[スルティア]ムスペルヘイム陥落
ムスペルヘイム。
かつて大陸最強の名すら冠した戦いの国。
中央都市ムスペルヘイムには、闘技場があり、大陸中から人が訪れていた。
正規兵の練度もさることながら、傭兵部隊の力、そして国に属さない冒険者達の力が圧倒的であった。
冒険者ギルドの力も強く、国に対してかなりの発言権を有していた程だ。
戦力にも貪欲であった。
各都市で開発された新技術の情報を入手しては、大量に買い付ける。
国の象徴は炎。
火山が多く、炎の精霊も多い。
その力を利用した産業も盛んであった。
そう過去形だ。
まずは冒険者が軒並みいなくなった。
魔界へと散っていったのだ。
続いて傭兵がいなくなった。
聖界では外出を禁じる法が乱れ飛び、外から闘技場を見に訪れる足は途絶えた。
炎の精霊は聖神について行けず、隠れてしまった。
無論、正規兵からもかなりの数の離脱者が出て・・・
そして技術は・・・
「な、何だあのでかいのはあああああああ」
ムスペルヘイムの王、スルティアは叫ぶ。
「お父様!無理です!降伏しましょう!砲撃部隊は一瞬で消し飛ばされました!」
王女エディスが懇願するように叫ぶ。
虎の子の魔導砲撃部隊は、空を飛ぶ船に向かって魔法を放ったのだが・・・小揺るぎもせず、筒の1つから飛んだ魔法で、一瞬で全滅・・・
もう、戦いとかそういう話じゃない。
「まだ・・・まだ手はある・・・!」
王は、その目に灯る狂信の光を輝かせ、立ち上がる。
「無理です!」
王女が無理に王の肩を掴むと、そのまま座らせる。
船型ゴーレムから無数のゴーレムが降下。
音もなく着地すると、抵抗する者を排除・・・同時に、一般の住民を安全な場所に誘導する。
逃げる住民を抑えようとする憲兵を、頭部横の砲台から射出した矢で殺害。
「降伏して下さい!降伏すれば命だけはきっと・・・!」
「奴等だ!地下の奴等を解き放て!」
「無理です!」
闘技場は既に内部蜂起で制圧。
地下には凶悪な魔物がひしめいていたのだが・・・軒並み、内部関係者の手で殺害されている。
解き放ったら、住民に凄まじい被害が出るのだ。
「おのれ・・・この命尽きるまで、絶対に降伏等せ・・」
ゴッ
王女が、王を殴り、王は意識を失う。
「駄目ですよ・・・貴方は私の肉親なのですから・・・!」
王女は兵士達を呼ぶ。
降伏の指示を出す。
王女は祈る。
願わくば、その命助かる事を。
せめて王だけは、田舎での生活でいいので、暮らして欲しい・・・
ムスペルヘイムは、魔界に降った。
王女の願いは届き、王は辺境で権力を奪われつつもその生を許され・・・やがて孫にも恵まれ、悪くない余生を過ごしたのだった。




