[エルク]聖戦の前に
「お祭り・・・?」
エルクが聞き返す。リアとジャンヌ、ノエルもきょとん、とした顔をしている。
「そう、お祭りです、是非やりましょう」
セリアがエルクの手を取り、熱弁する。エルクとしては、願いは出来るだけ叶えてやりたいのだが・・・
「セリアお義理姉様、お祭り、とは何でしょうか?」
「魔界にはお祭りがないの?」
パラスが首を傾げて問う。
「お祭り・・・収穫祭とか、戦勝パレードのような・・・?」
ノエルが尋ねる。
「そうそう、そのお祭り!」
パラスが頷く。
「ほう、人間の文化なのだな。察するに、何か祝うべき事に対して、何かを行うのだな」
「そうそう!音楽に合わせて踊ったり、花火上げたり、屋台で色々食べたり!ね、ノエル!」
「えと・・・音楽・・・?楽士・・・?花火とは何でしょう・・・屋台が出るのですか・・・」
「太鼓の音・・もが」
パラスの口をアレクシアが塞ぐ。
「まあ、もうすぐ聖戦が始まります。その前に、最後の平和を満喫、という形で、少しハメを外して盛り上がろう、という話なのですよ」
「なるほど」
アレクシアの説明に、エルクが納得の声を上げる。
「その通りだな。よし、そのお祭り、とやらをしようか。準備で手伝える事があれば言ってくれ。聖戦の準備が優先ではあるが、手空きの者がいれば使ってくれて構わん。備蓄も、大分用意したので、少しなら消費していいと思う」
「ありがとうございます!」
パラスがやったーと両手を挙げて言う。そのままたーっと走って行った。エルクは微笑ましく思う。
ふと、思案するエルク。聖戦。今期の聖戦は、間違いなく苦しい戦いとなる。まずは我が魔界の練度の低さ。正直、エルクを含めたファーイーストの幹部一人で、ミーミル全てを制圧出来そうな気すらする。次に人間の恐ろしさ。その文化は凄まじい。まだ見たのは一画だけであるのに、聖界の奥に行く程、強力な国となる。アレクシアが使っているような古代知識を使っている国も多いだろう。以前パラスから聞いたのだが、パラスの故郷では、鉄の車が地を走ったり、空を高速で飛んだりするらしい。さらに、目標に合わせて飛行し、対象にぶつかると大爆発を起こす物もあるらしい。聖界の奥は本当に怖い。
今は、アレクシアに情報収集を頼んでいる。もうすぐ結果が出るはずだ。
エルクがノエルと並んで書類を処理していると、パラスが書類の山を持ってくる。お祭り関連だ。ノエルがひょいっと引き受け、不許可の印を押していく。パラスが泣きそうになっている。許可してやりたいが、ノエルが不許可を出すにはそれなりの理由があるはずだ。と言うか、別にパラスでも単独決済できるのだから、やりとりを楽しんでいるだけだろう。
ノエルが手を止め、訝しげに聞く。
「この花火、って何ですか?」
パラスがノエルに身振り手振りで説明している。頑張って理解しようとうんうん頷くノエル。可愛い。
書類の処理も終わり、またパラスがたーっと出て行った。
そして迎えたお祭り当日。出店が建ち並び、ビール、という飲み物や、ワイン、という飲み物も振る舞われる。貨幣はまだ作っていないので、対価は払わずに商品を受け取る形となっている。
音を記録した水晶から、ノリのいい音が流れ出ている。それが各地に設置され、同期して、各地を音が包んでいる。
「この焼き鳥、という奴は美味いな・・・このねぎま・・・という物との組み合わせがまた・・・塩も、タレも、非常に美味い」
「でしょう、みなさんよく協力して下さってます」
セリアが微笑む。
「ご主人様、たこ焼き貰ってきました!」
パラスが変わった球状の食べ物を持ってくる。エルクは口にして・・・
「ふむ、これは美味いな。外側はカリッとして、中はとろっとして・・・そして中の具、これも美味い。歯ごたえが絶妙だ。味も素晴らしい」
エルクは味に満足する。確かパラスが以前食べたいと言ってた記憶がある。これは確かに美味い、人間の世界は実に奥深い、エルクはそう思った。
エルクは作っている方を見てみると、お客の行列が出来ている。何だか、作っているのやってて楽しそうだな、とちょっと思った。
ひゅうううううううううう・・・・どおおおおおおおん
ふと、空に火花が上がる。エルクはそれを見て、美しいと思う。
「・・・や」
何かみんなが唱和する声が聞こえた来た。
次の火花が上がる。
「かーぎやー」
また唱和する声が上がる。
「何か聞こえますね?」
ノエルがきょとん、として言う。
「ああ、あれは、たーまやー、かーぎやーって言ってるんです。花火を見たらあのかけ声を出すのが慣わしなんですよ」
「あれが花火なのですね。パラスの説明だとちょっと・・・それに、そんな慣わしがあったのですね」
そうなのか、エルクはまた知識が増えた、と思う。ここは文化を持ち込んだパラス達に合わせるべきだな。
また花火が上がる。
「たーまやー」
セリア、パラス、アレクシアに合わせ、エルクとノエルも声を唱和させた。




