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魔王様と勇者さんの戦いを止めてから、一晩が明けました。
立ち去った足でそのまま、魔王城の一画にあるお気に入りのお昼寝スポットで眠っていたのですが、気付いたら朝でした。
少々眠りすぎた様です。
「……すぴー……すぱー……すぴっ…ンガ、フゴッ! ……ふぁぁあ、木精霊であるか、おはよう…」
おはようございます。キコツさん。
ところで、何で私の隣で寝ていたのですか?
全く気付かなかった自分にびっくりです。
「拙者、諜報課に向かっておったのだが、部屋が全く見付からなんだ。仕方無しに昼寝に向かった所で木精霊を見付けたのだが、起こすのも忍びなくてなぁ。まぁ、拙者も眠たかった故、一眠りしたのだ」
つまり、事務所へ案内すれば良いのですね。
一緒に向かいましょうか。
「いやぁ、この城は相変わらずややこしいな。何度通っても覚えられぬ」
それはキコツさん。
貴方が方向音痴なのが原因ではないでしょうか。
いえ、魔法があるじゃないですか。仙術もありますよね。探索系を使えば、方向は分かりますよ。
いくら方向音痴でも、目的地まで一直線で向かえば迷わないはずです。壁なんて、有って無い様なものですよ。
「そうそう、土産もあるぞ。まとめてメチル殿に送ってある故、楽しみしていてほしい」
おーお土産ですか。
楽しみですね。
キコツさんは趣味がいいですからね、期待が高まります。
前回のお土産で頂いたアロマは、お昼寝の時に使わせてもらっています。
その前のドリームキャッチャーですが、最近網目に黒い靄が引っ掛かったのですがどうしたら良いのでしょうか?
取って良いものでしたら、お掃除したいのです。
「それは燃やして捨てろ。気に入ったのなら、また持って来よう……っと、おお! 見えたぞ、懐かしい部屋だ。礼を言うぞ木精霊!」
そうなんですか。
枕元に飾って以来、夢見が良くなったのです。
あれのない睡眠は考えられません。
……まぁ、無くても寝ますけどね。
では、私は分体の所へ行ってきます。
どうもリンクの調子が悪いんですよね、原因には幾つか心当たりがあるので、解決に向かいます。
現地転移はリスクが高そうなので、歩いて行くとしましょう。
「木精霊。すまないな、手間を掛けさせた」
いえ、構いませんよ。
さてと、分体の所へやって来ましたよ。
……これはまぁ、手酷くやられていますね。
ここの分体は、蔦植物を使っていたのでリンク不良で済みましたが、普通に草花を使っていたら完全に壊されていたでしょう。
辛うじて残っている分体のログを確認したところ、近くにサラマンダーが住み着いたらしいのです。
それが分体の上を歩き、燃やしてしまったらしいのです。
生体ログ確認方法は、分体の体験した情報を呼び出して行うのですが、その確認方法がイヤなんですよね。
分体の体験した情報を、そのまま体験する事になるのです。
つまり、私の身体が燃えている様に錯覚するのです。
実際に燃えたり、踏み潰されたりはしません。けれど燃えている熱が、踏み潰された痛みが、私の全身を駆け巡っています。
原因が師匠じゃないので、一安心です。
ですが取り敢えず、分体を燃やしたサラマンダーにお仕置きをしてきましょう。
足跡や燃えカスから、方向を確認したので追い掛けます。
痕跡のサイズからして、恐らくまだ幼成体でしょう。
大きく見積もっても掌程度でしょうね。
……この大きさで、私の分体を8割程燃やし尽くす火力ですか。
これは間違いなく、変異種か特異種でしょうね。
まぁ私も変異種ですし、騒ぐ事でもないでしょう。
サラマンダーは、割と簡単に見つかりました。
焦げ跡を追うだけなので楽勝です。
周辺が火事にならなかったのは、奇跡か何かでしょうか。
サラマンダーはどうやら眠っている様です。ただし、個体の周囲が丸焦げになって崩れていますが。
これだけの熱量を発していれば、この辺りに脅威はありませんが、どうも無用心が過ぎるのではないでしょうか。
それと、親が見付かり……いえ、止めましょう。
なし崩し的に、私が面倒を見ることになりそうです。
厄介事には関わらないのが賢明なのだと、私は既に学んでいるのです。
では幼いサラマンダーを、此処ではない何処かへ送りましょう。
所謂転移魔法ですね。
行き先は完全にランダムです。
転移座標先の何かと混ざらなければ、貴方は貴方のまま生きて行けると思います。
|DEAD OR ALIVE《生きるか死ぬか》です。
恨むなら、自分より強者の縄張りを荒らした己を恨んで下さい。
さようなら、幼いサラマンダー。
『…━━━フハハハハハハ!』
事務所から、笑い声が聞こえます。
メチルさん、キコツさん、師匠の3人ですね。
引き返しましょう。
このまま入ると、玩具にされてしまいそうです。
「なぁおいアホ弟子、何処へ行こうってんだぁ? んん?」
「おっ、来たなドリアード。土産だ土産!」
「木精霊の造る酒は美味だと聴いた! 是非拙者にも!」
………………ッチ、騒がしい……
お酒の匂いが強く漂っています。
師匠在る所、酒在りです。
その逆もありますね。
酔っ払いは、相手にするだけ時間の無駄です。
メチルさんの手からお土産を抜き取り、机にお酒を適当に置いて行きます。
別の場所で時間を潰しましょう。
事務所から、今日の分の仕事を持ち出して来たのでそれを処理するとします。
そうですね……お城から少し離れた場所に、酒蔵兼倉庫があった筈なので、そこへ行きましょう。
手持ちのお酒も減ってきたので、そこで補充もしておかなければいけませんね。
お酒のストックは大量にありますし、 ほぼ毎日お酒の仕込みが終わります。
私の酒蔵は、各分体の周辺に数軒作ってあるのです。
醸造酒が多く、蒸留酒がそれに続いています。
混成酒は飲みたがる人が少ないので、殆ど私の分だけです。
売りに出しても良いのですが、私が飲むお酒が減るのは許せません。
師匠が勝手に持ち出すのを前提としてるので、実際かなりの量を造っています。
そして残ったお酒は、基本的に全て私が消費します。
私が、私の飲みたいお酒を造っているのです。
それはもう、堪らなく美味しいのです。
師匠達に当てられました。
貯蔵してあるお酒を空けていきましょう。
仕事もしなければいけないので、軽いものからですね。
あの人達の様に、飲んで遊ぶだけの存在には成り下がりたくありませんから。
………多分あの人達、仕事終わらないですよね。
ま、自業自得です。
では、お酒を並べましょう
今は蒸留酒な気分なので、コニャック、アルマニャック、焼酎、ジン、ラク、ラム辺りを持ってきました。
同時に封を切ったのは失敗でした。
全て同時に飲みたくなってしまいます。
私の味覚なら、同時に口に含んでも別々に味わえるでしょう。ですが、どうせなら1つに集中して、美味しく頂きたいのです。
早いところ仕事を終らせて、気持ち良く酒盛りをしましょうか。
「あそこがドリアードの酒蔵か? おっしゃ突撃!」
「拙者、おかわりを所望する!」
「おいまて! 待つのだ! 酒の入ったアホ弟子はマジで洒落にならん! 我でも手が出せんのだ! 貴様ら止まれえぇい! 我はまだ死にたくない!」