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ブランドものアクセサリはクリスマス後に一斉に転売サイトに並ぶらしいのです

作者: ダイスケ

メリークリスマス!

※知能指数を20低下させてからお読み下さい。読了後にはさらに10低下します。

戦争は終わらない。人は過ちを繰り返す。


201X年!日本は異教徒の侵略により地獄と化していた!!


街中には世界の不幸の調べが鳴り響き!凍える大地は人々の慟哭に満ちていた!


「クリスマスなんて・・・苦しんで吹き飛べばいいのに・・・ホーリーシット!!」


罰当たりな悪態をつくこの青年は、渋谷の雑踏に蠢くカップル達に殺意の波動を送るモテない独身者の一員であった。

そしてクリスマスなどと言う悪魔のイベントを企画した邪知暴虐の広告会社を必ず炎上させねばならぬと決意していた。


「都会の砂漠は乾いてやがる・・・なぜ・・・日本はこんなにも豊かなのに・・・俺は乾いているんだ・・・」


格差社会と政治家とモテるアイドルへの恨みをエネルギー源にようやく足を引きずるよう歩き出した青年をさらなる悲劇が襲う!


「ヒャッハーッ!!こいつクリスマスだってのに一人だぜーー!!」


「おいおいおい、こいつ死ぬぜ」


「まるで炭酸抜きのコーラです」


「種もみをよこしな!」


都会はサバンナでありジャングルである、と地方在住者が怖れるのも無理はない。

東京に15年以上住んでいる人だけの秘密だが、東京で労働する社員には危険手当が提供されている。

保険会社の統計にも表れている、それは紛れもない事実なのである。


ともあれ、都会の弱者と化した青年を狩ろうと、レザージャケットにトゲの生えた肩パッドとモヒカン頭、なぜかメガネをかけた柔道着の無軌道な若者たちが釘バットを振りかざして襲いかかる事案も日常茶飯事!


さすが渋谷!トラックをひっくり返す若者達が幅を利かせる暴力の街!!


「や、やめて下さい・・・お金なんて仮想通貨で擦ったんで持ってませんよ・・・株だって下がる一方だし」


モテ界だけでなく経済的弱者でもあることも告白した若者に無軌道な暴力に抗する力などなく、なす術なく暗い路地に引きずり込まれてしまった!


「こいつ、ブランドの指輪なんて持ってらあーーー!!」


「か・・・返してくれ。今はモテなくても・・・明日が・・・ブランドの指輪があれば明日は突然、美人のお姉さんと恋に落ちてプロポーズできるかもしれないんだ・・・!」


財布や現金と共に取り上げられたのはブランドの箱に入った指輪!青年には不釣り合いなアクセサリーに、肩パッド達は俄然盛り上がりを見せる。


「やれやれ。指輪で女の歓心を買おうってのかい。とんだリア充だね」


「そんなんじゃない!」


「おおかた、水商売の女にねだられて慣れないブランドの指輪を買ったんだろう?で、贈ろうと思ったら別の客も全く同じ指輪を買ってたことを知ったんだろうさ。女はもらった指輪をメルカアリで転売し、稼いだ金はホストに貢がれるって寸法さ」


「詳しいねー、ママ!!」


「だてにオカマを30年やってるんじゃないよ。あんた達も嫁にするなら、そういう強かな女にしな」


明かされる衝撃の事実!肩パットのモヒカンはオカマだった!身長が3メートル近くあって筋肉モリモリのマッチョマンであったが、まさかそちら側の人であったとは!この李白の目を持ってしても見抜けなかった!!


「か・・・返してくれ・・・明日を・・・明日のモテの指輪を・・・」


「ふん。言われなくとも返してやるさ。こんなクズの指輪じゃ値段もつかないさ。あんた、おおかたその指輪は質屋で買ったんだろう?その指輪はね、あたしの見るところ最低でも20回はメルカアリと質屋で転売が繰り返された、二束三文にもならない呪いの指輪さ。処分するなら火山にでも放り込むしかないね」


「う・・・嘘だ・・・!質屋のお姉さんは指輪をもらえる人がうらやましいって言ってくれたんだ!指輪・・・大事なシト・・・」


「そんなの客にゴミを売りつける方便と世辞に決まってるじゃないかね。まあいいさ。間抜けな兄さん。そろそろ死ぬ時間さ!」


轟音と共に振り下ろされる釘バット!

不幸な青年の命は、無惨に飛び散るかと思われた!


「やったか!?」


だが!青年は死んではいなかった!!


「ふしゅうううぅううううう・・・ウリィィィイイイイイ!!」


奇妙な叫び声を上げると共にスーツ姿だった青年のシャツが弾け飛んだ!

なぜかパンツは無事だ!


「な、なんだ!?」


慌てるモヒカン達に、すっかりマッチョボディになった青年は指を立てて宣言した。

その胸板には釘バットでつけられた7つの傷が何かの星座の形を描いていたが、物語の本筋には関係ないので省略する!


「貴様等の拳は、もはや見切った!今より、貴様等はこの俺に指一本触れることもできぬと知れ!!」


「なに言ってやがる!死ねぇ!」


「無駄だ!」


青年はモヒカン達の動きを最低限の流麗な動きでかわした!それは、まるで水!あるいは幻!


「こ、こいつ!」


「こ、この動き!まさか!」


「知っているのか電雷!!」


いま一人、額に漢字の刺青を持つモヒカン達の名前が明らかになったが、中国で千年の歴史を誇る一子相伝の暗殺拳の宗家の嫡男である彼の出自は大きな問題ではないので、これも省略する!


「あ、ああ。ツイッタラの噂によれば、天に北斗七星が輝くとき絶対無敵の拳法の奥義が目覚める。その奥義は哀しみを抱えた漢にのみ習得が可能という・・・ババ様が民明書房からパクパクツイした噂は本当だった」


「パクツイじゃん」


「ババ様最低じゃねえか」


「と、とにかくその何たら北斗真剣だのとかいう拳法の奥義だとして、あの冴えない男がなぜそんなものを使えるんだ!」


戸惑うモヒカン達に向けて、青年は指輪をかざした。


「ふっ・・・お前は触れてはならぬものに触れてしまったのだ。この指輪を見よ!」


「その古ぼけたゴミ指輪が・・・どうかしたのか?」


「この指輪は俺に教えてくれた!モテぬ男の哀しみを!贈られてすぐ転売される哀しみを!質屋で指輪を買う男の哀しみを!繰り返し売られる転生を経て、このブランドの指輪は、究極奥義、無双転生に目覚めたのだ!」貴様等の拳はすでに通じぬ!」


「くっ・・・勝てぬ・・・この漢・・・なんと哀しい目をしているのだ・・・」


なぜなら、モヒカン達はガックリと膝をつき青年の目を見あげ、のぞき込んでしまったのだ。


その瞳にたたえられた印旛沼よりも何倍も深い哀しみを。


透明度世界一の摩周湖よりも透明で、深度世界一のバイカル湖よりもさらに深い哀しみが伝わってきたのだ。


「この漢・・・モテない」


「ああ・・・無理だな・・・」


「やはりモテない・・・」


モヒカン漢達は青年の孤独を心から理解し、そして涙した。


「黙れ小僧!お前達の俺の哀しみが理解できるか!上司も部下もクリスマスともなれば、お先にと仕事を終わらせてオフィスを足早に立ち去っていく!自分も用事があるかのように笑顔で退社して花とケーキまで買っていく俺の惨めな気持ちが理解できるものか!リア充にもなれず、開き直って一人で楽しむこともできない、哀れで醜い、非モテの中途半端な俺の苦しみが、貴様等にわかってたまるか!!」


青年は魂の奥底から咆哮した。咆哮せずにはいられなかった。


短い時間であっても拳を交わした漢達。そこに言葉は不要。

深くうなずき合うと、別離の言葉を吐き出した。


「あの・・・そろそろ帰っていいすか?デートの時間なんで」


「俺もそろそろ戻らないと彼女が煩いんで」


「ちょっと、これ以上ここにいると非モテがうつりそうだし」


「あ、彼女作った方がいいっすよ」


モヒカン男達は表れた時と同様に、唐突に都会の雑踏へと姿を消した。


ちらちらと雪が降り出した寒空の下、聞く者が誰一人いなくなった裏路地に青年の慟哭だけがいつまでもいつまでも木霊し続けていた・・・。


「天は我を見放した!されど我が生涯に一片の悔いなし!!」という轟音と天を貫く光と共に聞き苦しい鳴き声は唐突に止んだ、と女子高生はマックで後に語った。


それ以降、青年に彼女ができたという話を聞いた者はいない。


WAR...War Never Changes...


人は過ちを繰り返す。何度でも、何度でも・・・


その人々を苦しめ続ける戦争は「クリスマス」と呼ばれている。

クリスマスって、とってもいいものですね!

ジャンルはヒューマンドラマにすべきだったかもしれない

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい作品です! やはりリア充は滅殺せねばなりません! 殺意の波動に目覚めた北斗神拳はきっと無敵ですね!
[一言] 目から男汁が止まらないぜ
[一言] あぁ、官品納入なら転がせば転がすほど値上がりするというのに…。なんたる格差社会。 万国の非モテ労働者よ、今こそ立ち上がれ!!
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