2ー3
「えっと...もう一度言ってもらってもいい?」
「ですから、学校がある日の登下校に付き合ってもらいたいんです!」
「....ナゼ?」
シュンは当然の疑問をなげかけた。
シュンは学校になんて行ってないし、行く必要も無い。
そして何より、人が沢山いる場所に行くのは苦手だ。
「何でも言うことを聞いてくれるって言ったじゃないですか!」
「ああ言った。でも、それは俺に出来る範囲での話だ」
「じゃあ出来るじゃないですか!登下校の時、私と一緒に歩くだけですよ?」
「目的地は学校だろ?人が多い。俺にはムリ」
断固反対とシュンは首を縦に振らない。
シノはしかめっ面をし、不満を訴える。
「マスターも何か言ってください!シュンさんが付いてきてくれるように!」
「私かい?」
シノは自分だけではどうしようもないと感じ、マスターに助け舟を求めた。
マスターも少し困り顔だ。
「シュン君」
「何ですか?」
「一緒に登下校をしてあげてくれないか」
思ったよりド直球なお願いの仕方をされ、シュンは年上の方にそこまでさせてしまっている事に罪悪感を感じる。
「しかし...」
罪悪感を押し退け、キッパリと断ろうとした時に店の扉が開いた。
入ってきたのは5人の男達。全員が20代前半といった風貌だ。
「いらっしゃいませ」
マスターが入ってきた人たちに挨拶する。
だが、入ってきた人たちは客ではなかった。
「おい、じいさん。この袋に金を入れな」
1人だけ男が前に出てきて、袋をマスターに渡す。
この状況だけで何が起こったかなど、誰でも分かるだろう。
強盗だ。
「おやおや、こんな店にあるお金なんて雀の涙ほどですよ?他の所に行ったほうがいいのでは?」
「うるせえ!」
男は袋を持つ手とは逆の手で銃を撃った。
その銃弾はマスターには当たらなかったものの、後ろにあった高そうなカップにいくつか当たり、割れた。
「いちいち口答えするな。指示されたことだけをやれ。お前達も、動くなよ」
その男だけではなく、後ろにいた4人の男たちも銃を構えた。後ろに1人だけ自動小銃を持つ男がいて、どうやらそいつがボスのようだ。
銃口をシュンとシノにも向け、動かせないように言葉と行動で釘を刺した。
「ちょっと待っておれ。レジと金庫に行ってくる」
マスターがそう言うと、奥の扉へと進んだ。
「カイリ、行け」
ボスが1人に指示を出し、それに従った。
「変な気を起こすなよ」
マスターは背中に銃口を突き付けられたまま従業員専用の扉を開けて奥へと行ってしまった。
数分して、すぐに戻ってきた。
男は少し膨らんだ袋を手に持ち、不服そうな面持ちだ。
「どうだった?」
「やはりと言うべきか、サッパリでした。全然蓄えてねえ」
ボスの問いにカイリが答える。
5人の男は溜息をつき、無駄足だと思ったのだろう。
「さて、カイリ」
「はい」
「撃て」
その瞬間、銃声が響く。
その弾丸はマスターの太ももへと当たり、呻き声をあげた。
「お前達はオレたちの顔を見てしまったよな。つまり....分かるだろ?」
全員が銃口をシュン達に向けた。
マスターの足を狙ったのは逃がさないためか。
「シノ」
「何ですか?」
シノは怯えながらシュンの呼びかけに応えた。
「しゃがめ」
一言だけ言って、席から通路へと身を出した。
右足に力を込め、一気に距離を詰める。その時間、コンマ5秒。
穢多族の身体能力だからこそ出来る人間離れした行動。
「なにっ...!」
低い体勢から、右足を拳銃を持つ右手へと繰り出す。
男の手から拳銃が弾き飛ばされる。
シュンは宙に浮いた状態から身体を回転させ、後ろ回し蹴りを顔面へと直撃させた。
男は吹き飛んで壁に衝突し、意識を失ってしまった。
シュンは止まらず、着地すると同時にもう1人の男に近付く。
「クソっ!!」
銃口を向けられ、放たれた数発の弾丸を右へ身体をズラすとこで躱した。
その勢いのまま肘を鳩尾の部分へと炸裂させる。男は体をくの字に曲げ、口から血を吐き出した。
追い打ちとばかりに頭を掴み、膝打ち。
顔がグチャグチャに変形される。
「死ね!!」
左から来た銃弾を、掴んでいた男を盾にして防いだ。
そのまま男を投げつけると、避けられた。
だがその一瞬、シュンから視線が外れる。
すぐに視線を戻したが、シュンはどこにもいない。
左右を見てもおらず、困惑する。
「....!!」
上から音がした。男は迷わず銃口を向け、撃った。
だが、そこにあったのはただのカップ。銃弾はカップを割ったが、シュンを捉えることは出来なかった。
「?!」
急に足に痛みが走ったかと思えば、男の体が宙に浮いていた。
シュンが足払いして倒したのだ。
仰向けに倒れていくその体に、シュンは容赦なく上から下へと蹴りを叩きつけた。
全力で繰り出されたその蹴りは男の骨と共に床を叩き割った。
(あと1人)
シュンは最後の目標を攻撃しようとしたが、どこにもいなかった。
(逃げたか...。妥当な判断だ)
「おい、まだ終わってねえぞ!」
声がした方向を向くと、そこには最後の1人であるボスとシノがいた。
ボスはシノの首をがっちりとかため、動けなくしている。
じたばたと抵抗しているが、全く効果がない。
自動小銃はシノの頭へと向けられ、シュンの一切の行動を封じていた。
そのボスは『確実に勝つ』ことを選んだのか。
シュンとは真正面から戦わず、人質をとり優位的に戦うたにシノを捕らえた。
卑怯とは言わない。互いに最善の手を出していくのが普通なのだ。
この状況において、その判断は正しい。
だが、そのボスは一つ誤算をしている。
今までシュンが全力であったと思い込んでいた。
穢多族の本当の強さを知らない。
なぜ『穢多族』が地上最強の部族と呼ばれているのかを知らない。
徐々に黒いに粒子がシュンから溢れる。
少しずつ、少しずつ。力を蓄えるように。
「死ね、糞ガキが」
銃口を向け、撃つために引き金をひこうとした瞬間。
「...へ?」
右腕から先が落ちる音が聞こえた。
シュンはボスの目の前に立ち、自分の右腕を振るった状態のまま止まっている。
ボスは目を泳がせながら、徐々に息を荒くしていった。
「....ぅぁああああああ!!!!!」
自らの身体の状態を理解し、大声をあげる。
それと同時に肩から多量の血が噴き出し、辺り一面を血の海へと変えていく。
締め付けが弱くなった腕からシノが脱出し、シュンの方へと駆け寄った。
その顔は今にも泣き出しそうで、さっきまであった元気が嘘のようだ。
「貴様ああああ!!!!」
ボスは片腕が無くなってもなお、立ち向かおうとした。
シュンはシノを少し遠ざけ、対峙する。
ボスは左腕を上げ、振り下ろす。
2人が交差した。
「この...人殺しが...」
「今さら言われてもな」
結果は、シュンがボスの左胸を貫いて終わった。
シュンの手には心臓が握られ、握り潰された。
死体となった身体がシュンへとのしかかり、シュンの身体を真っ赤に染め上げる。
その場が沈黙で埋め尽くされた。
誰も動けないでいる中、シュンが最初に動き出した。
マスターの元へと歩き、ケガの手当を始める。
「これでしばらく大丈夫だと思います。幸いにも大きな血管にも、神経にも当たってなかったので、治れば支障はないと思います」
「君は...大丈夫なのかね?」
「ええ、まあ。よくあることなので」
穢多族であればよくあること。『穢れ』を祓う時、大体殺しているし、怪我をすることもある。
慣れ、というのだろうか。殺すこと、傷付けることに抵抗がない。
「平和そうな街なのに、こんなこともあるんですね」
「最近は特にね。国王が変わり、治安も悪くなってしまったよ。原因は分からないがね」
太ももを痛そうに触りながらマスターは答えてくれた。
「シュンさん!」
「おっ...と」
急に後ろからシノに抱きつかれ、シュンはよろめいた。
「どうした?」
シュンの問いにシノは答えず、ただただ抱き締める力が強くなっていく。
怯えているのが分かった。誰かにそばにいて欲しいのだろう。
シュンは、自分の胸のあたりにあるシノの頭をシノが落ち着くまで撫で続けた。
読んでいただきありがとうございました。
何故か案が浮かんでしまったので、本日2本目です。
楽しんでもらえたなら幸いです。
次の話は木曜日に投稿すると思います(予定)
次の話も楽しんでいただけたら何よりです。