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第六話

 ──ドカッ、バキッ、グシャッ。


 武器を持って襲い掛かる男たちを次々と捌き、いなし、わずかな隙を見つけて素手によるカウンターを叩き込んでいく少女。

 その無双の戦いぶりは、まさに聖王国最強と謳われる聖騎士に相応しいものであった。


 だが──それにも限界はある。


「……っ!」


 ぶしゅっと、少女の左腕を一人の山賊の剣がかすめた。

 浅い傷だが、血が流れる。

 それは闇雲に突き出された一撃だったが、あまりにも多くの攻撃にさらされ続けた少女はついに捌ききれなくなり、直撃は避けたものの手傷を負ってしまったのだ。


「くっ……!」


 さらに時間を追うにつれて、少女の小さな手傷は増えていく。

 疲労、体勢の崩れ、対応能力の限界──それら様々な要因が重なって、少女の無双が徐々に崩されていく。


 そして、ついに──


「ぐっ……!」


 ぐさり、と。

 一人の山賊が放った槍の一撃が、少女の脇腹を決定的に捉えた。

 槍が突き刺さった部分から、どくどくと赤い染みが広がっていく。


「ハハッ、ついに取ったぜぇ──ぐぎゃっ」


 少女の腹から槍を引き抜いた男は、直後に放たれた少女のハイキックを顔面横手から受けて沈む。

 だがそれが、八人目。


 血のにじむ腹部を手で押さえながら立つ少女の周囲には、未だ七人の男たちがいて、ぎらつく武器を手に少女を取り囲んでいた。


「はぁっ……はぁっ……」


「くくくっ……よく頑張ったが、そろそろ限界のようだな、聖騎士のお嬢さん?」


 糸目の男が、少女に嘲りの言葉を放つ。

 彼は未だ、座椅子に座ったまま一歩たりとも動いていない。


 一方の少女は、虚勢なのか口元に無理やり笑みを浮かべつつ答える。


「……そう、ですね……あなたの言う通り、そろそろ限界かもしれません……もっとも、部下に命令するばかりで自分では何もしない人に、言われたくはないですけど……」


「くくくっ、挑発をすれば俺が乗ってきて、頭領さえ倒せば残りは戦意を失って逃げ去ってくれる──そんな甘い計算でもしているか?」


「…………」


 糸目の男の指摘に、少女は押し黙る。

 その様子を見て、糸目の男はさらにくくくっと笑った。


「いいだろう。その挑発、乗ってやろう。だが──後悔すると思うけどなああああああっ!!」


 糸目の男が重い腰を上げると──


 メキッ、メリメリメリメリッ──!

 男の筋肉が膨れ上がり、服が破け、全身が獣毛に覆われていく。


 頭頂部の左右からは、ヤギのような湾曲した黒い角が生え。

 顔も馬とゴリラを掛け合わせたような動物的なそれへと変化する。


 口には鋭い牙を持ち、手には長く鋭利な爪。

 痩身だった男は、今や背丈二メートル超えの重量級の巨体へと姿を変えていた。


「なっ……! 魔獣まじゅうき……!?」


 少女が驚きの表情を浮かべる。

 その顔を見て、巨体となった男の獣じみた顔がニタニタと笑う。


「ああ、そういうことだ、お嬢さん。この姿になると服が破けちまうんでなぁ、あんまりやりたかないんだが、今回は聖騎士のお嬢さんに敬意を表して──大サービスだ!」


 魔獣となった男が、地面を蹴る。

 石造りの床にヒビが入るほどの力強い踏み込み。


 魔獣の巨体が、恐るべき速度で少女に迫り──


「──っ!」


 少女はとっさに後ろに飛んで回避しようとしたが、魔獣が振るった鋭い爪による攻撃を完全にはかわし切れない。

 少女の胸に三条の爪痕が走った。

 旅装束が容易く切り裂かれ、その下の白い肌にも浅い切り傷。


 だが魔獣の攻勢は、それで終わりではない。


「オラァッ! どうしたクソガキィッ!」


「──んぎっ……!」


 魔獣が放った太い脚による回し蹴りが、少女の側面を捉える。

 少女は腕を立てて防御しようとしたが、そんなものでは何の足しにもならない。


 少女の体は矢玉のように吹き飛ばされ、大部屋の横手の壁に激突した。

 石の壁に全身を強く打ち付けた少女は、そのままずるりと崩れ落ちる。


 それを確認した魔獣は、少女の元にゆっくりと歩み寄っていく。


「くくくっ……もうちょっと楽しませてくれよ聖騎士様よぉ。この体になると暴力的な衝動が抑えられなくなるんだよ。まだまだ壊し足りねぇんだ。その体がバラバラになるまで可愛がってやるぜぇ? くくくっ……」


「……そ、それは、嫌ですね……」


 魔獣が近寄ってくる中、少女はどうにかといった様子で立ち上がる。

 全身が打撲傷と切り傷、刺し傷だらけ。

 体中のあちこちから血を流し、身につけている旅装束だってボロボロだ。


 しかしそんな満身創痍でも、少女──セフィーリアは口元を吊り上がらせ、笑みを浮かべる。


「まさか魔獣憑きがいるとは思いませんでした。油断していました。──ヒール」


 セフィーリアは自身に治癒魔法をかける。

 全身の傷が癒えていくが、一度の治癒魔法で全快するような小さな負傷でもない。


 だがそれを見て、魔獣は歩みを止める。


「くくくっ、俺にまた壊されるために回復してくれんのか。最高の獲物だな。いいぜ、待ってやるよ。さっさと回復しろよ聖騎士」


「……それはどうも。助かります」


 セフィーリアはさらにもう一度、自身に治癒魔法。

 それで、受けた傷はほぼすべて治癒された。


 それを見て、魔獣がまたニタリと笑う。


「よし、準備はそれでいいか、聖騎士様よぉ? こっちはもうお前をぶっ壊したくてたまんねぇんだ」


 しかしそれに対し、セフィーリアは待ったをかける。


「いえ、もう一つだけ──魔獣憑きがいると分かっていれば、最初から生身での戦闘訓練を優先などしなかったのですけど……迂闊うかつでした」


「……あぁ?」


 唐突な少女の物言いに、いぶかしげにする魔獣の男。

 それに構うことなくセフィーリアは祈るようなポーズをとると、その胸元に輝くペンダントを両手で包み込み、つぶやいた。


「──神装器、ドレスアップ」


 セフィーリアのつぶやきとともに、少女の全身が眩い輝きに包まれる。


 祈りのポーズから両腕を広げると、セフィーリアを包んでいた輝きが胴や両腕両脚、それに頭部へと質感を持って纏われていく。

 そしてそれらは、光が弾けると、純白の兜や甲冑へと変貌していた。


 また、右手から伸びた光は剣へと変わり。

 左腕から広がった光は、大型の騎士盾ナイトシールドへと変化する。


 やがてすべての光がやむと、少女は閉じていた瞳を開く。

 するとそこには、オープンフェイスの兜と甲冑を身に纏い、剣と大型の盾を手にした一人の小柄な少女が立っていた。


挿絵(By みてみん)


 自らの「武装」を纏ったセフィーリアは、魔獣となった男を見上げ、言い放つ。


「平和に暮らしていた罪なき村人たちを虐げ、あまつさえ恋する二人の命までをも奪った魔獣憑きの悪党──許せません。この聖騎士セフィーリアが成敗します」


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