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[エルク]レイアー王国軍の侵攻

「この岩・・・でいいのかな・・・?」


エルクが魔力を構成、発動する。岩が浮き上がり、村に向かって飛ぶ。


《次、その横の大きな岩を御願いします》


眷属間と主人の間で使える念話で、アレクシアが依頼してくる。アレクシアの知識は素晴らしく、村の防備は凄まじい速度で強化されつつあった。何だあの火薬って。何だあの投石機って。人間はあんな物を使って都市の防衛を強化してたのか。エルクはおののく。


村に戻る。見張り塔に、兵士詰め所、門。だんだん城壁都市の趣を呈してきた。アレクシアが住民に武器の扱いを教えている。火縄銃、と言うらしい。魔法が使えない物でも鉄の塊を飛ばせるそうだ。簡単な魔物なら十分対抗手段となる。


「ご主人様、夕食の準備が出来ております」


セリアが呼びに来る。セリアの料理は本当に美味しい。食材は調理でここまで美味しくなるのか。調理に詳しいらしく、塩の他、各種植物を乾燥させた物、腐らせた物等、様々な物を使い至上の料理を作っている。人間の文化は本当に凄い。村人まで一緒に驚いてるのが謎だが。


ここに来てもう一月。この村だけで3人も眷属を得たのは行幸だ。この先まで進軍する必要はないだろう。もう少しこの村の強化が終われば、一旦自国に戻った方が良さそうだ。


「報告、報告、北方より騎士団が進軍中。数は数千、場合によっては万にも届く。繰り返す。北方より騎士団が進軍中。数は数千、場合によっては万にも届く」


見張りの兵士より、伝声管を伝って報告が届く。今いる広場に通じており、各見張り塔の情報が簡易に届くようになっている。人間の考える事は本当に凄い。通常なら念話を使える通信士を配置するのだが。それを魔法を使えない者でも扱えるのが素晴らしいと思う。個々の力は弱いが、数が多い人間だから出来た発想だろう。百年前の戦いでは報告されていないのだが・・・本当に今回の戦いはかなり覚悟した方が良さそうだ。


聖戦が始まれば、この村は前線となる。街道を完全に塞いでいるわけでもないので、無視して進軍は可能なのだが・・・魔族、人間、両勢力から狙われる可能性があるのが辛い所だ。せめて無視して進もう、という気になれる防備があればいいのだが。


今回攻めて来た部隊も、壊滅させるか・・・


エルクはそう考え、遠視を行使する。感じる違和感。


「妙だな。進軍に覇気を感じない。消極的と言うか・・・」


「間者を送りますか?」


アレクシアが訪ねる。


「うむ、ちょっと様子を見てきてくれるか?」


「承知しました」


アレクシアがすっと目を閉じると。


(ほたる)よ」


アレクシアの言霊(ことば)に従い、光の球が複数出現する。アレクシアの能力、『目』だ。視界と耳を共有し、離れた場所の情報を探ることができる。アレクシアは、ほたると呼んでいる。


エルクは観察を続ける。


「あの辺り、何か籠、のような物を大事にしているな」


「どうやら、あそこに姫がいるようですね。どうも、隣国に脅迫されて、出兵させられたようです。北方の国、レイアーは、その隣国で軍事大国、ユグドラシルの求婚を断って以来、酷い嫌がらせを受けているそうです。そのままレイアーを滅ぼすのは手間に感じたユグドラシルが、レイアーの一軍をこの村に差し向けてレイアーの力を削ぎつつ、この村にも被害を与えよう、と言った所でしょうか。魔に支配された村を解放するのは神より下された使命、と言われては断れなかったようですね」


アレクシアは、元より持っていた知識と、今見聞きした情報を混ぜて伝えているようだ。エルクはうんざりして言う。


「本当に人間の世界は酷い状態だな。聖神は何をしているのだ。魔界に比べて天国のような場所だと思っていたのだが」


「聖神はむしろ今の状況を歓迎しているようですね。平等で平和な世界より、一部支配層が富を独占している状況の方が、総合的な軍事力は高くなりますから」


「・・・ここでも魔族が不利となっている訳だな。本当に聖神は、人間は恐ろしい。此度の聖戦、被害はどこまで大きくなるのか・・・」


エルクは息を呑む。


「こちらがその姫です」


アレクシアが手元の光に、籠の中を映す。見目麗しい、可愛い姫が怯えて座っている。


「ふむ。可愛らしいな。それに魂が非常に綺麗だ」


エルクが褒める。


「ここに連れてきますか?」


リアが尋ねる。


「可能ならそうしたいが」


エルクが答えると、パラスが手を挙げる。


「分かりました。ちょっと持ってきますね」


言うが早いか、パラスがたーっと駆け出す。かなりの速度だ。


騎士が気づいて、矢を射たり、魔道士が魔法を放つが、パラスの速度が速いせいで当たらない。と言うか、当たる分はきっちり弾いている。


歩兵団が包囲網を敷き、パラスを捉えるように構える・・・が、パラスはその歩兵団の後方に瞬間移動する事で、突破する。


混乱しながらも籠の周りの密度を上げ、籠を守る騎士達。だが、パラスは既に籠の中だ。


姫が悲鳴を上げる。騎士が慌てて籠を開ける。だが、パラスは既にこちらに向かって走っている。姫を抱え上げて。


撃て、待て撃つな、そんな混乱の中、飛び来る魔法と矢は全て不可視の盾で弾き、最後1時空跳躍でエルクの前に姫を届けた。


「持ってきました!」


「え、わ、わ、た、助け、助けて下さい?!」


混乱する姫。そりゃなあ。


「落ち着きなさい、姫君。私はエルク、この村が属する国、ファーイーストの王だ」


「あ・・・私は、レイアーの王族、ノエル=レイアーです」


さて・・・どうしたものか・・・出来れば眷属にしたいが、この状況だと無理だろう。意思を奪った上で眷属にするのは避けたい。かと言って恩を売るのは難しそうだ。


「私はエルク様が3隷姫(れいき)の一人、智のアレクシアです」


そんな役職はないぞ、エルクが心の中でツッコミを入れる。


「アレクシア・・・まさか放浪の賢者アレクシア様?!」


「はい、それはかつて人間であった頃の私の名です」


ノエルの問いを、アレクシアが肯定する。


「このままでは、レイアーはユグドラシルに遠からず併合される。先日も、幼馴染みの騎士、クロエ殿をユグドラシルの王に献上させられた」


アレクシアが語り出す。


「今回の件も、何とか守備兵力は国に残した物の、何時攻めてくるか分からない、そうですね」


「そう・・・です・・・」


ノエルが頷く。


「自分が原因なら、戦いの場で命を落とせば、と、この戦いに参加した」


「はい・・・何故そこまで・・・ご存知なのですか・・・?」


エルクは舌を巻く。恐らく(ほたる)を使って情報を常に収集しつつ、知識、推測、織り交ぜて話を進めているのだろう。何処まで距離が飛ぶのか知らないが、さすがにレイアーやユグドラシルまでは飛ばしてないと思うのだが。


「それは無駄でしょう。ユグドラシルはもう、レイアーを併合する事を決めています。それは分かっておられるはずですよ?併合された国の未来は、絶望的です。王族の男子は皆殺しにされ、女子は嬲り者にされるか、殺されるか。主立った貴族もそうでしょう。残った貴族や国民は、奴隷階級にされ、未来永劫搾取される。数年前にユグドラシルに併合された国が辿った道筋です」


「・・・そうです・・・分かっています」


ノエルが悲痛に頷く。


「もう一つの道がある、その考えに気づいているのではありませんか?」


アレクシアが優しく問いかける。もう一つの道?エルクが疑問に思うが、口には出さない。


「我がファーイーストの属国となれば、ユグドラシルも迂闊には手を出せない。多くの兵は派遣できませんが、この村を見て分かる様に、我がファーイーストの技術力は人間の国の遥か先を行っています。この技術をレイアーに提供しましょう」


「・・・!確かに・・・それなら・・・!」


・・・ん?この技術って、アレクシアの指示で作った諸々だよな?元々人間の物じゃないのか?エルクは頭に疑問符が浮かぶが、口には出さない。そして気づく。そうか、この技術は失われた技術で、アレクシアが各地の古文書から得た物か。


「エルク様、御願いします!何でも致します!我が国レイアーをお救い下さい!」


「うむ。ノエル、貴方が俺に身体を差し出すのであれば、レイアーは我が国の属国と認めよう。ただし、我が国の国力は大きくない。可能な支援は、アレクシアの言った通り、少数の兵の派遣と、知識の供与のみだ。後は、戦闘技術の訓練援助なら引き受けよう」


「それだけで構いません!是非御願いします!」


来た時と違い、ノエルの顔が希望に満ちている。より可愛くなったな、とエルクは思う。


眷属に関する説明をノエルに行い、承諾を得る。


「エルク様、私、ノエルは、貴方に全てを捧げます。望む対価は、レイアーへの支援です」


「認めよう。ノエル、お前を俺の眷属とする」


エルクがノエルの首筋に牙を突き立てる。他の眷属とは違い重厚な味こそしないものの、澄んださっぱりした味だ。美味しい、と感じた。すっと牙を離す。


「美味いぞ、ノエル」


「有り難うございます」


ノエルが微笑んだ。

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