[エルク]不確実な契約
エルクが視察に回っていると、訓練場で、セリアとジャンヌが打ち合っていた。二人とも木剣。腕は互角のようだ。
周囲には兵士が見学している。みんな、学ぼうと真剣に見ているようだ。
切り結び、離れ。再び切り結び。
エルクもかなりの腕だが、あの2人には敵わない。時々稽古を付けて貰っている。
「有り難うございます。やはりジャンヌさんは強いですね」
「セリアこそ、強いよ!」
ジャンヌの真骨頂は、聖剣や、聖女による力の解放。エルクの真骨頂は、無数の特殊剣を使った攻撃。だが二人とも、純粋な剣の腕だけでも、相当な強さだ。
「二人とも流石だね。頼もしいよ」
エルクが二人に声をかける。セリアがすっとエルクによると、抱きつき、
「見ていらしたのですね、ご主人様。お恥ずかしいです。でも有り難うございます」
エルクは、セリアに軽くキスすると、頭を撫でてやる。
「お昼がまだでしたら、一緒に食べませんか?ジャンヌも、一緒にどうですか?」
「んー、僕はやめておくよー。食べたい物があるんだー」
ジャンヌは立ち去ってしまった。
「あら・・・では、ご主人様、どうでしょう?」
「そうだな、一緒に食べようか」
ジャンヌと、ふらんす料理の店に行く。少し値段は高いが、お洒落な料理が多い。
「ご主人様、ジャンヌの事なのですが・・・」
セリアが少し真面目な声音で言う。
「ん?ジャンヌ?」
エルクは、想定していなかった話題に戸惑いつつ、聞き返す。
「はい。ジャンヌの事なのですが・・・どう思っておられますか?」
「ジャンヌは・・・昔からの大切な親友だ」
「しかし、ジャンヌは・・・ご主人様を好いているように見えますが」
確かに、ジャンヌはエルクに好意があると思う。エルクも、ジャンヌの事は憎からず思っている。
「確かにその通りだ。俺とジャンヌは、お互いに好いていると思う」
エルクが答えると、セリアが言う。
「ジャンヌとは結婚なさらないのですか?」
エルクは、首を振ると、残念そうに答える。
「残念ながら・・・ジャンヌは特異体質でな。眷属に出来ないのだ。そうか、今思えば、ただの特異体質だと思っていたが、あらゆる呪いを受け付けない、勇者の性質による物なのだろうな」
エルクは、続ける。
「眷属に出来ない物は、婚姻者とならない。それで結婚はしていないのだ」
セリアはエルクの目をじっと見て、
「眷属でなくても結婚できるのではないでしょうか?他の魔族は眷属にしなくても同族間で結婚していますし、人間もそうですよ?」
エルクはセリアの言葉にびっくりしたが、少し考えて・・・
「確かに、他種族はそうしているようだな・・・驚きだ。婚姻とは、裏切りが許されない。眷属にして縛ることで、その契約を確実にしなければ不安だと思うのだが・・・それはお互いの為だと思っていた」
セリアは首を振ると、
「夫婦とは、お互いに信頼を得ようと努力し、維持する物。眷属化による契約は不要です。勿論苦しい事もありますが、それはお互いの努力で乗り越える物です」
「・・・そんな不確実な・・・」
「実際、ご主人様は私達に気を遣って下さっているでしょう?契約がなくても、私達はご主人様の事が大好きです。ご主人様が私達に愛情を注いで下さっているのと同じで」
「ふむ・・・」
「眷属でなくても、婚姻を認める、そういった事を提案致します。実際、国法でも、眷属化していなくても婚姻は認めていますよね」
「そこは多種族に合わせたからな・・・だが・・・そうだな」
セリアが付け加える。その目を少し赤くして。
「・・・それに。ご主人様の不興を買うような行為があった場合や、ご主人様への興味が薄れるような場合には、私がその命散らします。不死だろうがそんな事関係ありません」
エルクはセリアの頭を撫でてやると、セリアは気持ちよさそうに目を細めた。
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エルクはジャンヌを呼び出し、告げる。
「ジャンヌ・・・」
「ん、何??」
ジャンヌがきょとん、としてエルクを見る。
「その・・・実は・・・お前は俺の眷属にはなれなかった。だが、俺はお前が好きだ。よければ、お前も俺と結婚しないか?」
「・・・」
ジャンヌはそのままエルクをじっと見る。そのまま顔を赤くし、
「え、えええええええええ?!」
エルクに抱きつくと、
「も、勿論嬉しい・・・けど・・・良いの?僕は眷属になれないよ??子供も埋めないよ??」
「構わない。俺の嫁になって欲しい」
「うん・・・うん!」
こうして、エルクの嫁が一人増えた。元々扱いとしては王妃相当だったのだが、これで正式に認められた。




