2ー1
午後3時に年下の女の子に連れてこられたのは、ただの喫茶店だった。
「ちょっ...シノ」
「マスターこんにちは!」
戸惑うシュンをよそに、シノは慣れたように店の中へと入って挨拶した。
「こんにちは、シノちゃん。学校の制服かい?似合ってるね」
「そう!今日入学式だったんだ」
「おめでとう、シノちゃん。それじゃあ好きな席にどうぞ」
カウンターで豆を挽いていた60代くらいのマスターと軽く会話を交わし、奥へと進んだ。
店内には誰もおらず、気を遣わなくていいとシュンはホットした。
迷いなく進むあたり、恐らくシノはこの店に通っているのだろうと思った。
「シュンさんはどれにします?」
席についたシノは、テーブルにおいてあったメニューを開いて聞いた。
「シノは?」
「私はもう決まってるので」
「じゃあ俺も一緒のでいい」
メニューを見てもどういうモノなのか分からないシュンは、シノに任せた。
「マスター!いつもの2つ下さい!」
「はいはい、少し待ってておくれ」
元気に声を出し、シノは注文した。
「シュンさん、あの時は本当にありがとうございました。改めてお礼を言わせてください」
シノは頭を下げた。
「いや、頭を上げてくれ。そういうのは...その...苦手なんだ...」
シュンは自分の頬を掻きながら照れくさそうに言った。
昔から人間には罵詈雑言を言われ慣れているせいで、お礼をされるとムズムズしてしまう。
それに、お礼は1度で十分だ。
「そうですか...。では、私とお話しましょう。すぐに注文したのが来るわけではないので」
一瞬残念そうな顔をし、すぐに表情を変えて「話をしよう」と言う。
「シノは...その...知ってるんじゃないのか?」
「...?何をですか?」
首を傾げ、本当に知らなそうな顔をする。
「俺が、『穢多族』だってこと」
人間に自分が『穢多族』というのは嫌い。だって変な目で見てくるから。
これはシュンに限った話ではない。
穢多族であるなら、人間に『自分は穢多族』と打ち明ける人はいない。
「知ってますよ?」
「は?」
さも当然かのようにそう返してきた。
逆にシュンがビックリして目を丸くしている。
「『穢多族』ってあれですよね?『穢れ』を倒してくれる人たち。昔から学校で教わってました」
「なら分かるだろ。『穢多族』は穢れている。もし人間が『穢れ』に憑かれていば、人間だって平気で殺す。だから人間は、俺たちを避ける。俺もずっと、そうだった」
シュンは自虐のように語る。
しかしこれは事実。
普通に接していた人間が、『穢多族』であると知れば畏れの目を向け、蔑むなんてよくある話だ。
「んん??でもそれって私じゃない誰かじゃないですか?なら、私は避けませんよ?」
シノに満面の笑みでそう言われ、シュンは返す言葉に困った。
「人間だって色々いるじゃないですか。好かれる人もいれば嫌われる人もいるし、人を殺す人だっています」
「確かにそうかもな。でも、いずれ君は俺を嫌いになると思う...」
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
シノは机を叩き、大声を出した。
その顔は怒っているように見える。
なんで怒ってるのか分からなかった。
だって、シュンにとっては当たり前のことを言っただけだのだから。
今までずっと、そうだったのだから。
「なんで...怒ってるの?」
シュンは訊いた。
その理由を聞く必要があると思ったから。
「シュンさんは私を助けてくれたじゃないですか!怖がっている私の手を握ってくれたじゃないですか!私があの時どれだけ嬉しかったか、心強かったか分かりますか!?」
シノは叫び、それでもまだ続けた。
「ヒーローみたいにカッコよくて、身体が傷付いても守ってくれて、本当に本当に嬉しかったんですよ!だから!.....だから、私がシュンさんのことを嫌いになるなんて、絶対にありえません」
口早に言葉を並べ立て、最後の方は落ち着いたのかゆっくり喋り、そして、最後にもう一言だけ添えた。
「だって私は、シュンさんの事が大好きですから」
柔らかな笑顔でシノはそう言った。
読んでいただき、ありがとうございました!
ゆっくりではありますが、マイペースに更新していこうと思います。
次の話は火曜日の夜くらいですかね。
(もしかしたら月曜日になるかも)
次の話も楽しんでいただけたら幸いです。
それでは。