[エルク]バロンへの遷都
バロンの占拠、周辺都市や小国の取り込み、抵抗者は出たものの、基本的にはスムーズに終った。
占拠が早すぎ、混乱の内に降伏した者が居たからだろうか。
それとも、聖界の奥地故だろうか。
テロを企てる者や、技術を盗んで逃亡しようとする者はちらほら出た。
最初の1週間程は、それで処刑された者が出たが、それ以降は出ていない。
大半の人々が、エルクの統治を歓迎した。
防衛の兵士達もバロンに到着し、遷都の準備も整った。
遷都を魔界各都市に告知。
そして当日・・・いや、正確には数日前から、エルクは驚きを隠せなかった。
「あれは・・・あの数の民はどういう事だ?!」
前回ソロモンに遷都した時は、特に盛り上がりはなかった。
粛々と宣言、政府を移して終わり。
ところが、今回は各都市から相当な数の民が来ていた。
バロンの収容可能人数を遥かに超えている。
「重要な記念行事ですし、みんな参加したいと思ったのでしょう。ご主人様を見たいという人も多そうです」
セリアが応じる。
「前回、ソロモンに遷都した時は、特に盛り上がりもなかったと思うのだが」
「あの時は、ファーイーストの他にはソロモンと、投降したばかりのアルケー。セリア砦とレイアー。ミーミルは魔族はほとんどの住民が虐殺されてましたし。一方で、今回は傘下の都市の数が圧倒的に多いですし、移民もまたどんどん増え始めましたしね」
エルクは、戸惑いながら言う。
「大層な演説とかは用意してなかったのだが・・・」
アレクシアがそっと、エルクに紙を渡す。
草案だ。
エルクがアレクシアをギュッと抱きしめる。
「有難う、何時も頼りになるよ」
「わ、私はこの様な事しか出来ませんから」
照れて、慌てるアレクシア。
エルクがさっと草案に目を通す。
「素晴らしいな。後は告知の準備が」
「セレモニーの準備整っています。舞台の準備も完了しております。後はご指示頂ければ、時間も告知致します」
ノエルがすっと一礼して告げる。
「有り難う。では、昼に宣言しようか」
「はい、ではそのように告知致します」
ノエルが、部下に指示を出す。
セレモニーまでの空き時間を利用して、エルクは守備配置の確認をする。
これはセリアが資料を準備していて、てきぱきと質問に答えている。
そしてお昼となった。
エルクは、舞台から姿を見せる。
後ろには、エルクの嫁達が並ぶ。
リアは、バロンの城で魔柱を守っている。
「魔の御神の下に集いし、同胞達よ。暴走せる聖神からこの世界を守らんとする同志達よ。我らは今日この日、この地を都と定め、聖神と戦う拠点とする」
民から、歓声が上がる。
エルクの名を、魔の御神を、称える声が広がる。
エルクが演説を続けるにつれ、歓声はどんどん大きくなり、それは限界がないかのようだった。
演説を終え、屋内に入ったエルクは、珍しく疲れて見えた。
「大丈夫ですか?」
セリアがしなっと、エルクに絡み付く。
「流石にちょっと疲れたな」
「でしたら、昼食にしましょう。準備は出来ております」
セリアがにっこりと微笑む。
それは魅力的な提案だ。
民も、今頃は配られたお菓子や、屋台の食べ物を食べているのだろう。
街の外では炊き出しも行っている。
この日、バロンは、魔界の首都となった。
都市の整備はこれからだが、希望に満ち溢れた人が、魔族が、素晴らしい都市にしてくれるだろう。
それは疑いがなかった。




