6-2
さてと、思ったより早く仕事が片付いたんで帰って来たが……嫁がいない。いや、まだ婚約者というかそんなところだけど。
まぁいい。
出掛ける事は良いんだ。拘束するつもりはないし、その辺は自由にやってほしい。
たださぁ、一言くらいはくれても良いんじゃないか、と思う訳ですよ。せめて用事があるとか出来たとか欲しいなと。居ると思って居ないと、心配するぞ?
あ、俺ってさ、独占欲が薄いっぽいんだよな。
まあ根底的には、俺さえ良ければってのがあるからな。
何でこんなこと言うのかって?
花精霊って居るじゃん。弥槻さんが扉を開いちゃった奴。
アイツがさ、弥槻さんに馬乗りになってんの。弥槻さんは何か諦めた表情してるし、アイツはスッゴい良い笑顔してんだよ。そこで、俺の女に何しとるんじゃとか言えたら良かったんだろうけど、俺は自分に失望した。
普通に弥槻さんに、助けいる? って聞いてから行動したんだよね。ビックリするくらい冷静だったぞ。一緒に居たシスティのが焦ってたし。でも、普通に大丈夫ですって答えた弥槻さんも中々だけどな。
てな話をさっきまでしてて、今。
弥槻さん居ないじゃん。花精霊が今日来てたって聞いたじゃん。それも居ないじゃん。でも居た形跡はあるじゃん。
どうしよう?
追っかけた方が良いかね?
ただなぁ、弥槻さんめっちゃ強いし。それこそ俺が束になっても敵わない実力差があるわけで、足手まといにしかならないのは間違いない。花精霊と俺の実力は、多分同じくらいだろう。
という事で帰ってきたら文句言う事にして、俺はもう寝る。
鬼骨さんが持ってきたヘルパーシープの着ぐるみ、あれは最高だぞ。滅多に出回らない希少品だが、モコモコの毛皮にはそれだけの価値がある。
鬼骨さんって、何処でそうゆうの仕入れて来るのかね? しかも、結構色んな人に配ってるし。あの人の伝はちょっと次元が違うのかもしれない。
うん? 弥槻さんの着ぐるみが無いな。
持っていったのか。
……流石に着て行ってはないよな?
外で着るもんじゃないぞ、見た目的に。弥槻さんが着ると、普段とのギャップが凄いことになるぞ。それと、少しは良くなってきたけど、まだ大分露出が多いからな。肌を隠してる方が珍しい。
直しても良いけど、俺はそのままでも良いな。
だって、エロい格好した弥槻さんをガン見できるし。
本人が良いって言ってるから、遠慮なんかしないでがっつり見てるぞ。
まあね、俺は確かに弥槻さんに惚れ込んでるし、この場所まで漕ぎ着けた訳だけどさ。俺は俺で、多分人間のクズなんだろうと思う。
一番好きなのは弥槻さんだけど、一番大事なのは俺。これは良いと思うんだよね、生き物ってそうゆうもんだろ?
この辺は誰にどう思われても良いと思ってる。理解されれば良いけど、そうでなくともどうでも良い。
よしっ、飯食ったし風呂入ったし歯磨いたし、寝よう。
ふぁあ~ぁ…寝たわ。
超熟睡出来たわ。頭スッキリだし、気持ちいい目覚めだ。
こんなん、年に数回あるかどうかの事だぞ。
実に清々しい。
「おはようございます。龍悟さん」
「……へぁ? お、おう…おはよう。弥槻さん。何かあったの?」
「……?」
首傾げられても、俺分かんないよ?
弥槻さんの方から挨拶してくれるなんて、今まで無かったからな。ビックリして変な声が出ちまったよ。時々会釈くらいはしてくれたけど、ほぼスルーだったもんで。
そんな弥槻さんに、俺毎日話しかけてるんだぜ? スゴくね? 普通なら心折れてるぜ?
惚れた弱みと言うべきか、俺のメンタルが強すぎるのか。
「アホ弟子が、朝帰りしたらしいな! 我がその話を引っ掻き回しに来たぞ!」
どんな理屈か、壁をすり抜けてやってくるシギさん。ホントこの人……ってか、この人含めたあの人達って何者なんだかね?
魔王さんがこの前、余でも勝てんって愚痴ってたぞ。
魔王軍諜報課だっけ? あそこ、何時から存在してるのか分かんならしい。調べても出てこないのに、魔王軍の名簿とかには確りと入ってるんだとさ。チラッと聞いた話じゃ、先代先々代魔王の時には、既に有ったって。
魔王の座って、素質とかじゃなくて実力で奪ってから、魔王を名乗る事で手に入るらしい。
魔王に絶対勝つマンの勇者は、時々魔王に成り代わるらしいよ。過去に3人寝返ってるのを聞かされたもん。それ以上の情報は無かったけど。
「おい、勇者よ。貴様はそれで良いのか! あのアホ弟子が、他人の、一人身の奴の家に泊まってきたのだぞ!」
「俺、そうゆうの気にならないんですよね。俺に不満があっての行動なら、仕方ないし」
「何てからかい甲斐のない奴だ。まあいい。アホ弟子を借りるぞ」
遅いって。
アンタもう弥槻さんを抱えてるじゃん。せめてもう少し優しく持ってやってくれよ。荷物じゃないんだぞ、俺の嫁だぞ。
「……はぁ…今日中には帰ります……行ってきます…」
「ああ、うん。程々にな。気を付けてな。帰ったら愚痴聞くから」
「…はい。ありがとうございます……」
こんな状況だが、全く関係ない所に意識が持っていかれるんだ
。
今日の弥槻さん、めっちゃ喋る。
いつもは頷くだけとか、んって小さく声を出す程度なんだけだからさ、俺、もう感動しちゃって……
弥槻さんの声、聴いてて心地いいから好きなんだよな。低いと言うか、落ち着いた柔らかい声。感情が声に乗らないだけなのかもしれんが、それは知らない事にする。
連れ去られる弥槻さんを見送ったんで、とりあえず飯にしよう。
もう用意してくれてるし、朝飯作り終わった直後ぐらいだったんかね。
そうそう。弥槻さんね、家事はきっちりやってくれるんだぜ。元々綺麗好きっぽいし、酒造りで衛生面の意識はかなり高い。
料理は最近目覚めたらしくて、大量に作っては俺とかガレオに食べさせて、ずっとそれを眺めてる。
因みに、普通に旨い。普段は量がメインの料理だけど、時々質を求めてやたら凝った旨いのも作る。
この前、ノエルとシスティとフィシリアさんを入れた四人でお菓子作ってたんだけど、それを配ってたら奪い合いが起きた。そんときに知ったんだけど、フィシリアさんとシスティの人気と言ったらとんでもないな。あの2人はアイドルか何かだったか?
弥槻さんは人気が無いわけじゃないんだけど、無愛想過ぎて誰も近付けないらしい。
ノエルは、まぁ……な?
こっちで暮らしはじめてあんま経ってないし、これからだって。うん。
そう考えると、システィの奴なにやってんだろうな?
医者って、こんな人気出る仕事だっけ?
まあいいや。
俺は俺の用事を済ませて、結婚式を……
……俺が結婚式を挙げるのか…
感慨深いな、ちょっと前の俺なら、鼻で笑う内容だもんな。人外の美女に一目惚れして、その人のために死ぬ思いで特訓して、結婚を押し付けるなんて。
人生語れる程長生きしてないけど、人生何が起こるかわかんねぇなぁ。
俺は間違いなく、人の縁に恵まれてるな。
最初にシスティと会って、ガレオとノエル。信用出来る相手が居るって、ホント助かるよな。
特にシスティには良く助けられた覚えがあるからな、今度何かしらの品を贈るか。
そうそう、魔王領内での結婚式は、俺達が初だぞ。
魔人魔族には、結婚って制度が無いからな。本人同士が認めれば番だ。結構式なんて、考えたことも無いそうだ。
魔族の方は興味無さそうだったけど、魔人には受けが良さそうだったな。
まぁ魔人って、獣人とか森人とか大地人とかと同じだからな。たまたま魔族と見た目が似てただけの種族だから、価値観は人間と近いんだよな。
魔族と魔人は、似てるだけで全く別の存在だから。どっちも話せば分かるし、なんなら子供も作れる。けど、間違えるのは失礼に当たるんだよな。人形の魔族は、魔人と区別がつかないから困る。
弥槻さんは、魔族に部類されると思う。
メチルさんは骸骨だけど魔人らしい。
ほらな? もう訳わかんねぇよ。
匂いとか音とか雰囲気で分かるってガレオが言ってたけど、意味分からん。ノエルは魔力の質で分かるらしいし、システィは感覚で分かるらしい。もっと分からん。
聖剣を抜いてたら分かるんだけど、常時抜刀とか危険人物待ったなし。使い勝手が悪いんだよな。
ともあれ、一通りやることやったし、メチルさん所に行ってこよう。