[エルク]レイアー観光
「操縦座α、配置に着きました」
「操縦座β、配置に着きました」
操縦座α~ζ、6つの配置がある。αとかβとか言うのが何なのか、エルクは知らない。操縦座には、一級魔道士が配置された。何時の間に等級が出来ていたのかは把握していなかった。中央にはパラス用の席がある。それぞれの席はかなりふかふかしており、座り心地がいい。パラスの席の後ろに、浮遊用の燃焼機が設置されている。燃焼機の後ろにも、椅子が用意されている。操縦座は二つずつ椅子が設置され、交代要員が待機できる。
一般乗客用には10個だけ固定の席が用意されている。それ以上はない為、必要に応じて席なり、座る布なりを持ち込む。荷物を持ち込む運用が主となる為、作り付けの椅子は少数しか設置しないのだ。
外を覗く為に、下部の木は所々円形にくりぬかれており、そこにはクリスタルがはめ込まれている。また、パラスの席には、全方位を確認出来る魔道結晶が置かれている。
リアとジャンヌはファーイーストの防衛で残留。エルクと、その眷属、兵士20人、後は物資を満載にした。
「火を入れろ!操縦座、魔法準備!パラス様、防衛の用意を」
言いながら、燃焼機の後ろの兵士が、火を付ける。布に温められた空気が入り、船に徐々に浮力がかかる。魔法の補助も受け、徐々に地面を離れる。
「おお、実際に浮くとわくわくするな。これは凄い」
エルクが嬉しそうに言う。パラスは盾を周囲に展開。今は薄い盾で、実際に脅威が迫った際に、その部分を強くするのだ。エルクの周りに他の眷属がぺたっとくっついているのを見て、少し頬を膨らませながら。
それを見たエルクが、また後でねぎらわないとな、と思う。
飛行も速度も順調だ。エルク達が力を貸せばかなり高速で移動が可能だが、魔道士とパラスだけで運用出来るかどうかを試しておきたいという意図がエルクにはある。エルクは、今は飛行を楽しむ事にする。
10時間程かけ、レイアーに着く。エルクはレイアーに来るのは久しぶりだ。眷属達、ノエルはちょくちょく様子を見に行ったり、アレクシアは何か用事で出かけているようだが。
中央広場は広く、綺麗に整備されている。人間の国は巨大で、数も多い。ファーイーストの属国扱いではある物の、どう見てもこっちの方が大都市だ。広場には、平たい石が敷き詰められ、間を細かい砂か何かを固めた物で詰められている。非常に安定していて、歩きやすい。真ん中には、ノエルが作った水源から水が噴き出していて、その水は溢れ、道に掘られた溝を流れていく。非常に美しい。
周囲の家は、木で枠組みを作り、砂で固めてあるらしい。白く四角い家、それに、物を売る店という物が立ち並ぶ。
連絡をしておいたので、レイアーの王、ニルスが出迎えている。
「ようこそおいで下さいました、エルク様。並びに王妃様方。国を挙げて歓迎致します」
深く礼をする。後ろに控えた側近達もならって礼をする。
「出迎えご苦労。以前と比べて、格段に美しくなっているな」
「はい、全てはエルク様のご威光と、アレクシア様、そしてファーイーストの皆様のおかげです」
ニルスは、飛空船の実物を見て、驚きと感動でいっぱいにはなったが、振り払い、指示を矢継ぎ早に出す。飛空船から物資が下ろされる。乗ってきた兵士も、この国の所属となる。次いで、移住希望者のリストをノエルに渡し、処理してもらう。アレクシアから必要物資のリストを貰い、特産品の情報等補足しつつ、兵士に収集を指示する。
エルクはその間街を見回る事にした。ノエルは事務処理で忙しいので、パラスと回る。王国からの案内人もついている。最初はセリアも一緒に来ていたのだが、食品の事で相談を受け、そちらにまわってしまった。
「へへー、エルク様独り占めー」
パラスがぎゅっと腕に抱きついてくる。エルクはパラスの頭を撫でてやる。パラスは朝早く夜早い、普段動き回っていることが多い為、なかなか二人にならない。みんなでいる場合、セリアが筆頭眷属を主張して横に来る事が多いし、一番一緒にいる時間が長いのは事務処理補佐のノエルだ。もっとも、補佐というか、実務をほとんどやっているのだが。
「さっきも防衛、ありがとうな。これからもちょくちょく頼む事にはなると思う」
「任せて下さい!さっきは結局、攻撃されなかったけどね」
油断は出来ない。あんな物が空を飛んでいたら、撃ち落としたくなるのが人情だ。空を飛ぶ魔物もいるしな。
店や露店で次々と食べ物を買い、味見しているパラス。分けて貰ったが、なかなか美味しい。本当に人間の文化は凄い。
お金は全て、案内役の兵士が出している。予算が出ているらしい。このお金という制度も凄い。もっとも、魔族の国でやろうとすると、魔法で完全に複製できるので、色々考慮すべき点がある。金で作ったり、銀で作ったりするようだ。別に金や銀は、魔法で作れるので貴重品では無い。ルーン結晶等を用いるべきか・・・アレクシアがお金に関しては何か進めているようだ。
「美味いな、本当に人間の文化は凄いな」
「いえ、この食品も、調理、というのを色々教えて下さったのはセリア様です。調味料をもたらして下さったお陰で、一気に発達致しました。食材も、豊富にあるのは、ノエル姫に作って頂いた湧水と、アレクシア様から頂いた種のお陰です」
兵士が恐縮して言う。
「ふむ・・・元々人間界の文化かと思っていたのだがな」
「そうではありません。アレクシア様の知識は本当に凄い。田舎の小国だったレイアーは、今や聖域で一番の都市に発展しつつあります。移民も絶えませんよ」
兵士が嬉しそうに言う。なるほど、とエルクは思う。アレクシアは各地を巡り、古文書から様々な知識を得、もしくは自分で思いつき、試す場を探していたのだろう。
「エルク様、この魚も美味しいよ!」
パラスが魚を串に刺し、塩をふって焼いた物を差し出してくる。うむ、美味い。エルクは一気に食べてしまう。
「美味しいよ、ありがとうパラス」
エルクが頭を撫でると、目を細め顔を喜びで溢れさせるパラス。
エルクは、担当者から完成図を見せて貰った。驚くべき内容だ。街の作成は、広場を中心に進めているらしい。地下に水路を掘って、家庭の排水を流せるようにしたり、飲料水を各家庭に直接送り込んだりする計画もあるようだ。
ファーイーストも劇的に変わってきているが、ここまでの都市は、ファーイーストでは造れない。国の広さも、魔物の弱さも、天候も、労働力も、何もかも規模が違う。他の領地と陸続きの為、移民が絶えないとの事。それで更に規模が拡大しているようだ。直接ファーイーストに移民させればいいのだろうが、やはり聖界で暮らすのが一番だろうし、労働力の為に移民させるのも倫理に反するしな。金銀を与え、働いて貰う形ならいいかも知れない。
農業地帯もみせてもらったが、土地の豊かさがファーイーストとは段違いだ。ファーイーストの土地も、アレクシアのお陰で大分よくなったが、元々の土地の良さが根本から違うのだろう。
出発の準備が出来たらしく、螢を介して連絡が入る。ニルスが見送りに来ている。
「有り難うニルス、色々見せて貰った。素晴らしい国だな」
「有り難うございます。全てエルク様のお陰です。本当に感謝の言葉もありません」
こちらの国も負けてられないな、とエルクは思う。もっとアレクシアに、協力できる事がないか聞いてみよう。飛空船の時もそうだが、研究塔の手勢だけで全て済ませてしまおうとするようだ。もっと国の資源を使うように伝えよう。
船が地上を離れる。次に来る時はもっと凄くなっているのだろうな。漠然とエルクはそう思った。




