[エルク]挑戦状
「魔王権をかけた試合・・・?」
エルクが凄く嫌そうな顔で、部下の持ってきた知らせを聞く。
横で聞いていたリアも、凄く嫌そうな顔をする。
「どうかされましたか?」
エルクの横で体重を預けながら、セリアが尋ねる。
「うむ・・・魔王になる予定はないし、そもそも、戦力の中心地であるミーミルの王が魔王になるべきだ。ので、既にミーミルの王が魔王に内定している。確かに、魔王に内定しているミーミルの王なら、魔王権を勝利者に譲ることは出来るが・・・」
「なっちゃえばいいんじゃない?」
ジャンヌが首を傾げつつ言う。
「過程をすっ飛ばすな。そもそも、現ミーミルの王は非常に強いのだ。お前達を得て、俺もそれなりの力を得たが、さすがに彼の者を倒せる程の力はない。しかも奴は最近、凄まじい眷属を得たと聞いている」
「凄まじい眷属、とは、聖女だね」
アレクシアが言う。そう、聖女は、普通は魔族にとって不倶戴天の敵。だが、捕らえ、眷属にする事が出来れば、圧倒的な力を魔族に供給する。勿論その抵抗力は強いので、最終的に得られる力の割合はごく僅かだが・・・それでも圧倒的な力を得られるのだ。抵抗を弱めるため、心を壊すのが一般的だ。その心が壊れる度合いが進む毎に、引き出せる力も上がっていく。ミーミルの王が聖女を捕らえた、と言う話は最近聞いたので、まだ調整は進んでいないはずだ。だが元々の力に加え、聖女の力もある。そして霊廟の力も使える。まさに最強の存在である。聖戦前なので、魔王の力をまだ得ていない。魔王になればそれが更に数段上がるのだから、本当に恐ろしい。
「勝ち目がない、から参加したくない、でしょうか?それ以外に何か事情がありそうでしたが」
ノエルの疑問。リアが答える。
「私達の両親は、ミーミルで謀殺されました。奴らは、私達が邪魔なのです。今回の招きも、恐らくは、お兄様の抹殺が目的でしょう」
「・・・酷い」
「参加費用として、恐らくこの国の全権を要求するかと思います。他にも・・・お兄様の眷属を要求とかも考えられますね。本来、他人の眷属を欲する行為は許されていないのですが・・・奴らはそんな事は守りません。お兄様が許可するか、お兄様が亡き者となれば、他者が眷属を引き継ぐ事は可能です。実際、ミーミルの王は歴代の眷属を霊廟として引き継いでますし」
嫌な顔をするセリア達。
「断れるなら断りたいが・・・」
「しかし、これはチャンスではないかな?」
アレクシアが言う。
「チャンス?」
ノエルがアレクシアに聞き返す。アレクシアが頷くと、話し出す。
「うむ。魔王になればこちらが立場が上。余計なちょっかいをかけられなくなります。更に、こちらが何か要求を突きつけることもできるはずです」
「しかし、こちらは別に奴にして欲しい事はないのだが・・・」
「図書館です!図書館を我が国に作りましょう!ミーミルの図書館の記録クリスタル、それを全て我が国に譲り受けましょう」
「なるほど・・・それが目的か」
エルクは思案する。アレクシアの願いは叶えてやりたいが、如何せん実力差がある。こちらにリスクが大きすぎるのだ。
「では、交渉をこちらに任せて頂けませんか?向こうの要求を最小とし、こちらの要求を最大とします。勿論、試合に見せかけて殺害を謀ったり、街で暗殺をする可能性は有りますが・・・そう言った事だけ気をつけて頂く、なら可能ではないですか?万が一負けても構いません、死なないようにだけして下さい」
「うむ・・・そう言う話なら・・・」
エルクは、交渉はアレクシアに任せることにした。アレクシアの言うとおり、条件はファーイーストに圧倒的に有利となった。文字の上では。
ファーイーストが負けた場合、ミーミルの王が魔王となる事を認め、聖戦の際には、ファーイーストの判断で可能な範囲で、ミーミルを援助する。
ミーミルが負けた場合、ファーイーストの王が魔王となる。また、ミーミルが所有する図書館及びその他のメモリークリスタルを、全てファーイーストに提供する。
聖戦が始まった際にミーミルがファーイーストの援助をする旨は必要ない。地理的に、ミーミルが敗れない限り、ファーイーストへの侵攻はないからだ。
気は進まないが、行くしか無い。とにかく殺されないように。そして可能なら、メモリークリスタルを我が国に。