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3-1






 森で勇者さんと出会ってから、だいたい半年が過ぎました。

 噂ではそろそろ魔王城付近にやって来るらしいです。


 勇者さん達も凄いですね。

 たった5人で、魔王様の領内で戦っていたいられるのですから。

 まぁ、魔物や魔族の方々全てが、魔王様に従っているわけではありませんので、場所を選べば比較的安全な観光が出来るんですけどね。


 勿論、魔王様達も頑張っていますよ。

 先日は、人間の国を滅ぼしました。これで4つ目です。

 あと、新たな農作物の栽培法を確立して、食料事情を大幅に改善しました。


 そんな中、私はいつも通りお仕事をこなします。

 勇者さんの導きも最近は落ち着いたらしく、フィシリアさんも一緒にです。メチルさんは、いざと言うときの為に全身をホワイトニングすると、彫刻家のドワーフさんの所に行っています。仕事してほしいです。



 …………あっ



「あら?」



 どうやら私達の知覚範囲内に、勇者さん達が入った様です。感じられる気配が、格段に大きく強くなっています。



「とうとう来たわね。今代の魔王様もここまでかぁ~、中々の名君だっただけに、勿体ないわ」



 まるで魔王様が負ける様な言い方ですね。

 まぁ、誰が勝っても負けても、どうでも良いのですが。一応魔王軍に所属している訳ですし、魔王様には頑張ってもらいましょう。



「確かに能力的には、勇者様は何れだけ頑張っても魔王様には勝てないわね。魔王様なら、片手で楽に相手取れるでしょう。けれど『勇者』と言う存在は特別で、必ず『魔王』に勝つようになっているの。それは風が吹けば木々が揺れ、産まれる命があれば失う命があるように、光が差せば影が出来るもの。それと同じこと、それが世界の仕組みなの」



 魔王様、不遇な立場ですね。

 私なら願い下げです。

 好き好んで死にに行くような事はありません。のんびり好きに生きていたいのです。

 きっと、本人は知らないのでしょうね。


 

「まっ、例外だってたくさんあるんだけどね。『勇者』は『魔王』に勝つ。それは確定。ただし、勝負の内容は決まっていないの。ほとんどは生死を掛けた戦いだけど、知恵比べや大食い、領地開発なんて勝負もあったわね。そんな変わった魔王は、今でも何処かで生きているわ」



 成る程、貴女達の様な魔王の事ですね。

 半年も魔王城(ここ)に居るのです。これだけ一緒に居たのですから調べなくても分かりますし、私は調べたので分かります。 


 どうりで、メチルさんに見覚えがあった訳です。

 初代魔王と言えば、人間が神に祈る様に、魔族が願掛けをする対象です。ちょっとした広場には、必ずと言って良い割合で、骸骨の像が立っています。

 あれがメチルさんですか……ローブや杖を身に付けないと、普通のスケルトンと見分けがつかないのは、私だけでしょうか?


 ここ諜報課の皆さん。

 私以外、元魔王らしいですよ。


 凄いですね、よく集まったものです。

 と言うか、魔王をやめても魔王軍に居るなんて、相当暇なんでしょうかね。私なら、森に引きこもってのんびり暮らすのですが。


 まぁ…私の知った事ではありませんね。

 興味無いので、どうでも良いです。


 問題は、師匠の様に迷惑かどうかです。



「それにしても速いわね、勇者様。もうお城の敷地に到着したみたいよ。ねぇドリアードちゃん、一緒に見に行かない?」




 フィシリアさんも、結構サボりたがりますよね。

 仕事はきちんと終わらせますし、私の分も手伝って下さるので気にならないです。

 あとは人柄ですね。何て言うか、許してしまうのです。可愛い方ですので。


 私もこの書類で一段落です。

 では、勇者さんの所へ向かいましょうか。











 無駄に広い魔王城を、フィシリアさんと並んで歩き、勇者さんの居る場所に向かいます。

 多分、食堂付近に居ると思います。


 フィシリアさんは自前の羽で飛べるのですが、飛べない種族の方と一緒の時は、飛ばずに歩いて移動しています。

 そういう所も、フィシリアさんの魅力の1つだと思います。



「そうそう。勇者様、ドリアードちゃんに名前を付けれる程度には成長してるわよ。良かったわね」



 ………………………………ん?


 ……名前………ですか?


 私に名前を?


 んん? 何時の話ですか?

 覚えていませんね。


 それは私に関係のある話でしょうか?



「これはまた……勇者様も不憫な思いを抱いてるわね……」



 本当に覚えていません。

 正直、勇者さんに出会った事は覚えているのですが、顔も名前も記憶にないんですよね。

 三角の帽子を被った、紫の人間の少女なら覚えているのですが……あの子の魔力は、とても澄んでいて綺麗な色でした。


 あの日は師匠を殴れたので、それで満足してたんですよね。心残りがあるとすれば、そのまま永遠の眠りに落とせなかったことくらいですし。


 やっぱり、全然覚えていません。


 実は師匠が、私に記憶改竄の悪戯をしているのでしょうか、あの人なら可能ですしあり得ます。



「あぁ~、派手にやってるわねぇ。2階の吹き抜けから見えるから、そっちへ行きましょうか」



 良いですね。

 

 では私は、樹液酒でも用意しましょうか。


 大丈夫です。

 この樹液酒はほとんど酒精が入っていない、ジュースの様なものですから。


 そうです、手作りですよ。

 なんとかと言う師匠に、お酒造りを叩き込まれましたからね。なんだかんだ楽しいので、趣味のようなものです。



「始まるみたいよ。勇者様の相手になるのは、力将のバーバラ君。バーバラ君は典型的な叩き上げで、とても強いわよ。ちょうど、勇者様一行より少し上辺りかなぁ」 



 へぇ、そうなんですか。

 あのミノタウルスさんは、そんなに強いのですか。


 だって仕方ないじゃないですか、これだけ能力に差があると、勇者さんもミノタウルスさんも同じ程度でしかないんですよ。

 噛む蟻と噛まない蟻なんて、私からしたらどちらも同じ蟻ですから。



「これ美味しいわね。何の樹液なの?」


「私ですよ」


「はぇ?」



 いや、私は木精霊ドリアードですよ。最も簡単かつ楽に樹液を採取するには、自分で出せば良いのです。

 師匠曰く、私の樹液酒はとても美味しいらしいので、一定の量は常備しているのです。今回みたいな時に役立ちますからね。



「それって、大丈夫なのよね?」



 口に入るものですからね、衛生面は完璧です。


 これも、師匠から酒造技術と一緒に叩き込まれた衛生観念です。

 思えば私の技術技能の殆どは、師匠から学んだものですね。認めたくはありませんが、師匠の知識や技は本物です。何処であれほど学んできたのでしょうか。

 師匠、汚し放題散らかし放題でやりたい放題ですが、食べ物飲み物にはやたらと細かいんですよね。


 材料を無駄にすると、烈火の如く怒りだすんです。

 納豆を知らずに、腐ったゴミだと思って捨てた事があるのですが、大変でした。本気で怒った師匠は、あれが初めてでした。全治に10年程かかる傷を負わされました。えぇ、ボッコボコにされましたね。

 2度とやられたくなかったので、発酵と腐敗を死ぬ気で学びました。



「勇者様達、良い感じに暖まってきたわよ」



 若干押され気味だった勇者さん達ですが、徐々にミノタウルスさんを押し返しています。

 どうやら、行動パターンを読まれているようです。賢さは、人間達に軍配が上がったみたいですね。

 こうなってしまえば、ミノタウルスさんは負けてしまいます。何か勇者さん達のリズムを狂わす技が無い限り、この世に永遠のお別れを告げる事になるでしょう。




「ヌァーーーッハッハッハ! 我 、 降 ★ 臨 !」




 などとほざいている師匠が、床を捲り上げながら地下から現れました。

 音の反響からして、あの位置には空間が無かった筈なのですが、まあ師匠ですので。この世の物理法則に真っ向から喧嘩を売り、魔法や魔術等を根底から壊して行く様な人ですから。


 あっ師匠、勇者さんを座らせました。座布団まで用意しています、人数分ですか。ミノタウルスさんも一緒です。

 あの人、何がしたいのでしょう?


 無駄に大きかった師匠の声が、無くなりました。防音結界でも張ったのでしょう。



「シギ君が来たし、ここはもうお仕舞いね。折角だし、最後まで一緒に見ていきましょう。今の魔王様を失うのは、まだ早いもの」



 今日の分の仕事は終わらせましたし、構いませんよ。


 師匠も、要件が済んだ様です。

 高笑いと共に、身体を霧に変えて勇者さんの前から消えました。


 

「よう、馬鹿弟子。サボりか?」



 こっちに来ました。

 お酒あげますから、黙ってて下さい。



「サボりじゃないわよ~。ドリアードちゃんと私は、シギ君と違ってお仕事を終わらせてから来ているもの。シギ君と違ってね」


「お、おう……お疲れだな! また出ていくから、土産を待ってて下さい本当まじでごめんなさいゆるして」



 えっ!?

 師匠が、謝った!?



「貴方誰ですか? 私の師匠はもっと頭おかしくて常識の無い、歩く理不尽みたいな存在です。私のお酒を返して下さい」


「馬鹿弟子め、そんなふうに思っとったのか!」



 黙りなさい、偽物。

 成り代わるなら、ちゃんと本物を始末してきてくださいよ。


 師匠にかけられた制約やら呪いやらのパスが、消えていないのです。



「まあまあドリアードちゃん。シギ君は本物よ? 私達は幼馴染みたいなものでね、いじめッ子こいじめられッ子の関係だったのよ。……あの頃のシギ君は、可愛かったわぁ」


「くっ…もはや条件反射とも言えよう。我はとうに諦めたのだよ。今さらどうにもならん! そして酒も返さん!」


「あら、勇者様達が移動するみたいよ。私達も行きましょうか」



 はい。 行きましょう。


 成る程成る程。

 フィシリアさんと一緒だとほんの少しだけ、師匠が大人しくなります。

 凄いですフィシリアさん。


 そう言えば、メチルさんは師匠の師匠でしたっけ。

 意外と師匠も、逆らえない人が居るのですよね。安心しました。あれでもきちんと、脳ミソ入ってるんですね。

 


「シギ君は、さっき勇者様達と何を話してたの?」


「んん……世界の不思議を少々、我が望む答えは無かったがな。あと旨い酒といい女」


「ふーん」


「聞いといてそれ! 不愉快だ!」



 おぉ……!


 師匠が振り回されてます!

 こんな光景は初めてです。凄いです!


 フィシリアさんとメチルさん。

 師匠の事で困ったら、お二人に相談しましょう。



「ああそうだ。勇者の奴はこれから玉座へ向かうらしいぞ。なんたって、我が道順を教えたのだけらな!」



 ああそうですか、では私はこれで。 

 興味も無くなりましたし、眠たいので寝たいです。



「行くよ、ドリアードちゃん。貴女は大切な交渉材料だもの、逃がさないわよ?」



 えぇ…面倒……


 分かりましたよ、行きますよ。

 行きますからフィシリアさん、妖精をけしかけないで下さい。

 


「━━━で、私は適当な良い感じのタイミングを見計らって、勇者様と魔王様の戦いを仲裁しようかと思うの」



 途中で師匠と別れて、勇者の後ろを追いかけていました。

 現在は魔王様の居る、玉座の間にある天窓の脇で座って眺めています。


 なんでも今回の勝負は戦闘になるらしく、魔王様が殺される直前に介入するそうです。


 勇者と魔王の戦いは、世界のエネルギーを適量に消費もしくは増産させる事が目的だそうです。

 魔力や聖気などのエネルギーは割りと安定しているのですが、感情から産まれるエネルギーは勇者や魔王と言った、国も種族も関係ない程大きな影響力を持つ者でないと、変化を与えられないのだとか。同じエネルギーを使う呪術なんてものもありますが、あれだけでは足りないのです。


 

「その程度か? 人間の侵略者よ。……せめてもの慈悲に、苦しまぬように殺してやる」


「…くっ……強い…! だが、まだ……こんな所で死ねるかぁーー!」



 なんだか、クライマックスみたいですね。

 ですが勇者さん。残念な事に魔王様は、まだ1割程度の能力しか使っていませんよ。魔法使いさんが瀕死になった攻撃は、魔王様の通常攻撃ですらありませんし。


 別に勇者さんが弱い訳ではありません。

 人間と言う枠の中では、異常なくらい強いのでしょう。ただ人間と鼠が戦っても、種族に決められた能力の限界があるせいで、鼠が勝てない事と同じです。

 覆そうとすれば、相手を同じ土俵に落とすか、自分が変わらなければいけません。


 勇者さんは、まだ人間ですから。

 魔王様には勝てないでしょう。


 

「もう少し粘りましょう。勇者様は本当に追い込まれた時、世界の補正が利くから」



 その世界の補正は、どの程度のモノなのでしょう。

 フィシリアさんは知っている様ですが、私は知りません。


 見てみたいので、速いところ追い込まれないでしょうか?



「━━━ぐっ…はぁはぁ……ヤバイな、マジで俺死ぬかも」


「そうか、ならば死ね。目障りだ」


「お断り……だっつーの!」



 中々粘りますね。


 魔王様が凄いです。

 目の前を飛び交う羽虫を、潰さずにつまみ上げて放り投げ、更には程々の傷を負わせているのです。

 なんて繊細な力加減なのでしょう。私ならすぐに潰してしまいます。



「あれくらいは出来ないとダメよ? と言うか、ドリアードちゃんだって、やろうと思えば出来るでしょう」



 集中力が足りないんですよ。

 疲れますし、やりたくないです。


 そろそろ良い感じではないですか?

 勇者さんの仲間はみんな動けないですし、本人も次の攻撃が最後でしょう。



「まだ歯向かうか、勇者。その心意気に免じて、名乗りを許そう」


「そりゃ光栄だな。俺は崎守(さきもり) 隆悟(りゅうご)。魔王、お前に……刃を突き立てる男だぁぁぁ!」


「面白い男だ、死ね」



 おや?

 勇者さんの持つ剣に、異常な気配を感じますね。

 何か大きな力が、剣を媒体にして勇者さんへ流れていきます。


 魔力でも聖気でも気力でもないですね。

 思念のエネルギーでもないようです。

 私の知らない、謎のエネルギーです。



「あれが、世界の補正よ。今代の勇者様への補正は、純粋な身体強化みたい。思ったより地味ね。……さて、止めに行くわよ。ドリアードちゃんは勇者様をお願い」



 了解です。

 止めに入りましょう。



「はーい、そこまで。お二人とも武器を降ろして下さいます?」


「む! 貴様は、(むくろ)の所におる妖精か。何用だ」


「あの時のお姉さん!」



 あれ魔王様。

 フィシリアさんの事を知らないのですか?


 流石に、元魔王だとは分かりますよね。

 


「詳しい話は後で。勇者様も魔王様も、まずは落ち着いてね。ドリアードちゃん、勇者様達の手当ては出来る?」



 人間の怪我の手当ては初めてです。


 道具や薬は、あります。

 ですが、どれを使えば良いのでしょう。


 分からないので、今持っているエリクサーや世界樹の朝露やソーマ、あと私特製の薬草でも使いましょうか。

 これだけあれば、どれかは効く筈です。


 駄目ならその時考えます。

 どうせ放置すれば死ぬのですから、手当てしてもらえるだけ儲けたとでも思って下さい。


 では、そこで倒れている戦士の男性からです。この人には、エリクサーを使ってみましょう。

 辛うじて意識は残っているみたいです。エリクサーを自力で飲み込んでいきます。

 外傷には、特製の薬草を貼ってみましょう。これも何種類かあるので、適当に使ってみます。



「っぷは! 生き返ったぁぁぁァァアア痛ぇえぇえ、何これ染みる染みてる痛ぇって! やべっ、熱いのに冷たくてスゲェ痒い!」



 ……元気になったみたいですね。


 人間にエリクサーは有効なようです。

 ただ、薬草は怪しい所ですね。これは工夫が必要です。


 次は神官の女性です。

 この人には、世界樹の朝露を与えてみます。

 聖気の枯渇が激しい様なので、これはちょうど良いですね。


 打ち身が酷いですが、これなら世界樹の朝露だけでも治るでしょう。


 世界樹の朝露は飲み物ではないので、全身に振り掛けていきます。



「ん……あれ?」



 次です。

 この人は無事なのでしょうか?

 魔法使いの女性なのですが、左の手足がぐちゃぐちゃに折れています。それに加えて全身に火傷と裂傷、打撲による内臓損傷。


 私は師匠ほど人体に詳しくないので、簡単な診断ではこれが限界です。


 傷を治しても、生命力が無くなればそれで終わりです。

 という訳で、ソーマを使いましょう。


 ソーマはお酒ですが、生命力の回復に大きな効果があります。それにとても美味しいので、私は常にストックしています。


 困りましたね。

 すぐに吐き出してしまいます。

 嚥下が出来ないレベルだとは想定外です。


 仕方ありません。

 口移しにでもしますか。

 これからは、強制的に飲み込ませる道具を用意しておきましょう。


 勿論不安はあります。

 ソーマは美味しいので、移す前に私が飲み込んでしまいそうなのです。



「…ん……んく……ぁ…」



 何とか飲み込ませる事に成功しました。

 やっぱりソーマは美味しかったです。


 これで、生命維持はできた筈です。

 今度は傷の治療ですね。やらなければ、私のソーマが無駄になってしまいます。


 先程効果が証明された、エリクサーを与えましょう。

 内側からなので、内臓や骨も治ると思うのです。



「……ぁむ…んぐっ……んん!……っぷはー! ああぁ、貴女!」


「動かないで下さい」


「ひんっ!」



 意識はまだ、魔王様と戦っていた時のままなのでしょうね。暴れないで下さい。

 表面の傷が残っています。

 殆どは治ったのでしょうが、傷痕を残すわけにはいきません。

 効力を確認した薬草を、目的の性質に特化したものへ作り変えました。染みたりもしない筈なので、これを傷口に貼り付けたらおしまいです。


 ……ん? 皆さん、どうかされましたか?



「あのねドリアードちゃん。人間には、人間の価値観と言うものがあるの。それは分かるわよね?」



 当然ですね。

 私にだって、私の価値観があるのですから。



「そうね。人間の、それも若い人達にとって、口付けは特別な意味があるの。たとえそれが、救命行為だったとしてもね」



 ああ、成る程。

 つまり私は、勇者さん達から見れば、痴女ですか。


 昔、仙人のお爺ちゃんも私の姿を見て、似たような事を言っていましたね。

 納得です。


 ……だって、服ってチクチクするじゃないですか。窮屈ですし、暑いのです。

 師匠に、これだけは身に付けろって言われている分は着ていますよ。私としては、だいぶ譲歩しているつもりです。


 しかも、その見た目に加えて口付けですか。

 私は別に気にならないですし、問題は無いのですが、彼らには違うみたいですね。


 はぁ…手当てしたのですから、見逃してくれてもいいじゃないですか。



「…初めてだったのに……ファーストキスだったのに……それが…それがこんな変態にぃぃ~! ぅわ~ん!」



 ……変態って……それはショックですね


 貴女達からすれば変態かも知れませんが、私には当たり前なんですよ。

 私はドリアードですよ、精霊寄りですが魔物です。服を着る魔物なんて殆どいませんよ。


 着ているのは、知性があって理性があって人形(ひとがた)の……あ、私ですか。


 もう良いです。

 不利な雰囲気なので逃げます。


 さようなら。







「羨ましいぞ、ノエル! 俺もしてほしい!」


「なんだ、システィにでもしてもらえよ。ノエルでも良いじゃねえか」


「俺はお姉さん一筋だ!」


「これは……余はどうすれば良いのだ?」


「むむ? どうやら、また場所を間違えたようだ。はて、拙者の部署はどの辺りだったか……?」










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