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[エルク]初めての眷属

エルクは、首都を迂回し、山岳を通って聖界に向かう。エルクの国は、中央の国と敵対はしていない物の、堂々と中を通れるような関係でもない。また、帰りは眷属を連れているはずなので、首都を通ったりしたら取られてしまう。


山岳は、未整備の地。強力な魔物等も出る。が、吸血鬼の王であるエルクの敵ではない。その戦闘センスと、たゆまぬ努力により身につけた剣術で、向かってきた魔物は動かぬ骸となる。魔法は使えなくても、上位魔族や上級冒険者でも無い限り、遅れは取らない。


夜は野宿。野営技術も問題ない。数日かけ、山岳を通り抜けると、後は街道を通って聖界へと入る。


村が見えた。魔界に隣接する地だけあり、常に魔物の脅威に晒されている。貧しい村だ。だが、周囲を堀と柵で覆っており、簡易な防備はとっている。


(さて、何かに困っている女性はいないかな。出来るだけ身寄りが無い女性がいい)


身寄りがなければ、それだけエルクを頼ってくれるからだ。自作自演とかすると、騒ぎになって上級冒険者なり軍隊なりが派遣されたら不味い。あくまで目立たないように行動しなければならない。


エルクは人間界の貨幣は持っていない。エルクは、とりあえず冒険者ギルドで依頼を受け瑠事にした。冒険者ギルドに行くと、無登録でも受けられる依頼、緊急依頼が幾つかあった。採取、討伐。そう言った簡単なのを幾つかこなし、幾ばくかの報酬を得る。達成が早かったのでちょっと驚かれた。


「旦那凄いですね。かなり高名な冒険者なのでしょうか?」


「済まない、訳ありでね。詮索は困るのだよ」


「そうですよね・・・すみません」


こう言った内容が通用する辺り、問題の解決状況がかなり切迫しているのが分かる。依頼がかなり溜まっているようだ。少し稼ごうか、エルクがそう思っていると、


「あの・・・すみません、腕利きの冒険者の方でしょうか?」


後ろから声をかけられる。かなりの美人だ。悪くない。


「これはお嬢さん。どうかしたかい?」


「はい。実は、依頼したい仕事がありまして・・・」


「ちょっとお嬢様、駄目ですって。あの依頼は危険過ぎます」


職員がエルクを止めに来た。


「いや、構わないよ。人の世は助け合ってこそ、だ」


エルクは古い書物で見た言葉を引用する。だが、職員も少女も、きょとんとした顔をしている。通じていないようだ。


「・・・旦那がいいのならいいですが、無理だと思ったら断って下さいね」


職員が立ち去る。


「すみません・・・無理なのは分かっているんです・・・でも、急いでいるんです」


少女が話始める。曰く、近くにゴブリンの群れが出現した、幼なじみの女性がゴブリンに連れ去られた。ゴブリンの集落にはゴブリンキングもいるらしい。今日中に助け出さないと取り返しがつかない事になる・・・もっとも、当日でも確実に安全な保証はないのだが。


ゴブリンキング、一般の兵士、弱い騎士団程度では相手にする事はできない。だが、エルクにとってはたやすい相手だ。


「構わない。その娘、俺が助けてやろう」


「有り難うございます!」


エルクは少女から場所を聞こうとしたが、少女は自分で案内すると言う。足手まといにはなるのだが、なるべく少女に良い所を見せないといけないので、連れて行くことを承諾する。


「エルクさん、旅をされていて長いのですか?」


「いや、俺は今まで山奥で暮らしていてな。旅を始めたのは最近なのだ。おかげで世間には疎くてな」


エルクは、少女の機嫌を損ねる訳にはいかない。好印象を与えるために、なるべく返事をする。


「世間・・・人間界の、ですか?」


「俺が人間ではない、と、分かるのか?」


気づかれたなら、隠す理由はない。どちらにせよエルクの場合、同意の上で眷属となってもらう必要があるのだ。


「村に来られた方向を見ていました。そちらは魔族領です。でも、親友を助けたいんです。今この瞬間も・・・御願いします、親友を助けて下さい」


少女が懇願するように言う。


「それに関しては承諾済だ。安心するがいい。俺にとっては、ゴブリンの群れやゴブリンキングは、敵ではない」


少女に連れられて着いた先は・・・エルクの想像より広い集落。


「でかいぞ?」


「そうなんです・・・もう三ヶ月以上放置されていて・・・どんどん大きくなってしまって・・・」


「何だと?ゴブリンの集落が近くに出来た場合、即時駆除するのではないのか?何故放置した?」


「私の村は・・・国と国の境目にあるんです。数年前から、元管理していた国ではない方の国からも税金や労働力を徴収され・・・一方で、騎士団の派遣はどちらの国も行ってくれないようになったんです」


「・・・それはまた」


「魔族領に接するため、危険性は多いのですが、報酬を払えないので・・・冒険者も寄りつかなく・・・」


「それは仕方ないな・・・」


(この村を救ってやれば、何人かは付いてくるのではないか?)


エルクは心の中で打算する。


「エルクさん、親友は恐らく奥のテントにいると思います。他にも捉えられた女性がきっと・・・」


「分かった」


流石にこの規模の村だと、エルクでも少し骨が折れる。エルクは魔道具を取り出すと、込められた魔力を取り出し、発動寸前の状態で周囲にストックさせる。


「行くぞ」


エルクは宣言すると、少女に気を配りつつも、集落に侵入する。見張りのゴブリン達が弓を番えるが、袋から石を取り出し、頭を潰す。エルクだけならいいが、少女に当たっては問題だ。


途中集団が来たが、ストックしておいた魔法を発動、炎の塊が出現し、集団を焼き尽くした。延焼し、更なる混乱を生む。人間の村だと、騒ぎになると人質が殺されたりするが、ゴブリンの村ならその心配はない。


問題の小屋に辿り着く。目当ての女性は無事だったようだ。少女が親友に駆け寄り、涙を流す。他に捉えられていた女性・・・ここは無事な女性が主なようだ。


別のジェムを取り出し、魔力を抽出。アンデッド、スケルトンを数体創り出す。


「とりあえず護衛にこれを置いておく。ゴブリンキングを倒せる程の力はないから過信はするな。何かあったら強く叫べ」


「分かりました」


エルクは気配察知を少女の方にある程度さきつつ、テントを空けて回る。無事ではない女性もいたが、とりあえず掴み、少女の元へ運ぶ。ゴブリンを見つけたら駆除。ゴブリンキングは2体倒した。他のゴブリンが逃げるが、それは逃げたままにする。本当は駆除した方がいいが、1人では限界がある。再度人質がいない時なら、エルク1人で何とかなるのだが。


囚われていた女性達を集めた後、集落に火を放つ。スケルトンは闇に還した。


動ける女性が動けない女性を背負いつつ、ゆっくりではあるが村まで移動する。エルクは3人ほど抱えた。何とか手が足りたのは不幸中の幸いだ。


村に着くと、村民に女性達を引き渡す。村民からは凄まじい歓迎を受けた。今夜は村長の家でもてなしてくれるようだ。大した物は出せませんが、という村長。まあ事実なのだろう。


その夜、エルクが泊まっている宿に、昼間助けた少女、村長の娘がやってくる。


「エルク様、夜分に申し訳ありません」


「構わない」


「お話が有ります・・・差し出せるのはこの身しかありませんが・・・どうか、御願いを聞いて下さい」


その身だけで構わない、エルクは思う。まさにこれが狙っていた展開、計算通りなのだから。


「聞こう」


「この村は搾取され続けています。しかも、近隣の魔物は強く、騎士団も来ません。このままだと魔物に殺されるか、殺されるより酷い目に遭うか・・・それに、このままだと冬は越せません。食料もないのです。税務官は、採取した木の実や、魚まで奪っていくのです」


「それはまた・・・」


「御願いします、この村を助けて下さい。安住の地を与えて下さるだけでも構いません」


エルクは少し考えると、


「まず回答すると、その条件は呑もう。お前の身を俺に捧げろ。代わりに、村人は助けてやろう」


「有り難うございます!」


「助ける方法だが・・・俺の国に連れて行ってやってもいいが、出来れば此処を離れたくないのだろう?我が国から数名、護衛を派遣する事ができる。まずはそいつらを使い、この村を守れるようにしよう。騎士団や冒険者、もしくは魔界から別の魔族が来たりする事があれば、守るのは厳しい。その場合は、俺の国に村全員で移動する、という形にしてくれ」


「・・・!有り難うございます!」


「その際に簡単な食料は持ってこさせよう。だがまあ、俺の国もそう豊かではないのでな。後は森で採取したり魚を釣ったりで今年の冬は凌いでくれ。税務官は追い返せばいいし、何なら食料を剥いでやればいい」


「はい!」


「それで、その身を捧げる、という事だが。俺は吸血鬼だ。お前を眷属にする。自由意志は奪わないので、お前の意思で俺に仕えよ」


「・・・分かりました!」


娘が、強い意志の籠もった目でエルクを見る。


「私の名はセリアです。私、セリアは、エルク様にこの身を捧げます」


「闇の王、エルク、セリア、お前を俺の眷属とする」


そして、セリアの首に牙を立て・・・


(美味い?!)


エルクの全身の血が総毛立つ。一瞬が無限に感じられ、凄まじい全能感がエルクを襲う。その味は重厚、そして濃厚。億の戦場を駆け巡るような錯覚を覚える。


(しまった?!)


随分長い間、相当な量の血を吸ってしまった。エルクが慌てて口を離す。血の気を失いぐったりしたセリア。しかし、目を開けると、にっこりと微笑む。


「私の血、気に入って頂けたようで嬉しいです。これから宜しく御願いします、ご主人様」

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