5-2
さあ、まずは状況を整理しよう。
俺は、勇者止める宣言をしに行く為に国に向かってる訳だが、ついさっに同行者ができた。
俺が苦手にしてる妖精女王のフィシリアさん。弥槻さんの師匠のシギさん。話してみると面白い骸骨のメチルさん。それと何故か魔王様まで居るぞ。
あれれぇ~? おかしいな、これはどういう事なのかな?
国、滅んじゃわない? 大丈夫?
個人だけど国の最高戦力って、俺だぜ?
俺よりも圧倒的に強い方々が一緒って、寝返って国を滅ぼしにしましたって言っても通じるぜ?
「フハハハハッ! 気にすることはないぞ、若き勇者よ! 我らが考えなしに動く訳が無かろう!」
「其奴の言うとおりである。そもそもだ。エルフは兎も角、骸骨に妖精に魔王である。人間の群に混ざれると思うか?」
あぁ~……うん、違うんだ。そうじゃないんだ。
俺が言いたいのはさ、何しに行くのかって事なんだ。
こんな過剰戦力、どうしろってんだ!?
「いや、まぁ…うん。はい」
いや、この人達に強く出れる訳無いだろうが。
世界の補正とかで魔王様は何とか出来るらしいけど、それ以外に捻られるって。
「心配そうね。大丈夫よ、作戦は考えてきてるから」
「そういうこった。オレみたいな骸骨が居れば、なんの問題もない……ほらな?」
「おお! リッチーとは伊達でないのだな、見事!」
スゲェ! 幻術?
ちょっと触ってみたけど、感触まで再現してるぞ!
けどな、これはこれで問題だと思うんだ。うん。
シギさんはエルフだけあって、普通に美形だろ。姿が変わったメチルさんは、金髪碧眼でどこぞの王子様風なイケメンだし。魔王様は長い銀髪を後ろで束ねた、ミステリアスな美男子。フィシリアさんは、元々可愛い系だったのをそのまま人間に当てはめた感じ。
なにこれモデルの集団かよ。
俺だって、それなりに良い見た目してるぜ?
けどなぁ、こんなか居たら余裕で霞むわ。
何て言うか、物語の中から出てきましたって感じ?
こりゃ、男女関係無く見惚れるレベルだわな。
ん? 決まってんだろ、弥槻さんもそっち側だ!
俺のメンタルを甘く見ないで欲しい。
場違い? 空気読め?
関係ねぇなぁ、俺は俺の為に動く!
俺の幸せのためなら、大抵の事は何とかしてやるぜ!
まあそんな事は置いといてだ、うん。
まあいいや、どうせどうにも出来ないし。
「リュウゴくん。オレ達は別に、君に迷惑を掛けるつもりはない。シギの奴は知らんが、少なくともオレ達は君を応援してるんだよ」
「応援ですか? 俺何かしてましたっけ?」
「してるじゃない。ドリアードちゃん……今はヤヅキちゃんだっけ? あの子と結婚するんでしょ」
あぁ成る程ね。
でもそれ、魔王様まで関係あるの?
「待て待て待て待て、待つのだ! 骸骨! あのアホ弟子の結婚を誰よりも祝福するのは、この我だぞ! アホ弟子は我の娘だ。散々からかって来たが、それでも娘であることは変わらん」
「待てシギ。娘とか聞いてないんだけど? えっなに? 誰の子!?」
「別に我の血を分けた訳ではないぞ。昔、我が庭に混沌をぶちまけた事があるのだが、そしたらその翌日にアホ弟子が産まれたのだ。我は殺戮者ではないし、正直育てたら良い女になりそうだったから拾って弟子にしたのだ」
「うわっ、育てて良い女にするとか……アンタ頭可笑しいんじゃないの? キッモ……」
「貴様は考えが人間に近いからな、分からんでもない。だがま、魔物魔族では大して珍しい事ではあるまい。親と目合う種族もおる。余は魔王として、それを否定は出来ぬ」
「それみろ! 我の勝ちだ!」
「エルフである貴様がそれをするのは、余個人として、些か疑問を感じるがな」
「ぐっ……やるではないか、賢政王…」
「ったく、何でオレはこんな奴を弟子に仕立てたんだろうなぁ」
「まあ良い! 我はアホ弟子を祝いたいのだ! そしてアホ弟子が困惑するのを眺め、盛大に高笑いをしたいのだ!」
浮世離れした美形が、和気藹々と話してるのをみると、余計に魅力的に見えるのは何故か。
こいつら、国の中でもこうだと、一瞬で人に囲まれるだろうな。
俺はそんな事より、会話の内容のが気になるんだけど。
最初の方の『混沌をぶちまけた』ってワードが、凄い引っ掛かるんだけど。
弥槻さんは、その混沌とか言うのから産まれてるの?
なにそれ?
「で、魔王様達は何で俺に着いてきてるんですか?」
「それはな、暇だったのだ」
「は?」
「はっはっは、余も息抜きがしたいのだよ。なにぶん、魔王になってから働きづめである。そろそろ、余が居らずとも政が出来るであろう。そのように教育してきたつもりだ」
「は、はぁ…」
「そこで貴様よ。余は貴様を憎からず思っておる、その貴様が国に帰ると言うではないか。前々から考えておったのだ、人間の国を観光してみたいとな。貴様、リュウゴと言ったな。余の命を狙った罪、観光案内で帳消しにしてやろう」
「んぁ~、了解です」
魔王様ってさ、意外と良い性格してるよな。
俺もそれ嫌いじゃない。
観光ねぇ~、俺もあんま知らないんだよなぁ。
だって召喚されて、武器渡されて訓練して、金とか渡されて放り出されたんだもん。
システィが俺にくっ付けられたし、彼女に悪いと思って色々やって来たけど、それだけだしな。
別にあの国が憎いとか嫌いとかは無いけど、どうでも良いんだよなぁ。
……ん?
問題ねぇな、これ。
一応旅してた時に国の名所とかの噂は聞いてるし、それを回ろう。
まぁ王様ん所に、適当に手紙でも書いていれときゃ良いだろ。
正直、あの人嫌いなんだよね。
密偵とか偵察とか監視とかウザいし。全部撒いたけどな。
「おっ、そろそろか。おーい、国が見えたぞ、これからは歩いて行くからな」
「何故だ? 別にこのまま入っても問題なかろう」
「いやあるから。普通の人間ってな、飛べないんだよ。飛べたとしても、基本的に地面に立って歩く生き物なんだ。空から入ればパニック間違いなし。兵士達に囲まれるぞ」
「余に疚しい事など無い。裁けるものなら裁いてみるがいい!」
あぁ~あ。行っちまったよ。
流石の俺でも、あれで国が滅ぶと罪悪感を感じそうだ。
取り敢えず俺が目立てば、何とかはなるだろ。
「聖剣解放・二幕、聖鎧展開、聖神の祝福。これで俺が勇者だって分かるだろ。駄目なら……そん時はもう逃げよう。うん、そうしよう。思い入れも特にないし……だったらわざわざ来る必要無かったんじゃね ? うわぁ~ヤル気無くすわぁ~」
速ぇなおい、ちょっと待ってくれ。
俺が追い付けねぇって。
はぁ……、もう引き返して帰ろっかなぁ?
「む? アホ弟子から救援要請だと? 珍しい事もあるものであるな……まあ無視でいいな、面倒だ。
ではッ! ハーハッハッハッ! 我 、 入 国 ! 」