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[聖神]揺さぶり

聖神は、収集させた下界の情報に目を通していた。大抵の情報は捨て置くが、次に攻めるべき魔界の王都、ミーミルの情報だけは目を通している。地上に潜入させている部下も、大半は王都ミーミルだ。なお、当然、直接敵の領地に手の者を忍び込ませるのは、ルール違反だ。


「これは・・・どういう事ですか?」


聖神は、側に控える側近天使に問う。あり得ない。最強の障害となる筈の魔王候補フェオドール。それが敗れるとは・・・しかも、辺境の小国の、スクールの名簿にすらない雑魚に。


「は・・・調査させたのですが、情報が混迷しておりまして・・・」


「混迷?多数の者を忍び込ませているのですよ?情報が不正確になる訳がないでしょう?」


「その筈なのですが・・・何故か情報が錯綜しておりまして・・・」


あり得ない・・・あり得ない事が起きている・・・


「ただ、私の方でも、信頼できる少数の精鋭を確保しております。その信頼できる者から得た報告では、確かに説得力のある報告が届いております」


「・・・その報告、とは?」


「は・・・それが・・・行われた決闘は茶番、ミーミルの王と、ファーイーストの王は裏で手を組み、ファーイーストの王に魔王を継承させる為、この決闘を仕組んだ、とか」


「・・・それをするメリットが分からないのですが・・・」


「・・・そうなんですよね・・・」


だが、戦いが茶番であるなら、この結果は説明が着く。


「・・・それに霊廟の件・・・これは・・・何故?」


「これも分かりません。手段も、理由も、実行者も」


「ただ、事実ではある、のですね?」


「はい、事実で御座います」


分からない事だらけだ。だが一つ言えるのは、最適者が魔王とならず、最大の障害であった霊廟が消えた。今回の件、魔界にとっては致命的なマイナスであり、聖界にとっては圧倒的なプラス、である。


「・・・そうですね、馬鹿面を拝みがてら、探りを入れてみますか。彼の者に、対談を申し込みなさい」


「承知しました」


神域、会合の間。

聖神域と魔神域の中間に位置し、安全に会合出来るよう仕組みがある。


聖神と魔神が、席に着く。聖神の傍らには、近衛天使が控える。魔神の傍らに控えるのは・・・エルクとノエル。エルクは、魔王継承が内定した為、挨拶を兼ねて、従者を仰せつかったのだ。ノエルは、エルクの補助として同行した。


「ご足労願い、有り難うございます」


「いやなに。貴方との会話は、非常に楽しい」


ノエルやエルクは発言しない。神の前では卑小な存在。発言等許されていない。


「此度、慣例とは異なる人選をされるようですね」


「ふむ・・・耳が早いな?先方から辞退する旨通知されたのでな。第二候補者に移したのだ」


本来聖神が魔界の情報収集等しているのは不自然なのだが・・・その不自然さにも気づけないくらい、思考が低下している。それを再確認し、心の中で嘲り笑う。傍らの二人は気づいたようだ。だが、魔神は進言されてもそれを信じれない。この魔神の愚鈍さは、聖神が勝ち取った成果なのである。やはり、此度の件、魔神は関与していない。それは確信出来る。


とは言え、今回は色々動いている。もう少し思い込みを強くさせておくのも悪くない。


「耳が早い・・・いえ、下界の情報を収集していたら、聖界でも噂になっておりましたので。それより、良くない話が耳に入りました。魔神様が、異界より強き魂を召喚し、しかも異界の知識を使って軍備を整えている・・・そんな噂が流れているようです」


「それがあり得ないのは、貴方も分かっている通りだ。そもそもの召喚を我々は禁じているし、異界の知識を流入させれば、我々の世界が我々の世界でなくなってしまう。我々は、自分たちの子らの発展を喜ぶべき存在。そんな事をすれば、我々の存在意義を汚してしまう」


エルクが、そっと飲み物を出す。こういったときの従者が行うべき作法に関して、眷属達からしっかりと聞いている。アレクシアが丁寧に教えてくれたし、それに必要な物も全て用意して渡してくれている。


「その通りです。我々は異世界の魂の召喚等、決して行わないし、その知識を使うのはあり得ません」


魔神の言葉は真実であるようだ。これは揺さぶりではなく、布石だ。この話をしておけば、後日異世界召喚がばれ、魔神に報告が行った際も、魔神はその話を切り捨てるだろう。あり得ない、と。


魔神が飲み物に口をつけたのを見た後、聖神も飲み物を口にする。これは・・・湯飲み?に似ているな。こくん、と一口。


「日本茶あああああああああああああああああああ」


聖神が口を上に開け叫ぶ。


「?!」


びっくりして戦く魔神、エルク、ノエル。


「毒か?!いや、聖神様を害せる毒等あるはずが・・・そもそもこの間では・・・」


近衛天使が叫ぶ。


「私も同じ物を飲みました・・・毒ではないはですが・・・」


エルクも混乱しつつ、言う。


「緑茶あああああああああああああああ」


再度聖神が意味不明な言葉を叫ぶ。


近衛天使が半狂乱になって叫ぶ。


「貴様等何をしたあああああああ」


「ど、どうした、聖神よ?!」


普段感覚が鈍っている魔神まで、驚いて聖神を揺さぶる。


「・・・は・・・いえ・・・大丈夫です・・・取り乱しました・・・」


聖神がようやく落ち着く。何でだよ・・・何でこのタイミングで、異世界、日本の緑茶が出てくるんだよ。このコップも、湯飲みに酷似し過ぎてるんだよ・・・おかしいだろ・・・まあ・・・偶然似た植物に成長したのだろう・・・そして調理法も偶然同じように発達したのだろう・・・恐らく・・・きっとそうだ・・・


エルクは混乱する・・・こんな時どうすれば・・・そうだ・・・アレクシアが言っていた・・・議論が白熱し、場がギスギスしたら、甘い物を出せ、と。


「こちら、甘い物となります。お召しになって下さい」


聖神に、次に魔神に、甘い物を出す。次いで、近衛天使、ノエル、エルク自身にも。


魔神が、食べ方が分からないらしく、刺して口に入れ、咀嚼。まあ、味覚もほとんど死滅しているので、甘い物、の意味も分からないのだが。


聖神も、それを切って、口に入れ・・・


「羊羹だああああああああああああああああああああああああああああ」


再び叫ぶ!今度は自分も食べて美味しさにびっくりしていたので、余計驚く・・・とは言え、一回目よりは耐性が出来たようではあるが。


「御神・・・大丈夫でしょうか?」


「聖神よ、どうしたのだ?」


「だ・・・大丈夫・・・です・・・」


聖神は心の中で叫ぶ。あり得ねえだろおおおおおおおおお。さっき緑茶で、今度は羊羹かよおおおお。絶対にこれ偶然じゃねえだろおおおおおおおお。なんだ・・・何故このタイミングなんだ・・・?これは、裏で異世界知識輸入して使いまくってますよってリークなのか?!魔神がさっきから平然とし過ぎている。やはり魔神は全てを知って裏で操っている?!だが、さっきの態度に不審な点はなかった。何故だあああ。というか、このさっきから給仕してる奴が凄い驚いてるから、こいつは何も知らされてない?!何が真実なんだ、何が・・・そもそも、聖戦が始まる前の今の段階で、異世界知識を匂わすメリットは一切ない。デメリットしかない。どうなっているんだ?!


「か・・・帰ります・・・」


「う、うむ。そうだな。働き過ぎではないか?貴方は休んだ方がいい」


聖神の帰ります宣言に、魔神が賛成する。


会議の終わり、と聞いて、ノエルがエルクに、とっていたメモを渡す。エルクはそれを複製すると、聖神と魔神に1枚ずつ渡す。


「これが議事録になります。漏れや誤りがあればご指摘下さい」


それを受け取った聖神は、顔を歪めて、


「紙いいいいいいいいいいいいいいいいいいいインクううううううううううううううう」


「御神?!」


「落ち着き給え、神は私と其方だ!」


守護天使と魔神が聖神に駆け寄る。


「やだあ・・・もうやだあ・・・おうち帰るううう・・・」


泣き出した聖神を、3人と1柱は呆然と見ているしかなかった。

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