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「ようし、良く来たな!」
そう言って私を迎えてくれたのは、何処か見覚えのあるような骸骨さんでした。
昔から思っていたのですが、スケルトンってどうやって視界を確保しているのでしょうか?
「オレ? オレぁあれだよ。魔王軍諜報課の課長さんだ」
師匠に連れてこられて、どういう訳か魔王軍に所属することになっていたっぽい私です。
構成員の顔なんて知りませんよ!
文句があるなら、師匠に言って下さい。
「おうおうヨロシクな。オレのこたぁ、気安くメチルって呼んでくれや」
骸骨さんは課長さんで、メチルさんと言うらしいです。
まぁどうでも良いので、適当に流しておきます。
が、このメチルさん。何処かで見たような気がするんですよね……?
「なに、ちょっと長生きしてるだけの不死者だって。そんなビビらないでくれって、な?」
話すのが面倒くさかったのですが、何だか勘違いしているみたいですね。
えぇ、もうそれでいいです。
あぁ…師匠…
こんな魔境に私を置いて姿を消した師匠……
絶対に、1発は殴ってやります!
「うしうし。にしても、木精霊がウチに来るなんて珍しいな」
メチルさんの骨の手が、私の頭に乗っています。
ぐわんぐわんと世界が回っています。
骸骨のくせに、力が強いんですねぇ~
あれ、もう終わりですか?
「種族柄温厚な奴が多いから、そもそも魔王軍になんて来ねぇんだよな。で、お前は何で来たんだ?」
何故、でしょう?
いつも通り眠り、いつも通り目が覚めたら、見知らぬ土地。
取り敢えず、私の能力で小屋を作り、ぽへぇ~っとしていたところに師匠が乱入。
私の意識を刈り取ったあと、魔王城へ連れて来られました。
再び目が覚めたら、見知らぬ部屋でした。
そして、置き手紙が1つ。
〝 天上天下唯我独尊、全世界の宝であり至高の存在。
それこそ我。
そ う 、 我 !
不精の弟子(笑)へ伝えておこう。
右に3回半、左に6回。縦に2回と356分の28から半分引いた回数回って『助けて、お師匠様~』と無様に助けを乞うが良い!
フハハハハハハハハッ! 〟
こんな手紙はいつもの事なので丸めて放り投げ、窓をぶち抜いて外へ出ました。
そして、自分の能力で用意したハンモックに揺られてお昼寝をしていました。
で、三度び目が覚めると、窓がぶち抜かれている部屋でした。
仕方なく、師匠に助け要求しました。
しかし何も起こりません。
でしょうね、と思った私は諦めました。
私は水と太陽光があれば問題なく生きていけるので、その部屋で2週間ほどだらだら過ごしていました。
それで今朝、師匠が乱入してきて私の意識を刈り取ると。この部屋の前に放置していったらしいです。
私が目の前の扉を開けた所で、冒頭な訳です。
師匠は絶対に、どんな手を使ってでも泣かします。
「まっ、言いたくなきゃ聞かねぇよ。オレら魔に属する存在だしな、話したくない過去の1つ2つ3つ4つ5つ飛んで千や5千くらいはあるもんだ」
あっ、全然聞いてませんでした。
何の話をだったんでしょうか?
どうせ興味無いので、聞いても聞かなくても関係ないですけど。
「まずは諜報課のメンバーを紹介したいんだが、生憎全員出払ってんだよなぁ~。まぁ名前と特徴くらいは知っといてくれや」
確かに、この部屋にはメチルさんしか居ませんね。
骸骨の他5種類程の匂いと足跡がありますので、多分それがメンバーなのでしょう。
1つ目、一番数は少ない足跡ですが、匂いが古いですね。
花の様な甘さの中に、ほんの少し混ざる鉄臭さ。これは恐らく妖精、〝ロード〟に至るまでの存在でしょうか。
「メンバーはオレの他に5人だ。オレの補佐に【妖精】フィシリア。まぁただの妖精って訳では無いが、気にすんな。他の奴らもおんなじだしな」
2つ目に古い痕跡から、ただの人型ではありませんね。
恐らく不定形、任意で姿を変えられるタイプ。
匂いが全く無いのが特徴ですね。ならばスライム、もしくはドッペルゲンガーでしょう。
「2人目が、【鏡写人】ジョン・ドゥ。殆ど人間の街に情報収集に行ってるから、中々見ることがねぇぞ。オレが2人居たら、どっちかがジョンだな。」
3番目に古いのは、靴の足跡ですか。
重さは約60キログラム、男性。
土、いえ森の匂い。それと、強いアルコール臭が残っていますね。
これは、間違いありません!
あの憎き師匠のものです!
と言うことは、ここに居れば師匠を殴るチャンスがあるという事ですね。
んふふ…
…んふふふふふふ……
「3人目が【森人】シギ……シュギギュ? あぁ、シュギュリフィト・ラーランドロフ。魔王城内で、丸眼鏡と酒瓶を身に付けた奴を見たら多分それだ。……おい、どうした?」
おっといけません。
落ち着きましょう、私。
3番目は、香水の香りが強いですね。
やや獣臭もあります。
ですが、獣人ではありませんね。
人化を覚えた獣型の魔物ですか。
四足獣と靴が同じ重さで同じ古さなんて、そうそうありませんからね。
「4人目が【餓獣鬼】ククル。珍しい種族らしくてな、会えば分かるだろうよ」
最も新しいものは、……人?
匂いは明らかに人間です。
しかしなんでしょう、この足跡は。
繊維を編み込んで作る、靴のような物を使っているようです。
そして、布を擦って歩いていると見えます。
まぁ、関係の無い事ですね。
興味も無いですし。
「最後に、元人間の【修羅】キコツ。何か知らんが、気付いたら人間辞めてたらしい変わり者だ。この辺ではククル並みに珍しい種族だな。ちなみに、オレも元人間だぜ?」
ん? 修羅ですか。
確か何処かの島国で、戦いに身を捧げ過ぎた者が堕ちると言われている化物でしたっけ。
昔、仙人のおじいちゃんが『マジもんの戦闘狂』だって言ってましたねぇ。
私からしたら、仙人のおじいちゃんも似たようなモノなんですけど。
あぁ、あの時食べた桃は美味しかったですねぇ…
そう言えば、あれ以来空腹を感じていないですね。空気中の水分でも吸収出来る様になったんでしょうか。
「あれ、無視? そろそろリアクション返してくんないと、流石のオレだって傷付くんだけど……」
あ~何だか眠くなってきました……
取り敢えず、師匠を殴るにはここに居るのが良さそうですね。
仕方がありません。グータラするのは大好きですが、働いている人の横でダラダラする程図太くはないですし、ほどほどに働きますか…面倒くさい……
「あぁ~…うん、知ってた。諜報課に来る奴はこうだよな。てか、元とは言え魔王のオレを相手にこの態度、これは掘り出し物かもしれん
………………いや、それは無いか」