のコクピット並の速さに仕上がってきた。


「よし1分弱!これだけ早かったら完璧ねっ。」


手芸部の部長がストップウオッチの時間を確認して満足気に微笑んだ。


結局、黒は俺がドレスを着た姿は本番で初めて見ることになる。

別に本番前に見せたかったわけじゃないけど。



「白君、口紅ついてるの取るね。」


制服に着替え終わると、メイク担当の咲希ちゃんがコットンを手に話しかけてきた。

俺の唇を丁寧に拭き取っていく。


「……ごめんね…白君と黒君がケンカしてるのって私のせいだよね?」

「咲希ちゃんのせいじゃないから気にしないで。これは俺と黒の問題だから……」



俺と黒の様子がいつもと違うのはクラスのみんなも気付いていた。

心配して声をかけてくるやつも何人かいたけど、本当のことなんて言えるわけがなかった。











学園祭前日、最後の通し稽古。

舞台を使用する全てのクラスが練習するので割り当てられた時間は少ない。


大きなミスもなく、淡々と過ぎていく。



「パーティーで踊ったあの夜から…私は、あなたしか見えていなかった。シンデレラ、結婚してください。」



最後のお城でのプロポーズのシーン。

照明が全て落とされ、スポットライトだけが二人を照らす。


黒が王子様役をすることは学校でも有名になっていて、今日もたくさんの女子生徒がうっとりしながら見学しにきていた。

明日王子様の衣装を着た黒を見たらいったいどうなるのだろう…鼻血を出すんじゃないかな。


黒の頬の傷はそれほど大きな傷ではなかったので、本番ではファンデーションを塗れば誤魔化せそうなくらいに回復していた。



「私なんかで…本当によろしいのですか?」

「あなたと居ると、心が安らぐのです。私と、結婚して頂けますか?」


「はい。喜んで。」

「シンデレラ……ありがとう。」


黒が観客席側の俺の頬に手をやり、その手で隠すようにして俺に顔を近付ける……

ここでいつも見学者から悲鳴が上がる。

してるように見えるみたいだけど、実際には寸止めである。


目をつむって黒に身を任せてる俺は毎回当たりやしないかと冷や冷やしていた。


その状態でどん帳が閉まるので、舞台はしばらく真っ暗な状態になる。




最後の練習が終わった……

明日はいよいよ本番だ。


黒は学園祭の日に返事を聞かせてと言っていた。

でもどれだけ考えても答えなんて出ない。

どうすればいいのだろうと思っていた時、暗闇の中で黒に強く抱きしめられた。


「ちょっ…黒っ。」

「明日OKなら、最後のシーン俺にキスしてきて。」



…………っな?!

なにめちゃくちゃなこと言ってんだこいつはっ!



「おいっ黒!!」



舞台の照明がつくと、黒はもう舞台袖へとはけていた。





「明日の本番は気合入れていくよ──── っ!」


監督の掛け声にみんなが応えるように声を上げた。






明日……


俺は黒にどんな答えを出せばいいのだろう?












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