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5-1




 勇者さんから名前を貰って、今日で4日目です。

 あのあと倒れてから、未だに目を覚ましていません。


 ずっと様子を見ていますが、相当深く眠っているらしく、揺すっても叩いても、水を掛けても反応がありません。


 フィシリアさんは近々目を覚ますと言いますが、近々とは何時なのでしょうか。

 私のお気に入りのお布団に寝かせていますので、目覚めない気持ちも分かります。ですが目覚めなければ、私がそのお布団を使えないのです。せめて枕だけでも、予備を持っておくべきでした。


 そう言えば、勇者さん一行は勇者さん抜きで、魔王様と敵対しない事を宣言したそうです。更に魔王様の領地経営等に協力を申し出ています。そのことで人間の国の幾つかは、大変混乱しているそうですが、私には関係の無いことです。


 私の事で変化があったとすれば、身体の構成が変わってしまいました。


 元々、私の身体は植物の集合体です。そこに五感をより敏感に感じとるための組織を組み込んだ、作り物だったのです。


 それが、人間とほぼ同じ肉体になってしまいました。名残として、内臓や反射行動等の生理現象を意識して止めたり動かしたりは出来ますが、実体を持たない精霊から肉体をもつ生物になりました。今までは、あまり気にしていなかった身体のダメージで、場合によっては死んでしまいます。

 なので、現在はその認識の差を合わせるためのリハビリ期間です。有難いことに、暫くの休暇を頂いています。


 のんびり森に引きこもろうと思ったのですが、勇者さんを放置は出来ません。そんなことをしたら、フィシリアさんや魔王様あたりの人に、怒られてしまいます。

 人間とは、何と脆い生き物なのでしょうね。


 正直なところ、身体は若干不自由になりました。ですが私は、あの師匠の弟子です。この程度、覚えさせられた技術技能でどうとでもなります。

 肉体を霧に変える技や、分身を生み出す術、不老の秘薬の作り方、やり方はいくらでもあるのです。


 ……にしても、全く起きませんね。


 まぁ良いでしょう。

 私の休日は、お酒を飲みながら眠るだけなので。


 酒造や製薬、採取等の雑事は、私の分体や眷属に任せていますので。時々意識を移した分体で確認すれば問題ありません。


 肉体が変わってから、お酒を飲むと身体が暖かくなる様になりました。今なら、師匠のお酒好きが分かります。これはとても心地良い……


 この微睡みのまま、お昼寝タイムに移行します。











 んっ、ん~ぅ……。

 同じ体勢で居続けるのは、良くないですね。

 今までなら良かったのですが、これは不便です。



「あっおはよう、気持ち良く眠れた?」



 おはようございます、ノエルさん。

 どうしてこちらに?


 

「ガレオに誘われたの。場所はシギさんから聞いたわ。で、来た理由は、ガレオの勘よ。今日中……? そろそろ起きるんだって。当たるかは知らないけど、顔を見るくらいはできるしね。もうすぐ晩御飯出来るから、待ってなさい。キッチン借りてるわよ」



 あぁ、ありがとうございます。

 片付けてもらえれば大丈夫です、自由に使ってください。


 

「お~いノエル、弱火ってこれくらいか?」



 ……ガレオさん、何してるんですか?

 人の趣味はとやかく言いませんが、何してるんですか?


 いえ、その格好は分かりますよ。

 四つん這いで、その背中にサラマンダーの炎を灯して、鍋を乗せています。

 やりたいことは、見れば分かります。


 ですが、何してるんですか?



「悪いな、今は火力調整の訓練中だ。ノエルと待っててくれ」



 はい。そうします。


 特にやることも無いですし、のんびりしてるとしましょう。



「まって、ねぇ待って。なんで寝ようとするわけ?」



 なにか問題でも?

 しなければいけないことはありません。なら、好きなことをすれば良いのではないでしょうか。



「アタシが居るじゃない。何か話しなさい」


「ノエル、お前のペースにお姉さんを巻き込むなよ」


「むしろアタシが飲まれかけてるわよ。って、起きてたの!?」



 勇者さん。起きたんですね。

 全く気付きませんでした。知覚系統の能力は、衰えていないハズなのですが……

 ですが、問題ないでしょう。どこかの師匠とは違い、勇者さんは私に害を及ぼす人ではないと思うのです。


 なんだか、とても良い香りが漂っています。

 相変わらず空腹を感じる事はありませんが、以前にも増して食欲があるのです。1番は睡眠欲ですね、そこは変わりませんでした。

 性欲は、あるにはあるのですが、意識しなければ忘れてしまうほど小さなものですね。

 師匠曰く、生物にある本能的な欲求の内、2つ3つが満たされていれば、他の欲はあまり感じなくなるらしいです。



「さ、完成したわよ。ヤヅキとガレオは、テーブルを片付けたら拭いておいて。病み上がりなんだから、アンタは座ってなさい。ヤヅキ、動いて」



 あっ、そうでした。

 私の名前でしたね、それ。


 名前を貰って、不便な事が増えました。

 慣れるまでは、自分が呼ばれていることに気付かないかも知れません。

 少しおかしいのが、おいとか、お前とか、キミとかだとすぐに気付くのですが、何故か名前の時だけ反応が遅れるんです。


 いえ、別に名前を貰ったからと言って、そこまでの変化はありませんよ。私と勇者さんは、種族的に身体の構成が大きく違っていたため、お互いに身体特徴が引っ張られただけです。


 たまに人化する魔物がいるじゃないですか、それが名前持ちだと、名付けしたのは大体人形の生き物ですよ。

 使役されているモノも同じですが、使役はまた別の契約になりますので、変化の内容は契約によってまちまちです。



「……おれ、崎守(さきもり) 隆悟(りゅうご)って言います……。弥槻(ヤヅキ)さん、今後ともよろしくお願いしまう……うっうぅ……」


 リュウゴさんですね。

 はい、覚えました。


 それはその、すみません。

 必要だとは思わなかったので。



「さてそれは置いといて、弥槻さん。発音が違う。お前らもだ、弥槻の響きが、何か違うんだよ」


「ヤヅキ」


「違う。弥槻だ」



 長くなりそうですね。

 私は、あそこのロッキングチェアでユラユラしたいのですが。

 駄目ですか?


 勝手に座ってるとしましょう。


 文字が何か?

 一通り覚えていますが、漢字(それ)は分かりません。

 はぁ、では仕方ありませんね、覚えましょう。



「違う! 弥槻だ、や・づ・き! ついでに言えば俺は龍悟だ、リューゴでもリュウゴでもない!」


「あー面倒くさいわね。何だって良いじゃない、私達には同じに聞こえるのよ」


「そうだぞ龍悟、ノエルは不器用なんだ。許してやってくれよ」


「俺の母国語だぞ! 妥協したくないだろうが、てかお前やっぱ転生とか憑依とかしてるだろ」



 優しい揺れに、木の軋む音。

 あぁ……、眠くなって来ました。


 終わったら起こして下さい。



「ちょっと何寝ようとしてるのよ! リュウゴ、何でヤヅキには何も言わないわけ」


「だって弥槻さん。発音も直してくれたし、漢字でも書けるから」


「何で魔法文字とか古代語とか分かるのに、これが出来ないんだろうな。まぁそれでこそのノエルだ!」


「いいわ、その喧嘩買ってやるわよ。ガレオ、表に出なさい」


「無理、オレ今弱火してるもん」


「もういい!」



 終わりましたか?

 どうでもいいですが、今無性に発泡酒が飲みたい気分です。貯蔵してある倉庫の分体に、持ってきてもらいましょう。

 倉庫に配置してある分体って、確か人形でしたね。名前による変化を確認しなければいけません。……違いますね、分体全てに確認が必要ですね。これは。


 面倒ですが、問題が起きる前に片付けておきましょう。

 分体が到着するまで、順番に意識を飛ばして確認しておくことにします。


 眠っていませんので、起こさないで下さいね。


 

「ヤヅキが起きたらご飯にするから、ちゃっちゃと動きなさい。リュウゴも!」


「えっ? 俺病み上がり……」


「知るか、働きなさい!」






 一部を除いた分体は、多少の劣化や成長はあれど、大きな変化はありませんでした。

 さて、問題のある。大きな変化があった分体ですが、放置でも大丈夫でしょうね。


 人形(ひとがた)で、尚且つ以前の肉体に近かったモノは、意識と自我の無い生人形(いきにんぎょう)になっていました。現在私が意識を飛ばしているこの身体も、その一つです。

 このあたりが曖昧な所なのですが、この生人形を放置し続けるとどうなるのでしょうか?

 生命活動はしていますが、活動エネルギーは光合成で事足りますし、分体含めて基本的に私は、植物です。そのまま朽ちるまで生き続けるかも知れませんし、自我を持ち、個を確立させるかもしれません。

 

 ですが厄介事は嫌いなので、2つを残して処分します。


 1つはこの蔵にある分体で、いざというときの予備の身体です。もう1つは、今発泡酒を持ってきている分体。これは別の場所で放置させてみます。


 そうでした、人形の分体を処分した場所には、新しく植物の分体を用意しておきます。

 サラマンダーの件からは、生命力の強い蔓植物にしています。最近のマイブームは葡萄なので、上手く管理すれば収穫も可能。になるはずです。


 これでは身体の交換の効率は下がってしまいますが、目くじらを立てるほどのものではありませんので大丈夫でしょう。


 そろそろ分体がやって来ますね。

 半自動遠隔操作式にしてからと言うもの、このような雑事の処理が大分楽になりました。

 知っていたなら、私が開発する前に教えてくれても良いじゃないですか。悩んだ時間を返してください、師匠。



「あら? 誰かしら? ガレオ、鍋はもういいから、出て来てちょうだい」


「ういぃ~」



 さてと、私も起きましょうか。

 お酒が私を待っています。


 楽しみですね。今回持ってきた中には、初めて作ったモノも含まれています。美味しく出来ていると良いですが、失敗したモノはそれはそれで楽しいのです。

 不味くても面白いので、棄てたりはしません。


 これは師匠の教えもありますし、私の娯楽でもありますので、何とも言えません。妖狐のお姉さんは、理解出来ないと言っていました。仙人のお爺ちゃんは共感してくれましたし、きっと価値観の違いでしょう。



「おーい、弥槻さんの妹さんっぽい人が来たぞ」


「あ、かわい~」


「……どうも…これ、はい……じゃぁ…」



 分体が帰っていきました。

 あれ? 分体に返事が出来るほどの知能は、付けていないのですが……それに、見に覚えのない服を着ていました。分体(あれ)を調べておきましょう。



「アナタも食べていきなさいよ、量はあるから」


「……」


「ほら座って。ヤヅキも、こっちに座りなさい」



 シチューですね。これは作る人によって味が違うので、楽しみです。まぁ、師匠と妖狐さんと自分のしか知りませんけど。

 他にも、魚のソテーやスープ、温野菜等が並んでいます。


 ノエルさん、料理上手ですね。

 もう食べ始めてますが、どれも美味しいです。


 

「そりゃそうだろ。ノエルは昔、素敵なお嫁さんを目指して頑張ったもんな!」


「~~っ! う、うるさい!」


「2人は幼馴染だっけ。俺んところは、近所さんも男所帯だったもんなぁ……高校も工業だったし、年上(お姉さん)ナンパなんて難易度高すぎるし……嗚呼、勇者召喚とか言うマジキチ行為に感謝するぜ!」



 この魚のソテーが美味しいですね。

 魚には詳しくないので分かりませんが、魚を使った料理は私も作ります。

 前の身体のままなら気する事はない小骨が、今は気になります。それが丁寧に取り除かれていますし、鮮度も保たれています。素材の味を活かしつつ、個性を主張するソース。

 また、人間に必要な栄養をバランス良く食べられる様に考えられていますね。


 細やかな一手間が積み重なって、全体的に高水準で収まっています。

 このレベルなら、師匠は手放しに褒めあげるでしょう。


 分体も食べていますね。

 食べなくても良いハズなのに。

 それにしても、やはり自我が芽生えかけていると見て間違い無いでしょう。一口毎に頬を緩める何て無駄な行動、私には出来ませんから。

 出来ていれば、ノエルさんに文句を言われていません。

 

 とても美味しいと言ったら、黙って顔を背けられました。


 何が問題だったのでしょう?

 人間とコミュニケーションを取るには、表情にも気を配らなければならないのでしょうか。そうだとすれば、とても面倒な社会ですね。私には想像もつきません。

 表情がコロコロと変わるのを見ると、どうしても師匠を思い出してしまいます。私には向いていません。


 

「あぁ~食った。で、龍悟が起きた訳だが、これからどうすんのよ? 勇者サマ? オレらはあくまでも、あんたのお付きの人間だからな、魔国移住余裕で決定」


「んー……一旦戻って、勇者辞める宣言してくる。魔王様に停戦協定貰う約束してあるから、それが手土産。無視する輩はどうでも良い。したら弥槻さん、結婚してください」



 別に良いですよ。


 えっ、何ですか?

 そんなに可笑しな事言いました?

 


「ずっと断り続けてたじゃない。アンタに何があったのよ!?」



 名前のよる繋がりが出来たことで、龍悟さんにはなにも術が掛けられていない事が分かりましたからね。

 私だって、純粋に好いていただけるのは嬉しいのですよ?


 同じく名前によるものですが、名前を貰った私は、名付けた龍悟さんに対して害をなす事が出来ませんし、その逆もです。その様な契約になっていますから。


 それに龍悟さんは、一緒に居ても苦痛ではありませんでした。



「今から国戻って、そんでもって帰ってくる。過激派連中は殴ってでも黙らせてやるぜ! 聖剣解放! 飛行術起動! オートマップセット! 行ってくる」


「おう、いってら」


「あ、システィは既に教会を黙らせてきてるから、アンタ1人ね。頑張りなさい」



 慌ただしく出ていかれました。

 龍悟さんが眠っている間、異変が無いかを確認するために付けていた植物の種があるのですが、付けたままになっていますね。

 面白そうなので、そのままにして情報を集めて見ようと思います。


 師匠やメチルさんクラスの術の使い手が居なければ、妨害はされないはずです。



「食器片付けたぞ」


「ありがと。じゃあヤヅキ、アタシ達も帰るわね」



 私は、何をしましょうか。

 取り敢えず、そこに座ったままの分体を調べるとしましょう。



「…消すの?」



 あっ、これはアレですね。

 師匠が言っていました。

 殺さないで下さいってヤツです。

 殺さないで、存在を認めるのが良いのでしたっけ。


 この分体は元々処分するつもり無かったですし、自我があるなら私の予備にはなりません。なので、どうぞご自由にすればよろしいかと思います。

 

 分体が分体ではなく、新たに産まれた木精霊でありたいと願うなら、産み出した者として面倒をみますよ。

 


「……お酒造るから…あの場所がいい、です…」



 確かに、お酒の管理にもこの分体は使っていましたね。

 リンクはまだ繋がっていますので、私のお酒造りの知識を全て送っておきます。

 技術的なものは、何度か失敗すれば身に付くでしょう。


 では、私とのパスを解除します。



「あたま、イタイし息苦しい…?」



 それはそうでしょうね。

 貴女にとっての、生命の供給源が断たれた訳ですから。


 成る程、だから食事を摂ったのですか。

 私と同じ様に、動物に寄ってしまったんですね。


 木精霊としては不便でしょう。

 本来の精霊に戻しましょうか? それとも聖霊になりますか?今のタイミングなら、悪霊にも魂霊にも成れますよ。貴女の元の植物から花精霊にも成れます。


 

「花、紫陽花……花精霊に、成りたいです」



 ではそうしましょう。

 とても苦しいと思いますので、間違っても消滅しないでくださいね。



「━━っ! あっ、ああアァアァァァァッ…やめっんんん! イヤ、いやぁぁぁぁあぁぁむぐぅ━━」



 喧しい。

 声帯から音を出す生き物には、やはりこれが効きますね。喉と鼻を塞いで、呼吸を制御して仕舞えば、騒音はとても小さくなります。

 ただ、塞ぎ続けると酸欠になってしまうので、上手い具合に息継ぎをさせなければなりません。それが面倒です。


 

「ちょっとなにごとよ!? 外まで聞こえて……」


「敵襲? 敵襲か?」



 分体の木精霊が叫んでからしばらく、ノエルさんとガレオさんが戻って来ました。

 思ったより、遠くまで響いてた見たいですね。


 2人が戻ってくるのは予想外ですが、まあ良いでしょう。関係ありませんし。



「で、ヤヅキアンタ何してんのよ? 場合によっては許さないわよ」


「オレも説明が欲しいなぁ。この胸糞悪い光景を目の当たりにした、心のケアをしないといかん」


「━━っくはぁ…あ、助けっんん! むぅんんん!」



 私だって、好きで見てる訳じゃありませんよ。

 彼女の望みを叶えるためには、一度動物の肉体を捨てなければいけません。それと同時に、花精霊の情報を埋め込み、存在を書き換えているのです。


 身体を捨てる痛みに、自身が変わる恐怖、存在の変化に伴う強烈な違和感。

 そんな事、簡単なハズがないでしょう。少し考えれば分かることですので、わざわざ教える必要は無いと判断しました。


 それがなにか?

 問題でもありますか?


 無いのでしたら、終わるまで待っていてください。


 結構忙しい作業ですので。

 それに下手に触ると、彼女が消えて無くなりますよ。



「分かった、後で聞くわ」


「オレら、さっきの部屋に居るから」



 はぁ…何故私が責められているのでしょうか。

 これだから人間は理解ができません。


 あ、いえ違いますね。

 正しくは、博愛だの共感だの思いやり等の気持ちが理解出来ませんね。

 個人にとって、世界とは自分中心であるはずです。自己領域に他人の存在を許容するなど、正気の沙汰ではありません。


 少なくとも、ある程度の人となりを知り、その人の思考回路を知らなければ、言葉を交わすことすら億劫ですし、そもそも関わりたくはありません。


 と言うか、師匠さえ居なければ良かったのです。


 別に今の私の生活を否定するわけではありませんが、もしそうであれば、私は私の好きな森の中で静かにのんびり悠々と生きていけたはずなのです。

 煩わしい対人関係なんて発生しなかったでしょう。


 ……まぁ、産まれが産まれなので、どう足掻いても師匠との縁は切れそうにありませんが……


 さて、そろそろ作業が終わりそうです。

 

 ん? どうも静かですね、さっきまでアレほど叫んでいたのですが。それが出来るならば、最初からそうして頂けたら助かったのですけどね。


 拘束を解いてしまいましょう。もう必要ないですし、彼女がその気になればすぐに脱け出せるので。



「……はぁ…はぁ…、んんっ…ふぅ……あれ? もう終わりですか? お姉様ぁ~…もっと……もっと欲しいです……もっと強く激しいモノを、お恵み下さぁ~い」



 ━━━っ!


 ナニか、とても恐ろしいモノを生み出してしまったかもしれません。


 かつて師匠と妖狐さんが言っていました。

 痛みや苦しみを快楽と捉える存在は、決して1人で対峙してはいけないと。アレは最早、全く別の生き物であり、逃げることも倒すことも不可能であると。

 もし出会ってしまったのなら、どんな手を使ってでも他人に(なす)り付けろ。そう教わりました。



「あぁぁ、この蔦がわたくしをきつく縛り上げ、喉を塞いで、逃げる事を許してはくれなかったのですね……お姉様ぁ~? わたくし、痛くて恐くて気持ち悪くて……もう消えてしまっても良いと思いもしました。ですが気付いたのです、これは愛だと! お姉様がこの苦しみを通して愛して下さっていると。そう思えば辛いなどと感じません。苦痛? いえいえ、むしろご褒美(快楽)ですわ」



 な、なんなんでしょうか……この圧力は……


 ジリジリと距離を詰めてくるこの感じ、その荒い呼吸や不自然な手の動き、私に固定された視線。

 イヤです。生理的に無理です。


 それ以上、近づかないで下さい。



「今までの放置プレイに苦痛責め、次は言葉責めですかぁ? でもお姉様は口数が少ないですし……いえ、だからこそ一言一言に想いが込めてあるのですね! よろしいですわ! さぁ!さぁ!」



 んっ!


 無理です。


 本気になった師匠並の恐怖を感じます。

 


「ノエルさん! ガレオさん! 助けて下さい!」


「あっ、お待ち下さい。……逃げられると、追い掛けたくなってしまいますわ。ウフフフ……今度はわたくしが責める番ですわ…」










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