[ノエル][時系列不順]レイアー防衛戦
「攻めて来ました!」
ノエルが叫ぶ。
「兵士、予定通り配置完了しています!」
ニルスが応じる。
ここの国の王はニルスであり、防衛責任者もニルスなのだが、総指揮はノエルに任せてしまっている。姉を頼りにしているというのもあるし、実際実務として優秀というのもあり、また、レイアー軍と魔族が素直に指示を聞くと言うのもある。
伝令の兵が駆け込んでくる。
「東から、マジックゴーレムの軍勢が来ました!」
「・・・マジックゴーレム?!」
レイアーの東の国、ベヒモスが極秘開発した魔道兵器だ。満を期して、聖戦に投入されたのだ。その力は凄まじく、巨大な岩すら持ち上げる・・・そして・・・目からレーザーを発射し、立ちはだかる者を焼き払う。それが10体以上攻めて来ている。
レイアー軍も、魔道具を付けていてその戦闘能力は高い・・・が、マジックゴーレム相手には分が悪い。
ゴンッ
ファーイーストの重装歩兵がマジックゴーレムを吹き飛ばす。
「レイアー軍は数人で1体に当たれ!」
その指示に従い、連携して数人で足止めを行う。
「操作者が・・・いるはず・・・」
ノエルが周囲に探査の魔法を巡らす。・・・自律魔道兵器か!中にも外にも操作者はいない。
「どっかーん」
盾をまとったパラスがゴーレムに突っ込み、粉砕する。
「炎よ!」
ファーイーストの魔道部隊。3列で運用し、魔法を撃ったら後ろに回って詠唱。間断なく魔法を放つ訓練を積んでいる。
ゴーレムが連続する魔法に耐えきれず、動かなくなる。
「あれはほっておいて良さそうだけど・・・後は向こうか・・・」
西の方から来るのは・・・ユグドラシルの聖騎士部隊。聖女や勇者程ではないが、凄まじい力の持ち主達だ。あれを・・・殺る。
守備位置を守る兵士達の横を通り、聖騎士部隊の真ん中に突っ込む。
「毒の霧よ」
ノエルの真価は、密閉された空間でこそ発揮される。屋外では、即死には至らない。それでも、普通の人なら致死の中毒に陥らせ、そのまま殺す事ができるのだが・・・聖騎士に取っては、せいぜい軽い風邪にする程度である。
「来たな魔女め!」
騎士が槍を構え、ノエルに突っ込んでくる。
「雷よ!」
ノエルの魔法が発動、雷が飛び、騎士に向かう。
「解呪!」
後ろに控える魔法部隊が、ノエルの魔法を解呪した。
騎士がノエルに槍を突き刺す。ノエルが霧となって散る。
「・・・倒した・・・のか・・・?」
騎士が呟く。
少し距離を離して出現するノエル。
「毒では駄目ですね」
コウッ
ノエルの魔力が高まる・・・目がランランと赤く光る。
「おのれ、魔女、何をする?!」
「沸騰せよ」
ノエルの言霊により、対象となった騎士の血が瞬時に沸騰、倒れる。
ヒュヒュヒュ
ノエルに向かって無数の矢や魔法が飛ぶ。
ノエルがまた霧となって消え・・・上空に出現、また一体指さし、沸騰させ、死亡させる。
再度矢や魔法が飛ぶ。また移動し・・・
「これじゃ駄目ですね・・・こんな時ノエルなら一瞬で潰しちゃうのですが・・・私と来たら・・・ああ」
ふと思いつくと、ノエルは急速に上昇を始めた。
あっけにとられて見送る聖騎士達。
やがて1kmの上空に着いたノエルは、1立方メートルの氷塊を無数に造り出し、制御を離れさせる。そのまま自由落下し、聖騎士達を襲う。
すっと地面に降り立つノエル。聖騎士はあらかた壊滅していた。
「私も・・・できるもん」
ノエルはぽそっと呟いた。
北からも、聖獣部隊が来ているが・・・これも兵士達が何とか押し返す・・・勿論被害なしとはいかないが・・・
ふと、西から危険な気配を感じ、集中するノエル。不可視の何かが、凄い勢いで飛んでくる。パラスが駆けつけ、盾で防ぐ。
「・・・槍?」
ノエルが呟く。
「そこ!」
ノエルが水の槍を創り出し、フードを目深に被った者に投げつける。
「迎撃の槍よ」
放った不可視の槍が、ノエルの放った槍をかき消す。
「・・・迎撃の概念!」
「貴様・・・かなりの使い手と見た。だが、我の敵ではない」
その声、男のようだ。
「槍よ」
男の言葉と共に、空間がぶれ、無数の不可視の槍が出現する。
「串刺せ!」
串刺す概念を纏った槍が、無数にノエルを襲う。
「盾よ!」
パラスの盾が全て防ぐ。
「ほう、私の槍を全て防ぐとは、ほめてやろう、だが」
ひた、と男に何かが触れる。男はそれで察した、自分が負けたのだと。触れたのは、ノエル。
「蒸発せよ」
ノエルが触れながら発動した言霊により、男の体内の液体は全て沸騰、気化する。
パラスの横にいた、ノエルがかき消える。蜃気楼だ。
「これは一体・・・何故・・・?」
ノエルは疑問を口にする。既に、ミーミルに聖女が3人向かったと報告を得ている。なら、言霊の使い手はもういないはずなのに・・・なら今の男は何なのだ。そもそも、男で言霊を使うなんて聞いた事が無い。
「おかしいねえ・・・」
パラスも同様の疑問を持った。とりあえずアレクシアと連絡をとる必要があると、二人は思った。




