[フェオドール][時系列不順]失った物
「エルクの奴め。卑小な国の癖に、大きな顔をしおって」
「恐れながらフェオドール様。ファーイーストは貧しい国。属国にしても我が国にメリットは有りません。ここは捨て置くべきかと」
「誰が意見して良いと言った。良いか、余は余に逆らう奴がいるのが気に喰わないのだ」
フェオドールが、側近に当たり散らす。エルクが眷属を沢山連れて帰国した。その情報が入った。そこから月日が経ち・・・ファーイーストが素晴らしい国だ、という噂が国民に流れ始めたのだ。そして、移民が少しずつ発生しているのだ。逆に今までミーミルへの移民は日常茶飯事だったのに、最近は一人も発生していない。許されない事だ。聖戦を控えているというのに。・・・いや、むしろだからか。戦火を逃れ、安全な場所に逃げる臆病者共がいるのか。
奴だ。エルクを殺してしまえばいい。フェオドールはそう結論する。フェオドールの親は、エルクの両親を殺した。エルクを殺す、これはむしろフェオドールに定められた使命ではないか。
「エルクを殺す」
「しかし・・・彼の国は、防衛能力だけは高いのです。先日も正体不明の罠に破れました」
「ならばおびき寄せて殺せば良い」
「しかし、彼の国は、この国に来る危険性を熟知、警戒しています。この国に来るとは思えません」
「魔王継承権を賞品に出せ。決闘を申し込むのだ。この名誉なら、必ず奴は乗ってくるはずだ」
「恐れながら、それでも難しいと思われます。フェオドール様とエルク様の力の差は明か。勝てない勝負に乗るとは思えません」
「何でも良い。何をしても良いから、この国に奴を呼び寄せよ。これは命令だ」
「・・・畏まりました」
側近が引き下がる。結果、決闘の招待を受けさせることには成功した物の、決闘の報酬はかなりのアンバランスな内容となった。まあ、決闘の最中の暗殺が目的なので、これでも問題はない。
そして決闘が終わり。
「馬鹿な・・・何があったのだ・・・?」
フェオドールがその日、何度目かの問いをする。目にも止まらない速度で、圧倒的な威力の魔法を発動したが・・・何故か発動直後にかき消えた。次は、用意しておいた短縮詠唱を利用し、禁呪の魔法・・・発動したが最後、目につくものを喰らい尽くす呪いのを召喚した・・・がかき消えた。むしろエルクを殺した後にその呪いの獣をどうするか迷う程の魔法なのに・・・!そもそも、最初は回避不可能な圧倒的威力の魔法と、暗殺者の攻撃で挟撃する予定だったのに、いつの間にか刺客が全て気付かれ、しかも全て倒されていた。観客に何か紛れさせていたのか?!そして、何故か聖女が倒れた。最後に力を搾り取ったせいだろうか?あの程度の搾り取り方なら普段からやっているはずなのだが・・・聖女を失ったのは致命的とかそんなレベルの損失ではない。そして・・・霊廟。
「観客に紛れていた部下からの報告も受けましたが・・・何をしたかさっぱり分からなかったそうです。フェオドール様のあの強大な魔法を一瞬でかき消すとは・・・伝説級のマジックアイテムでも発動したのでしょうか?聖女の死因も全く分かりませんでした。魔力が枯渇した訳でもないようでしたので・・・」
「ぬぬぬ・・・霊廟の件はどうした?」
「申し訳ありません。そちらも全くの手詰まりとなっております。そもそも、大部分は時空的に隔絶され、王位継承者とのパスのみが空いている構造です。侵入は不可能な筈なのですが」
「そうだ。侵入経路は分かったのか?」
「いえ・・・と言うか、全て調査した結果、侵入されていない事が分かりました」
「何だと?!」
「侵入した形跡が一切ないのです・・・あたかも、中に直接瞬間移動したかのように・・・」
「・・・そんな事は不可能だ」
「はい・・・そして中の様子ですが・・・全て、鋭利な剣の様な物で一突きで絶命したようです・・・」
「馬鹿な!」
歴代の最高級の眷属なのだ。その防御力は凄まじい。それを一撃で絶命させる等・・・あり得ない。
「・・・何が・・・起きている・・・」
フェオドールは天に向かって呻いた。




