[エルク]出陣
2日後、エルクがバロンに宣戦布告を実施した。
内容は、聖神の暴走と悪逆非道、聖神の嘘、世界の危機、聖神を討ち取る意志。
次いで、城を空ける旨、邪魔しない旨、妨害や破壊工作には死を持って報いる旨。
そして占領後の扱い、遵守すべき法について。
基本的には、ユグドラシルで行った宣言とあまり変わりはない。
占領後に来る守備部隊はレイアーにて待機。
エルク達の侵攻に合わせてレイアーを出立する。
レイアーからバロンは、通常で5日の行軍。
エルク達はユグドラシルからの侵攻となる。
ユグドラシルからバロンは、通常で9日の距離。
エルク達なら、1日ちょっとで着く。
今回は術者が少ないので、あまり高度を飛んで撃ち落とされても困る。
告知から1週間。
侵攻開始だ。
毎回、こちらの侵攻に合わせて攻めてくる。
今回も、仕掛けてくるはずだ。
バロンは、守備部隊を固めるだろう。
ベヒモスは、レイアーとアルケーに兵を、もしくは片方に絞って攻撃してくるはずだ。
そして、ユグドラシルは、北のムスペルヘイムから侵攻を受けると予想される。
ムスペルヘイム、情報は少ないが、火山の国で、火力の高い兵が多いらしい。
未知である上、軍事力の消耗もないので、最大限に警戒すべきだ。
「行くぞ」
セリアとアレクシアに呼び掛ける。
「はい」
二人が応じる。
「氷の舟よ、在れ」
エルクの構成した魔法が発動。
「主様、我が力捧げます」
セリアが眷属の祈りを行使。
普段以上の力がエルクに流れ込む。
「うお、何だこれは」
驚くエルク。
「私は魔法が得意ではありません。今回移動中はあまり活躍出来無いので、その分ご主人様により多くの力を送らせて頂きます。普段は1%くらいの力を送っていますが、今は半分くらいの力を送っております」
「そんな事が出来たのか・・・今なら何でも出来る気がする」
「ふふ、ご主人様は、同じ事を他3人の眷属に命じる事が出来ます。言わば、後3段階変身を残している状態ですね」
アレクシアが、低く詠唱を始める。
真言、世界の在り方に働きかける言葉。
そして、概念の具象化、精霊を創り出す。
盾の形をした羽の生えた存在、渦のような存在、白い光で出来たハト、ちょっとラブリー。
「堅守の概念、風流の概念、無力の概念を顕現させました。物理的攻撃や魔法攻撃は盾、ある程度の概念攻撃はハトが防ぎます。移動時の空気抵抗や衝撃波は竜巻が緩和します」
「概念を自力で具現化・・・アレクシアは本当に凄いな・・・」
エルクは感嘆の呻きを漏らす。
聖女が言霊で起こす奇跡、これは、仕組みが世界に組み込まれており、聖女はそれを使って本来有り得ない結果だけ引き起こす。
固有スキル、といったものも、この類だ。
代償と対価がかけ離れた物となる。
アレクシアがやったのは、一から奇跡を構築し、愚直に結果を導いたのだ。
効果は、普通の言霊なら十分に対応出来る程の効果を持つ。
空を飛んだ状態で風の聖女の呪いを無効化、と言った、おかしな事は出来ないが。
「迎撃、なら私でも」
セリアが手を振ると、数十本の剣が出現する。
それを見たアレクシアが、思わずうっと呻く。
迎撃剣。
相殺の概念の究極。
一本が、風の聖女の呪いすら相殺してしまう。
攻撃を認識、自動迎撃する。
軽く手を振っただけで、しかも多量に出して良いものではない。
剣の聖女、それは、一本の剣は1日1回、という制約を持っていた。
多数と戦う事が必要な聖女に、あるまじき制約。
その代わり、その一本の威力は絶大。
序列一位は伊達じゃない。
剣の聖女はそんな存在だ。
で、それがエルクの眷属になる事で魔の力を得、複数出せるようになった。
ただそれだけである。
エルクは、その異常な光景を見て、言葉を失ったが、
「うん、凄い、偉いぞ」
褒めて欲しそうに見ていたセリアと、絶句しているアレクシアの頭を撫でてやる。
意外と、高高度飛んでも大丈夫かも知れない。
エルクはそんな気がした。




