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気付けば此処へ来てから半年ですか。
もう、慣れました。
━━━…ピトッ……ピトッ……ピチャッ……
突然、頭に水が滴ってきても気になりません。
次は窓ガラスですよ。
━━━カタカタカタカタカタッ!
予想通り、震え出しました。
別に目を向ける程の事ではありません。
さっさと仕事を終らせて、眠りたいのです。
この前キコツさんから頂いた、お布団が私を呼んでいます。
ケツァルコアトルの羽毛布団に、ジェノサイドスパイダーから採ったスパイダーシルクのスベスベなシーツ。
ナイトメアシープのもふもふ枕。
想像しただけで眠くなってきました。
━━━ビリビリッビリッ!
━━━スカッ……スパーン!
筆記具に雷魔法が仕掛けてあったり、ゴーレムがハリセンを振るって来たりも、既に日常の一部です。
私の身体は人間ベースですが、筋肉や内臓などの働きが生物とは違うので、電気で痺れることはありません。やろうと思えば、全く同じにも出来るんですけど、疲れるのでイヤです。
それとハリセンゴーレムですが、そこに居る時点で分かりますから。空気の流れや音の反響の変化、ゴーレムの材質の匂いや魔力の流れがあります。
攻撃なんて、当たるわけないじゃないですか。
「どりあーどはっけん!」
「はっけん! はっけん!」
「あそぼーどりあーど」
「あーそーぼー!」
これには参ってしまいます。
最近私の周りを付きまとっている、小精霊と妖精達です。
元々はフィシリアさんにくっついて居たのですが、私が果実を与えてしまったばかりにこんな事に……
くっ! 失敗しました。
とは言っても、彼らも悪気があるわけではないですし、時々お仕事を手伝ってもらってるので強くは断れません。
仕方ないので、次の休憩まで待っていてもらうように説明しました。
きちんと説明すれば、妖精達は分かってくれるのです。
小精霊は、ほとんど自我を持っていません。妖精を動かせば勝手に何処かへ行ってしまいます。
……はぁ…ここのお仕事も慣れたものです。
私含めて7人のメンバーですが、4人は人間の街に潜入しています。骸骨は何処かでサボっているでしょう。
基本的にフィシリアさんと2人で書類を捌いていますが、勇者さんの導きもありますので、しょっちゅう居なくなります。
なので今、私1人で書類の整理をしているのです。
あら? 来客の様です。
この忙しい時に来るなんて。
無視しても良いですか? そうですか駄目ですか……
「失礼します。人間達の集団が『リリーハックの森』を襲撃しているとのこと。更に第三戦力に、恐ろしく強い酒瓶を持った仮面の男が居る模様。戦える者は至急戦闘準備をお願いします! 失礼しました!」
こんの忙しい時に……
ん? リリーハックって私の管理地じゃないですか!
距離が離れていて、パスが薄くなっていたみたいです。おかげで全く気付きませんでした。
許すまじ、師匠。
どうせその仮面の男は師匠ですよ、もう本気で殺しに向かいたいと思います。
取り敢えず、職場を離れる旨を記した書き置きをして行ってきます。
さて、私は木精霊です。
それはある一定の樹齢を重ねた樹木に宿るらしいですが、そんな事はどうでも良いのです。ついでに言えば、私の産まれは特殊なのであまり当てになりません。
つまり何だと言われれば、それは簡単です。
私は、離れた土地に確保してある目印に転移出来るのです。もう少し詳しく説明するなら、今の身体を植物に戻して、別の場所の植物を本体として肉体を構築します。
そんな訳で、私の管理地へ向かうとしましょう。
魔王城からなら、多分2~3箇所を経由すれば行ける筈です。
ではまず、1回目。
…………視界が塞がっています。
誰ですか?
顔になる部分に貼り紙を付けたのは、どうせ師匠ですね。
何か書いてありましたが、読む気にもなりません。
2回目です。
……大量の酒瓶が転がっています。
ここで呑まないで下さいよ、師匠。
せめて片付けぐらいはしてほしいです。
3回目。
到着です。
この森自体が、私そのものでもあるので、移動も楽です。
騒がしい場所に向かいますよ。