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穢人  作者: デラパゴス
8/10

2ー2

学校の入学式が終わり、各々が自宅へと向かう午後3時。


私・シノは1人帰路につく。


父親は家にいない。2歳の頃に私を庇って『穢落ち』に殺されてしまった。


その日以来、私は母親に女手一つで育ててもらった。

だから、今日のように学校が早く終わったならば出来るだけ早く帰り、仕事に行っている母に代わり家事をするのが日課になっている。


鼻唄まじりに大通りを歩き、家へと近付いてく。

この通りはいつも人が多く、今日も例外なく人で溢れている。


喧騒なこの雰囲気が私は嫌いではない。

色々な出店から漂ってくる美味しそうな匂いが、お腹を刺激する。


(今日の晩ご飯は何にしようかな)


そんなことを考えながら歩いていると、ローブを着ている1人の男の人とすれ違った。


「....?!」


驚いて私は振り返った。

昔、私を救ってくれた人に似ていたから。


短髪で逆立っている髪の毛。高い身長。

見た目から得られる情報は少ないけど、何故か分かった。それは感覚に近かったのかもしれない。


その感覚に言葉を付けるのなら、『雰囲気』だと思う。


私は、走り出した。


いつもこの道を通る時、少しだけ意識していた。

『もしあの人に会えたら、もう1度お礼を言おう』と。

『どこかにいないかな』と。


7年間一度も会えなかったけど、これはまたとない機会だと思った。


だから私は勇気を振り絞って声をかけた。



~現在~


2人の間に沈黙が流れる。


シノは初めて男の人に「好き」と言ってしまった恥ずかしさで。

シュンは人間に「好き」と言われた困惑で。


そんな2人の沈黙を破ったのは、この喫茶店のマスターだった。


「はい、カフェオレ」


テーブルの上にカップを2つ置き、マスターは言葉を続けた。


「シュン君、だっけ?話を聞いていたけど、君は『穢多族』が特別だと思っているのかい?」


シュンは再び驚いた。

しかしこの人も話を聞いていたと考えれば、シュンが穢多族と分かったのも当然か。


「当たり前じゃないですか。だって『穢れ』を祓えるのは俺たちだけですよ?だから人間は『穢多族』を避ける」

「それは違うな。確かに『穢多族』と聞いて避ける人もいる。だが、全員が全員そうという訳では無い。今では『穢多族』なんて呼ばれているが、昔は職業みたいなものだったんだ」


「靴を作る人、料理を作る人、物を売る人、喫茶店を営む人。誰かがやらなくてはいけないことさ。『穢れ』を祓うのだって、誰かがやらなくては世界が滅びるだろう。『穢人』と呼ばれてもなお、その責任を一手に担い私たちを助けてくれる。だから私は『穢多族』のことがとっても大好きじゃよ。だから、『人間だから』という理由で距離を置くのは止めないかい?」


くしゃりと笑うその顔に、シュンは年の功を感じた。

色々経験し、その考えになったのだろうと。


長く生きていれば、きっと穢多族を嫌いになったこともあっただろう。

それでも『穢多族が好き』と言ってくれるこの人をシュンは信じることにした。


確かにシュンは『人間だから』という理由でシノと距離を取ろうとした。


シノは自分のことを『穢多族』ではなく『シュン』として見てくれていたのに、自分はシノのことを『シノ』ではなく『人間』として見ていた。


そう自覚すると、途端に自分の言動が恥ずかしく感じる。


「えっと...その...ごめん..シノ」


目の前にいる女の子に謝り、頭を下げる。


「気遣いが足りなかった」


少し沈黙が流れ、シノは口を開いた。


「それでは一つだけお願いがあるんですけど、それを聞いてくれたら水に流します」

「そうか。何でも言ってくれ」


その言葉を聞いて、水を得た魚が如く元気さを取り戻して笑顔でこう言った。


「これから毎日、私の登下校に付き合ってください!」

「.....は?」


シュンは間の抜けた言葉しか返せなかった。

読んでくださりありがとうございました。


次は木曜日くらいに更新します。


今後ともよろしくお願いします。

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