[アレクシア]より美味しく
「さて、ノエル。君には美味しさが足りない。それは気づいているよね」
「・・・はい」
ここは研究塔の地下の一室。アレクシアが部下に命じて、秘密裏に作らせた小部屋だ。ここの存在は一部の者しか知らないし、内部に至っては、今ここにいるノエルとアレクシア、それ以外の者は目にしていない。
地面には複雑な魔方陣が描かれており、無数の魔力結晶から魔力を供給されている。中央には水槽があり、水がたゆたっている。水は水、ただの水だ。
「エルク様は優しい。それは言わないし・・・むしろ、味が薄いので飲みやすい、くらいに思われていると思う。でも、それでは・・・」
「はい、私は自分が許せません。セリアさん、パラスさん、アレクシアさん、他の方に対する飲んだ時の反応と、私の血を飲んだ時の反応、明らかに違います」
「それをどうにかしたい、だね?」
「はい!」
「そう思ったから、この部屋を作った。ただ一つ、御願いがあるんだ」
「御願い、ですか?」
「そう、御願い、だ。これは味に直接関係するか分からないが・・・でも、現在の我が国のバランスから言って、この選択は非常に重要だと考えている。君はこの先、手が届く場所に毒々しい存在をすぐに感じ取れるだろう。これを拒否して欲しい。そしてその先に手を伸ばし・・・ひたすら水をイメージして欲しいんだ」
「水・・・ですか?」
「そう、水だ。だから、そこに水を用意した。その水に浸かった状態で、力を求めて欲しい」
「・・・分かりました。私も、毒よりは水が良いです」
「うん、頼んだよ」
ノエルは水槽に入ると、意識を澄ます。思い浮かべるのは、水のイメージ。力への渇望。やがて浮かんでくる、毒々しい気配。それを、拒む。避け、ひたすら泳ぐ。水を求めて。その先・・・やがて掴む。水・・・逃げる・・・掴む・・・支配する・・・水・・・水を・・・支配する。頭の中が水のイメージで溢れ・・・はっと気づく。
「成功したようだね」
アレクシアがにこっと笑う。
「何だか・・・不思議な力が・・・」
「うん。君の能力、水、だ。何が出来るかは、自分で理解できていると思う。さし当たってして欲しい事は分かるね?」
ノエルは、んーっとちょっと考えた後。
「溜め池ですかね?」
「正解。早速御願いできるかな?」
「はい」
ノエルはにっこり笑うと、溜め池に向かって歩き出した。
その晩、油断していたエルクが、ノエルの血を吸い尽くそうとして、慌てて謝っている光景が見られた。別に吸い尽くせる物でもないし、すぐに回復するので大丈夫なのだが。