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4-1




 んっ、んぅ~……っふぅ~……。


 良く寝ました。

 気分爽快です。


 キコツさんから頂いたお土産は、各種チーズの詰め合わせでした。

 予想を遥かに上回る種類と数があり、中々消費しきれません。


 その外装は手の平に収まるのですが、どうも空間系の魔術が刻まれているらしく、内部がちょっとした倉庫くらい広いのです。しかも一種類につき1空間として、大量の種類に合わせた多数の倉庫が存在するのです。

 目的のチーズを取り出すために、冊子になっている目次から探しだすのは一苦労だったりしますが、その苦労をしても構わないと思えるほど、美味しいチーズです。


 そのままでも調理しても美味しいですし、種類の分だけ飽きも無いので、最近の肴はチーズばかりです。


 いやぁ、良いものを頂きました。



 ……さてと、片付けますか………………


 チーズの包装、空になった酒瓶、零れたインクに散らばったペン、無造作に積まれた仕事の資料。


 まぁ、あれだけ酔ったのです。

 仕方がありませんね。


 きっと大丈夫だと思いますが、何も無くなっていない事を祈るばかりです。

 私、酔っていても記憶は残りますので。ついでに、素面の分体を用意しておけば細かい思考はそちらで行えますので、酔っても問題なく活動が可能です。


 非常に遺憾ですが、この技術を仕込んだ師匠には感謝しないこともありません。


 本当あの人、あの性格でなければ、尊敬に値する人物なのですが……勿体ないです。


 室内の片付けも終わりましたし、次は外の片付けです。


 気付かない訳無いじゃないですか。

 酒蔵の外に、メチルさん、キコツさん、師匠の気配がありますし、そもそも話し声が聞こえますので。



「起きたな? アホ弟子よ! 貴様は完全に包囲されている! 明日からの安眠を保証して欲しくば、今すぐ我の納得する量と質の酒を持って出てくるがいい! 繰り返す! 今すぐ酒を持って来るのだ!」



 全く、いい大人が……恥ずかしく無いのでしょうか?

 何とも思ってないから、このように傍迷惑な行為が出来るのでしょうね。


 私の聴力なら、普通に話せば聞こえるのは知っているはずです。何故わざわざ、拡声の魔法を使っているのでしょうか?

 理解に苦しみますが、あれは狂気の類いです。理解しようとするだけ無駄でしょう。


 喧しいですが、持って行きましょう。

 言いなりになるのは癪ですが、安眠には代えられません。



「来たな! ふむふむ……単発酵酒に混成酒が多いな、並行複発酵酒は……此所には無いのか。……まぁ良いだろう、酒造りは既に免許皆伝だしな。これで許してやるぞ! アホ弟子、暫くの安眠を、我が保証してやろう!」



 飲まず、匂いも嗅がず、容器の形状だけで中身を当てられました。知識があれば可能ですが、中身の熟成具合まで分かるものですか?

 やはり師匠は、変態です。


 と言うかあの人達、まだ酒盛りを続けるつもりなのですか。仕事はどうするのでしょう?

 こんな馬鹿な事で、仕事を押し付けられても、私はやりませんよ。


 気にするだけ時間の無駄ですね。

 取り敢えず、今日の仕事を終らせましょう。


 












 事務所には、フィシリアさんが居ました。

 やはり2人で作業すると早いですね。


 フィシリアさんも私も、並列思考や念動などを使った同時作業が出来ますし、仕事をこなす速度は中々のものです。

 それに妖精のお手伝いは、意外と有り難かったりもします。


 お礼に、果物を渡しておきましょう。



「ふぅ~終わった~。さてドリアードちゃん、魔王様に会いに行くわよ」



 なんですか、藪から棒に。

 そんな明らかに面倒臭そうなイベント、行きたくないです。


 そうです、私には予定があるのです。

 先日飛ばした、サラマンダーの安否を確認しなければいけないのです。

 命に関わりますし、最低限の情報は拾っておくべきだと思うのです。



「やっぱり、貴女の仕業だったのね……そのサラマンダーが問題になっている。と言えば、来てくれるわよね?」



 はっ!?

 逃げ口実が裏目に出てしまいました。

 しかもサラマンダー、あの幼成体ですか。


 何で……何でこれだけ広い世界で、こんなピンポイントの転移を……

 

 いえ、まだです。

 フィシリアさんも、師匠と同レベルの使い手であるのは間違いないのです。

 私の思考を読み、カマを掛けている可能性もあります。


 まずは思考のプロテクトを強化します。

 師匠でも突破出来ない、とお墨付きを貰っています。


 次は使用している意識を分割します。

 直ぐに展開できるのは4つです。それぞれで、さらに並列思考を行います。

 チャンネルを増やしました。これは保険です。


 次は……━━



「ドリアードちゃん。頑張ってる所悪いんだけど、本当の事だからね? もう先に言っちゃうけど、転移したサラマンダーが、勇者様の仲間の戦士君と重なっちゃったのよ。まぁ一命は取り留めたから良いけど。取り敢えず来なさい」



 ………はい、直ぐに向かいます。









 

「……ふむ、これは融合とでも言うべきか……余もそれなりに長生きしているが、これは初めてだ。して、貴様はどうするのだ? 望むのならば、魔族として余の庇護を与えてやるが……?」


「えっ、マジで!? オレ、あんたの命狙いに来たんだぜ?」


「構わん。この程度の事が出来ずして、何故(なにゆえ)【王】を名乗れるか。貴様ら(・・・)の様な者を抱え込むのも、また一興よ」

 

「ヤッベェ、魔王様カッケェ!」



 魔王様と話しているのが、その戦士さんですか。


 あぁ……なるほど。

 見事に混ざってますね、これ。


 戦士さんの魂が強かったのと、サラマンダーがほとんど自我の無い幼成体だったのが幸いしたみたいです。

 新しい種族みたいになっていますね。



「貴様が(くだん)の木精霊か。言い訳を聞いてやろう」


「あっ、手当てありがとね」


「貴様はちょっと黙っていろ、ややこしくなる」



 隠す事は無いですし、全て話してしまいましょう。


 運が良ければ、魔王軍からの除名もあるかもです。

 そうすれば、森に引きこもれます。夢が広がりますね。



「……そうか。適当に跳ばした貴様も貴様だが、無闇に土地を荒らしたサラマンダーにも非はあるか。…………戦士の人生を狂わせた事には責任を取ってもらうぞ、木精霊。サラマンダーは自業自得だが、戦士はそうではない。互いによく話し合え。余は仕事に戻る」



 行ってしまいました。

 魔王様、勇者さん一行の事が気に入っている様ですね。

 面白い玩具を見つけた感じです。


 で、残された私と戦士さん。

 奥には、お仲間の3人も居ますね。

 

 責任ですか……何も思い付きません。

 私、欠片も罪悪感を感じていないんですよね。

 他人がどうなろうと、興味無いですしどうでも良いのです。


 そうです、戦士さんを養えば良いのです!

 これなら問題無いはずです。


 

「で、オレを婿に取ると?」



 人間なら、そうした方が良いのですよね?

 世間体がどうとか、聞いたことがあります。



「そりゃまぁそうだし。あんたみたいな美人が嫁になるってんなら、言うこと無しなんだが……アイツに悪いし…」



 あぁ、恋愛感情が必要なんでしたっけ?

 それは失礼しました。

 


「ああいや、いーっていーって。正直今のオレ、火竜っぽくてカッコ良くない? 大分慣れたし、ホラッ! 凄くね、爪伸びるし火ぃ吹けるし鱗の鎧だせ、これ」



 まぁ、人間の枠から見れば凄いですよね。


 ……ですが、サラマンダーとの融合は綺麗ですが完全では無いみたいですね。この程度の不調なら、私でも何とか出来そうです。


 服を脱いでいただけますか?



「ん? 下も脱ぐか?」



 そうですね、お願いします。

 詳しく体内の状態も確認したいので、服は邪魔になりますから。



「ちょっと待ったぁぁぁー!」


「うわっ! 何だよ、ビックリした」


「ビックリしたのはこっちだわ!」



 私もちょっとビックリしました。

 勇者さん達、盛り上がってますね。


 おや、神官さんに魔法使いさん。

 どうかされたのですか?



「先日は、傷付いた私たちの治療をしていただき、ありがとうございました」


「リュウゴから聞いたわ、アンタが治してくれたって ……その、悪かったわね…変態とか言って。それと、ありがと…」



 あぁ、その事ですか。

 人間の手当ては初めてでしたし、良い実験が出来ましたので気にする事ではありませんよ。

 それに、人間用の薬草も用意出来ましたし、エリクサー等の効能も確認しました。


 そう言えば、魔法使いさん。

 お身体は大丈夫ですか?


 割りと致命的なダメージを受けていたと思うのです。

 傷が残らない程度の事はしましたが、人間にも通用するのか不安ですし、念のため後で診せて下さいね。



「それでしたら心配はありません。ドリアードさんの行った治療で、後遺症もなく完治しています。これでも医療神官です、私が保証しましょう……と言っても、ドリアードさんの方が知識も技量も高いでしょうし、だからなんだと言う話ですが」



 そうですか。

 なら私が診る必要はありませんね。


 はい、信用してますので。


 それで話を戻しますが、戦士さんはどうしたいのでしょうか?

 私ではもう思い付きません。なので、もう全部戦士さんに決めていただこうと思ったのです。

 ほら私、大抵の事は出来ますから。



「じゃぁさ、治療に使った薬。3つくらい有ったろ? どれでも良いから1つちょーだい。それでこの話を終わりにしよう」



 そんな事で良いのですか?

 それで良いなら、別に何も言いませんけど。


 エリクサー、ソーマ、世界樹の朝露ですね。

 それぞれ使った量を1回分とすると、直ぐに用意出来るのはエリクサー13回、ソーマ48回、朝露6回分です。


 今の手持ちだとこれだけです。

 足りなければ、持ってきますよ。



「いや、こんな量いらんよ。オレじゃ持て余すし、戦争が起きるわ。このエリクサー、4つくれない?」



 えっ?

 それだけですか?


 私が予想していた量を、遥かに下回っています。

 師匠なら、私の備蓄含めて全てと向こう5年分の生産量は持っていきますよ。特にソーマ。


 本当に、それだけで良いのですか?

 


「えっ? あ、うん。これだけでも充分過ぎるけど。待って、魔王軍にはエリクサーが沢山あんの? 人間の国には存在しないよ!? 1つは有るらしいけど、それだけで外交カードになるんだけど」


「ハーッハッハッハ! その質問、この我が答えてやろう!」



 うーわ、出ましたよ……師匠です。


 なんだか、ヤル気というヤル気が削がれていく気がします。もう答えたら居なくならないですかね、この世から。


 …お酒臭い……


 この人、朝から酒盛りしてましたっけ。

 どうせ頭の中は素面でしょうが、素面で酔っている様なものですからね。関係ありません。



「先に言っておこう。魔人の社会でも、エリクサーとは秘薬中の秘薬である! では何故、アホ弟子が大量のエリクサーを持っているのか。それは、作り方保存法使用方法云々諸々を、我が仕込んだのだからな! 讃えよ、崇めよ、この我を崇め奉るが良い!!」



 あぁ喧しい…五月蝿い……


 確かに作り方云々は教わりましたよ? 非常に分かりにくい、雑な説明ですが。

 いくら聞いても埒が明かないので、自分でエリクサーを探して、成分を調べて、試行錯誤して自力でレシピを復元させたのです。


 なんと言うか師匠が大元ですが、頑張ったのは私です。

 その言い方には、納得が出来ません。


 文句を言っても何も変わりませんし、余計鬱陶しくなるだけなので黙っていますけど……

 やっぱり、師匠はいつか土に還してやります。



「因に朝露だがな、アホ弟子の体液と混ぜると更に効果が上がるぞ! 知っておけ!」



 人の事を何だと思ってるんですか……まぁ後で試してみますけど。

 ですが確かにそうですね。エリクサーの材料の中に木精霊の樹液が入ってますし、何かしらの効能はありそうです。

 ただ、勝手に弟子を実験に使う師匠の気が知れません。知りたくもないです。


 あっ、そうでした。

 戦士さんの混ざり具合の調整をするのでした。



「それなら、この我がやっておいたぞ! 我はそこの戦士が気に入って居るのでな、サービスである!! 深く大きく一生分の感謝を、我に捧げよッ!」


「ようわからんが、アザッス!」


「フハハハハハッ! それでよい、恩に着れ!」



 高笑いと共に消えていきます。


 相変わらず、無駄に高い技術を無駄な演出に無駄に力を入れていますね。

 存在が五月蝿いのが居なくなり、一安心です。


 師匠の実力は信用していますが、師匠には信用も信頼もしていません。

 戦士さんの容態確認です。


 早く脱いでいただけますか?



「これでいいか?」



 少し残っていますが、まぁ、良いでしょう。


 肉体も魂も、完璧に調和しています。

 遺伝子情報が人間では無くなっていますが、何だと聞かれると人間としか答えられない内容になっています。


 悔しいですが、流石師匠ですね。

 何も問題はありません。あったとしても、私には見つけられません。


 一応、念のためにやっておきますか。


 解法と解術に解毒を、魔法、魔術、呪法、呪術、気術、仙術、妖術、聖法、聖術、精霊術、外法で行います。

 正直まだ不安ですが、生命活動に関わるほどの不都合を起こす可能性が高いものは排除したハズです。


 あとは、塩でも撒いておきますか。


 これでダメなら、私ではもう無理です。


 それとどうやら空腹状態の様なので、適当な果実と私のおやつを差し上げましょう。


 戦士さんの身体は、大量のエネルギーを必要としているみたいなので、たくさん食べてください。

 サラマンダーの特性を使うのに、かなりのエネルギーが消費される様ですね。


 今は何も考えず、食べ続けることをオススメします。



「おう! 無限の胃袋と呼ばれたオレの食欲、魅せてやるぜぇ! いただきます!」



 おお、なんて気持ちのいい食べっぷりでしょう。

 師匠とは違って、非常に美味しそうに食べてくれますね。


 おやつを作った甲斐があります。

 

 良く考えると、師匠以外に料理を振る舞うのは初めてですね。成る程、ククルさんが時々おやつを作ってくれるのは、これが理由ですか。

 美味しそうに食べてもらえると、中々嬉しいものです。


 折角なので、皆さんも食べて下さい。

 私は、新しく作ってきますので。



「はむほほっ、ンぐ。まんおオぬぉ!」


「ありがとうございます。頂きます」


「いただくわ」


「…お姉さんの手料理……! イェスッ!」



 私、一時期は師匠に命じられて料理番をしていました。

 その時に、様々な料理を教わったのです。調理された食材があれほど美味しくなるなんて、と感動したのは良い思い出です。

 あの人として最低な師匠が、私よりも圧倒的に美味しい料理を作るのが気に入らなくて、熱中して勉強しましたね。


 本当、師匠の食への拘りは半端無いです。


 4人前を作るのは初めてです。

 いえ、もっとですね、戦士さんは大食いらしいので。


 私は、料理に合うお酒を取りに行ってきます。

 調理は、分体を造ってそれに任せます。



 さて、人間の舌に合うお酒は何でしょうか?

 分からないので、片っ端から持って行きましょう。


 妖狐のお姉さんから、お酒が飲めない人間が居ると聞いたことがあります。一応、酒精の入っていないモノも持っていきましょう。


 料理も終わった様です、戦士さん達の元へ向かいます。



「……ドラゴン、シーサーペント、ヘルフレイムボア…どれも超髙難易度の獲物だぞ」


「これは、月光草の新芽にサンイーターの果肉…こっちのは千線草、どれも入手が限りなく不可能とされる薬草ばかりです」


「…赤色のマンドラゴラ……こんなの、書物でしか見たことがないわよ。それにこれって、サプライズフルーツじゃない…絶滅したんじゃないの……!?」


「うまうまうま……うまうま…うまうまうまうま……おかわり!」



 植物なら私の庭に生えていますから取り放題ですよ。なんなら、私自身に実らせる事も出来ますし。


 お肉は、管理地に入り込んだ奴や、師匠に命令されて取りに行ったものです。

 あの人、取りに行かせるだけ行かせて、その気分じゃないから違うの食べたいとか言うんです。

 何度殴り殺してやろうかと思った事か……


 あの、食材を見るのではなく、料理を食べて欲しいのですが。

 


「うまい!」



 そうですか、ありがとうございます。


 えっ? 私は食べませんよ?

 食べれますけど、その必要はありませんし、今は気分ではないんですよね。


 私にとっての食事は、あくまでも娯楽の1つでしかありませんので。

 それに、今回は皆さんの分しか作っていません。



「ふぅ、ご馳走さまでした」


「ごちそうさま」


「ごっそさん。うまかった」


「ごちそうさまでした。お姉さん、俺と結婚して下さい」


 

 お粗末さまです。


 勇者さん、いきなりどうかされましたか?

 師匠に、イタズラでもされているのかも知れません。



「俺は至って正気です。…一目惚れです! 結婚を前提に付き合って下さい!」



 術に掛かっている人は揃って正気だと言います。勇者さんにも解除系の法術が必要みたいですね。

 ついでですので、やっておきますね。



「良かった、ここに居ましたか。ドリアードさん、助けて下さい!」



 ククルさんじゃないですか。

 そんなに慌てて、何か問題でも?



「人間の赤子がまた泣き止まないんです、何か分かりませんか!?」



 あぁ、確かに拾った幼児の世話をしてるんでしたっけ。

 空腹か排泄か睡眠のどれかに、問題があるのではないですか?



「それがどれでもないみたいで……」


「すみません失礼します。…ええっと、この子ですね。健康状態に問題はない様ですね、オムツも乾いています」


「ア? なんだアンタら? なんで人間がここに居るんだよ」



 魔王様のお客様で、私の被害者のお仲間ですよ。

 


「それは失礼しました。僕はククルと言います。ドリアードさんの先輩です」


「私はシスティです……ってそうではなくて、多分この子は寂しいんだと思います。籠から出して、抱いてみてはどうでしょう?」


「僕が?」


「はい。この子は貴方を見ていますよ」


「大丈夫? 壊れない? 爪とか刺さらない?」


「手を見せてください、これくらいなら大丈夫ですよ。そぉっと、優しく掬い上げる様に。そうです、頭が揺れないように気を付けて下さい。えぇ上手です。腕に寝かせる様に、胸で支えて……はい、そのままゆっくり歩く様なリズムで……もう少し柔らかく、いい感じです」


「すごい、泣き止んだ。君スゴいね」


「私ではなく、貴方が凄いんですよ。赤ちゃんはこう見えて、とても用心深いんです。安心して眠れると、信頼出来る人の腕の中だけで眠るのですよ」



 へぇ、そうだったんですか。

 正直な所、大して能力の高くない神官さんは、ただの数合わせだと思っていたのですが。私の見る目がなかっただけみたいです。


 神官さんの武器は、戦闘ではないみたいですね。


 それにしても、ククルさんと神官さん。2人ともそんなに幼児を覗き込んで、何が面白いのでしょうか?


 人間には知性があるのに、それがない幼児ほど訳のわからない存在はそうそうありません。師匠といい勝負でしょう。

 私には理解が出来ません。


 なのに、何故ククルさんは私の所へ来るのでしょう?

 知識は確かにありますが、生かせる程経験も応用も無いのですが………骨も師匠も役には立たないですし、フィシリアさんとキコツさんは行方不明、ジョンさんは出張中。なるほど理解しました。そう言うことですね。


 


「この子の名前は何と言うのですか?」


「名前? 名前なんて考えた事無いよ。着けても良いものなのか分からなくてさ」


「是非着けてあげてください。名前は親からの最初の贈り物ですから」


「う~ん。僕だけだと難しいから、君も手伝ってくれる? 人間の事も知りたいし」


「任せて下さい! 良い名前をこの子に贈りましょう」

 

「助かるよ。そこの部屋が空いてるから、あっちで話そう」




 気付けばククルさんと神官さんは移動しています。


 では、私もこれで。



「ありがとね~」


「そう、じゃあね」


「ご一緒します」



 勇者さんが着いてきていますが、まあ良いでしょう。

 私のお昼寝を邪魔しなければ問題ありません。


 今日はハンモックな気分です。

 魔王城の中庭に、良さげなスポットがあった気がします。そこに向かいましょう。



 ふむ、なかなかですね。

 おやすみなさい。









「まじて寝ちゃったよ……俺も寝るか、起きてから考えよ」








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